DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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6th Day 決別の金曜日 -2-

ミザール戦に不参加となったミヤビだが、東京支局長という立場上何もせずにはいられない。

今は休養を取ることが最優先の任務であるといっても、おとなしくしていられる性格ではない彼女は外へ出て無の侵食の調査をすることにした。

 

スザクに跨って上空へと舞い上がると、昨日よりもさらに黒い部分 ── 無の範囲が迫って来ていた。

房総半島は半分以上が消えてしまい、三浦半島も無の侵食が進んでいる。

西の方へ視線を向けると富士山はまだ健在で、かつてミヤビの両親が働いていた龍脈の管理施設も無事のようだ。

しかしこれはまだ結界が存在しているからであり、結界が消滅すれば無の侵食は加速される。

ヤマトの話では何とかなりそうだということだが、不測の事態が生じる可能性もある。

不安は消えず、何かできることは他にないだろうかと考えながら、ミヤビは支局へ戻ろうとした。

 

スザクの向きを永田町方面へ向けた時だった、地上…新宿御苑の英国式庭園の中で銃声がした。

高度を下げると、様々な種類の悪魔が群れをなして人々に襲いかかっている光景が見える。

銃声は陸上自衛隊の小銃によるもので、新宿御苑を避難所としていた被災者を守るために自衛隊員が発砲したようだ。

 

「悪魔に人間の兵器は効果ありません!」

 

ミヤビはそう叫ぶとスザクを一気に降下させた。

そして悪魔の群れの中に飛び込んでいく。

 

「出でよ、ビャッコ! メタトロン!」

 

急いでビャッコとメタトロンを召喚した。

地上の悪魔をビャッコが、上空の悪魔をメタトロンとスザク、ミヤビ本人は自衛隊員と合流して魔法を使いながら指揮をするという作戦だ。

 

「こちらはジプスです! 悪魔の撃退はわたしに任せ、自衛隊のみなさんは民間人を避難させてください! 機銃等の武器は悪魔に効果ありません!」

 

〈万魔の乱舞〉で雑魚悪魔を蹴散らしながら自衛隊員に指示を出すミヤビ。

初日とは違ってジプスの名は周知されているらしく、制服姿の彼女を見ると敬礼してすぐに彼女の指示に従った。

 

彼女の的確な判断で悪魔の数はぐんぐんと減っていき、30分もするとひとりの悪魔使いと3体の悪魔が100体を超える悪魔を殲滅していた。

レベルが50以下の悪魔が殆どだったがレベル58の鬼女ランダやレベル61の魔人アリラトなども含まれていたから、彼女の負担はかなり大きいものになっていた。

 

ミヤビが悪魔を携帯に戻していると、三佐の階級章を付けた40代半ばくらいの隊員が駆け寄って来た。そして姿勢を正して敬礼する。

 

「どうもありがとうございました。自分は第一師団第1普通科連隊第9中隊中隊長の矢矧要一郎です」

 

「わたしはジプス東京支局支局長、紫塚雅と申します」

 

互いに挨拶をし、ミヤビは矢矧から差し出された手を握った。

 

「ジプスの東京支局長が若い女性だということはうかがっておりましたが、これほどの実力者だとは驚きました」

 

「ジプスは年齢や性別などに関わらず、純粋に力のある者にはそれ相応の役職が与えられますから。それはそうと、先程も申しましたが悪魔にはどんな武器や兵器も効果はありません。悪魔には悪魔で対抗するしかないんです」

 

ミヤビがそう言うと、矢矧は困ったような顔で答えた。

 

「はい、それは承知しております。…ここだけの話ですけど、銃の発砲は市民に対してのパフォーマンスのようなものなんですよ。効果がないとわかっていながらも我々が戦う素振りを見せなければ市民の信頼が得られません。実は我々自衛隊員の中にも少数ですがサマナーはおります。ニカイアとかいう携帯のサイトに登録していた若い連中が訳もわからないうちに悪魔を使役するようになり、急遽いくつかの避難所に該当する隊員を派遣して悪魔対策を講じております。しかし如何せん人員が少なく、ここもサマナーはたったのふたりだけでした」

