モーレツ銀河海賊   作:ノナノナ

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第9話

 広大な銀河の移動に亜空間を利用する超光速跳躍は必須である。それが無かった亜高速の時代には恒星間を数世代かけて移動した。セレニティーの黄金の幽霊船もそうした世代間移民宇宙船だった。

 超光速跳躍が当たり前になったいま、星々を結ぶ亜空のルートは銀河ハイウェイと呼ばれ、銀河ハイウェイ同士を結ぶ結節点や中継点にある宙域を銀河回廊と呼ぶ。銀河回廊は宇宙船が亜空間から通常空間に復帰する地点のため、周囲にデフリや不安定な重力元のない安定した宙域であることが求められる。だが広い銀河でも恒星間航行で利用できる銀河回廊は意外と少ない。亜空間の銀河ハイウェイがもともと少ないうえに、銀河系が無数の星(重力圏)の集まりで出来ている天体だからだ。銀河帝国の主な役割は、安全な航行を保証すること。だから銀河回廊の確保は帝国艦隊にとって最重要な任務である。ルートと銀河回廊を支配することは銀河帝国を牛耳ることに等しいのだ。

 亜空の深淵でユグドラシル・グループは、そこの寡占状態を目論んだ。しかし無限博士の遺児、彼方少年によってXポイントが解放され、その目論見は崩れ銀河ハイウェイが爆発的に増加し銀河回廊も増えた。つまり恒星間航行の規制緩和、民営化がなされたという訳だ。

 恒星間旅行会社フェアリージェーンは、そこに目を付けた。それまでくじら座宮周辺でしか行われていなかった海賊の観光営業を、オリオンの腕文明圏の外に拡大したのだ。もともと海賊という帝国内でも伝説となっているレアな存在の上に、運が良ければ女海賊に遭遇できるかもしれないというプレミア感もあって評判は上々。海賊ツアーは予約が常に満席状態だという。

 今回弁天丸が請け負った営業も、そんな銀河回廊の一つ西‐48で行われる。かつて黄金の幽霊船が現れた宙域で、グランドクロスとくじら座宮の海賊連合が戦った場所だ。いまはデブリも何もない安定した環境から、辺境の星系から銀河中央に向かう結節点として利用されている。

 

 虚空にプレドライブ現象の光の輪が五つ生まれ、そこからそれぞれ戦艦四隻と豪華客船「ビギン・ザ・ビギン号」が姿を現す。

 「標的現れました。本船から二時の方向、距離約一二〇光秒」

 レーダー担当のグエンが、ディスプレイに現れた輝点を即座に計測し報告する。一光秒が約三十万キロ、一二〇光秒はだいたい内惑星どうしの中間距離である。

 「船首を目標に衝ててステルス、もうすぐ始まるわよ」

 チアキの指示に従いオデットの船影は虚空から消える。少なくとも相手側からは。

 

 『乗客の皆さま、本船と護衛艦は西‐48銀河回廊に無事復帰いたしました。次の超光速跳躍は最終目的地セレニティー星系となります。現在銀河標準時二一時五八分、間もなくホールは深夜営業の時間となります。お客さまには引き続き快適な船の旅をお楽しみください。』

 シャンデリアが輝く豪華なホールに、フライト乗務員のアナウンスが流れる。

 やがて二十二時を告げる四点鍾が鳴り、室内楽の優雅な調べと共に、照明を幾分落としたホール内にシャンパンタワーとビュッフェが運び込まれてくる。

 手にグラスを持ち、ビュッフェの料理を楽しむ乗客たち。

 だが、みんな心持ちそわそわしている。交わす談話も気もそぞろといった感じ。

 「そろそろ、ですかね。」

 「ええ、そろそろですわ」

 天井に開かれた全天スクリーンに広がる宇宙空間を眺めながら、乗客たちは今か今かと心待ちにしている。このツアー最大のイベントの始まりを。

 「これのために、この船を選んだのですからねえ」

 「もうチケット手に入れるの、ホント大変でした。お金でどうこう出来ませんでしたもの」

 「特権階級に左右されない経営方針がね。不便ですが、まあ好感は持てます」

 そんなビギン・ザ・ビギンを護衛しているのがヒュー&ドリトルというのも皮肉な話だが。

 やがて、ビギン・ザ・ビギンの船団が進む前方に二つのプレドライブの光輪が現れ、中から海賊船がタッチダウンしてくる。

 先方に現れた緑色の光輪を目にして、乗客たちから歓声が上がる。

 海賊のお出ましだ!

