DEVIL SURVIVOR 2 You changed my world. 作:ルーチェ
いよいよポラリスとの謁見に臨みます。
ラスボスとの戦闘シーンがメインなのですが、かなりあっさり目になっています。
というか、こってり目に書けないだけなんですけど。
アカシック・レコードに記録のない8日目の朝がやって来た。
ヤマトは局員たちにジプスの解散を告げ、ポラリスとの謁見について説明した。
世界回帰という想像もつかないことが起きようとしているというのに、彼らは案外冷静だった。
それはこの7日間でミヤビが見せた行動とその結果で、彼女に絶大な信頼を抱くようになっていたからだ。
当初は彼女を軽んじていた大阪本局の局員ですら、彼女のことを尊敬するようになっていた。
ミヤビの意思と行動が彼らを変えたのだ。
ならば回帰された世界では自分たちが周囲の人間を変えていこうという声が局員の中から上がり、ヤマトとミヤビは彼らの声援に背を押されて、転送ターミナルのある施設の最深部へと向かった。
ヤマトとミヤビが転送ターミナルに到着すると、すでに11人の仲間たちとアルコルが待っていた。
「ポラリスはこことは違う別の次元の座標に存在し、これからその場所にこの転送ターミナルを使って君たちを送る。さあ、準備をしてくれ」
アルコルに言われたように、ミヤビたち13人の悪魔使いは転送ターミナルの中心にひと塊になる。
ミヤビはヤマトの手を握り、ヤマトもまたミヤビの手を握り返した。
準備ができたことを確認すると、アルコルが説明をする。
「私が君たちを送ると言っても、重要なのは君たちの強い意思だ。私はその力を増幅させるにすぎない」
「我々を転送させた後、貴様はどうなる?」
ヤマトの問いに、アルコルは少し哀しげな目をして答えた。
「この力を使うと…私は今の姿を維持できなくなるだろうね」
「それって、死ぬってことですか?」
ミヤビが訊くと、アルコルは彼女を気遣って微笑みながら言った。
「私の精神はどこかで生き続ける。だから死という定義には当てはまらないかな」
「でも…」
「これは私がやりたくてやることだから、君たちは気にしなくていい」
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「…そうだね。人間が好き、だからかな。特に君たちのことが大好きだったよ、ミヤビ、ヤマト」
そう言ってミヤビたちを見たアルコルの顔は今まで見た中で一番人間らしいものだった。
「では、はじめよう」
アルコルがそう言った次の瞬間、ヤマトが彼を制止した。
「いや、少し待て、アルコル」
ヤマトは転送ターミナルを出ると、アルコルの側に近づいて行った。
それをミヤビと仲間たちは何事かと黙って見守る。
「ヤマト、どうしたんだい?」
「貴様との腐れ縁もこれまでだな。貴様には世話になった」
ヤマトはアルコルに手を差し出した。
「仲違いしたままでは寝起きが悪い。人間は和解する時に握手をするものだ。…さらばだ、アルコル」
「うん。さよなら、ヤマト」
ふたりはしっかりと握手をして、ヤマトはミヤビたちのもとへ戻って来た。
アルコルが右手を挙げると、ターミナルが白く輝き始める。
ミヤビたちは身体が宙に浮くような感じを覚えた。
「さあ、強く願うんだ! 君たちが望む世界を!」
最後にアルコルの満足そうな笑顔を見て、ミヤビたちは真っ白な世界に包まれた。
「あっ…」
「どうした?」
ヤマトに訊かれ、それまで沈んでいたミヤビは笑顔を取り戻して答えた。
「人間には不可能を可能に変える力があるんです。悲しむことなんてないってわかったら気分がスッキリしました」
「どういうことだ?」
「それは ──」
彼女が言いかけた時、13人の悪魔使いたちは白い闇に飲まれていったのだった。
◆
ミヤビたちは不思議な空間に放り出された。
アルコルは別の次元の座標と言っていたから、この世のどこでもない場所といったところだろう。
星のようなものが線を描いて流れている様子は宇宙空間のようだ。
「ここに、ポラリスがいるというの…?」
ミヤビの声に反応するかのように、中央にある円盤が浮いて、顔のようなものが出てきた。
「人間よ、お前たちは試練を乗り越え、よくぞ私の前までやってきた」
それこそがアカシック・レコードの管理者、ポラリス。
人間は滅ぶべきだと決定し、この災厄を引き起こした張本人だ。
その声は慈愛に満ちた女性の声のようであり、厳格で冷酷な男性の声のようでもあった。
「では問おう。お前たちは世界に、どのような姿を望むというのか?」
「元に戻してください」
ミヤビの言葉に全員頷く。
そして彼女は続けた。