 

ミヤビは戦っている間、悪魔使いの姿を見ることはなかった。

そして矢矧の言葉から推測されるのは、そのふたりの悪魔使いも殉職した可能性が高いということだ。

災害から民間人を守ることが自衛隊の仕事であるといっても、この未曾有の災害は人の手に余るもの。

ジプスのように訓練された悪魔使いではないから無理もない話だ。

彼らが奮戦したことは容易に想像がつき、それを思うとミヤビは胸が苦しくなる。

 

「そのような顔をしないでください。こちらもジプスの役目については知らされていますから。我々は持てる力を駆使し、ひとりでも多くの市民を守るだけです。まあ、相手が人外ですから手こずっていますが、市民の中にはすすんで協力してくれる方もいらっしゃって、避難所では悪魔以外での混乱はありません。それが救いです」

 

矢矧はそう言って笑った。

ミヤビの憂苦を感じ、これ以上精神的な負担を与えたくないという配慮によるものだ。

ミヤビは彼の心遣いが嬉しかった。

 

「ジプスの活動の最優先事項が国土の霊的防衛である以上、民間人の人命保護はそちらにお任せせざるをえません。お心遣い感謝いたします」

 

深く頭を下げるミヤビに矢矧は言う。

 

「いえ、本来なら大人の我々が君たち子供を守らなければならないというのに、若い君たちがもっとも重い責任を負わされているんです。感謝しなければならないのはこちらです。だから頭を上げてください」

 

矢矧の言葉にミヤビは顔を上げた。

 

「君は君自身の役目を果たしてください。我々は市民と共にこの災害を全力で乗り切る覚悟ですから」

 

「はい!」

 

ミヤビは矢矧に亡き父親の面影を重ね、笑顔で答えたのだった。

 

 

 

 

ミヤビが東京支局を離れて単独行動していることをヤマトは承知していた。

支局長が勝手に支局を離れることは本来なら問題行動なのだが、今回に限ってはヤマトにとって都合が良かった。

彼女が側にいれば作戦内容について異議を唱え、自分がやると言い出しかねないからだ。

 

第6のセプテントリオン・ミザールは攻撃をすると分裂するという特性がある。

初めのうちは小さいが、放っておくと次第に成長して大きくなる。

それが分裂してさらに成長するというものだ。

その成長速度と分裂を考えると正攻法で挑めばキリがなくなる。

そこで都庁の方陣と龍脈を使うことにした。

都庁の方陣とは峰津院家が龍脈の力を使うために東京都庁の地下深くに施したもので、それを使って龍脈を具現化させるのだ。

そして具現化した龍 ── シャッコウに無限に増殖するミザールを飲み込ませて、別次元へと飛ばすという作戦をとる。

しかし大きなリスクがあった。東京・大阪・名古屋の結界は龍脈の力によるもので、方陣を使用し、龍脈の力を消耗することは3都市の結界の消滅を意味する。

つまり龍脈の力を解放するという最終手段を使わなければならないほど切迫しているということなのだ。

都庁の方陣を使うための準備はふたつある。

まず龍脈の力を調整してタワーに送っているクサビを抜くこと。そして鍵となる悪魔の魔神ルーグを召喚することだ。

ルーグはケルト神話に出て来る神で、何代か前の峰津院家の人間がこういう場合を想定して封印したものである。

しかし問題があった。無の侵食によりルーグを封印した土地が影響を受けているのだ。

そうなると封印したルーグも無事ではない。

そこで欠けた概念は誰かが依り代になって補うしかない。

このふたつの条件さえ整えば龍脈は龍として具現化し、人類の敵に襲いかかるのだ。

ただしクサビを抜くと同時に、人類は世界の終末のタイムリミットを早めることとなる。

 

 

