DEVIL SURVIVOR 2 You changed my world. 作:ルーチェ
「ミヤビ君、俺はあれからいろいろ考えてみた」
ロナウドが真っ先にミヤビに話しかけた。
「たしかに君の意見には頷けるものがある。しかしいくらすべての人間に対して公平にチャンスが与えられたとしても、そのチャンスを生かすことができない者もいるのが現実だ。やはり俺はこれまでどおりに平等主義を貫くよ」
「ええ。それでかまわないと思います。だからこそわざわざ東京まで来てもらったんです。ここには自分がどうすべきか悩んでいる仲間たちがいます。だからあなたの考えをここで披露し、それを聞いた人がどう受け止めるか見極めてください」
「ああ。…俺にもチャンスを与えてくれてありがとう」
そう言って彼は人懐っこい笑顔を見せた。
そしてロナウドは声高らかに自らが理想とする平等主義を謳い、次いでミヤビがヤマトの考える実力主義について説明をした。
「ヤマト様の目指す世界というのは、知恵・力・技術などに長けた者にこそ権利が発生し、弱者は淘汰されるというものです。それだけ聞くとまるで彼が新世界の王となり、彼が支配する世界を創るのだと思ってしまうのは無理もありません」
そう言うと、誰もがうんうんと小さく頷いている。
「しかし彼は世界の支配者になりたいのではありません。彼はこの薄汚れた世界を改革し、真に力のある者の手による秩序ある美しい世界を創りたいだけなんです。これは峰津院家の人間が抱えていた苦悩と、堕落した現実を真に憂いてるからこそ至った考えであると言えます」
「ヤマト様は常におっしゃっていました。『現在の政治の中枢にいる連中は俗世の毒に染まり切った無能たちばかりだ。そいつらが官僚たちと手を組んで私腹を肥やし、どれだけこの国を食いものにしてきたか。奴らは一般に弱者と呼ばれる国民を虐げてきたが、決して強者といえる存在ではない。強者とは出自、年齢、性別などに関わらず、本人自身の持つ純粋な力のある者のことをいうのだ』と。ヤマト様の言い分には正当な理由があります。本来国民の代表として政に携わるべき人間が私利私欲に走り、政治の才能のない二世三世議員が世に溢れている。財界の人間も政界の連中と癒着して互いに甘い汁を吸い合っている。国民から吸い上げた血税を自分たちのために湯水のように使い、国民の奉仕者であるべき者たちが国民を虐げるようなマネをしていることは隠しようのない事実です」
「わたしも常々考えていました。この上にある議事堂はロクでもない人間の巣窟となり果てている。政の才能のないバカな連中がもっとバカな有権者を騙して国の中枢に潜り込む。選挙運動中は腰を低くして何度も頭を下げていたというのに、代議士になったとたんにその反動よろしく踏ん反り返っている。国民の生活には無関心で、己の保身と金儲けに走り、その腐った連中がこの国を腐らせていく。しかしそんな連中を選んだのは愚かな有権者。政治が自分の生活に密接しているというのにすべて他人任せ。不満があれば自分は何もせずに文句を言うだけで、改善をしようという努力もしない怠惰な者ばかりです。みなさんの中にも心当たりのある方はいらっしゃるのではありませんか?…そして正常とは言えない格差が生まれ、裕福な者はより豊かに、貧しい者はますます生活が苦しくなっていく。そんな負のスパイラルを断ち切らなければこの国に未来はありません。弱い個体が強い個体の糧となり、劣るものが優れたものに淘汰されていくのは自然界のルールです。本来なら人間もこのルールの中で生きていくはずですが、歪んだ力関係が人間の世界を捻じ曲げてしまいました。それがポラリスによる粛清を招いたのかもしれません」
「ヤマト様は今の世の中に幻滅しています。彼は峰津院家に生まれたことで、否応なく人間の醜い部分をたくさん見せられてきました。ですから今の世界に守る価値などないと考えていて、ポラリスに謁見して自分の理想の新世界を創ろうとしています。彼は自分が…峰津院家の人間が守るに値する世界を創りたいだけなのです。そこで純粋に力ある者が弱者の上に立つことが当然であるという理に書き換えるつもりでいます。しかし勘違いしてはいけないのは、彼もまたその理の中に存在し、自らが弱者となる可能性を秘めていて、弱者となった場合には自分も淘汰されるということです。いくらヤマト様でも永遠に強者でいられるわけではありません。彼は自分が弱者となった場合の覚悟もできています。覚悟がなければこれだけ強く実力主義を唱えることはできません」
