DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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ロナウドたちに誘拐されたヒロインは自分なりの方法で彼らに名古屋支局から手を引かせようとします。
峰津院家の人間(特にヤマト)にとって都合が良いように教育されてきた彼女ですが、多くの知識や知恵を与えられていくうちに自分の意思というものを持ってしまいました。

ヒロインは理屈っぽい子ですけど、話を聞いてあげてください。





3rd Day 不穏の火曜日 -1-

 

 

ミヤビはそこが倉庫のようなコンクリート打ちっ放しの部屋であることに気づいた。

マットは敷いてあるものの、毛布1枚だけでは晩秋の寒さに耐えられるものではない。

意識を取り戻したというより、空腹と寒さで目が覚めたようなものだ。

 

(そう…わたしはロナウドさんとジョーさんに捕まって麻酔薬のようなものを嗅がされたんだっけ。そして意識を失い、知らぬ間にどこかに運ばれた。これから彼らはわたしを人質にしてヤマト様に要求を突きつけるんでしょうね)

 

ミヤビは現状を把握するために身を起こした。

ひとつしかないドアには外からカギがかかっており、逃げ出すことは不可能。

携帯も取り上げられてしまっていて、ビャッコを呼び出すこともできない。

ただ身体は縛られていないので部屋の中なら自由に歩き回れた。

 

(〇一四七時…。明日…いいえ、正確には今日になるけど、第3のセプテントリオンが襲来する。それまでにここを脱出しなければならない。わたしが戦線に戻らなければまたダイチさんやイオさんが命を危険に晒すことになるもの。ヤマト様は勝利のためなら彼らを犠牲にすることを平然とやってのける人だから、わたしが戦わなければいけない。これ以上あの方に業を背負わせるわけにはいかないわ)

 

十分に睡眠をとって体力を温存し、来るべき時に備えようと、ミヤビは再び硬い床の上に身を横たえた。

 

 

 

 

大阪の霊的防御能力の低下、ロナウドを頭目とした暴徒による名古屋支局占拠、ミヤビの拉致といったさまざまな問題を抱えたヤマトは一睡もできないままに長い夜を過ごしていた。

 

「〇五四五時、か。まもなく3日目の朝がやってくる…」

 

ソファーに深く腰掛けながらヤマトはそう呟いた。そして思い巡らす。

 

(どうしてこの私がミヤビのためにここまで悩まなければならないというのだ? いくら有能な人間だといっても所詮は私の野望実現のための駒のひとつでしかないはずだ)

 

ヤマトの脳裏にメラク戦での彼女とのやり取りを思い浮かべた。

 

(自ら危険な場所に飛び込んで行くなど愚かにも程がある。私の命令に従っていれば拉致などされずに済んだものを…)

 

調査によって、昨夜のうちにミヤビはジプス名古屋支局内に囚われていることが判明している。

そこで暴徒たちからの名古屋支局奪還とミヤビの救出は同時進行で行われることとなった。

作戦とは名古屋支局長を指揮者とし、名古屋支局所属の民間人協力者2名と東京支局の局員で構成した部隊を潜入させて隠密裡に制圧するというもの。

できるかぎり被害を出したくはないが、局員に多少の犠牲は出るだろう。

しかしそれも名古屋支局とミヤビ奪還のためには当然ありうるものだとヤマトは考えている。

 

(問題は志島と新田だ。ミヤビが拉致されたと知り、躍起になっている。しかしあのふたり、特に志島では戦力にならないどころか足手まといにしかならん。もっともあいつらに何かできるものではない。大阪でおとなしくしていてもらおう。…それにしても奴のことも気になる)

 

彼は「奴」の顔を思い浮かべた。

 

(アルコル…奴のことだ、次なる手を打っているに決まっている。奴が栗木ロナウドごときと手を組むとは思えぬが、場所が場所だけに用心すべきだろうな)

 

3体目のセプテントリオンの出現場所は名古屋だと知っているヤマト。

だからこそ一層警戒を怠ることはできない。

 

大時計が6時の鐘を打った。

 

「今日もまた長い一日が始まるのか…」

 

ヤマトはそう呟くと、緩めていたネクタイを締め直してコートを羽織った。

 

「来るなら来い…。私の行く手を阻むものは、この手ですべて叩き潰してやる!」

 

 

 

 

同時刻、大阪本局の倉庫ではダイチとイオが段ボール箱の中に忍び込もうとしていた。

保安部員の目を盗んで自室から逃げ出し、ここまで辿り着いたのだ。

 

「志島君、本当に大丈夫かしら?」

 

不安そうなイオがダイチに訊く。

 

「ああ。ここの荷物が名古屋支局に送られるってのは確かだからな」

 

「でも見つかったら…」

 

「そん時にはそん時さ。ミヤビちゃんが名古屋で捕まっているっていうのに、俺たちが助けに行かないでどうする?」

 

「そうよね! いつも助けてもらってばかりだもの、こういう時に頑張らなきゃ」

 

イオがガッツポーズをする。

 

「…おっ、この箱なんてちょうどいいかも」

 

ダイチは大きめの段ボール箱のひとつを開けた。

そして中に入っていた毛布の束を全部出して、それを倉庫の隅に隠しておく。

 

