DEVIL SURVIVOR 2 You changed my world. 作:ルーチェ
ミヤビはヤマトに命じられ、一緒に大阪本局の書庫でベネトナシュ戦に役立ちそうなものを探していた。
先の戦闘で疲れてはいるものの、ゆっくりと休んでいる暇などないのだ。
「こちらには目ぼしいものはありません。ヤマト様の方はいかがですか?」
「こちらにもない」
「はあ…ポラリスも最後の最後にとんでもない怪物を送り込んできましたね。魔法を封じられたことで、こちらには悪魔しか戦う手段がなくなるというのに、その悪魔を強制帰還させてしまうという最凶のスキルを発動するんですから。アリオトよりもタチが悪いです」
「しかし何か手立てはあるはずだ。文句を言わずに探せ」
相変わらず眉間にシワを寄せて厳しいことを言うヤマト。
しかしいつまたベネトナシュが攻めて来るかわからない状態で、一分一秒とて無駄にはできないのだ。
ミヤビは様々な悪魔が載っている古びた本のページをめくっていたが、あるページまで来た時にその指が止まった。
「ヤマト様、トランペッターはいかがでしょうか?」
「トランペッター、だと?」
魔神トランペッター…それは「ヨハネの黙示録」に登場する神の遣いだ。
天使の類であり、彼らのラッパが鳴らされる時、地上に災厄が起こり、世界を破滅へと導くと言われている。
このトランペッターの発する音色は特殊な音波を持っていて、ベネトナシュが携帯電話で使用する周波数の妨害電波を発しているというのなら、トランペッターの音波によって妨害電波を相殺できるのではないかとミヤビは考えたのだ。
「フミさんは悪魔が強制的に帰還させられるのは、ベネトナシュがジャミングをしてアプリとの繋がりを妨害したのではないかと言っていました。ですからトランペッターの音波でベネトナシュのジャミングを阻止するという作戦です。上手くいくかどうかはフミさんに聞いていなければわかりませんが」
「さすがだな、ミヤビ。トランペッターなら大阪本局で管理しているはずだ。すぐに菅野に連絡を取るぞ」
そう言ってヤマトはフミに計画を伝える。
フミは話の内容を聞いて名案だと断言し、早速トランペッターの召喚準備に取り掛かった。
しかし電話を切ったヤマトは険しい顔をしてミヤビに言う。
「しかし問題点がひとつある」
「はい、トランペッターのラッパがベネトナシュだけに影響を及ぼすわけではないということですよね。ベネトナシュに対して効果はあるものの、こちらも悪魔が召喚できなくなる、と。リスクは高くなりますが、わたしたちならどんな困難でも乗り越えられるはずです」
「ああ、そうだな。お前がそう言うと安心する」
「では、わたしはフミさんのお手伝いに行って来ます」
書庫を出ようとしたミヤビをヤマトが制止した。
「待て」
「まだ何かあるのでしょうか?」
「トランペッターのことなら菅野に任せておけばいい。お前は私の側にいろ」
「…あの、もしかしたらまだ昼食を召し上がっていらっしゃらないとか? それなら急いで用意をいたします」
「そうではない。食事は済ませた。…お前こそどうなのだ?」
「はい、名古屋から戻ってすぐに済ませました。十分に休憩もしましたから、万全の状態です」
「そうか…それなら良い」
ヤマトはそう言ったきり黙ってしまった。
「特にご用がなければ、これで失礼させていただきます。わたしは他にやることがありますので」
「あ、ああ…」
出て行くミヤビをヤマトは黙って見送った。
ミヤビはヤマトの期待どおりに東京陣営と名古屋陣営を無力化した。
これでベネトナシュを倒せば自分がポラリスと謁見に望むことになるのは間違いないとヤマトは確信している。
しかしなぜか胸の中にいつまでも晴れない暗雲が立ち込めていた。
(ミヤビはこれまでずっと私に真摯に仕え、今も変わらぬ忠誠心で尽くしてくれている。命令違反をすることもあったが、必ず私の望む結果を出している。今もこうして側で働いてくれている。不安などないはずだというのに、なぜ私は…こんなに苦しいのだ…?)