「人間の世界はあなたにとって愚かでくだらないものかも知れません。でもわたしたちはわたしたちなりに生きてきて、あの世界があったんです。これまでの7日間、いろいろなことがありました。それぞれ学んだことはたくさんあります。それを生かして、今度こそ世界が良き方向に進むよう頑張るつもりです」
「破壊前の世界を望むか。しかし世界や人間を上書きすれば、お前たちがどうなるかわからぬ」
「承知の上です」
ミヤビの言葉にポラリスが笑う。
「なるほど、望みはわかった。だが人間はすでに腐敗し、生きる価値を失った存在である。お前たちならそれを正しい方向へと導けると言うのか?」
「生きる価値を失った存在…か。たしかにそのとおりだな」
いつものようにヤマトは笑う。
「だが我々はここに辿り着いた。可能性がないとは言い切れまい?」
「そうか、ならば何も言うまい。お前たちの覚悟が本物か、流されることなく大衆を導く力を持っているのか、試させてもらおう」
ポラリスがそう言った次の瞬間、奇妙な形の白い物体が現れた。
良く見ると身体のパーツのような形をしている。
全員が携帯をかまえた。
「これが最後の戦いだ。…死ぬなよ、ミヤビ」
「はい。どんなことをしてでも必ず勝って、生き残ります」
ミヤビとヤマトはお互いに確認し合って、各々悪魔を召喚した。
「行くぞ!」
ヤマトの合図に合わせて全員がポラリスへと挑みかかっていった。
ポラリスにはあらゆる攻撃、万能属性までもが殆ど効果がなく、圧倒的な攻撃回数で戦況は徐々に押されていく。
しかしサタンとルシファーの同時攻撃によってポラリスの核らしき部分が露出し、そこ目がけてすべての悪魔たちに攻撃をさせた。
すると核にひびが入り、外側の身体を構成する部分がボロボロと剥がれ落ちていく。
「今です、ヤマト様!」
「ああ。…メギドラオン!」
ヤマトが万能属性の炎でポラリスを焼き尽くすが、ポラリスはまだ消えない。
そして地響きが起こり、まるで空間が変わるような錯覚をミヤビは覚えた。
「まだだ…こんなものでは世界を負うに足らぬ。さあ、次だ」
破壊した外殻の中から白い人型のものが現れた。さっきの岩状のものと比べて華奢で弱い感じに見えるが、そのオーラに威圧されてしまう。
「どんなに厳しい試練を与えられたとしても、これが人間の意思の力だというものをお見せしましょう」
◆
いつの間にか辺りは真っ白な世界になっていた。
その白い世界にさっきの白い人型 ── ポラリスが姿を現す。
ミヤビは周囲を見回すが誰もおらず、彼女はポラリスと一対一で対峙した。
次の攻撃を警戒して身構えるが、予想に反してポラリスは静かに語りかけた。
「人の子よ…アルコルが見出した輝く者よ。お前はなぜ世界を元に戻そうというのだ? 同じことを繰り返すなど実に愚かしい」
「そんなことはありません。わたしたちはセプテントリオンとの戦いの中で様々な経験をし、大切なことを知りました。それを無駄にすることはありません」
「記憶がなくなるかもしれないのだぞ」
「記憶などなくても、わたしたちの心には深く刻まれています。記憶を消されても、心に刻み込まれた経験はあなたでも消すことなどできません」
「フッ…くだらぬな。人間とは愚かな生き物なのだよ。たとえ過去に戻ったとしても変わりはしない。歴史は繰り返される。だからここで、消えた方が人間のためなのだ」
「それならなぜあなたは人間を一気に滅ぼしてしまわなかったんですか?」
「どういう意味だ?」
「存在したという事実を跡形もなく消してしまいたいほど人間に幻滅しているのなら、7日間もかけるなどというまどろっこしいことをしなくても良かったのではありませんか? セプテントリオンだって初日に全部投入してしまえばあっという間に片がついたはずです。それなのにまるでわたしたちを試すように少しずつ小出しにし、そのおかげでわたしたちは成長し、ここまでたどり着くことができました。人間の生きたいという強い意思を感じたでしょう。その強い意思さえあれば、良き方向へやり直すことだってできるはずです。あなたはそれを見たくてこんなことをしたのではないんですか?」
「面白い人間だ。さすがアルコルが輝く者と認めただけある」
「そのアルコルだってあなたがあえて人間に肩入れしたくなるようにプログラミングしたセプテントリオンだったのではありませんか?」
「さあ…それはどうだろうか」
「違うというのなら、アルコルの行動は人間の可能性が起こした奇跡なのでしょう」
「フッ…。しかしお前はなぜ峰津院大和や栗木ロナウドのように新しい秩序による世界を望まないのだ?」
「わたしは誰かひとりの意思による新しい世界の創造ではなくて、すべての人間の意識の変革が求められていると考えます。ヤマト様やロナウドさんのやり方は、世界改変という手段で人類すべての意識を強制的に変えてしまおうということです。本人が知らないうちに書き換えられてしまうのでは意味がないと思います。わたしはこの7日間の経験を踏まえた上で、ひとりひとりが自分の意思で変わろうとすることが重要だという結論に達しました」