「さあ、この中に入って」

 

「う、うん…」

 

イオを段ボール箱に入らせて封をすると、自分用の箱を探すダイチ。

そして適当な箱を見つけると同様に中身を出して、代わりに自分が入って身を潜めた。

それからしばらくして局員たちが台車を使って荷物を運び出した。

その中にはダイチとイオが潜んでいる2つの箱もある。

作業をしている局員たちは不審に思わず、名古屋行き高速列車の貨物車にそれらを運び入れた。

もちろんそんなことが起きているとはヤマトは想像もしておらず、彼の頭の中はロナウドたち暴徒の制圧とミヤビのことだけであった。

 

 

 

 

ミヤビは眠ろうと思っても空腹で眠ることができず、結局朝方までうとうとするだけだった。

 

(〇六三〇時、か…。そろそろロナウドさんたちが何らかの行動を開始する頃でしょうね)

 

ミヤビがそんなことを考えていると、さっそくジョーがやって来た。

 

「グッモーニン、ミヤビちゃん。よく眠れたかな?」

 

彼の飄々とした物腰で大人らしくない大人といったところは平時なら好感が持てるのだろうが、こういう事態では癇に障るだけだ。

ミヤビも眉間にシワを寄せて嫌味っぽく言った。

 

「昨日はお昼ごはんも食べずに悪魔やセプテントリオンと戦って、夕食前にあなたたちに拉致されたせいでものすごく空腹なんです。眠れるわけがないじゃありませんか。おまけにものすごく寒いし」

 

「あ~、お姫様はご機嫌斜めだねぇ。…と思ってご馳走を持って来たよ」

 

そう言ってジョーが背中の後ろに隠していたトレーをミヤビの前に置いた。

トレーにはジプスが備蓄していた非常用食料の缶詰とアルファ米のおにぎり、そしてインスタントの味噌汁が載っている。

名古屋支局を占拠したことで、ここの倉庫にあった食料品や医薬品はロナウドたちレジスタンスグループの管理下にあるのだ。

 

「いただきます」

 

ミヤビはさっそく缶詰を開けた。

中身は豚肉の角煮で、少しだがお腹に物を入れたことで、彼女の表情から刺々しさが消えた。

 

「お気に召してもらえたようで光栄だ」

 

ジョーはそう言って続けた。

 

「食べながらでいいから聞いてくれ。…俺たちは君を苦しめたくてこんなことをしているんじゃない。ジプスが物資を被災者に分け与えてくれるなら、俺たちだってこんな無茶なマネはしないさ。それに俺たちには時間がない。今日だって第3のセプテントリオンが襲来するんだ。それを倒すためには優秀なサマナーをひとりでも多く味方につけるしかないってことはわかるだろ? だからミヤビちゃんにも協力してもらいたいんだよ」

 

「理解はできますが、納得できません。いくら高尚な正義を掲げていても、自分たちの要求が呑めないからといって相手を力でねじ伏せるやり方は犯罪です。これは刑法224条の未成年略取及び誘拐罪、並びに同225条の営利目的等略取及び誘拐罪に抵触する行為になります。ロナウドさんは元刑事ですもの、それを知らないはずがありません。承知の上での行動ですから余計にタチが悪いです」

 

「……」

 

ぐうの音も出ないとはこういうことを言うのだろう。正論なのでジョーは言い返せない。

 

「わたしは自分の行動に責任を持っています。わたしは自分の正しいと思う道を、正しいと思える方法で進むことを主義としていますから、あなたたちの行動を否定するしかありません。つまりこのままでは協力を求めても、わたしはNOと答えるだけです」

 

言葉では丁寧に受け答えしているが、ミヤビの腹の中は煮えくり返っていた。

するとジョーはやれやれといった顔でお手上げポーズをとるが、それが余計に彼女を苛立たせる。

ミヤビは食事を終えると、彼を睨みつけながら言った。

 

「そもそもあなたたちはどのような理想を掲げて戦っているのでしょうか? 単にヤマト様のやり方に反対だというだけで自分たちの考えというものがなければ、いくらわたしに仲間になってくれと誘っても時間の無駄ですよ」

 

その言葉に反応し、ジョーはゆっくりと立ち上がると言った。

 

「わかった。ちょっと待っててくれ」

 

 

それから5分ほどして険しい顔のロナウドがジョーと共にやって来た。

ジョーは自分ではミヤビを説得できないとわかり、ロナウドを頼って連れて来たというわけだ。

 

「ミヤビ君、君の考えを変えるためには俺が説得するしかないようだな。ならば俺の話を聞いてくれ」

 

「わかりました。あなたの正義をわたしに示してください」

 

ミヤビはそう言って姿勢を正した。

ロナウドも真剣な眼差しで彼女を見つめ、それに動じない彼女に語りかけるように話し出した。

 