ミヤビの留守中、作戦は開始された。

クサビを抜くこと自体は無事成功した。

クサビ管理施設のある富士山が噴火するという想定外の事故があったが、作戦には特に支障はなかった。

そして次に誰かにルーグの依り代になってもらい龍脈の鍵を開けてもらうことになるのだが、依り代になるということはけっして安全ではない。

高位の悪魔を降ろすので命の保証はできないのだ。

その危険な役目をヤマトはイオにさせることにした。

彼女が適合者であることは健康診断の結果で判明している。

本人には了解を得ており、朝のうちに宮下公園の地下にある研究施設へ連れて行かれた。

イオが依り代になることはマコトとフミ以外には内密にしてある。

他の人間に知られれば作戦に支障が出ることをヤマトは承知しているからだ。

特にミヤビがこのことを知れば、作戦遂行に混乱を生じるだろうとヤマトは考えていたから、彼女の単独行動を黙認していたのだ。

当初、ミヤビはこういう場合のために存在していた。

生まれつき霊力の高い彼女は依り代として最適である。

しかし彼女がヤマトの想像をはるかに超える存在となり、いつの間にか彼女を失いたくないという気持ちになっていた。

そんな時にイオという適合者が現れたものだから、ヤマトは迷うことなくイオを依り代にすることに決めた。

彼にとってイオは失っても惜しくはない人間 ── 弱者だからだ。

 

 

 

 

「新着の死に顔動画がアップされたよ☆」

 

ミヤビの携帯にニカイアのメールが届いたのは、新宿御苑の避難所から東京支局へ戻る途中のことだった。

彼女が急いでメールボックスを開くと、イオの死に顔動画が届いていた。

彼女は何かに憑依されており、その影響で死に至るということはわかった。

しかしその場所がどこなのかわからず、またなぜそのような事態に陥ったのかもわからない。

勘の良いミヤビは自分が作戦から外されたことと、イオの死に顔動画に関連があると気づき、東京支局に戻るやいなや司令室に直行した。

 

ミヤビが到着すると、すでにダイチやヒナコといった民間人協力者がヤマトに詰め寄っていた。

彼らもまたイオの死に顔動画を見てヤマトのもとへ駆けつけたのだ。

ミヤビは彼らの間を割ってヤマトに近づいた。

 

「ヤマト様、ご説明を…お願いします」

 

彼女の声は震えていた。

言いたいことはもっとあったが、それだけ言うのが精一杯だったのだ。

ヤマトも彼女に秘密にしておくのは無理だと理解し、すべてを明かすことにした。

どうせ作戦は開始されていて、今更どうすることもできはしないのだからという気持ちがあったからだ。

 

「新田維緒がルーグの依り代に適合すると判明したのだ」

 

その言葉でミヤビは死に顔動画の意味がわかった。

イオはルーグの依り代となり、自我を失ったことで精神崩壊してしまうのだと。

そして精神崩壊をきっかけに肉体も衰弱していき、それが決定的な死となる。

それが間もなく起きようとしていて、何らかの手立てをしなければ、イオは間違いなく死亡する。

 

「イオさんは承諾したんですか?」

 

「当然だ。私が強制したのではない。新田はお前たちのために自ら犠牲となると決めたのだ」

 

「まさか…」

 

「嘘ではない。文句があるなら他の方法を直ちにこの場で示せ。ないのなら黙って見ていろ」

 

ヤマトがそう言った直後、モニターを監視していた局員が告げた。

 

「宮下公園地下施設の映像、入ります」

 

メインモニターにイオの姿が映し出された。

彼女は両手両足を固定され、まるで十字架に磔にされているかのようだ。

 

「イオさん!」

「新田さん!」

「新田ちゃん!」

 

ミヤビたちはそれぞれに彼女の名を叫ぶが、その声は彼女の耳には届いておらず、目はうつろのままで身動きひとつしない。

投薬か何かで彼女の意識を奪っているのだろう。

その横ではフミと数名の技術担当の局員たちが何かの作業をしているのが見える。

それを見ていたミヤビは我慢できなくなった。

 

「ヤマト様、わたしが依り代になります」

 

「却下だ」

 

当然だと言わんばかりの態度だ。

 

