DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

18 / 30


再びシリアスパートになります。
原作でもアリオト戦は好きです。
アイリとカーマの、またヤマトとカーマのやり取りは、本人(特にカーマ)が大真面目なだけあって面白いと思います。

しかしこの日から仲間たちの確執や分裂が表立ってきます。
それをヒロインがどういう選択をするのか、どう立ち回るのかが見所になってくるでしょう。





5th Day 驚愕の木曜日 -1-

 

 

朝食を終えたミヤビは地上へ出た。

特に深い意味はなく、単に気分転換に外の空気を吸いたいと思ったからだ。

しかし地上で目にしたものは、気分転換になるどころか恐怖で身が竦むものだった。

 

「空が…ない…!?」

 

東の空からは日が昇っているのだが、南の空は闇のように暗いのだ。

ミヤビはスザクを呼び出すと、その背中に飛び乗って空へ舞い上がった。

そして東京湾上空へやって来た時、彼女はそこにあるはずのものがないことに気づいた。

東京湾の向こうにある房総半島の南側の部分が見当たらない。三浦半島の先の部分も消えている。

まるで漆黒の闇に飲まれてしまったかのようで、彼女はその光景に恐怖した。

これが〈無〉なのだ。

ヤマトから聞かされてはいたが、彼女が実際に〈無〉を目にしたのは初めてのこと。

セプテントリオンと対峙した時よりも恐ろしいと感じていた。

ギリギリまで近づいて調べようと思うが、危険を知らせる本能が彼女を行かせようとはしなかった。

 

(無 ── すべての存在、概念そのものが消されてしまうということ。これまで築き上げてきた人類の過去、現在、未来…そのすべてが消えてしまう。ポラリスは徹底的に人類を滅ぼしたいらしい。その存在を完璧なまでに消し去ろうというのね)

 

この無の侵食を食い止めているのがジプスの本局及び支局のある都市の各タワーである。

そのタワーを使って龍脈を吸い上げ、その力で結界を張っている。

現在、ジプスの支局がある別府と福岡の両都市とは連絡が途絶えていて、札幌はかろうじてジプスとタワーの機能だけは生きている。

タワーのない場所はすでに無に飲まれていて、跡形もなく消えてしまっていた。

つまり国土の殆どがすでに「ない」ということである。

 

無の侵食という恐ろしい現実を知っているのはジプス局員のみ。

民間人協力者には知らされていない。

知る必要はなく、知ったところで何もできないのだからというヤマトの方針であった。

たしかに無用な混乱を招くよりは何も知らせないでおいた方が士気の低下を防ぐことはできるだろう。

しかし事実を知った時、民間人協力者たちはヤマトのやり方を容認できるものだろうか…

 

 

 

 

「ヤマト様、無の侵食が進んでいるようです。すでに房総半島が半分近く消えていました」

 

ミヤビはすぐに局長室へ向かうと、ヤマトに見てきたことを報告した。

 

「そうか…しかしそれも想定内のことだ。無の侵食はこれ以上手の打ちようがないが、東京タワーの機能が無事である限り、結界が我々と東京という街を守ってくれる。それよりも今はセプテントリオンとの戦いに専念しろ」

 

「はい」

 

「これを見ろ。本日未明より東京都西部から中央部にかけての地域で神経毒による死亡者が発生しているとの報告があった」

 

ヤマトは手元にあった書面をミヤビに手渡した。

 

「これは…!?」

 

報告のあった地点は西から東に一直線になっており、都心部に向かっているのは明白だった。

 

「おそらくセプテントリオン…アリオトの仕業なのだろうが姿が見えない」

 

「どういうことですか?」

 

「推測だが、奴は空にいる」

 

「空?」

 

「ああ。そして奴は東京タワーを目指して真っ直ぐに向かって来ている」

 

「つまり大阪のメラクのように直にタワーを破壊して、結界を無効化しようということですね?」

 

「そのとおりだ。…東京タワーへ向かうぞ」

 

「了解しました」

 

ミヤビはヤマトの後を追って地上へと向かった。

 

 

 

 