「俺は子供の頃から自分より弱い者を見ると助けてやりたいとか守ってやりたいと思っていて、それが高じて刑事になった。別に正義の味方になりたいとか、悪を滅ぼしたいなどという大層なものではない。そしてその時の先輩刑事が峰津院家とジプスについて調べている途中で行方不明となってしまった。単なる失踪ということで片付けられたが、間違いなく峰津院大和とジプスが絡んでいると確信している。だから俺は先輩の意思を継いでいろいろと調べ上げ、その結果が反ジプスの旗を掲げて戦う道になったということさ。諸悪の根源は峰津院大和だ。ジプスが物資を独占し、優遇された立場であることは、政府機密機関としての機能を維持するために必要なことかもしれない。しかしだからといって民間人が飢えてかまわないということにはならない。そうは思わないか?」

 

「ええ。避難所では多くの民間人が助けを求めています。彼らは一昨日まで平和でつつましやかな生活を送ってきた人ばかりです。そういった人たちが飢えて苦しむ姿は見たくありませんし、手助けできることがあれば精一杯のことをしてあげたいとわたしも思います」

 

ミヤビがそう答えると、ロナウドの表情がぱっと明るくなった。

 

「ならば俺たちに協力してくれると ──」

 

「いいえ。早合点しないでください。これだけの話でわたしはあなたたちに協力する気になどなれません。それにまだあなたが理想とする世界については説明がありません。あなたはどのような世界を望んでいるんですか?」

 

「あ、ああ…すまない。気が急いてしまった。…俺はすべての人間が平等であるべきだと考えている。人は自分の意思によって生まれる家を選ぶことはできない。俺のように庶民の、それも最下層の家に生まれた人間は、人並みの暮らしをするだけでも相当な苦労があるんだ。おまけにハーフで、この浅黒い肌の色のせいでいろいろと差別的な扱いも受けてきた。だからこそ出自や肩書で生活格差が生じるような現状を打破し、みんなが手を取り合うことのできる平等な社会を創りたいと考えている。強き者が弱き者に手を差し伸べ、誰もが互いに相手の人権を尊重し合えば争いも起こるはずがないんだ」

 

彼はそう言うとミヤビの目をじっと見つめた。

 

「自分の命を顧みず友人を助けようとする君ならわかってくれるはずだ。峰津院大和は自分が新世界の王になりたいと、その特権を己の野望の実現のみに利用している。奴が王になってみろ、奴のやり方に同調する連中だけが美味い汁を吸い、弱者が虐げられる世界になってしまうだろう。この世界には弱者と呼ばれる人たちが大勢いる。貧しい者、病気や怪我をしている者、障害を持って生まれた者、人種や出身部落によって差別的な扱いを受ける者…。彼らは奴の創る世界ではこれまで以上に生きていくことが困難になるだろう。しかし俺はそんなことは絶対にさせない。生命はみな平等で、身分の上下や貧富の差など一切なく、互いに無償で助け合うことを当然と考える世界。俺はそんな世界を目指して戦っているんだ」

 

ロナウドは自分の考えこそが人類全ての理想の世界であるというかのごとく自信満々で言った。

しかしミヤビの反応は冷淡だった。

 

「なるほど…それは人類が何度も夢見た理想郷そのものですね。でも残念ながらわたしはそんな絵空事に同調することはありません。なにしろこの世界には命の重さ以外に平等というのもは存在しませんから」

 

ミヤビの言葉にロナウドさんが眉を顰めた。

 

「平等が存在しない? それは強者が弱者を虐げているからであり、ポラリスと謁見して世界の理を変えてしまえばそんなこともなくなる。強者が弱者に手を差し伸べることで、格差がなくなり誰もが平等になれるとは思わないのか?」

 

「いいえ。そういう意味ではなく、人間が個というものを持っている以上、全ての人間が平等であることは不可能だと言いたいんです。命の重さが平等であってもそれを持つ個体がそれぞれ違うんですから、すべての人間が平等になれるという考えは浅はかであるとしか言えません」

 

ミヤビの言っている意味がわからず、ジョーが口を挟んだ。

 

「俺ってバカだからさ、君の言っていることが良くわからないんだ。わかりやすく説明してもらえる?」

 

ミヤビは少し考えて、子供の頃に覚えた知識で例え話をすることにした。

 

「では、ひとつクイズを出します。避難所に幼稚園児の男の子と20代の青年と70代の老人男性がいたとします。3人全員とてもお腹を空かせていますが十分にお腹を満たすだけの食料はありません。どのように食料を配分しますか?」

 

するとジョーが当然といった顔で答える。

 

「そりゃ20代の若者には少し我慢してもらって子供や老人に大目にやるに決まってる。若者なら2-3日食べなくても大丈夫だろうけど、子供や年寄りに我慢させるのは可哀想でしょ?」

 

「俺もジョーの意見に賛成だ。弱い者にこそ手厚い援助が必要だ」

 

ミヤビはあまりにも想像どおりの答えに苦笑してしまった。

それを見たロナウドが渋い顔をする。

 

「何がおかしいんだ?」

 

「だって想像どおりだったからです。おふたりの言う平等は単なる思い込みと自己満足であると自ら断言したようなものなんですもの」

 

「どういうことだ?」

 