「わたしは幼い頃から訓練を受けてきました。体力・霊力ともにわたしの方が依り代として適しているはずです。わたしはこの時のために峰津院家に引き取られたのではありませんか? ヤマト様のことですから、わたしにはまだ使い道があり、イオさんなら失っても惜しくはないとお考えなのでしょう」

 

彼女の言葉を聞いてダイチたちは一斉にヤマトを睨みつけた。

 

「ああ、そうだ。お前にはまだやるべきことが残っている。ここで死なせるわけにはいかぬのだ。だからこの作戦からお前を外したというのに、お前が身代わりになるというのでは意味がない」

 

ヤマトはそう言ってポケットから携帯を取り出すと保安係を呼び出した。

あっという間にミヤビは3人の屈強な男たちに囲まれてしまう。

そして両手を後ろ手に縛られて拘束されてしまった。

 

「待て、ヤマト! ミヤビちゃんを放せ!」

 

ダイチがヤマトに掴みかかろうとしたが、ヤマトはさっと避けてケルベロスを召喚した。

ケルベロスはダイチたちに対して威嚇の唸り声を上げ、その間にミヤビは司令室から引き出されていく。

 

「しばらくおとなしくしていろ。今日の作戦が終了したら解放してやる」

 

ミヤビの背中にヤマトの冷たい声が投げかけられた。

 

 

 

 

ミヤビは保安係に懲罰房へ入れられた。

元は倉庫のひとつなのだが、ヤマトが自分に逆らう者が出た時のためにと用意したものである。

ここは結界が張ってあって悪魔を召喚することはできず、さらに魔法も使用できないようになっているので、ドアを破壊して脱走することも不可能だ。

 

「ここにいたのか…」

 

硬い寝台の上で膝を抱えていたミヤビに声をかける者がいた。

 

「こんなところで何をやっているんだい?」

 

彼女は声の主 ── アルコルの方を振り返って答えた。

 

「ヤマト様に作戦の変更を申し出たら反対されて、邪魔をしないようにって放り込まれてしまったんです。それよりもこんな場所に姿を現して大丈夫なんですか? 誰かに見つかったらマズイですよ」

 

「問題ない。ここに閉じ込めた君を見張る人間を置くほど今のジプスに余裕はないよ。少なくともこの部屋のあるフロアに誰もいないのは確認済みさ。君が絶対に逃げ出すことはできないと、ヤマトは思っているんだろうね」

 

アルコルはミヤビの隣に腰を下ろすと、哀しそうな目で見つめてきた。

 

「君が苦しむ姿を見ているとひどくここが痛くなるよ。これも私が人間に近づき過ぎたせいなのかな?」

 

そう言って彼は自分の胸に手を当てた。

 

「こんなことは今までに一度もなかったのにね。…人間はやっぱり面白いよ。特に君は。ヤマトはつまらない人間になってしまったけど」

 

「ヤマト様は人間らしい部分を捨ててしまったから。人類を救うために、彼はひとりで全部を背負い込んでしまっているんです。それはあなたも良く知っているはずですよね?」

 

「そうだったね。幼いヤマトは無限の可能性を秘めた輝く者の原石のようなものだった。君も同じだ。そして今のヤマトにはその面影はなく、君にのみ可能性…輝きが残っている。…君はあの新田維緒という人間を助けに行きたいかい?」

 

アルコルがミヤビに訊く。

 

「もちろんです。わたしは彼女を死なせたくありません」

 

アルコルがパチンと指を鳴らすと、鍵がかかっているはずの房のドアが音を立てて開いた。

 

「さあ、行っておいで。自分の選んだ道だ、好きにするといい」

 

「ありがとうございます、アルコル」

 

ミヤビは礼を言って懲罰房を飛び出した。

もう時間はない。

 

「出でよ、ビャッコ!」

 

ミヤビはビャッコの背中に飛び乗った。

急がなければイオがルーグへの生贄にされてしまう。

それに彼女が脱走したという報せはすぐにヤマトの耳に入るだろう。

ミヤビとビャッコは一気に階段を駆け上り、さらに地下道を使って宮下公園へと全速力で向かったのだった。

 

