DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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いよいよ7日間のサバイバルが始まります。
様々な設定はゲームの公式設定資料集を参考にしていますが、足りない部分は勝手に捏造しています。
うさみみフードの少年が登場しないため、ダイチとイオの初登場シーンは原作と大きく異なり、ドゥベ戦でのダイチによるトラック特攻はありません。ジョーもまだ登場しません。




1st Day 憂鬱の日曜日 -1-

 

 

ミヤビは初めてジプス局内で朝を迎えた。

枕元の時計は〇五四七時を示している。もうすぐ大時計が〇六〇〇時の鐘を鳴らす時間だ。

ジプスでは午前6時から午後11時までの間は毎正時に鐘が鳴る。

つまり〇六〇〇時が局員の起床時間であり、二三〇〇時が消灯時間を意味する。

就業規則によると朝食は〇六三〇時から〇八〇〇時で、その間にバイキング形式で食事をすることになっている。

ちなみに昼食は一一三〇時から一三〇〇時、夕食は一八〇〇時から二〇〇〇時で、それぞれ単品料理や定食を注文できる。

もっとも今日からはそれも形式だけのものになるだろう。

 

鐘が6つ鳴ると、ミヤビは制服に着替えた。

コートを着ると局内で注目を浴びてしまうので、シャツとスカートの姿で食堂へ行くことにする。

彼女が東京支局長であることは局員の誰もが知っていることだが、根が控えめで目立つことを嫌う彼女のせめてもの抵抗である。

しかしそれでも周囲の視線は彼女に注がれる。

ジプス局員というのは比較的若い男女が多いものの未成年者は彼女とヤマト以外にはいない。

ジプスが特殊な国務機関であり、仕事の内容が危険を伴う極秘任務だから、未成年者だと親権者の承諾を得るのが難しい。

スカウトする際にもおのずと成人を選ぶこととなるわけだ。

よって成人男性の多い局内において、愛らしい少女の彼女が注目を浴びるのは仕方がないことである。

ミヤビが料理を選ぶ列に並んでいると、後ろにマコトが立った。

 

「おはよう、カナデ。早いな?」

 

「おはようございます、マコトさん」

 

かつては現場の仕事を学ぶということで、ミヤビはマコトの部隊に所属していたことがある。

しかし今は支局長と戦闘隊長という関係になり、上下関係が逆転してしまった。

普通ならマコトがヤマトに対するようにミヤビにも敬語を使うべきなのだろうが、ミヤビはそれを嫌がった。

彼女にとってマコトはジプスの先輩というだけでなく人生の先輩でもある。

自分よりも優れている者に対して謙虚な姿勢のミヤビは、マコトに敬語を使わないように頼んだ。

一方、ミヤビ自身は年長のマコトに敬語を使うのを当然と考えているので、傍からはマコトの方が上司にしか見えない。

 

マコトと相席することになったミヤビ。

彼女は普通の量だが、マコトの前には山盛りの生野菜とプレーンオムレツやベーコン、ポテトサラダといったたくさんの料理が載ったプレートが置かれている。

彼女は元シンクロナイズドスイミングの選手という体育会系の女性だから、これくらいは文字通り朝飯前なのだろう

 

「昨夜は良く眠れたのか?」

 

ミヤビのことを常に気遣ってくれるマコト。

過去の経緯からマコトはミヤビを妹のように可愛がっている。

きょうだいのいないミヤビにとっては唯一心を打ち明けられる存在だが、自分の「計画」については一切口にしていない。

彼女の口からヤマトの耳に入ることを恐れているのと、間違いなく反対されるとわかっているからだ。

 

「はい、おかげさまで」

 

笑顔で答えるミヤビ。

 

「さすがだな。他の局員はきっと今日のことで頭がいっぱいになり眠れなかったことだろう。正直言うとわたしもなかなか寝つかれなくて、明け方に少しまどろんだだけなんだよ」

 

そう言うマコトの目の下には僅かにクマが見える。

 

「わたしは…自分にやれることをやるだけです。自分の持つ器以上のものを受け止めようとしても溢れさせるだけ。その器の大きさは自分なりに弁えていますから」

 

「フッ…そういう謙虚さは支局長になった今でも変わらないな。たしかに自分にできることをやるだけという君の考えは正しい。わたしも今日という日のためにすべてを捧げてきた。やり残したこともないし、今は目の前の責務を果たすだけだ」

 

「わたしもマコトさんと同じく今日のためにできるだけのことをしてきました。ですからこの先何があっても後悔しないつもりです」

 