「しかし峰津院のやり方で政治の腐敗を拭うことはできるのか? 峰津院家自体が腐った連中と手を組んでいたのは紛れもない事実だ」
ロナウドが言う。
それに同調してジョーも頷いた。
「たしかにジプスという組織を維持するために薄汚れた代議士や官僚と手を組んでいました。しかしそれを是としていたのではありません。自らの高潔な理想のためにあえて汚泥に身を沈め、この時をじっと待っていたんです。千年以上の屈辱に耐え、やっと峰津院が陰の存在から光の中へ姿を現わすことが許される機会がやって来たんですから、ヤマト様がなりふりかまわず峰津院の宿願を叶えようとするのは当然ではありませんか? …ただし、彼の考えややり方がすべて正しくて、何をやっても許されるものではない…とわたしは考えています」
ミヤビの最後の言葉に観衆は強く反応した。
ヤマトのイエスマンである彼女がヤマトのやり方を全面的に支持していないのだから。
さらに彼女は続けた。
「ヤマト様の言うことは正論です。しかし世の中がすべて正論によって成り立つものではないことは、わたしたちは経験上知っています。そしてわたしはジプス局員である前にひとりの人間として行動しています。人として正しいと思える行動をしているつもりですが、それが本当に正しい行動であったかどうか…それを自分自身で判断することはできません。現在のわたしたちの行動はすべて未来の人間によって判断されるものですから」
ミヤビの演説に観衆たちは聞き入っている。
「わたしは基本的にはヤマト様の実力主義に賛同していますが、全面的に支持しているのではありません。彼は自分が強者であるという自負を持っています。わたしもヤマト様のことを認めています。しかし彼ひとりが強者と弱者を選別するというのなら、世界は彼にとって都合の良い世界にしかなりません。彼の目に止まらなかった者であっても強者となりうる者はいるはずです。また彼の目にはくだらないと思えることでも、他の人にとっては必要だと思える才能だってあります。例えば単に力が強いというだけならこの中ではケイタさんが一番の強者でしょう」
その言葉にケイタは当然とばかりに大きく頷いた。
「しかし人間が生きていく上で必要とされる才能を持つという面では料理の腕が抜群のジュンゴさんも強者だと言えます」
すると今度は全員がジュンゴの方に視線を向け、彼は恥ずかしいのか顔を赤くして俯いた。
「そして基本的な生活だけでなく、人の心を豊かにする才能を持つ者も強者と言って良いでしょう。ヒナコさんの日舞やアイリさんのピアノの才能は天性のものであり、本人の努力の結晶でもあります。さらに医師や刑事という職業もわたしたちが生きていく上で必要なもので、誰もがなれるものではありません。こうして見ると誰もが世の中に必要な人間であり、一個人の価値観のみによって取捨選択してはいけないものだということがわかるはずです」
全員が頷いた。
「最大の問題は一部の人間が自分の器にそぐわない立場にあることです。政治の才能がなくても親が代議士であったから世襲のように代議士になる。医師の息子が医師になるのは当たり前。そういった悪しき慣習が偽りの強者を作り、彼らがそれ以外の人間を弱者に貶めている。ヤマト様はそういう負のスパイラルを断ち切る力を持って生まれました。ただ育った環境が彼の価値観に大きく影響を与えてしまったのは事実です。わたしはずっと彼をそばで見てきたから言えるんです。ヤマト様があのような人間になってしまったのは側にいたわたしにも責任があります。だからわたしは最後まで彼の側にいて、彼が間違った道を進もうとするのであれば、それを止めるのがわたしの責務だと考えております」
そこまで言うと、ミヤビは大きく深呼吸をして全員を見回した。
「これでロナウドさんの平等主義、ヤマト様の実力主義については理解していただけたと思います。セプテントリオンとの戦いはあと2日。その後にはポラリスとの謁見が待っています。ポラリスと謁見できるのはただひとり。つまり謁見できる者の意思が人類の総意であるということになり、その人の理想とする新世界が創造されます。ですからそれまでにわたしたちは意思を統一しなければなりません。ここで示された選択肢の中から選ぶも良し、また別の考えを持つのも良いでしょう。そして自分が何をしたいのか、何をすべきなのか考えておいてください。…ただ、わたしたちには時間がありません。ゆっくりと話し合う時間がない以上、乱暴な方法で自分の意思を押し通すことになるかもしれません。それだけは覚悟はしておいてください」