 

 

 

ミヤビが宮下公園の地下にある研究施設へ到着したのは間一髪というタイミングだった。

 

「ミヤビ、今回の作戦にあんたは参加していないはずだよね。命令違反?」

 

「はい。ルーグの依り代にはわたしがなります」

 

フミは無表情のまま続けた。

 

「依り代ってのは誰にでもできるというもんじゃないよ。適性があったのはこの子だけだって局長から聞いてないの?」

 

「イオさんが適合者だとは言っていましたけど、わたしの方が適しているはずです」

 

「なぜ?」

 

「わたしは生まれつき霊力が高く、サマナーとして役に立つようにと訓練を重ねてきました。そのわたしが一般人のイオさんに劣るとは思えません。わたしはこういう時のために用意された道具。ヤマト様もそれは認めています。しかしイレギュラーな事態が発生し、イオさんでも依り代として使えることが判明した。わたしと彼女ではわたしの方が適していても、わたしには他に使い道があるためにここで失うのは惜しい。そこでイオさんを生贄にすることに決めた。そうですよね?」

 

「正解。それなら局長の判断が正しいってことも理解しているよね?」

 

「誰かが依り代にならなければミザールを倒せないということはわかります。ですが ──」

 

「依り代になるってことは死ぬってことだよ。あんたはこの子の身代りになって死ぬつもり?」

 

ミヤビの言葉をフミが遮る。

しかしミヤビは退かなかった。

 

「わたしは死にません。ここで死ぬつもりなんてありませんから」

 

そう答えると、フミは呆れた顔をした。

 

「この作戦はルーグっていう高位の悪魔を召喚し、自分の身体に憑依させるんだけど、生身の身体には到底耐えられないダメージを受ける。で、憑依されている間に自我を失っていく、ってわけ。自我を失えば肉体は無事でも死んだのと同じこと。わかる?」

 

「はい。つまり自我を失わずにいれば良いってことですよね? どれくらいの時間なら大丈夫なんですか?」

 

「約180秒、ってとこかな。個人差にもよるけど」

 

「それなら大丈夫です。少なくともわたしは彼女よりも健康で霊力も強い。そして生きたいという意思が誰よりも強いですから、絶対に作戦を成功させてみせます」

 

そうきっぱりと言い切ると、フミは科学者としての血が騒ぎ出したようで、にんまりと笑った。

 

「面白そうだね。それなら局長のOKが出たら選手交代だ。やってみな」

 

フミはそう言って東京支局の司令室に回線を繋いだ。

 

「ミヤビ、なぜそこにいる?」

 

いつも不機嫌にしているヤマトの顔が一層不機嫌そうに見える。

 

「わたしがここにいる理由はおわかりのはずです。早くイオさんを解放する命令を出してください」

 

「そんなことができるか、バカ者。他に手段はないのだ、私の邪魔をせずおとなしくしていろ」

 

「彼女をルーグの依り代になんて絶対にさせません! わたしが依り代になり、作戦を成功させ、必ず生還してみせます」

 

「その根拠のない自信はどこから来るのだ?」

 

ヤマトは呆れたといった顔で訊く。

 

「根拠はあります。わたしには生きて、やるべきことがまだあります。醜い姿になり、生き恥を晒すことになっても生き続けます。それだけの覚悟があるのですから、わたしは絶対に死にません!」

 

「フッ…」

 

「ああっ、鼻で笑いましたね。とにかくわたしの生きたいという意思は誰よりも強いんです。イオさんは仲間のために犠牲になるつもりでいます。死ぬ覚悟で戦おうとしていますけど、わたしは生きる覚悟で戦うんです。ならばどちらの成功率が高いか一目瞭然ではありませんか!」

 

ミヤビがそう言い放つと、ヤマトは不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「よかろう。お前がそこまで言うのならやってみろ。お前が死んだところで、私の計画の進行に変更はないのだからな」

 

ミヤビの戦力を考慮した上での計画であるはずなのに妙な言い草だが、それでもミヤビは許可を得ることができたのだ。

 

