DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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5th Day 驚愕の木曜日 -2-

夜、ヤマトは招集を断ったロナウドとジョーを除いた局員・民間人協力者たちと共に、東京支局において晩餐会を開いた。

ヤマトとフミは豪勢な料理に普通に手をつけているが、他のメンバーは食事などできる気分ではなかった。

特にこれまで燻っていた両者の対立が本格化することを危惧していたミヤビにとっては食欲が湧くどころか胃がキリキリと痛んでくるのを感じるほどだ。

 

「これはどういう趣旨の集まりなの?」

 

アイリが訊くと、ヤマトはさも当然という顔で答える。

 

「諸君らの働きで第5のセプテントリオンまで倒すことができた。その慰労を兼ねた晩餐だ」

 

「食料にも困ってる人がたくさんいるのに、こんな豪華な料理、よく出せるよね」

 

アイリの言葉はみんなの気持ちでもあった。

災厄の発生から5日目ではまださすがに餓死する人は出ていないだろうが、多くの被災者が十分な食料を得られずに空腹に耐えかねているはずなのだ。

ロナウドがこの光景を見たら激昂するのは間違いない。

 

「我々の働きからすればこの程度は当然の権利だ。気が向かないなら食べなくてもかまわぬ。残飯として処理するだけだ」

 

ヤマトの言葉に誰もがカチンときているのはわかるが、彼に口ごたえして勝てる自信がないのかみんな黙ってしまった。

しかしひとりだけヤマトに喰ってかかった者がいた。ヒナコだ。

 

「局長さん、説明はせぇへんの?」

 

「説明? 何のだ?」

 

「アリオトの件や。札幌があんなんなるやて、ウチらはひと言も聞ぃとらへん」

 

「ああ、言わなかったからな」

 

ヤマトの言い方は他人の気持ちを逆撫ですることが多い。

わざとやっているわけではないのだが、もう少し口の利きようというものがあるはずだ。

無用な軋轢をなくすためにも態度を改めてほしいとミヤビは思うのだが、口に出すことはないのでその気持ちがヤマトに伝わることはない。

 

「初めから札幌を犠牲にする気やったな?」

 

「どうせ計画を明かせば無駄な議論が生じる。だから伝えなかっただけだ」

 

「札幌の人たちが生きるか死ぬかの問題が無駄やて!?」

 

「セプテントリオンの殲滅は時間との勝負だ。遅れれば遅れるほど被害は拡大する。先の戦いで判断を躊躇していれば、札幌はアリオトの爆撃を受け、どのみち被害を受けていた。…それに札幌はあの時点で無人だった」

 

「無人って、どういうことやねん?」

 

「言葉のままだ。意味を説明するまでもない」

 

「……」

 

そう…説明する必要などないのだ。

その場にいた全員が札幌で起きた悲劇について悟った。

その証拠に表情が強張る。

 

「感情は捨て、大局を見ろ」

 

そう言ってヤマトは部下を呼んでモニターを用意させた。

 

「これを見ろ。これは一昨日に福岡市内で撮影されたものだ」

 

モニターには倒壊した福岡タワーと〈無〉に侵食された市街地の様子が映し出されている。

誰もがこの怖ろしい光景に息を呑んだ。

 

「貴様らは結界で守られた区域にいるため、目の当たりにしたことはないだろうが、この世界の大半はすでに福岡のように無に飲まれ、その存在は消失している」

 

「消失って、どういうことだよ?」

 

ダイチが訊く。

 

「言葉のとおり消えたのだよ。…志島、結界は何から街を守っていたと思う? 悪魔か? 災害か?」

 

「……」

 

「悪魔や災害で破壊されたものは人の手で再建できる。だが存在が消えたものを、どう甦らせる?」

 

「俺にわかるかよ」

 

「フッ…簡単だ。新たな形で世界を再興する」

 

「世界を…再興?…新たな形って…何をするつもりなんや?」

 

妙な胸騒ぎを覚えたヒナコが身を乗り出してヤマトに訊いた。

 

「世界に新たな秩序を与え、生まれ変わらせるのだよ。これまでの秩序など取り戻す必要などない。知恵、知識、力、その全てを持つ優秀な個体にのみ生きる資格がある。つまり優れた者が正しく統治する実力主義の社会を創造するのだ」

 

「何やて!?」

 

ここでヤマトは突然立ち上がった。

 

「私はここに、実力主義を根源とする世界の創造を宣言する! 無理に従えとは言わぬ。誰ひとり従わずとも、私は私の目的を遂行するまでだ。…また私の邪魔になる者は全力で排除する」

 

水を打ったように静まり返る中、ヤマトは席を離れた。

 

「私は失礼する。諸君らは晩餐を楽しみたまえ。そして正しい選択は何か、ゆっくり考えるのだな。ああ、詳しいことを知りたいならミヤビに訊くと良い。彼女にはすべてを話してある」

 

つけ加えるように言い放ち、姿を消した。

 

ヤマトの口からミヤビの名が出たことで、その場にいたすべての人間の視線が彼女に一斉に注がれる。

 

「ミヤビ、君は知っていたのか?」

 

マコトがミヤビに問いかけた。

マコトの様子から判断すると、ヤマトの信頼が厚いとっても彼の野望については聞かされていなかったのだ。

 

「…申し訳ありません。隠すつもりはなかったんです。結果的に内緒にしていたことになりますから謝罪しますが、悪意で隠していたのではありません」

 

「それはわかっている。たぶん君のことだから仲間たちにいらぬ動揺を与えて、セプテントリオンとの戦いに影響を与えたくないと考えていたのだろ?」

 