芝公園でヤマトとミヤビが共に空を眺めていると、マコトがジプス局員やダイチたちを引き連れてやって来た。

ヤマトがアリオトについて説明を始めたが、しばらくすると突然空から何か落ちて来た。

落下物は毒々しい色をした塊で、ひとりの男性局員が調べることになったが、触れたとたんにそれは爆発した。

男性局員は急いで支局の医務室に運ばれたが、一命を取り留めるかどうかは不明だ。

しかし彼のおかげで重要な情報が手に入った。

これまでの神経毒による死亡事件の原因はこの毒素の塊であることはまず間違いない。

 

「各自戦闘態勢! 私は敵の所在を把握するために座標を観測する」

 

ヤマトの一声で、ミヤビとマコトたちは戦闘態勢に入った。

より正確な観測のためにヤマトは複数の座標を調べなければならず、その間彼は無防備となる。

さらにあの毒素が再び落ちて来る可能性もある上に、悪魔の出現もありうる。

毒素の塊が落ちて来た場合は毒が散布される前に破壊しなければならない。

 

「私の護衛はミヤビに任せる。他の者は迫の指示に従え」

 

ヤマトが指示を出した次の瞬間、すぐ近くに毒素の塊が落ちて来た。

 

作戦が始まった。

ヤマトに迫る悪魔はビャッコの雷撃とミヤビの魔法で、落下してくる毒素の塊は空中でスザクが焼き払う。

 

「毒素はさすがに厄介だな」

 

観測しながらヤマトがふと呟いた。

それを悪魔と戦いながらも彼の一挙一動をつぶさに観察しているミヤビは聞き逃さなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「問題ない。次に向かうぞ」

 

公園内に落下した毒素の塊はマコトの的確な指示で民間人協力者たちが撃破し、散布を未然に防いでいる。

悪魔の群れもここ数日で急成長した悪魔使いたちの前になすすべがない。

 

そしてヤマトの観測は無事終了し、全員が再び芝公園広場に集合した。

 

「データ入力完了、座標算出、スキャン開始…出るぞ」

 

ヤマトが観測で得られたデータを携帯端末に入力すると、アリオトの正体が明らかになった。

モニターに映ったのは巨大な躯体である。

雲に隠れて姿は見えないが渋谷の上空にいるらしい。

そしてこちらへ真っ直ぐ向かって来ている。

 

「…まずいですね」

 

ミヤビが呟くと同時に、ヤマトはすぐに司令室にいる局員に連絡した。

 

「タワーの電源を切れ! 結界を一時凍結する」

 

ミヤビは驚いたがすぐにその意図を理解した。

アリオトの目的はタワーの破壊。

ここで電源を切って結界を凍結すればアリオトは攻撃目標を見失って東京タワーを素通りする。

多少の被害は出るが破壊されるよりずっとマシだ。

しかし通信回線に障害が出ていて司令室への連絡がつかない。

このままでは東京タワーが攻撃を受け、結界を失った東京は無防備の状態でアリオトの攻撃を受けることになるだろう。

ミヤビは神に祈った。どうか無事タワーの電源を落とせますように、と。

しかしその神 ── 管理者ポラリスこそが彼女たちに試練を与えている元凶なのだ。

 

すぐに通信は復旧し、東京タワーの電源も無事に落とすことができた。

おかげでアリオトは東京タワーを素通りし、今度は北上し始めた。

現在稼働しているタワーは大阪、名古屋、東京、そして札幌。

アリオトは次の標的を札幌に変えたのだ。

このまま放っておくとアリオトは確実に札幌のテレビ塔を破壊するだろう。

東京タワーの電源もいつまでも切っておけない。

先にアリオトを倒さないとまた舞い戻って来るはずだ。

そして大きな問題が判明した。

アリオトの高度が悪魔の使役範囲を超えているのだ。

そこで手の空いている局員と民間人協力者は各々アリオトを撃ち落とす方法を探すことになった。

そしてミヤビはヤマトと共に大阪本局の書庫で参考になりそうな文献を漁ることにした。

 

 

 

 

ヤマトとミヤビは書庫で神話や伝説などの本を中心に様々な分野のものを読み漁っていた。

床に直に座り、夢中でページをめくっていたが、なかなか良い方法が見つからないでいる。

しばらくして集中力が途切れると、ミヤビは彼女らしくなくぼやいた。

 