作戦開始時間を過ぎているので、直ちにイオを降ろして、代わりにミヤビが磔にされた。

そしてフミが説明をする。

 

「ミヤビ、作戦を説明するから、良く聞いて。ミザールってのは再生を繰り返すやっかいな奴なんだ。それを龍脈の龍に喰わせ続ける。龍脈を武器にするわけだからそれを具現化させる必要があって、その鍵となる悪魔がルーグだ。ルーグは強い力と思念を持っていて、それを自分の肉体に入れるんだから相当なダメージを受けることになる。覚悟しておいてよ」

 

「はい」

 

「で、あんたはルーグを憑依させた時点で、龍脈を解放するドアを開き、そこから龍脈を取り出す。あとは局長が龍脈を具現化し、ミザールを喰わせる命令をする。わかった?」

 

「了解です!」

 

フミたち技術スタッフがいろいろな機械を操作している脇で、イオが不安そうにミヤビを見守っている。

 

「大丈夫ですよ、イオさん。わたしは必ず戻って来ますからそんな顔しないでください」

 

そう言って微笑むと、イオは泣きそうな笑顔を返した。

 

「行くよ、ミヤビ」

 

フミの合図でスイッチが入り、ミヤビのいる祭壇の上に魔方陣が浮かび上がった。

そしてその中からルーグが姿を現す。

 

「我を目覚めさせたのはお前か…?」

 

「はい。あなたの力をお借りしたくてお呼びしました」

 

「我が力をどうするつもりだ?」

 

「この世界を滅ぼそうとするセプテントリオンを倒したいんです」

 

「人の子よ、我々悪魔は世界がどうなろうといかようにも存在できる。だがお前たちは違う。この崩壊しかけた世界で生き延びることに何の意味があるというのだ?」

 

「これまでわたしたちは不可能だと思われたことを可能にしてきました。生きるということは限りない可能性を生み出すこと。つまり生きること自体に意味があり、そのためにはあなたの力が必要なんです」

 

「なるほど…。よかろう、我が力をお前に貸してやろう」

 

ルーグがそう言った次の瞬間、ミヤビは自分の身体に高温の熱の塊のようなものが飛び込んできたのを感じた。

彼女はルーグに憑依されたのだ。

 

「人の子よ、我が力をもって、神に抗ってみせよ!」

 

 

 

 

ミザールは新宿に出現していた。

ミヤビに憑依したルーグによって龍脈の力が解放され、都庁屋上にいるヤマトにより顕現させられた。

そして龍脈の龍 ── シャッコウが増殖し続けるミザールを次々に飲み込んでいく。

ミザールの増殖速度とシャッコウが飲み込む速度はほぼ同じに見えるが、僅かにシャッコウの方が早い。

しかしミヤビの精神崩壊までの残り時間は30秒を切っていた。

 

「迫、龍脈回路をすべてこちらに回せ」

 

ヤマトは司令室にいるマコトに指示を出した。

すると彼の右手に霊力が集中し、空間に魔法陣が浮かび上がる。

 

「ミヤビを援護する!」

 

ヤマトは魔方陣を楯にし、動き回るミザールの進行を抑え込む。

シャッコウは身動きできないミザールを飲み込み続け、全部飲み込んでしまうと役目を終えたと言わんばかりに姿を消した。

そして役目を終えたもうひとつの存在 ── ミヤビの姿をしたルーグもゆっくりと地上に降り立った。

ミヤビの身体の中からルーグは音もなく抜け、気を失ったままの彼女を見降ろす。

 

「お前の望む未来とやらを見せてもらうぞ、人の子よ」

 

そう言ってルーグはミヤビの携帯の中に消えたのだった。

 

 

 

 

ミヤビはジプスの医務室で意識を取り戻した。

 

「ミヤビ、目が覚めたようだな?」

 

彼女を覗き込んでいたのはマコトだった。

マコトの背後にはフミとオトメがいる。

 

「身体の調子はどうだ? 具合の悪いところはないか?」

 

心配そうに見つめるマコトにミヤビは答えた。

 