その答えを教えてくれる者などいるはずもなく、ゆっくりと立ち上がると局長室へ戻ったのだった。
◆
再度出現したベネトナシュの反応を追って、ミヤビたちは赤坂の迎賓館前に辿り着いた。
「頼むよ、トランペッター!」
「よかろう。盟約に従い、汝の願いを叶えん」
フミの命令でトランペッターが息を吸い込み、軽快でいて荘厳な音色を奏でた。
周囲に音は響き渡り、そして見た目には変化がないものの、ベネトナシュは間違いなくトランペッターの影響を受けていると判断された。
「今です、みなさん!」
ミヤビがそう叫ぶと、ヤマトたちは全員同時に携帯をかまえた。
「さっさと決着をつけるぞ。…ケルベロス、バアル、ザオウゴンゲン!」
「出でよ、ビャッコ、ルーグ、ロキ!」
それぞれが自分の使役する悪魔を次々に召喚する。
ベネトナシュに効果があるのと同時に、こちら側の悪魔もこれ以上は召喚できない。
あとはこの戦力で戦うだけだ。
トランペッターの奏でる音色を背に、ミヤビたちは攻撃を始めた。
しかしベネトナシュも黙ってはいない。
メグレズの〈芽〉を射出して反撃する。
ヤマトの攻撃にミヤビが援護してふたりで畳み掛けると、ベネトナシュは4つに分裂した。
中身を見ると、今までに対峙したセプテントリオンの姿がある。
そして上空からアリオトの〈毒素の塊〉が降ってきた。
「ミヤビ、援護するよ」
フミがアリオト殲滅戦で使用した解毒剤を散布して〈毒素の塊〉は無効化された。
アリオトの個体の毒素攻撃は封じられたが、状況が好転したわけではない。
アリオトの個体以外の3つのうちのふたつはメグレズとフェクダの個体で、残りのひとつは真っ黒のものだ。
これがベネトナシュの本体と言ったところだろう。
ヤマトはメグレズの個体にザオウゴンゲンの〈百列突き〉で、ミヤビはフェクダの個体にロキの〈メギドラオン〉で攻撃を加えていくが、ベネトナシュの個体に邪魔をされてしまい十分な効果を出せないでいた。
「わかったよ。中身が真っ黒い奴の弱点は電撃属性だ」
戦闘に加わっていなかったフミがノートPCを操作しながら言った。
敵のデータを確認しながらの戦闘は無理だと判断したヤマト。
彼がフミを情報処理に専念させていたおかげでベネトナシュの弱点を発見できたのだ。
「先にベネトナシュ個体から片付けるぞ!」
ヤマトの号令で、ミヤビはビャッコに命令した。
「ビャッコ、ジオダインよ!」
ビャッコは体毛に電流を蓄積し、一気に電撃を放った。
するとベネトナシュの個体は大きく揺れて地上に落下した。
さらにもう一撃加えると、真っ黒な個体は音もなく霧散していった。
攻撃の邪魔をするものがなくなり、さらに〈人間不可侵〉の効果が切れたことで、人間側が圧倒的に有利となった。
メグレズ、フェクダ、アリオトの順で全員攻撃を加え、ついに7体目のセプテントリオンは崩れ落ちたのだった。
◆
これで7体のセプテントリオンを倒したことになるのだが、特に変化は見られなかった。
ミヤビは昨夜のアルコルとのやりとりから、彼が敵となることはないと確信していた。
ならばセプテントリオンとの戦いは終わり、あとは時が満ちるのを待つだけである。
そこでミヤビはヤマトとの決着をつけるなら今しかないと考え、ヤマトに早めの夕食を届けに行った際に宣言した。
「ヤマト様、お暇をください。ジプスも辞めさせていただきます」
そう言って深々と頭を下げる。
それをヤマトは本気だとは受け止めなかった。
「戯言はよせ。お前らしくない」
「いいえ、わたしは本気です」
ミヤビがそう答えると、ヤマトは眉間にシワをよせる。
「辞めてどうする?」
「ヤマト様に一対一の勝負を挑みます」
ここまで言えばミヤビが冗談ではなく本気であることに気づいたはずだ。
その証拠に、ヤマトは乱暴に席を立った。
「この期に及んでこの私と戦うというのか!?」
「はい、そのとおりです。わたしはヤマト様のお考えに賛同することはできません。わたしはあなたを倒し、わたしの意思を種の意思として認めさせます」
「そうか…ならばお前には私自ら引導を渡してやろう。…では2時間後、場所は通天閣。良いな?」
「了解しました」
そう返事をすると、ミヤビは再度深く頭を下げてから部屋を出たのだった。
◆
ミヤビの前では平静を装っていたヤマトだが、彼女の姿が消えると怒りでも悲しみでもない複雑な感情が胸の中から込み上げてきたのを感じて顔を顰めた。
(くっ…。最後の最後で裏切るとは…。これまで私の前では忠実な下僕のフリをし、このタイミングをずっと待っていたのだとすれば、見事な演じっぷりだ)
ヤマトの脳裏に浮かぶのは常に笑顔でどんなことでも真摯に臨んでいたミヤビの姿だった。
唯一の理解者であり、心の支えでもあったミヤビが敵となることは彼の人生の中でもっともショックなことであったのだ。
(あの笑顔は私を騙すための手管であったのか? 私と共にあることを最大の幸福だと言った言葉は嘘だったというのか? 命ある限り私のためにあると言った言葉は偽りだったのか!?)