「……」

 

ミヤビは黙って頷いた。

この事実を知れば誰もがヤマトに真相を訊こうとするはず。

彼の言うようにセプテントリオンとの戦いは一刻を争うもので、ヤマトがジプス局員にすら話さない内容を民間人相手に話すことはありえない。

ダイチやヒナコたちの言葉に対して耳を貸すどころか「クズは生きる価値などない」などと暴言を吐くかもしれない。

ミヤビはそう考えた結果、教えない方が無難だと判断したのだ。

 

「事情はどうであれ、君がわたしたちに隠し事をしていたことに変わりはない」

 

「…はい」

 

ミヤビは子供の頃からヤマトが掲げる実力主義の思想が唯一絶対のものであると教え込まれてきた。

しかし彼女は聡明で、市井の人間とも交流があったこともあり多様な価値観を得ることとなった。

だからヤマトの考えを盲信しているわけではない。

強者が弱者の上に立つことを否定せず、正しいルールに基づいた競争原理に従って「努力して結果を出した者が報われ」「個人の価値は優れた者ひとりだけの判断ではなく、多くの人間が認めるか否かが重要」であるという考えに至った。

しかしこれもヤマトが掲げる実力主義の思想に含まれるものであり、ロナウドのように「全ての人間が平等でなければならない」と考える人間には受け入れがたいものである。

時間をかけて説明すればわかってもらえるかもしれないのだが、如何せん今は時間がない。

そこで彼女はできうる限り仲間たちと交流し、互いの絆を強固なものにすることに専念した。

仲間たちと交流し、徐々に信頼を築いていった。

それが真実を隠していたということで崩れ去っていくのだと、ミヤビは感じていた。

 

(でもわたしは後悔していない。これが最善の選択だという自信があるから。もし自分以外のすべてが敵となるとしても、わたしはヤマト様のために自分の信じた道を行くだけよ)

 

覚悟を決めたミヤビの肩をマコトがポンと軽く叩いた。

 

「苦しかっただろ?」

 

「え?」

 

「君の性格上、隠し事をするのは辛かったはずだ。これからはひとりで抱え込まずにわたしたちに打ち明けてくれ」

 

「マコトさん…」

 

「そうや。嬉しいことも哀しいことも、そして辛いことも全部分かち合ってこその仲間やないの」

 

そう言いながらヒナコがミヤビの後から抱きついて来た。

他のメンバーもそれぞれミヤビの周りを囲んで笑顔を見せる。

 

「みなさん…」

 

その気持ちが嬉しくて、ミヤビはつい涙ぐんでしまった。

 

「どうぞ、使ってください」

 

イオの差し出してくれたハンカチで頬を拭うと、ミヤビは自分の知っていることを包み隠さず話すことにした。

そこで彼女は名古屋にいるロナウドとジョーを東京支局まで来てくれるように電話で頼んだ。

 

「何を企んでいる?」

 

ロナウドはミヤビがヤマトの手先となり、誘き出そうと考えているのだ。

 

「何も企んでなどいません。これからわたしたちは自分がどうすべきかを考えることになり、いくつかある選択肢のひとつとしてあなたの考えをみなさんの前で披露してもらいたいんです。あなたの思想や行動理念については詳しく聞いていますからわたしの口から話すこともできますが、本人から直接聞く方が公平だと思うから来ていただきたいとお願いしているんです」

 

「なるほどな。君らしい考えだ。わかった、今からそちらへ行こう。30分待ってくれ」

 

ロナウドとジョーが到着するまで少し時間がある。

その間に食事を済ませてしまおうとミヤビは考えた。

しかしそこにある豪華な料理に手をつけようとする者はいない。

そこで彼女は言った。

 

「わたしたちは悪魔と戦う力を手に入れました。それは自分の望む望まないとは無関係なもので、不本意だと考えている方もいらっしゃるでしょう。ですがこの場にいる以上、戦うことは避けられません。わたしたちはこれまでに多くの人を喪いました。その人たちの無念に報いるため、そしてこれから失われようとする人命をひとつでも減らすためにわたしたちは戦うんです。この料理はただの料理ではありません。これはわたしたちが大勢の人たちの命や未来を託されている証だと思ってください。避難所で飢えている人たちに我慢をさせ、自分たちだけが豪華な食事をするというのに抵抗はあるでしょう。ですがその分を戦って、恩返しをすると思えば食べられます。いいえ、食べなければいけません。わたしたちはそれだけ重い責任を負っているんですから」

 

ミヤビの言葉はその場にいた全員の心を動かした。

彼女は正義感が強く、仲間のことを親身になって思いやり、けっして挫けない強い魂を持っているのだということをこの数日で誰もが知ることとなった。

嘘偽りのない彼女の真摯な言葉に仲間たちの心は揺り動かされ、自然に自分の席についた。そして食事を始める。

料理はヤマトが厳選した食材を専属のシェフに作らせたものだから味は抜群だ。

それぞれが今までに味わったことのない美味を堪能し、名古屋からやって来たロナウドとジョーを含めた悪魔使いたち ── ヤマトとフミはミヤビの召集に応えなかった ── は会議室に集合した。

 

 

 






次回ではロナウドの平等主義、ヤマトの実力主義のふたつの思想が提示されます。
そしてそれを聞いた仲間たちは自分がどうすべきなのかを考え始めます。

またヒロインの理屈っぽい演説が始まりますが、今度は火曜日の名古屋でのものより短いです。
短いですけど、ヤマトの側にいた彼女だからこそヤマトの目指すものをきちんと理解していて、それを説明できるわけです。


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