「……」
その場の全員が黙りこくってしまった。
彼女が言っていることの意味を悟ったからだ。
「とりあえず今夜はこれで解散しましょう。気持ちの整理をする必要がありますからね。みなさんがどのような選択をするのかはわかりません。しかしひとつだけ覚えておいてください。人の数だけ想いや考えはあるものです。だから考えが違うからといって友人ではなくなるなんてことは決してありません。それに望む未来は違っても、セプテントリオンを倒すという目的は同じ。きっと明日も共に戦えるはずです」
「ああ」
「そうね」
「そうやな」
「そうだ」
それぞれがそう口にし、散って行ったのだった。
◆
ミヤビたちが会議室に集まって話をしていることをヤマトは黙認していた。
ヤマトは局長室のモニターでミヤビの様子を監視し、彼女の演説に聞き入っている。
(やはりミヤビは私の一番の理解者だ。しかし私の理想を全面的に支持していないということまでは気づかなかった。彼女の言い分は理解できるが、あのような甘い考えでは世界を改革することなど不可能だ。私は歴史に悪名を残すことになろうともかまわない。この腐った世界を改革できるなら、それくらいの犠牲はやむをえないのだからな)
そう思いながらも、ミヤビが自分の想像以上に成長していたことを喜んでいた。
(やはりすべてが終わった後に私の隣にいるのはミヤビしかいない。だから彼女を絶対に死なせるわけにはいかぬ。菅野の報告ではルーグの生贄に適合者が見つかったという。ミヤビはこの時のために10年間かけて育て上げたのだが、いつの間にか失うのが惜しいと思えるようになっていた。他に適合者が見つかったのは幸いだ。これで私は彼女を失わずに済む…)
ヤマトはこれまで人間というものを「強者か弱者か」そして「役に立つか否か」という判断基準でしか見たことがなかった。
その中でミヤビは「強者」で「役に立つ」存在であるからこそ側においていた…はずだったのだ。
それなのにいつの間にかヤマトは彼女を駒でなく一個の人間として大切に思い、側にいてほしい存在であることを認識していた。
ただその気持ちが「愛」であることにはまだ気がついてはいないのだが…
◆
ヤマトはミヤビを私室へと呼び出した。
当然彼女は自分がしたことについて尋問されるのだと考えている。
間違ったことはしていないという自信はあるが、ヤマトの機嫌を損ねたのであれば謝らなければいけないと、思いながら入室した。
「茶を淹れてくれ」
「あ、はい…」
いつもと同じ反応なので、ミヤビは少し拍子抜けした。
しかし茶を飲みながらの尋問であれば、長時間にわたるものになるかもしれないと考えながら湯を沸かす。
するとヤマトがミヤビの背中に声をかけてきた。
「栗木たちを呼んだようだな?」
「はい…」
ミヤビの緊張が伝わったらしく、ヤマトは彼女に優しく言った。
「安心しろ。別に私はお前を叱る気はない。お前はこの東京支局の支局長だ。私はお前を信頼してここでの全権を与えたのだからな、誰を呼ぼうと私の関知するところではない」
「……」
「それに奴らがどんな美辞麗句を並べ立て、それに賛同する者が現れたところで、こちらは痛くも痒くもない。むしろ平等主義などというものに乗せられるようなクズどもは消えてくれた方がマシだ」
「そのような言い方はいかがなものでしょうか? ヤマト様はわたしを含め彼らのことを自分の手足となって動く駒だとしか考えていないようですけど、人間である以上は心というものを持っています。これまでは何もわからなくて、次々と現れる悪魔やセプテントリオンのことで頭がいっぱいいっぱいでしたが、これでやっと自分が何をなすべきか自分自身で決めることができるようになったはずです。…はい、どうぞ」
ミヤビはヤマトの前に湯呑茶碗を置く。
その手を戻そうとした瞬間、ヤマトはミヤビの手を握った。
「や、ヤマト…さま…!?」
突然のことに驚くミヤビに、ヤマトは彼女の目を見つめながら言った。
「私はお前がいてくれるだけで十分だ。世界中の人間が私に敵対しようとも、お前だけは私の側にいろ。私を絶対に裏切るなよ」