「…ったく、とんでもないチートキャラが出てきたわね。まだ5体目じゃないの」

 

するとそれを聞いていたヤマトが怪訝そうな顔で訊いてきた。

 

「チート…イカサマのことか?」

 

「いいえ、少し違います。ヤマト様のおっしゃるように本来の意味はイカサマとか騙すというものですが、そこから転じて家庭用ゲーム機等におけるデータを不正に改造する意味の言葉として使われるそうです。実際にチートしていないものでも、強力すぎる性能を持つキャラクター・アイテム・必殺技などを揶揄してチートと呼ぶのだと、ダイチさんに教えてもらいました」

 

「つまり『ずるいほど強い』ということだな?」

 

「そのとおりです。セプテントリオンに対する唯一の武器が悪魔であり、その悪魔の使役範囲を超えているというのですから、ずるいと言うしかありません」

 

「ふむ…俗世では面白い言葉を使っているのだな。たしかに核兵器すら効かぬというのだ、このままでは我々人類は手も足も出せぬ」

 

「もっとも核兵器に効果があるとしても、日本に核兵器は存在しないということになっていますから使えませんけど。…本当のところはどうなんでしょうね?」

 

「フッ…さあな」

 

そんな無駄話をしながら、ミヤビは書棚からインド神話の本を抜き出して床に座り直した。

彼女の横にはギリシア神話や北欧神話について書かれた本が積み重ねられている。

彼女は巨人が登場する伝説を中心に読んでいた。高度が足りないならその分を悪魔の大きさで補うという考えなのだ。

ヒンドゥー教の叙事詩「ラーマーヤナ」にはクンバカルナという巨人が登場する。

彼女はそれに期待をして読んでいくが、どうやら使い物にはなりそうもなかったらしく、ため息をついてしまった。

 

それから数分ほどしてミヤビの目はある神の名の上で止まった。

 

「シヴァ…」

 

彼女の口から思わず声が漏れる。

シヴァとはヒンドゥー教における三大最高神のひとりで、世界の破壊と創造を司る神だ。

 

「ヤマト様、パスパタはどうでしょうか!?」

 

「…なるほどな」

 

ヤマトにはミヤビの提案がすぐに理解できた。

破壊神シヴァと愛欲の神カーマとのエピソードは有名だ。

シヴァがカイラス山で瞑想をしていた時のことである。

カーマはインドラ神の命を受け、シヴァを瞑想から覚まし、女神パールヴァティと結びつけるために欲望の矢をシヴァに向けて射った。

カーマの矢は見事シヴァに突き刺さり、シヴァは瞑想から目を覚ましたのだが、修行を邪魔されたことに激怒したシヴァは、第三の目から炎の槍(=パスパタ)を放ち、カーマを焼き殺してしまったというもの。

その神話を現代の日本で再現しようというのだ。

幸いパスパタに必要な悪魔であるシヴァとカーマはジプス東京支局に封印されていた。

問題は呼び出すための人材だが、ヤマトには名案があった。

ヒナコにシヴァを、アイリにカーマを召喚させるというのだ。

舞いを好むシヴァの召喚にヒナコが適任なのはわかるが、カーマの召喚になぜアイリが採用されるのかミヤビには不可解だった。

 

「九条流次期家元候補のヒナコさんならシヴァの召喚は適任ですが、カーマに対してアイリさんでは役不足じゃないでしょうか? 色気ならフミさんとかマコトさんの方が適任のような気がしますけど」

 

ミヤビが正直な気持ちを言った。

 

(カーマは若い娘を好むというけど、アイリさんは若いというよりまだ子供じゃないの。若いと幼いは意味が違う気がするけど。…まさか20代半ばのマコトさんはともかく、前半のフミさんでさえもう年増だというの? カーマってロリコンなの!?)