 と同時に始まる、強烈な電子妨害。

 海賊を今か今かと待ち受けていたジャバウォッキーの艦長は、虚空の二つの光輪を見遣りながら舌なめずりした。

 「今回の海賊船は二隻、統合戦争時の艦隊戦の再現が客のリクエストだそうだからな。どっちが弁天丸だ?」

 「どちらも同型艦。姿が現れて来ると同時に妨害を受けています。判別できません」

 「まあいい。骨董艦が何隻出ようとジャバウォッキーの敵じゃない。それにこちらは、タルボット級が三隻いるんだ。まとめて返り討ちよ!」

 どっかと指揮席に陣取り護衛艦隊に指令を飛ばす。

 

 「凄い。通常空間に復帰するタイミングでの電子攻撃」

 「あれ、グランドクロスがやった手よ」

 感心するウルスラにチアキが答えた。敵に捕捉する隙を与えないでカウンターを噛ませる。タッチダウンの正確な座標設定と、操船と電子戦の高度な連携が必要とされる。グランドクロスは最新鋭艦だったが老朽艦の弁天丸でそれをやっている。

 

 猛烈なジャマ―嵐のレーダーに弁天丸が突然複数隻出現した。

 「弁天丸クラスと思しき船影、四隻に増えました!」

 ジャバウォッキーのオペレーターが叫ぶ。

 「最初に現れた船影にマーカーは付けたか。それが実体だ。絶対に見失うな!」

 以前弁天丸に文身の術を使われた船長は、慌てず対応する。

 「前のようにはいかんぞ」

 ジャマ―の嵐に掻き消えそうになるマーカーをレーダーの出力を上げて必死に追うジャバウォッキー。電子戦艦の力技だ。

 距離が主砲の射程に入ったところで砲門が開く。

 虚空に眩いエネルギー束が走る。だが、当たらない。

 「奴さん、全然見当違い撃ってるわよー」

 「見えないようね。力技で押そうにもサイレントウィスパー相手じゃねぇ」

 クーリエとルカが、鮮明に映っているスクリーン画像を見ながらぼやいている。

 タッチダウンしたうち一隻は、弁天丸のブレドライブ現象を演出したサイレントウィスパー。間髪を入れず弁天丸を装ったのだ。そして弁天丸が続いた。オペレーターが注意深かったならプレドライブ現象の二つのうち、そのうちの一つの質量数が僅かなずれでかなり小さかったことに気付いたかもしれない。

 小粒でも電子戦力は大型戦艦クラスだ。分身の術を演出しているのはサイレントウィスパー。しかも相手のレーダー波の力押しに乗じて乗っ取りを仕掛けている。

 やがてジャバウォッキーのモニターから、追い掛けている筈のマーカーも怪しくなり始め、焦るジャバウォッキー艦長。

 「全砲門、映っている船影に向けて、とにかく撃てえ!!」

 四隻の護衛戦艦から、あらゆる方角に向かって主砲とミサイルが撃たれる。

 乱れ飛ぶ光条の乱舞。

 「なにが始まったんざますの?」

 「海賊との戦闘が始まったんですよ。しかも相手は複数!」

 「じゃあ、いにしえの海賊艦隊戦が見られるんですね!」

 乗客たちは大喜びだ。

 

 弁天丸の幽霊に紛れて飛ぶ弁天丸。

 「おいおい、あれ実弾じゃないか? 模擬弾を使う予定じゃなかったか」

 演習のときとは違う光条の色に三代目が言った。

 「そのよーだな。エネルギー波、実体弾、全部ほんもんだ。向こうさん契約時の取り決めを無視するぐらいトサカに来てるみたいだな。お嬢さんたち前に何やったんだ?」

 「えへへへ――」

 モニターを確認する百目の言葉に頬を掻く茉莉香。

 「大分プライドをズタズタにされたようね。ま、女子高生にしてやられたんだから」

 溜息をつくミーサ。これから一層そのプライドとやらが傷付けられると思うと相手が気の毒になる。

 「向こうが攻撃して来たんだ。遠慮はいらない、こちらからも撃っていいか? お客に当てるようなヘマはしない」

 「まあ待て、こっちから居場所を教えてやることもないだろ。もっと右往左往させてやろうぜ」

 攻撃されれば撃つ主義のシュニッツアと様子見なケイン。

 「じゃ、誘導魚雷おねがい。護衛艦隊が散開するように。」

 「了解した。」

 シュニッツアがスイッチを押すと同時に、飛行するあいだに宙域に仕掛けておいた誘導魚雷が作動した。

 驚いたのは護衛艦隊だった。

 「何もない宙域から飛翔体出現! ぎ、魚雷です!」

 「なに!? 船影は感知したのか?」

 「ありません。突然現れました。」

 「回避!」

 意外と近距離からの実体弾攻撃に、艦隊の輪形陣が乱れる。

 それを見てビギン・ザ・ビギンの乗客たちからどよめきが起こった。

 「海賊の反撃だ!」

 「いよいよ、来る」

 魚雷は正確に戦艦がいた位置を貫き、一本がビギン・ザ・ビギンを掠めるように飛んだ。

 至近弾を受けたビギン・ザ・ビギンは鼻面をはたかれたように緊急停止した。当然、護衛艦隊との距離も開く。

 「重力子弾撃て! 敵の位置を重力輻射で計る」

 「艦長、この宙域でそれは…」

 「構わん、敵が見えなければ攻撃も出来ん!」

 クルーが止めるのも聞かず、ジャバウォッキーの艦長は禁じ手を打った。

 弁天丸の後方で爆縮が起こった。それは小粒のブラックホールが生まれたのと同じだった。本来は荒れた宙域を清掃するのに使われるもので、きれいな所で使うものではない。なにしろ恒星並みの重力原を生み出すのだ。重力発生源と自分との間にある物体を、強力な輻射で見ることが出来る。だがその宙域の時空平衡を乱してしまう。