「おふたりは平等を謳っていながら、実は平等ではないということに気づいていません。まず人間というのは日常生活を送るのに必要なエネルギーというものがあるということをご存知ですか? まずは基礎代謝です。基礎代謝とは何もせずじっとしていても生命活動を維持するために生体で自動的に行われている活動で必要なエネルギーのこと。心臓を動かしたり、呼吸をするだけでもエネルギーが必要ですからね。そして平均的な基礎代謝量は基礎代謝基準値×体重で求められ、この場合それぞれを平均的な体重で計算すると、幼稚園児は約890キロカロリー、20代男性で約1500キロカロリー、70代男性で約1280キロカロリーとなります。さらに基礎代謝量に身体活動レベルを掛けたものが一日のエネルギー必要量となります。ここまではおわかりですか?」

 

「ああ」

 

「う~ん…なんとなく」

 

ロナウドは理解できているようだが、ジョーはここまでの話で精一杯という感じだ。

ミヤビはジョーにかまわず続けた。

 

「避難所で何もせずにじっとしている子供や年寄りでしたら活動レベルが低く、荷物を運んだり、おふたりのように悪魔と戦ったりする若者の活動レベルは高くなります。つまり20代男性は他の幼稚園児や70代の老人よりもずっと多くのカロリーを必要とするわけです。それなのに若者であるという理由で我慢を強いるというのですから、それこそ差別ではありませんか。年齢という本人にとってどうにもならないものによって差別をしています。平等であろうというのなら、20代男性にも我慢させずに食料を与えるべきです。といっても元の量が少ないのですからその分け方が重要です。仮に『平等』に分けるのであれば、3人とも同じ量になるはずです。1000グラムのご飯があったら、それぞれ約333グラムずつ分けることになりますね。でもあなたたちはきっと子供に400グラム、青年に200グラム、老人に400グラムといった感じで分けるべきだと考えているのでしょう。しかしそれでは平等にはなりません。ここで平等に333グラムずつ分け、その後に青年が子供や老人に自分の分を分け与えるのであれば、それは個人の自由意思によるものであって問題はありませんけど。あなたたちは子供や老人に多くを与えることを当然と考えているでしょうが、すべての人間がその考えに賛同するとはかぎりません。あなたたちの思想をすべての人間に強制することは正義とは言えるでしょうか? 個人の意思を強制的に捻じ曲げる…世界の理を書き換えるというのはそういうことです」

 

「「……」」

 

ロナウドとジョーは黙りこくってしまった。

ロナウドは自分の思想を完全に否定され、それに反論する余地もなく、ジョーについては話をまったく理解できていないようなのだ。

彼らの考える平等は誰もが求める理想的なものではないことを理解してもらうために、ミヤビはもっと簡単に説明をすることにした。

 

「それでは別の例でご説明します。さっきの話と同じ3人がいます。ですが今度は十分に食料がある設定です。彼らには平等に子供用の茶碗に1杯ずつのご飯を与えます。この場合、3人とも同じ量の食料を得られたのですから問題はないと思えますけど、実際はどうでしょうか? 子供は満足できるでしょうけど、青年や老人には量が足りなかったはずです」

 

「うん…まあ、小さな茶碗1杯だけじゃお腹いっぱいにはならないからな」

 

「では、今度は大きな茶碗…丼の器に山盛りのご飯を盛って3人にご飯を与えます。これなら青年でもお腹いっぱいになるでしょう。でも子供や老人には量が多すぎて食べきれないと思います」

 

「そりゃそうだ。丼いっぱいのご飯なんて子供でも余程の大食いでなきゃ無理さ」

 

「それがわかっていらっしゃるなら、わたしの言いたいこともわかるはずです。誰にでも同じ量…つまり平等にものを与えたとしても、個人の年齢が違っただけでも満足度が違ってくるということです。そうならないためには、その個人に適した量を与える必要があるということです。すべて平等にすれば解決するというものではないということがおわかりいただけましたか?」

 

「う~ん…いちおう」

 

曖昧な答え方をするジョー。

さらにミヤビは続けた。

 

「ここでわたしは『平等』ではなく『公平』という概念を用います」

 

「公平…? それって平等と同じじゃないの?何か違うの?」

 

ジョーが首を傾げた。

 

「似てはいますが、両者には大きな違いがあります。平等とは個人の資質、能力、努力、成果に関係なく一定の規則通りに遇するシステムとなっていること。そして公平とはすべての人に対し、機会が均等に与えられており、成果を上げた者が評価され、報われるシステムとなっていることです。歴史の流れの中で『すべての人間は平等でなければいけない』と共産主義という考え方が生まれ、かなりの数の国で『平等実験』が行われました。結果、それらの国すべての経済体制が破綻し、人間は平等という考え方で集団をつくると殆どの人が『最も低い能力の者に合わせた力を発揮する集団』になるということが証明されました。考えてみれば当然でしょう。たくさんと働いても少ししか働かなくても報酬が同じならば、多くの人間はだんだん働かなくなる方向へ行くのは目に見えています。人間とは愚かな生き物ですから、楽ができるとわかればその流れに乗ってしまうものです。これに対して資本主義では、働きの良い者と悪い者の報酬には格差があります。この格差があるからこそ人は『自分ももう少し頑張って報酬を増やそう』と考え、社会システム全体が進歩してきました。人間社会、いいえ生物の社会では格差が生じるのは当然のことであり、むしろ格差が社会を進歩させる原動力となるわけです」

 

「「……」」

 