「わたしもそうしたいが…君のように強くないからな。だが強くなければ峰津院局長の側にはいられない。あの方のために少しでも役に立たなければ、わたしを拾ってくれた恩を返せない。だからわたしはもっと強くなりたい」

 

その言葉を聞いてミヤビは思った。

 

(マコトさんもまたわたしと同じでヤマト様に対する恩義が生きる原動力となっている。彼女があの方を裏切ることは絶対にありえない。新世界でもきっと彼女があの方の公的なサポートをしてくれるはず。だから彼女も絶対に死なせないわ)

 

「マコトさんなら大丈夫ですよ。十分強いですから。これからも今までと同じくヤマト様の支えとなって活躍しているはずです。強者でなければあのヤマト様が戦闘隊長という重責を背負わせるはずがありませんよ。自信持ってください」

 

ミヤビは自分がいなくなった後のことを任せられる人がいると思うだけで気持ちが楽になり、その表情にも余裕の笑みが浮かんだ。

それから他愛のない会話をしながら食事をし、一緒に食堂を出たのだった。

 

 

 

 

〇九〇〇時、東京支局所属の局員が司令室に全員集められた。

ここで局長の訓示と《神の審判》に向けての最終確認が行われる。

ジプス局員は《神の審判》についてヤマトから知らされていた。

局員たちは侵略者セプテントリオンをすべて倒して日常を取り戻すことがジプスの目指すものであると考えている。

しかしヤマトにとって重要なのはその先にあるポラリスという世界の管理者と邂逅することにあった。

ポラリスは万物を管理・運営し、自らが定める摂理にそぐわぬ世界に干渉する絶対的な力を持っている。

そして人間を存続に値しない種であるとの判断を下した。その結果、人間の存在を根本から消し去ることにしたのだ。

まずはポラリスによる大災害が起き、続いてセプテントリオンが襲来する。

そのセプテントリオンをすべて倒せば、人間がまだ生きる価値のある存在だとポラリスに認めさせることができるわけで「神」との謁見が認められるという流れになる。

そこで人間が《種の意思》を示すことで世界を変革することができるというのだ。

ヤマトの計画ではその謁見に臨むのが彼自身であり、彼の意思がすべての人間の意思であるとして示される。

もし彼の理想とする実力主義の世界の創造が人間の総意として認められたならば、力のない者、また力を示す機会が与えられない者は日々生きていくことすら難しくなるだろう。

局員の多くは不安を隠せないでいるが、ヤマトだけは余裕の表情であった。

全人類の未来を背負っているプレッシャーなど感じられず、むしろこの非常事態を喜んでいるかのようだ。

それは無理もない。彼はこれを機に世界の理を書き換え、自分の望む世界を創造するつもりなのだから。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…

 

はるか昔に定められた約束の時刻、気味の悪い地鳴りと共に突如地震が発生した。

 

「来たな…!」

 

ヤマトはにやりと不敵な笑みを浮かべた。

その地震は大きな揺れではあるが、それに備えた造りになっている支局の施設はビクともしない。

発令塔で待機していたヤマトは平然と立ち続け、ミヤビもその側で揺れが収まるのを待っていた。

これがポラリスによる最初の一撃だ。

本来ならこれだけで地上のありとあらゆる生物の命は消え失せたであろうが、峰津院家の先祖が施した結界によって被害は抑えられ、結界に守られた範囲はかろうじてその存在を保っている。

 

揺れは数分続いたが、ようやく収まった。

 

「なるほど、これが始まりか…。各員、状況確認、急げ!」

 

ヤマトの命令で局員たちは自分の担当の仕事を再開した。

そしてまもなく、東京支局内に損害は殆どないことがわかった。

一方、都内の各所で地震による建物の倒壊やそれに伴う火災などが発生していた。

しかしそれはこれから起きる災厄の前奏曲(プレリュード)でしかない。

 

「市街地に、悪魔反応!」

 

さらに数分後、地上の監視カメラとレーダーを担当している局員の声が上がった。

そしてメインモニターに映像が映し出される。

モニターには23区の地図が投影され、悪魔反応を示す赤い点滅がいくつか表示された。

その様子を見て局員がざわめくが、それを制止して指示を出したのはマコトだ。

 

「事前に通達したとおり、我々は地上にて悪魔の殲滅及び封印箇所の再封印を行う。全員悪魔召喚の準備はいいな」

 

そう言って彼女は数名の局員を引き連れて出て行った。

これは古くから各所に封印されていた悪魔 ── 俗にいう悪魔と呼ばれる魔界の住人だけでなく妖精、神獣、天使などを含めた人ならざるものの総称 ── が地震によって封印を解かれて地上に現れたものである。