「……」
「わたしたち人間は管理者に管理されるのではなく、自身で自分を管理できるようになるべきです。それが上手くできなくてあなたに人間は生きる価値がないと判断されてしまいました。でも今のわたしたちなら今度こそ上手くできるはずです。もちろんすぐに理想の社会を創り上げるなんてことは無理ですけど、まずはわたしたち13人の人間が自分たちの意識を変えました。そしてみんながそれぞれの生活に戻り、そこで周りの人たちを変えていくでしょう。そうやって少しずつ意識の改革をし、いずれはあなたのお眼鏡にかなう世界をお見せできるはずです。だから管理者ではなく監視者として、わたしたち人間を見守っていてください」
そこで会話は中断した。
ポラリスは何か考えているようで、ミヤビはその審判を待った。
しばらくの無言の後に、ポラリスが言う。
「お前の考えは他の人間たちにも十分に浸透しているようだ」
「え?」
「彼らはお前の意思を尊重し、お前の可能性にすべてを賭けると言っている」
どうやらポラリスはヤマトや他の仲間たちの前にも現れて対話をし、彼らの考えを聞いていたようだ。
「ではお前の意思を種の意思として認め、私もまたお前の可能性に賭けてみるとしよう」
「本当ですか!?」
「ああ。しかし忘れるな、人間よ。あくまでも私はお前とその仲間たちに可能性を見たに過ぎない。世界の復元とはこれまでに定められた未来への変更を意味する。復元された世界では何が起きるか私にもわからぬぞ」
人間の未来は人間の手で切り開くことが許された。
しかしポラリスの言うように、記憶を失えばまたすべて繰り返される可能性もありうる。
「はい。それでもわたしは世界回帰、世界の復元を望みます。人間の可能性を信じていますから」
「よかろう…では始めるぞ」
そして空間が消滅した。
◆
ミヤビは初めに放り出された空間に似た場所にいた。
無数の星の流れに乗って、空間と時間が巻き戻って行くように感じられた。
しかしどこを見渡しても誰もいない。
彼女は星の海を泳ぎながら、仲間たちを探すことにした。
「ダイチさんたちはどこかしら…?」
この空間は距離や時間など関係ないのか、それとも《種の意思》である彼女の意思が反映されるのか、ダイチがすぐ目の前に現れた。
「ダイチさん、ありがとうございました」
「アハハ…俺はお礼を言われるようなことはしてないぜ。むしろ俺たちがここまで来られたのはミヤビちゃんのおかげだよ」
ダイチは苦笑する。
「またいつか会えますよね?」
「ああ。その時にはまた友達になろうぜ。俺、絶対に君のことを忘れないから」
そう言ってダイチが離れていく。
そしてミヤビの前に次々と仲間たちが現れて言葉を交わしては流れていった。
「ミヤビちゃん、また会おうな」
「ミヤビ、茶碗蒸し、食べる?」
「わたし、あなたのおかげで少し強くなれた気がします」
ヒナコ、ジュンゴ、イオと続き、ケイタ、アイリ、オトメが通り過ぎていく。
「おおきに。ほなな」
「あたし、ピアノ続けるから。もう絶対に諦めたりしないわ」
「健康にはくれぐれも気をつけてね」
そしてロナウドとジョーが現れた。
「君には感謝している。ありがとう」
「局長さんと仲良くな」
「や~ミヤビ、次会ってもまたよろしく」
「ミヤビ、局長をよろしく。…また会おう」
フミとマコトと会話を交わし、最後にミヤビは一番会いたい人の名を呼んだ。
「ヤマト様!」
「私はここいる」
ヤマトは彼女の背後にいた。ミヤビはヤマトと向かい合うと嬉しそうに微笑んだ。
「これで良いのだな?」
「はい。でも世界が少しでも変わらないと意味がありませんから、これからが重要です。これは終わりではなく、始まりなんですから」
「そうだな。しかし不安ではないか?」
「不安などありません。わたしには志を同じくする仲間と、愛する人がいますから」
ミヤビは頬を赤く染めながら、ヤマトの耳元で囁いた。
「愛しています、ヤマト様」
「私もだ、ミヤビ。次の世界では必ずふたりで幸せになるぞ」
「はい。あなたを信じています」
ふたりは唇を重ね、抱き合いながら時の流れの中へ消えていったのだった。
ゲーム版のポラリスとの戦いで、選んだルートによっては、運命に対して悲観的な過去の自分と戦うというシーンがあります。
それを引用させてもらおうかとも考えましたが、ボツにしました。
なぜならヒロインには「運命に対して悲観的な過去の自分」がいないからです。
彼女は初めから前向きで、運命というものに正面から体当たりしている強い少女だからです。
次回で完結します。
回帰された世界はどんな世界になっているのでしょうか…