 

などと考えていると、ヤマトがにやりと笑って言う。

 

「カーマなら問題はない。ああ、九条と伴の説得はお前に任せる。九条は問題ないだろうが、もし伴が使えないのであればカーマの召喚はお前がやれ。菅野のようにチャイナドレスを着るとか、水着になるとか…。とにかくお前のやりたいようにやってかまわぬ。結果さえ出せばな」

 

そう言ってヤマトは意味深な笑みを浮かべた。

 

「絶対にアイリさんを説得して、カーマ召喚を成功させてみせます!」

 

ミヤビは両手をぎゅっと握って力強く宣言した。

 

 

 

 

シヴァの召喚は首尾よく成功した。

さすがは日舞の名門九条流次期家元候補の舞、シヴァも大満足のようだった。

しかしカーマ召喚についてはいろいろと問題があり、少々手間取ることなった。

まずは嫌がるアイリに対して、ミヤビは彼女の好物である小倉トーストとチーズハンバーグを昼食に用意することで承知させた。

それでも不安は残り、ミヤビは最悪の状況を考慮してチャイナドレスと水着を用意しておいた。

彼女がそれらを使用せずに済むか否かはアイリの腕(?)次第だ。

 

召喚の準備ができたところで、アイリが彼女なりの色気でカーマを呼び出そうとするのだが、その努力も虚しくナシのつぶてであった。

その場に居合わせたジプス局員たちの間には不穏な空気が漂い、彼らの視線はミヤビに向けられた。

その視線の意味は「色気ならアイリよりミヤビの方がイイんじゃね?」というものだ。

ミヤビはその視線に対してブンブンと首を横に振ったが、すぐに自分の果たすべき責務を思い出した。

しぶしぶ用意したチャイナドレスを取り出そうとした時だった。

アイリが最後の手段とばかりに服を脱ごうとして、セーラー服の上着に手をかけた。

すると彼女のヘソがチラリと見え、それに呼応するかのように魔法陣の中からカーマが現れた。

カーマ曰く「おヘソは永遠の輝き」とかで、アイリはカーマ好みのヘソをしており、意外にも適任だったということが判明したのだ。

ただしカーマが容姿や色気でなくヘソにしか興味がなかったということにアイリは腹が立ったようだ。

 

さらにカーマが召喚できたことでひと安心したのも束の間、シヴァに矢を射ることを頼まれると態度が急変した。

かつてシヴァにパスパタを撃たれたことが相当なトラウマになっているようで、いくら頼んでも協力を渋っている。

おまけに逃げ出そうとしたものだから、アイリを筆頭に局員全員でカーマを取り押さえてボコボコにした。

龍脈を利用した鎖でカーマを拘束し、後はジプス局員に任せることにして、ミヤビはご機嫌ななめのアイリを宥める役を買って出た。

 

「ああもう…カーマの奴…ムカつく!」

 

プンプンしているアイリに近づき、ミヤビが優しく言った。

 

「カーマのことはもう忘れましょう。芸術の神アテナや音楽の神ミューズなら、アイリさんの才能やセンスを理解できるでしょうけど、ヘソフェチの変態悪魔にアイリさんの真の良さがわかるはずないんです」

 

「そう…そうよね!? あたしはアーティストだもの、本来ならお色気で男の気を引くなんて下品なことしないのよ。あたしはヒナコと違うんだから。そういうことだから、あんなエロいことはもう絶対にお断り。いい?」

 

「はい。もちろん今回限りです。もう二度とこんなことをお願いしません。ありがとう、アイリさん。おかげでアリオト対策はこれで完璧です」

 

「…うん。良かった」

 

ミヤビに愚痴を言ったことでスッキリしたアイリはやっと笑顔を取り戻した。

そんな彼女にミヤビは礼を言う。

 

「あと個人的にもお礼を言わせてください。ありがとうございました」

 

「どういうこと?」

 

「アイリさんが頑張ってくれたおかげで、わたしがチャイナドレスや水着を着ないで済みましたから」

 

ミヤビがそう言うと、アイリは哀れみの視線で言った。

チャイナドレス云々は本人の意思ではなく、ヤマトの命令なのだろうと容易に察せられたからだ。

 

「…ミヤビもいろいろと大変なんだね」

 

「ええ」

 

ミヤビは本気で安堵していた。しかしひとつ疑問が生じた。

 