しかしそれは想定内のことであり、特に慌てることはない。

 

「ヤマト様、わたしも出ます」

 

ミヤビがヤマトに上申する。

出るというのは地上において悪魔の掃討作戦に従事するという意味だ。

東京支局長という立場である以上、現場で活動するのは本来の彼女の仕事ではない。

しかし人手が足りないのも事実。

戦力を温存して被害を拡大するのは馬鹿げていると彼女は判断したのだ。

しかしヤマトにとって彼女は切り札であり、初手から動かす駒ではないと考えていたから、この申し出は承知できなかった。

 

「お前はここの責任者だ。この場で的確な采配を振るうのがお前の役目だということを忘れたか?」

 

「お言葉ですが、今はヤマト様という最高司令官がいらっしゃいます。ですからわたしは戦力として現場に投入すべきではありませんか? 悪魔による被害を最小限に食い止めるのは、東京支局長としてのわたしの責務だと考えます」

 

ミヤビの言っていることは正論だ。

ここで悪魔の被害を拡大させては今後の行動計画に支障が出るのは明らかである。

 

「よかろう。…田村、木次、お前たちは紫塚に同行しろ」

 

ヤマトの命令でふたりの若い男性局員がミヤビと行動することになった。

彼女が新人局員であった頃に一緒に仕事をした先輩局員たちだ。

 

「紫塚支局長、我々にご命令を」

 

田村にそう言われ、ミヤビは上官として初めて部下に命令した。

 

「わたしたちも迫隊と同じく地上で悪魔の掃討に向かいます。一緒に来てください」

 

「はっ!」

 

ふたりはミヤビに向かって敬礼をする。

彼女もそれに応え、さっと身を翻してヤマトに敬礼した。

 

「行ってまいります」

 

「私の期待を裏切らぬ行動をしろ、よいな?」

 

「はい!」

 

ミヤビはふたりの部下を引き連れて司令室を後にした。

 

 

 

 

「渋谷駅付近に登録外のDケースを確認!…我々のプログラムとは違う術式で動いています」

 

計器を観測していた局員が報告すると、司令室内がざわめいた。

Dケースというのはジプスにおける悪魔絡みの事案を指す符丁だ。

普段は地下に身を隠すジプスだが、セプテントリオン襲来の際にはどうしても人目に触れざるをえない。

そんな時に会話が関係者以外の耳に入っても問題ないように、こうした符丁を用意していた。

つまり想定していなかった悪魔の出現という事態が発生したということである。

自然に発生した悪魔であればそう慌てることもないのだが、人為的に召喚されたものとなればただ事ではない。

 

ジプス局員は召喚式を使って悪魔を召喚するのだが、誰にでもできるというものではない。

召喚できるのは素質があって訓練された局員だけである。

さらにジプスが使用する召喚式は、古より峰津院家に伝わる秘術を研究の末に数値化し、プログラムとして完成させたもの。

ジプスとは無関係な人間が悪魔を召喚できる手段を持っているはずなどないのだ。

イレギュラーの出現にはさすがのヤマトも表情が強張る。

 

「どういうことだ?」

 

ヤマトが眉を顰めて観測担当局員に訊く。

 

「わかりません。…っ、さらに新宿駅、原宿駅においても同様の反応が見られます」

 

新たな悪魔が次々と出現し、ヤマトはモニターの地図を睨みながら指示を出した。

 

「迫率いる第1班を新宿駅、第2班を原宿駅へ向かわせろ。第3班及び第4班は予定通り。紫塚の第5班を渋谷駅へ向かわせろ。以上だ」

 

「了解しました」

 

通信担当局員がすぐに回線を開いて、それぞれに連絡をした。

 

 

 

 

ヤマトの指示でミヤビたちは渋谷駅におけるDケースの担当となった。

地震の影響で地上は大混乱しているがそれは想定済みのことで、地下に張り巡らされたジプス専用通路が彼女たちの円滑な行動を可能としている。

地下通路を田村の運転する車で渋谷駅へと向かい、渋谷駅北側にある出入り口から地上に出たミヤビたちは言葉を失った。

阿鼻叫喚の図というものはこのような光景をいうのだろう。

彼女たちの目の前には無力な人間が全能の神によって弄ばれた結果の一端があった。

昨日までの日常は消え失せ、顔を背けたくなるような場面が広がっていたのだ。

聞こえるのは人々の悲鳴や怒号、緊急車両のサイレンばかり。

これが序章にすぎないことをミヤビは知っている。

知っているからこそ、これから続く神の試練を想像すると身が震えて動けないでいた。

覚悟はできていたとはいえ、生まれて初めて見る悲惨な状況に足がすくんでしまったのだ。

 