強く握り締めた拳がブルブルと震える。
その拳で机の上にあったガラスの花瓶を思い切り弾き飛ばした。
それはミヤビが「ヤマト様の気持ちをお慰めしたい」といって毎日代わる代わる花を生けていた花瓶である。
今日もその花瓶には小さな黄色い花が飾られていたが、その花も無残に散らされてしまった。
砕けたガラスと散らされた花びらをぼんやりと見つめていた時、ドアをノックする音がした。
「ミヤビか!?」
ヤマトはミヤビが心変わりして戻って来たのだと思い、彼女の名を叫んだ。
しかしドアの向こうからの声を聞いて落胆した。
「局長、入ってもよろしいでしょうか?」
ドアの向こうにいるのがマコトだとわかると少しだけ冷静に戻ったようで、ヤマトは何事もなかったかのように椅子に座り直すとマコトを招き入れた。
中へ入ったマコトは床の上で砕け散っている花瓶と花に気がついた。
「局長、先ほどミヤビがジプスを辞めるというメールを送ってきました。そしてわたしに後のことをよろしくと。彼女に何があったんですか? 館内を探しても見つかりませんし、携帯も電源をオフにしているらしく繋がりません」
ミヤビはマコトに辞めることをメールで伝えただけで出て行ったらしい。
「そうか…。ミヤビは私の考えに賛同することはできないと言った。そして私と戦い、私を倒して自分の意思を種の意思として認めさせるのだそうだ」
ヤマトの言葉にマコトは気が動転してしまった。
「そ、それは本当…ですか?」
「私が嘘をつく理由はない」
「……」
「所詮ミヤビは私の手駒のひとつ。セプテントリオンとの戦いが終わった以上、もう不要だ。彼女には私自ら引導を渡してやろうと思う。私の目指す世界が気に入らないというのなら、新世界では彼女も生き辛いだろうからな。これは長年私に仕えてくれた礼のつもりだ」
マコトはこれまでミヤビがヤマトのためだけに生きてきたことを知っている。
その彼女が反旗を翻したのだからよほどの理由があるのだろうと思った。
そして無意識に視線が花瓶の欠片と花に向けられた時、その意味を悟った。
「キンミズヒキ…か。彼女らしい」
マコトのつぶやきをヤマトは聞き逃さなかった。
「それはどういう意味だ?」
「この花はキンミズヒキと言います。キンミズヒキの花言葉は『謝意』。つまり彼女は局長に対して感謝の気持ちと共に、自分の反逆を詫びる気持ちを伝えたかったのでしょう。感謝の気持ちだけでしたら他に感謝の意味をもつ花がいくらでもありますからそれでもかまわないはず。この花にしたのは自分の行為に対して局長に謝罪したいという気持ちが含まれているからだとわたしは考えます。これは夏から初秋にかけて咲く花ですから、ずいぶんと前から覚悟を決めていて、わざわざこのために手間をかけて用意したのでしょうね」
それを聞いてヤマトは顔を歪ませた。
「詫びるくらいなら、初めから私に反逆などせずとも良いだろうに…。愚かな奴だ」
マコトは割れた花瓶を片付けながらヤマトの言葉を聞いていた。
(ミヤビの「後をよろしく」というのは、ジプスのことというよりも局長のことを頼むという意味なのだろうな…。もっとも信頼していた人間に裏切られるのだ、その心の傷は計りしれない。しかし局長にとって彼女は特別な存在であり、彼女の代わりを務めるなどわたしには無理だ。ならばわたしに何ができるというのだ…?)
いくら考えても名案が浮かばないマコト。
そこで退席すると大阪陣営のメンバーだけでなく、東京と名古屋にいる仲間たちにもこのことをメールで伝え、それに伴う行動は各自の判断に任せるとつけ加えた。
(さあ、これでわたしにできることはやった。後はミヤビが結んだ絆を信じるだけだ)
とうとうヒロインがヤマトから離反しました。
次回はふたりがガチで戦います。