「特に問題はないようです。それよりもミザールはどうなりました? ルーグに憑依されてからの記憶がさっぱりないんです」

 

ミヤビは身体を起こして訊く。

 

「ミザールは君と局長の力によって殲滅された。そしてルーグは、ここにいる」

 

ミヤビはマコトから携帯を手渡され、アプリを起動してみた。

すると悪魔のリストの中にルーグが入っている。つまりルーグは自らミヤビに使役される道を選んだということだ。

 

「あのルーグがあんたを主と認めたっていうんだから、あんたってつくづく面白い研究素材だわ」

 

フミは興味津々といった顔でミヤビに言った。

 

「はあ…。ところでヤマト様やダイチさんたちはどうしていますか? たぶんものすごく険悪な状態になっているはずです。心配ですから様子を見に行ってきますね」

 

そう言って、ミヤビは自分の腕に取りつけられていた点滴の管と心電図を計るための誘導コードを外すために手をかけた。

しかしマコトに静止される。

 

「もう少しここで休んでいろ」

 

仲間たちの様子が気になって休んでなどいられないミヤビはそれでも起きようとする。

 

「いえ、こんなところで休んでいる状況ではないはずです」

 

「しかし君が今やるべきことは体調を万全にすることだ。…あと1体のセプテントリオンが残っている。間違いなくこれまでの中でもっとも手強い相手になるだろう」

 

「でも…」

 

「心配はいらない。局長はすでにご自分の部屋にお戻りになった。そして君のことを心配している者は廊下で待っている。少し顔を見せてやるといい」

 

オトメがドアを開けると、ダイチとイオ、ヒナコ、アイリ、ジュンゴ、ケイタがミヤビの周りに駆け寄って来た。

 

「大丈夫、ミヤビちゃん?」

 

真っ先にダイチが訊いた。

 

「ええ、大丈夫です。問題ありません」

 

「ミヤビさん、ありがとうございました」

 

半泣きの顔でイオが礼を言う。

ミヤビが彼女の泣きそうな笑顔を見るのは二度目だ。

 

「お礼を言われるようなことではありません。これがベストの判断だったと確信したからこそ、わたしは行動しただけです」

 

「よう頑張ったなぁ、ミヤビちゃん」

 

ヒナコに頭をごしごし撫でられていると、その横にいたアイリが頬を膨らませて言う。

 

「すっごく心配したんだよ。名前を呼んでも全然起きないから」

 

「ごめんなさい。でも遠くの方でわたしのことを呼ぶ声が聞こえたのは覚えています。三途の川の向こうから両親に呼ばれたのかなって思っちゃいました」

 

場の雰囲気を明るくしようとしてわざと能天気なことを言うが、ケイタに叱られた。

 

「冗談言っとる場合か、このボケ。どんだけ心配かけたと思うとるんや?」

 

「…ごめんなさい」

 

「そんな顔をしないで。ミヤビちゃんは笑顔が一番なんだから」

 

オトメの笑顔につられてミヤビも笑顔を取り戻す。

 

「オトメ先生…ありがとうございます」

 

そう言った時、はしたないことだがお腹の虫が鳴ってしまった。

それを聞き逃さなかったのがジュンゴだ。

 

「ミヤビ、食べられる?」

 

彼が差し出したのはお馴染みの茶碗蒸しだ。

器を受け取ると、それはまだ十分に温かくて、ミヤビは自分のために作ってくれたのだと思うと幸せな気分になれた。

こうやって自分のことを認めてくれる人たちがいるかぎりまだ戦える。

ミヤビはそう確信したのだった。

 

 

 






ゲーム版、アニメ版共にルーグの依り代になるのはイオでした。
ですが、本編ではヒロインが依り代になることを志願します。
自分がヤマトの道具であることを認識し、役に立ちたいと願って自らを高めてきたのですから、当然の流れです。
もちろんイオを危険な目に合わせたくなかったというのが一番の理由ですけど。

次回、とうとう仲間たちは3つのグループに分かれて対立することになります。
ヒロインの選ぶ道は…?


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