(なぜヤマト様はカーマがヘソフェチであること、さらにアイリさんのおへそがカーマ好みのものであることを知っていらっしゃったのかしら? 仮にカーマのことは伝承にあったとしても、アイリさんのおへそのことはわからないはず。…まさか更衣室に監視カメラがあって、その映像をチェックしていたとでもいうのかしら? アイリさんを指名したのはヤマト様。根拠もなくこんな大切な作戦に彼女を投入するはずもないわ。そうなると、ヤマト様は更衣室内の映像を見ていたと考えるしかないわよね…)

 

そんな考えが浮かんだ途端、彼女のヤマトに対する絶対的な信頼が僅かに崩れた。

しかしそれもほんの一瞬のことだった。

 

(で、でもそれはジョーさんやダイチさんのようなスケベ心による痴漢行為ではなく、作戦遂行のための立派なお仕事だったのよ! そう、あのヤマト様が不純な気持ちで女性の裸を見るはずがないもの!)

 

ヤマトが更衣室の映像を見ていたのは事実である。

もちろん女性陣の裸が見たいわけではなく、自分の心の中の大部分を占めるひとりの少女の行動が気になっていて、館内の監視カメラの映像を時間が許す限りチェックしていただけだ。

その中でアイリがカーマ召喚に適任だということを知った。つまり偶然の産物である。

ヤマトのミヤビに対するストーカー的な行動が運良く功を奏したというのが真相であった。

もちろんこの真実をミヤビ本人が知ることはない永遠にない。

 

その後、ヤマトはカーマを連れて札幌へ向い、ミヤビはシヴァをセッティングした後に札幌入りした。

 

 

 

 

札幌・大通公園でヤマトがミヤビを待っていた。

札幌はすでに冬の様相で、東京に比べてかなり肌寒い。

厚い雪雲が頭上を覆い、上空の様子はまったくわからない。

ミヤビはジプスのコートが初めて役に立ったと感じ、白い息を吐きながらヤマトのもとへ駆け寄った。

 

「お待たせしました、ヤマト様」

 

「シヴァの方は問題ないな?」

 

「はい、完璧です」

 

現在、札幌にヤマトたちジプス関係者以外の人間はない。既に死の街と化してしまっているのだ。

ポラリスの一撃による大地震は全国各地に大きな被害をもたらした。

悪魔の出現や暴動などは他の地域も同じことが起きているのだが、札幌だけは少し違っていた。

《審判の日》当日、大通公園でひとりの男が「間もなく人類が絶滅する」と叫んだ。

もちろん誰も信じなかったが、その直後に大地震が起きた。

混乱する市民にその男は「この災害は日本国政府の陰謀だ」と喧伝し、市民の暴動が発生したのだ。

その暴動を制圧しようとした自衛隊と警察、及び数百人の市民が無駄な血を流した。

さらに悪魔の出現を神の怒りだとして、謎の宗教家が市民にデマを吹聴。

絶望した市民は自ら命を絶つという最悪の事態に陥ってしまったのだった。

それだけで札幌市の人口の約半分が消え、残りの半分は悪魔による襲撃によって消えていったという経緯がある。

なぜ男が《神の審判》のことを知っていたのかはわからないが、もしセプテントリオンの侵略やジプスの存在が事前に知られていたら、全国規模で同様の悲劇が起きていたことだろう。

そのことを思うと胸が押し潰されるように苦しいが、それ以上に残った命をひとつでも無駄にできないと、ミヤビは身を引き締めた。

 

 

 

 

「さて、そろそろ撃墜作戦を開始するか」

 

ヤマトがシヴァ側にいるマコトに連絡を取り、シヴァの準備をさせていた。

ヒナコが召喚した時のように日舞を踊り、シヴァのご機嫌取りをする。

問題はヤマトたちの眼前にいるカーマだった。

龍脈の力を封じた戒めの鎖で身体を縛り、身動きできないよう固定されている。

ヤマトは身動きできないカーマに言う。

 

「さて、わかっているな? 貴様の役目は ──」

 

「ヤ~ダ、なのネ~。シヴァなんか撃ったら、こっちが殺されちまうのネ~!」

 

ここまできてもまだカーマは協力を渋っていた。

 

「……」

 