それはミヤビがロナウドたちに見せた言動が気になっている故に発せられた言葉だった。
(ミヤビは私の考えややり方がすべて正しくて何をやっても許されるものではないと言っていた。彼女とは同じ時間を過ごし、同じ知識を得て、同じ経験を積んできたというのに、違う価値観を持ってしまった。疑いたくないがあの言葉が彼女の本心である以上、私に反旗を翻す可能性を捨てきれない。勝手をさせないよう、常に側にいてもらわねばならぬのだ)
ヤマトのいつもとは違う態度に戸惑ったものの、ミヤビは微笑みながら答えた。
「ご心配なく。わたしはいつでもヤマト様の側におります。あなたがいらっしゃったからこそ、今のわたしはあるのですから。わたしはこの命が尽きるその時まで、あなたのためにすべてを捧げる覚悟です」
ヤマトという人間がこれくらいで他人を信じるとは考えていないミヤビ。
しかし他に答えようがないのだ。
それでもヤマトは少し安心したらしく、握っていたミヤビの手を放した。
「もしお話がお済みでしたら失礼させていただきたいのが…」
ミヤビは手を握られたことで胸がドキドキしていた。
それは未知の敵と相対した時のものとは違い、全身に熱を帯びてくるような感覚で、一刻も早くこの場を離れなければいけないと思ったのだ。
「ああ、かまわぬ。…それから、明日のセプテントリオン戦だが、お前の出番はない」
「え? …それは、わたしはもう必要ないということでしょうか?」
突然戦力外通告を受け、動揺するミヤビ。
しかしヤマトは続けた。
「そうではない。お前が不要になることなどあろうはずがない。ただ明日のミザール戦にお前の出番はないというだけのことだ。最後のベネトナシュ戦に備えて1日ゆっくりと休めという意味なのだが、不満か?」
自分がヤマトにとって不要な存在だと言われたのかと思い、ミヤビはショックを受けた。
しかしそれは杞憂であり、彼女は胸をなで下ろす。
「ヤマト様のお気持ちはとてもありがたいです。ですがセプテントリオンに対して戦力を温存しておくことができるほどこちらには余裕はないはずです。それにわたしは休まなければならないほど体力・霊力ともに衰えてはおりません」
「いいや、休め。ミザールに対しては私の龍脈の力…シャッコウで挑む」
「龍脈ですって? それでは各地の結界が ──」
ミヤビはヤマトが龍脈の力を解放することでシャッコウという龍に具現化させることができるということを知っている。
しかしそれは無の侵食から都市を守る結界の消滅を意味し、結界がなくなれば今以上に早い速度で〈無〉が迫ってくることを意味するのだ。
「結界が消滅しても計算上3日は問題ない。それまでにポラリスと謁見すれば良いことだ。それに龍脈を使う以外にミザールを倒す方法はない」
「……」
ヤマトが「ない」と言うのだから本当に「ない」のだろうと、ミヤビは理解した。
そしてもっとも成功率の高い作戦を組み立てた彼の頭脳を信じることにした。
「わかりました。お言葉に甘えてお休みをいただきます。ですがわたしの力が必要になったら必ずお呼びください」
「ああ、わかっている」
「では、これで失礼いたします」
ミヤビはほんの少しだけだが不安を抱え、自室に戻ったのだった。
◆
ヤマトとミヤビが話をしていた頃、マコトはイオの部屋を訪れていた。
「明日の作戦が決まった。…新田維緒、君には明日、死んでもらう」
マコトの言葉にイオは硬直し、頭の中が真っ白になった。
たった4日前までは普通の女子高生であった彼女は突然人類の存亡を巡る戦いに巻き込まれてしまった。
そんな自分の置かれた状況を冷静に受け止めることができず、ヤマトの命令やその場の流れに身を任せるしかなかったイオ。
ミヤビのように強い意思を持っていたなら、そんな理不尽な命令には従えないと反論するのだろうが、イオにはそれすらできずにいた。
「それでみんなが…助かるんですか?」
「ああ、そうだ」
マコトの冷淡な態度に怒りすら感じず、イオは頷いた。
「わかりました」
彼女にはそう返事をするしか道はない。
そしてマコトが去ると、イオはその場で泣き崩れたのだった。
ヒロインの言葉は作者の気持ちです。
言いたいことを言ってスッキリしました。
しかし、わたし自身もつい最近までは「愚かで怠惰な国民」のひとりでした。
だからこそ、その反省を込めて書きました。