ロナウドは黙って聞いているが、その表情はとても不満げだ。

ジョーは相変わらずミヤビの説明に追いついていけない様子である。

 

「では資本主義こそが理想の社会であるといえるでしょうか? いいえ、違います。現在の日本が良い証拠です。富める者はますます富み、貧困に喘ぐ者はいつまで経っても生活は苦しいまま。狡賢い人間が得をするような社会になっています。わたしの理想は人種、国籍、家柄、性別、健康等による活動制限を合理的ルールで極力取り除き、成果があればきちんと評価される社会。わたしのこの考えの基本が公平という概念なのです。合理的ルールを作るといっても簡単なことではないと重々承知しています。でも単純に『みんなで仲良く平等に』なんていう社会では、きっとわたしは生きていけない。自分の努力が誰にも認めてもらえない社会なんて絶対に嫌だから!」

 

最後の言葉はミヤビの心からの叫びである。

ヤマトのために人知れず努力を続け、今の自分があるのだという自負を持っているからだ。

 

「わたしはジプスの幹部です。わたしのような若輩者が東京支局長という肩書きを持っているのは、それだけの力を有しているからだとおわかりになりますよね? あのヤマト様が実力のない者に重要な仕事を任せるはずがありません。生まれつき霊力は高かったのですが、それだけでビャッコを使役できるでしょうか? 自慢するわけではありませんが、わたしは誰にも負けないほどの努力を積み重ねてきました。7歳の時に両親を喪い、親類縁者からは見放されてしまい孤児になったという身の上のわたしは、きっとあなたたちから見れば社会的弱者という立場になると思います。ですが峰津院の旦那様に拾われ、使用人として働くこととなりました。そして旦那様はわたしに生きる糧だけでなく学問も与えてくださいました。旦那様はわたしに強者となるチャンスを与えてくださったことになります。だからわたしはそのチャンスを最大限に活かし、この結果を生み出すことになりました。これは機会が与えられ、本人が努力することによって強者になりうるという実例です。もし努力もせずに同じものを与えらえる人間を見たら、わたしは不公平だと嘆くでしょう。そしてわたしは努力などせず、与えられることに満足するだけのタダの弱者となってしまうかもしれません。人間とは楽な方へと流されてしまう生き物ですから」

 

ここで自分が感情的になってしまったことに気づいたミヤビは大きく深呼吸をして冷静さを取り戻そうとした。

 

「先ほどの食料の配分のクイズに戻りますが、公平な分け方をするのであれば按分、つまり基準になる数量に比例してものを分けることになります。必要なエネルギー量を基準とすると子供が250グラム、青年が400グラム、老人が350グラムという分け方になります。またもうひとつの話の方ですと、子供には子供用の茶碗、青年には丼の器、老人には普通のサイズの茶碗でご飯を与えれば、量こそ平等ではありませんがそれぞれが満足できる形で収まるわけです。これが平等と公平の違いです」

 

「「……」」

 

「そして公平に配分した後は個人の自由です。子供や年寄りに自分の食料を分ける者、自分の分だからといって全部食べてしまう者…、その人たちの行動に関して他人がとやかく言う権利はありません。もちろん他人から食料を奪い取ろうとするような輩にはそれ相応の制裁は必要ですけどね」

 

「もちろん他人から~」の部分はジプスから物資を力ずくで奪おうとするロナウドたちに対しての嫌味を含めた忠告を意味している。

 

ミヤビの説明に口を挟むことができないロナウドとジョー。

さらにミヤビは強く出た。

 

「それでもあなたたちは自分の思想こそ正しく、平等主義こそ人類の理想であると言いますか? まだ言い張るならばあなたたち若いサマナーは自分の食料を子供や年寄りにあげて、空腹状態で悪魔と戦えばいいんです。そして悪魔に負けて、残された人たちも悪魔に殺されてジ・エンド。名古屋は人間が滅亡した死の街になるでしょうね。弱者救済と叫んでいながら他者を巻き込んで、自分の理想を最後まで主張して滅んでいくのがあなたたちの進む道だというのなら勝手になさい。わたしから見れば、あなたたちの幼稚な理想よりも、ヤマト様の実力主義の考えの方がずっと大人で理路整然としているとはっきり言えます」

 

「何だと!?」

 

ロナウドは自分がヤマトと比べられ、それに劣ると言われたことで激高した。

 

「だってそうじゃないですか。人間は個というものを持っている以上、序列というものができあがってしまうのは仕方がないことです。格差をゼロにすることはできませんが、正常な範囲内に収めることは可能です。社会的弱者を救済したいというあなたたちの気持ちは理解できます。しかしあなたたちの考えは、強者を引きずり下ろすことで、弱者の立場を相対的に引き上げるというもの。強者が弱者に手を差し伸べるなどという耳に心地良い言葉で誤魔化してはいますが、結果的には強者に負担を強いることになり、真に弱者を救済することにはならないんです。あなたたちの考えは根本的なところが間違っています。もし社会的弱者を救いたいと言うのなら、純粋に弱者の立場を引き上げる方法を模索すべきだとわたしは考えます。もちろんそれは簡単なことではありません。それくらい百も承知です。そしてわたしはあなたたちの他人を思い遣る気持ちを否定しません。ただ考え方が幼稚で、手段が強引だと言うだけです」