ヤマトが無言でポケットから携帯を出すと、周りを囲んでいたジプス局員が一斉に携帯をかまえた。

それに反応してカーマは逃げようとして暴れるがまったく効果はない。

そんなカーマにヤマトが黒い笑みを浮かべて言った。

 

「失礼した。状況が見えなければ改めて説明するが…」

 

「ちょっ…待て! 待つのネ、人の子よ! 貴様は悪魔なのネ~!」

 

悪魔に悪魔と言われては世話ない。

可哀想だとは思うが、他に手段がない以上勘弁してもらうしかないのだ。

ミヤビはそう思いながら黙って状況を見守っている。

 

「交渉する気はない。さて、どうする? 選ぶのはお前だ」

 

「う~…なのネ。…ひ、ひとつだけ確認っ! シヴァたぶん怒るのネ、そしたら貴様カーマを守るか、なのネ~」

 

「無論だ。貴様が私の役に立つのなら、それなりの礼儀で接するさ」

 

(ヤマト様も人が悪い)

 

ミヤビは心の中で苦笑した。

彼女はこの作戦内容を知っており、カーマがどうなるかわかっているからだ。

シヴァのパスパタが放たれたと同時にカーマを上空へ放ち、アリオトのコア付近に到達した瞬間に射抜かれる。

そしてパスパタはアリオトのコアをも同時に射抜くことになるのだ。

 

しばらくしてカーマは渋々だが承知した。

 

「う~…よし、やるのネ。どうせやるなら、潔くなのネ」

 

「期待しているぞ」

 

ヤマトはにやりと笑うと作戦開始の号令を発した。

 

「作戦開始!」

 

作戦が開始された。

まずカーマが矢を放つ。

続いて「着弾まで30秒」という報告の次の瞬間、ヤマトはジプス局員たちに退避を告げた。

 

「総員、退避!」

 

「や、約束が違うのネ!?」

 

ヤマトたちが逃げようとしているのを見て、カーマが慌てる。

 

「いや、違わない。貴様亡き後の日本は必ず守る。この国の礎になることを誇りに思いたまえ」

 

ヤマトが地面に固定していたカーマを解き放った。

戒めを解かれたカーマは勢い良く上昇していく。

それを見上げながらミヤビは心の中で呟いた。

 

(ヤマト様がおっしゃったようにあなたの犠牲には、わたしたちがより良い社会を創ることで報いますから)

 

数秒後、上空から轟音が響いた。

カーマの断末魔の悲鳴はそれにかき消されてしまったようで地上には届かなかった。

様子は見えないが、気配で成功したことは地上からでもわかった。

 

「うまくいったようだな。急いで避難するぞ」

 

「はい」

 

最後までその場で状況を確認していたヤマトとミヤビも急いで札幌支局まで退避したのだった。

 

ヤマトとミヤビ、及びジプス局員全員が転送ターミナルまで避難した直後、アリオト本体の落下で大きな地響きが起きた。

アリオトは撃墜できたのだが、落下の衝撃によって外殻が破壊され、地上は毒素が蔓延していた。

とはいえ分析の結果、毒素の成分はごく弱いもので時間が経てば人が活動できる程度になるということだ。

 

「残るコアを討ち、トドメを刺すぞ」

 

「了解です。…それで、解毒剤の方は?」

 

「もう用意してある」

 

アリオトと戦うのに必要不可欠といえる解毒剤。毒素の塊を壊しながらでは作戦に支障が出るため、東京に落ちた毒素の成分を分析して急遽解毒剤を作製しておいたのだ。

 

「では作戦の指揮はわたしに任せてください」

 

ミヤビはアリオト戦では何の役にも立てなかったと、自らすすんで最後の後始末を引き受けることにした。

ダイチ、イオ、ジュンゴ、ケイタを札幌へ呼び寄せ、無事にアリオトコアを撃破した。

しかし全長50キロメートルという巨大な本体が地上に落下したことで、人的被害はゼロであったが、札幌の街は灰燼に帰したのだった。

 

 

 






アリオトが札幌の街に落下した光景は、東京支局の司令室で全員が目撃していました。
そのことでヤマトと民間人協力者たちの間には軋轢が生じます。

悪魔やセプテントリオンとの戦闘よりも、人間同士の対立や心情を描く方が難しいけど楽ですね。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。