 「あいつら! なんてもん使うんだ。銀河回廊を壊す気か!」

 百目が叫ぶ。その声には怒気が含まれていた。

「船乗りの風上にも置けん奴らだ!」

 同じくシュニッツアも吐き捨てた。

 銀河回廊は船乗りみんなの物、それを自分の勝手都合で使い捨てようとしている。大企業の艦隊だから多少の無理も効くし揉み消しも容易だという驕りがある。当局が調査に乗り出して来ても海賊がやった事にでもするつもりだろう。

 「クーリエ、映像撮ってる?」

 「戦況はバッチリ」

 「リーゼちゃん。銀河ネットに割り込めるかしら、GNN(ギャラクシー・ニュース・ネットワーク)。」

 茉莉香の問いにサイレントウィスパーから返しが入る。

 「それって、違法なのでは?」

 「そお、だって海賊だもん。海賊は無法者って言われるけど、違法なことはやっても無法は許さない」

 茉莉香の言葉にクスリと笑って答えた。

 「超高速回線で電波ジャック直接行けますが、電子戦ちゅうですので、ビギン・ザ・ビギンをアンテナに使用してはいかがでしょう。やるなら徹底的に」

 「オッケー、それで行きましょう。これから起きる事を全銀河に配信してあげて!」

 

 ビギン・ザ・ビギンではキャビンでGNNを見ていた乗員が、え?という顔になった。

 ニュースを流していたテレビモニターの画面が乱れ、いきなりいまこの宙域で行われている戦闘の様子に切り替わったからだ。ビギン・ザ・ビギン内だけではない。たう星系でも核恒星系でも、ヘッドラインニュースを流している主チャンネルが、どこかの実況中継になったのだ。

 「この戦闘、銀河じゅうに配信されてます」

 禁じ手を使ったことがネットに流れてしまい、狼狽するジャバウォッキーのクルー。

 しかし艦長は慌てず言い放った。

 「ネット配信だと? フン勝てば官軍さ。ヒュー&ドリトル社のいい宣伝になる。当社は顧客の安全を第一に考え行動する会社だとな。それよりも弁天丸への電子攻撃は、まだ終わらんのか、相手は旧式の老朽艦だぞ」

 「それが、容量がやたら大きくて。それに対抗も強力です」

 弁天丸からの電子攻撃と思っていた相手はサイレントウィスパー、それに容量だけなら戦艦並みというオデットⅡ世がバックアップに入っている。弁天丸には何の負荷もかかっていない。

 「発見しました! ジャバウォッキー十時の方向、距離二〇〇万キロ。弁天丸です」

 ジャバウォッキーは、重力輻射で隠れていた宇宙船を発見した。

 「よーし。全艦、精密管制後に目標に向かって斉射!」

 艦長が命令した。だがどの艦も撃てなかった。無理に撃とうとして不発煙を出す始末。

 「最期の射撃管制波が命取りだったねー。こちらを精密観測するって事は、射撃システムに直結するって事だから」

 オデットⅡ世の電子戦席に陣取っているリンがコマンドを打ち終えて言った。射撃管制波に伴って行われる電子戦対抗策は相手に向かって行われる。認識していない敵に対しては無防備なのだ。不用意に発した射撃管制波で、オデットⅡ世とサイレントウィスパーは相手の射撃システム乗っ取りに成功していた。

 そして、海賊が現れる。護衛艦隊の背後から近づく流麗なシルエット。

 ステルスを解いたオデットⅡ世だ。

 艦隊前方の弁天丸は、照準を正確に合わせている。正にホールドアップの体勢。

 悠然と拡げた太陽帆を畳んでビギン・ザ・ビギン号に近づき、接舷の準備に取り掛かる。その優美な姿に、ビギン・ザ・ビギン号のホール内にため息が漏れた。

 

 やがて強制通信が入る。

 『こちら海賊船オデットⅡ世、貴船のコントロール乗っ取りは既に終了しています。無駄な抵抗は止めなさい。これから白鳳海賊団がそちらに伺います』

 「白鳳海賊団?」

 ホールに流れたチアキ・クリハラの声に、乗客たちはざわめいた。聞き慣れない名前、と同時にその声が女性であったことに期待が膨らんだ。

 ビンゴだ! 女海賊だ!

 『さあ、金目の物を寄こしな!!』

 

 

 

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