 

「ならば峰津院の考えが正しいと言うのか!?」

 

その言葉にミヤビは首を横に振った。

 

「誰が正しくて、誰が間違っているのかを判断できるのは今を生きるわたしたちではなく、未来の人間です。現在のわたしたちの行動は今すぐに結果の出るものではありません。結果が出るのが1年先なのか、10年先か、または100年先か…、それはわかりません。わたしたちができるのは、未来の人間がわたしたちの行動を正しかったと評価してくれるよう努力するだけ。自分の子孫に恥じない行動をすることが重要となります。つまりわたしは自分が正しいと思うことをしているだけで、その判断が正しいのかどうかは今のわたしにはわかりません。ただ少なくともヤマト様の実力主義には根拠があり、確固たるルールがあります。あの方のやり方には乱暴な部分はあるものの、この国のことを憂う気持ちは誰にも負けません。峰津院家の人間が千年以上も身を削るようにしてこの国のために尽くしてきたことを、自分が王になりたいからだという言葉で片付けられるでしょうか? そもそも峰津院家の人間が本気で王になろうと考えたら、はるか昔にこの国は峰津院一族による独裁国家になっていたことでしょう。そうならなかったのは、彼らがひとえにこの国と国民を愛し、自分が王になるよりも、国民が豊かで平和な生活ができるようになることを選んだ結果なのです。ヤマト様の行動もこの国のためになると信じているがゆえのものです。つまりあなたが平等主義こそが正義だと盲目的に信じ込んでいるのと同じです。それについてはわたしもあの方の行動をすべて肯定しているわけではありません」

 

「「……」」

 

「自分の考えだけが正しいなどと盲信せず、他人の意見に耳を貸すことが必要です。ですからわたしはあなたたちの意見を聞きました。ヤマト様はそういうことができない人間ですけど、あの方が実力主義を唱える以上、戦って勝てば聞く耳を持つに違いありません。人間同士戦うことが不毛なことだとわかっていますが、あの方に自分の考えを聞かせようとするなら力でねじ伏せて聞かせるしかないでしょうね」

 

そこまで言うと、ジョーが口を開いた。

 

「若い君がそこまで真剣に社会問題について考えていたとは、正直驚いたね。…君の言うように強者を引きずり下ろすのではなく、弱者の立場を引き上げる方法を探すべきなんだろうけど、方法が見つからない間に弱者は次々に社会から抹殺されてしまうんだよ。俺の恋人は生まれつき病気がちでさ、今も入院中で苦しんでいるんだ。そういう人たちって君の言う公平な機会が与えられても、それを生かすことなんてできないんだよ」

 

ジョーの恋人を大切にしたいという気持ちはミヤビにもわかるが、しかしそれとこれは別だ。

 

「ではそのカノジョさんにとって何が必要だと思いますか?」

 

「そ、それは…もちろん十分な医療、かな?」

 

ジョーは予想外の質問に慌てて答えた。

 

「あなたのカノジョさんは病院に入院し、適切な治療を受けているのではないんですか?」

 

「たしかに治療は受けているけど、これが難しい病気でさ、なかなか良くならないんだ。完全な治療法がない、不治の病ってやつ?」

 

「ならば現状では十分な医療は受けていると言えますね。ただ現代の医療技術では現状維持しかできないというだけのことです。問題があるとすればそれは現在の医療システムにあります。医大に入学するには多額の入学金や授業料がかかります。優秀な人間であってもお金がないから医師になれない。お金さえあれば多少人間に問題があっても医師になれる。そういう世の中のシステムが間違っているんです」

 

「そ、そのとおりだ! だからさ、平等な社会が必要なんだよ。お金がなくても医者になれるというのなら、きっと医学界はもっと発展するはず。不治の病でも治療法が見つかるかもしれないだろ?」

 

ジョーは僅かに活路が見えたと言わんばかりに身を乗り出して言うが、ミヤビには通用しない。

 

「そうでしょうか? 仮にあなたたちの目指す平等な世界になったとして、カノジョさんの病気が治るかどうか怪しいものです。むしろ治る可能性が低くなるとわたしは思います」

 

「それ、どういうこと? 意味がわからん」

 

「つまりですね…純粋に人助けがしたくて医師になろうという人もいますが、医師が高給を得られる職種であるからという人が大多数であるのは否定できません。お金がなくても希望者は平等に医大に入学できるようになったとしましょう。必死で勉強して医師になって身を粉にして働いても、特殊な技術や高い学歴が不要な…例えばコンビニやファストフード店の店員と平等な扱い、つまり同じ給料しか貰えないなら、医師になろうとする人が減るのは目に見えています。お金がすべてではありませんが、労働にはそれに見合う対価を支払うのが当然で、努力した分の見返りがないのではモチベーションはダダ下がりです。その状態で医学界は発展していくでしょうか? それとも医師になるような人…つまり強者には社会的弱者のために犠牲を強いてもかまわないとか?」

 

「そんなことは ──」

 

「ああ、だからあなたたちは世の中の理を強制的に書き換えてしまおうと言うんですね? 個人の意思を無視し、自分を犠牲にしてもひたすら公共の…弱者のために尽くす人形を造るのがあなたたちの目的であると。だとすれば、あなたたちこそヤマト様よりはるかに傲慢であり、自らを神だと言わんばかりの行為に走ろうとしているように思えます」

 

ミヤビはロナウドたちを挑発し、冷静さを失わせていく。

その挑発にロナウドが乗った。

 

「そんなことはない! 俺たちは峰津院のような支配者になるつもりは毛頭ない。…たしかに世の中の理を強制的に書き換えるというのは個人の意思を無視していることになるだろう。しかし人間を自分たちの都合の良い人形に造り変えるなんてことは考えたこともないぞ。ただ俺は人間が誰もが助け合えることができればより良い世界になるとだな…」

 

「平等だとか助け合い、手を差し伸べるなどという美辞麗句をいくら並べ立ててもわたしには通用しませんよ。…ところで『One for all , all for one』という言葉はご存知ですか?」

 

「ああ、もちろんだとも。それこそ俺たちの行動理念だからな。『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』…まさに平等主義の大原則だ」

 

ロナウドが目を輝かせて言う。この言葉は彼にとっての座右の銘なのだろう。

しかしミヤビは苦笑を禁じえない。

 

「これはアレクサンドル・デュマが書いた『三銃士』に登場する有名な言葉です。あなたが言ったように『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』と訳されていますが、これはとんでもない違訳だということまではご存知ではないようですね」

 

「どういうことだ?」

 

「『ひとりはみんなのために』という部分は合っているのですが問題は後半部分です。『みんなはひとりのために』というと助け合いのような感じがして聞こえは良いのですが、結局はお互いが助け合わないといけない馴れ合いの状態、つまり相互依存状態を指すことになってしまいます」

 

「それではいけないのか?」

 

「はい、わたしはそう思います。それにこれは本来の意味が間違っているんです。この場合、後半の『one』は勝利とか目的と訳すべきと言われています。つまり『ひとりはみんなのために、みんなは勝利のために』が正解ということになります。ですから『ひとりひとりが全員のために責任を果たす人間になる。そしてそんな個人が集まって全員で勝利向けて一丸となって進んでいく』というのが本来の意味になります。よってチームの一員たる個人は最低限の責任を果たす人間であるべきです。弱者救済は大事ですが、その弱者が弱者に甘んじた状況を自ら改善しないで、誰かの援助に頼りっぱなしというのではいけません」

 

「……」

 

「あなたが平等主義の理想を掲げて戦うのは自由ですが、すべての人間が平等な世界を望んでいるとは限りません。仮に世界の半数がそれを望んでいても、残りの半数は自分の意思を捻じ曲げられてしまうということになります。ですから良く考えてください。自分が逆の立場だったらどうしますか? 自分の意思を強制的に書き換えられてしまうということは、それまでの自分を完全に否定されてなかったことにされてしまうのと同義です。もしヤマト様の望む実力主義の世界になって『力が全てである』という理に書き換えられてしまったら、平等という概念さえ消え失せてしまうかもしれません」

 

「そんなことは俺が絶対にさせないぞ!」

 

冷静さを失って立ち上がるロナウドに、ミヤビは宥めるように言った。

 

「落ち着いてください、ロナウドさん。わたしが言いたいのは簡単に理を書き換えるなどという考えは捨ててくださいということです。本人の意思を無視して強制的に考え方を変えさせるのではなく、説得と理解によって他人の心を変えることが重要だとわたしは考えます。そのためなら、わたしはどんな苦労も厭いません」

 

そしてミヤビはロナウドたちにトドメを刺すつもりで言った。

 

「ロナウドさん、あなたは障害の多い人生だったでしょうが、自身の努力によって警察官になり、刑事となったはずです。刑事になるには相当な苦労があったと思われます。でもそれを乗り越えられたのはすべてあなたの努力の結果。あなたは自身の力で現在の自分を手に入れたわけです。ならば努力しても認められない世界、頑張っても頑張らなくても同じ結果しか得られない世界を肯定できますか? あなたは楽な方へ流されずに自分を維持できるという自信がありますか?」

 

「……」

 

「ジョーさん、あなたはカノジョさんのために何かをしてあげましたか? きっと何もしてくれない社会を恨み、誰かが助けてくれることを期待しているだけでしょう。自分が医学を志してカノジョさんを救いたいとほんの少しだけでも考えたことありますか? 自分にはそんな才能はない。端から無理だと決めつけて何もしていないのでは? あなたは世の中が悪いと嘆き、逃げているだけなんです。自分は何もしないでいて他人に求めてばかりの人間が、弱者を救うために立ち上がっただなんておこがましいと思いませんか? わたしには病気と戦っているカノジョさんよりもあなたの方が弱者に思えます」

 

「……」

 

「一般的には社会的に恵まれている者を強者、そうでないものを弱者と呼ぶことが多く、おふたりもその考えで行動していますね。しかしわたしは強者と弱者というものをこう考えています。弱者とは自分の不幸な境遇を嘆くだけで努力をしない者であり、その中から自力で這い上がってきた者は強者だと。その意味でいうとわたし自身は強者とは言えません。今はまだ強者になろうと足掻いているタダの人間です。ですが少なくともこのジプスの制服を着ている以上、弱者ではないことは確かです。ヤマト様に言わせると『この制服は私が与えたものではなく、お前自身が自分の力で手に入れたもの』だそうですから」

 

しかしミヤビがそこまで言ってもロナウドにはわかってはもらえなかったようだ。

 

「君の言いたいことはわかった。しかし俺たちには暢気に話し合いなどしている暇はない。セプテントリオンが襲来し、今日だって新たなセプテントリオンが攻めて来る。食料が足りなくて飢える者たちを悪魔が容赦なく襲うのだ。ならば俺たちが今やるべきことは、それが犯罪であっても目の前にある物資を奪い、被災者に配ることだ。そして悪魔やセプテントリオンと戦い、勝つしかない」

 

「元刑事のあなたが犯罪と承知で実行するのですから、説得によってここから出て行ってもらうのは無理そうですね」

 

「当然だ。君が俺たちに協力しないのであれば、予定どおり君を人質にして峰津院にこちらの要求を飲ませるだけだ。なにしろ君は奴の大切な駒のようだからな、君の命がかかっているとなれば負けを認めざるをえないだろう」

 

「いいえ、あなたはヤマト様には勝てません。あの方はゲームに勝つためならクイーンの駒であっても容赦なく切り捨てる人ですから」

 

「まさか、そんなことはあるまい」

 

「あの方はあなたたちに頭を下げるくらいなら、わたしを見捨てて勝者となる道を選ぶでしょう。クイーンを失ったところで、最終的に敵のキングを追い詰めれば勝利者となれるのですから。あの方はわたしに固執して戦局を見誤るようなことは絶対にありません」

 

断言するミヤビにロナウドが訊いた。

 

「君は死ぬことが怖くないのか?」

 

するとミヤビは真剣な眼差しで答えた。

 

「死ぬことが怖くない人間なんていませんよ。でもわたしには死ぬことよりも怖いことがあるんです」

 

「死ぬことより怖いことって?」

 

ジョーが訊く。しかしミヤビは首を横に振った。

 

「ひ・み・つ・です。対立する相手に自分の弱みを教えるはずがないでしょ」

 

彼女が少女っぽい笑みを浮かべたのを見て、ジョーは少し動揺した。

それまで大人である自分やロナウドを相手に一歩も退かない強い態度でいた彼女が年相応の少女であり、そんな彼女が自分でも考えの及ばぬ理想を抱えて戦っているのだと知ってしまったのだから。

一方、ミヤビはこの状況を改善するために何らかの手を打たなければいけないと考えていた。

 

その時だった。

突如局内の警報が鳴り、司令室にいたレジスタンスメンバーからロナウドに連絡が入る。

 

「ロナウド、大変だ! 荒子川公園で原因不明の爆発が起きてレギオンが発生し、市民が襲われていると仲間からのSOSが入った。早く来てくれ!」

 

「よし、わかった」

 

ロナウドがジョーを連れて倉庫を出ようとしたところを、ミヤビが呼び止めた。

 

「待ってください! わたしも連れて行ってください」

 

彼女の頼みにジョーが答える。

 

「人質の君を出すわけにはいかないよ。ここでおとなしくしていてちょーだい」

 

このような状態でもお気楽なジョーの態度に腹を立てるミヤビ。

しかしそんなことにかまってはいられない。

 

「そんなことを言っている場合ですか!? 邪鬼レギオンはレベル39の悪魔です。ロナウドさんのハゲネと同レベルの悪魔を使役できる人がどれだけいるんですか?」

 

「うっ…」

 

「犠牲者をひとりでも減らすためには敵とか味方とか言っている余裕なんてありません。わたしが逃げ出すのを恐れているんでしょうけど、この状況で民間人を放って逃げるほどわたしは卑怯者ではありません。一緒に戦わせてください! 事態が沈静化したら、あなたたちの指示に従いますから」

 

ミヤビの勢いにジョーは気圧された。

そしてロナウドが言う。

 

「わかった。君を信じよう」

 

ロナウドは上着のポケットからミヤビの携帯を取り出して彼女に返却した。

 

ミヤビはロナウドたちの後を追って司令室へとやって来た。

司令室のメインモニターは荒子川公園の様子を映し出している。

公園内のグラウンドはテントがいくつも並んだ避難所となっており、レギオンは不気味な声を上げながら飛び回り、逃げ惑う被災者を襲っていた。

 

「マズイぞ、これは…。よし、全サマナーは荒子川公園へ出動! 全力を挙げて市民を守るぞ!」

 

ロナウドはレジスタンスメンバーに指示を出す。

そしてミヤビに向かって言った。

 

「荒子川公園はここから南南西約7キロの場所だ。俺が案内す ── 」

 

「それだけわかれば十分です! じゃあ、お先に!」

 

ミヤビはビャッコを召喚するやいなや、ビャッコに跨ると名古屋支局を飛び出して、風のように駆けて行ったのだった。

 

 

 






長々とした文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。

できるだけ簡潔にしようと努力したのですが、「平等主義こそ正義」と考えるロナウドたちを説得するには言葉が多くなるのは仕方がないんです。





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