「紫塚支局長、行きましょう」

 

木次がミヤビの肩をポンと叩いて言った。

 

(そうだ、わたしは悪魔による被害を最小限に食い止めるためにここへ来たんだ)

 

ミヤビは自分の使命を思い出した。

 

「すみません。ではこれから行動を開始します。単独行動は避け、常に複数で動いてください。多少目撃されてもかまいません。Dケースと接触の場合、各個悪魔召喚及び自由な交戦を認めます。しかし周囲には十分な配慮をお願いします」

 

「「了解!」」

 

ミヤビたちは3人一緒にハチ公像のある広場へと向かった。

駅に近づくにつれて混乱している群衆は増えていく。。

陸上自衛隊の小隊が群衆の整理を行っているようだが、収拾がつかずにオロオロしている様子がうかがえた。

問題のDケースは地下ホームで発生したらしく、現場へ向かうには階段を使って降りなければならない。

しかし規制のコーションテープが張ってあって通行禁止になっている。

そこでミヤビは現場責任者と思われる2等陸尉の階級章をつけた青年に接触した。

 

「わたしたちは地下ホームに用があります。入らせてください」

 

日焼けした精悍な顔だちの2等陸尉は彼女の姿を見て怪訝そうな顔をする。

 

「ここから先は危険だ。この立ち入り禁止のテープが見えないのか? そもそも君たちは何なんだ!?」

 

そこでミヤビは身分証を見せながら言う。

 

「失礼しました。わたしたちは気象庁指定地磁気調査部、ジプスの人間です。わたしはジプス東京支局長、紫塚雅。自衛隊のみなさんには『災害措置特別法第404条』に従い、ジプスの指揮下に入ってもらいます」

 

「404条…? じゃあ、君たちは…」

 

「ご理解していただけたようですね。ならば、わたしたちを中へ入れてください」

 

「しかし…」

 

「中の状況はおおよそ把握しています。この先は自衛隊員といえど非常に危険です。わたしたちにお任せください。それとも命令に逆らって処分を受けたいと?」

 

「…わかりました」

 

権力を笠に着るのは気が引けたがこうするしかなかった。

一刻を争う事態、この方法がもっとも犠牲を減らすことができるのだとミヤビは判断したのだ。

 

「では中にいる隊員をすべて引き上げさせてください」

 

「それでは救助活動が ── 」

 

「引き上げさせてください!」

 

「り、了解!」

 

2等陸尉は慌てて部下に指示をして無線連絡をさせた。

その会話を聞きながら、ミヤビは思った。

 

(あの様子だとまだ中に入った自衛隊員は悪魔と接触はしていないみたい。生存者がいる可能性がゼロではないのだから救助活動を続けたいのでしょうけど、それでも自衛隊員を退かせるのは二次被害を出さないための処置。後はサマナーであるわたしたちの仕事よ)

 

ミヤビの指示は的確で、田村と木次は自分の上官が心強く思えていた。

 

「中にはわたしがひとりで入ります。田村さんと木次さんはここで自衛隊と警察及び消防に指示を出してください。判断はおふたりにお任せします」

 

「ですがひとりでは危険です」

 

田村が言う。

 

「大丈夫です。わたしにはとても強い相棒がいますから」

 

ミヤビがビャッコというヤマトの使役するケルベロスの次にレベルの高い悪魔を使役していることは支局の全局員が知っていることだ。

彼女ひとりでも小隊レベルの戦闘力があり、ビャッコがいれば無敵と言っても過言ではないほどである。

地下ホームは狭い。その限られた空間では少数精鋭による戦闘が効果的であることは彼らも承知している。

単独行動を避けろと言っている本人が単独行動するのだから矛盾しているが、この場合は自分ひとりの方が良いという彼女の判断は正しい。

だから田村たちも反論はなかった。

 

「あとはよろしくお願いします」

 

ミヤビはそう言い残すと、コーションテープの下をくぐって階段を降りて行った。

途中で引き返してくる自衛隊員とすれ違ったが、彼らは悪魔に襲われた様子はなくてミヤビは安心する。

いくら頑強な自衛隊員といえど、悪魔使いでない者では悪魔に太刀打ちできるものではないのだから。

救出された民間人は悪魔に襲われたのではなく、地震による建物の倒壊等による負傷のようだ。

しかしDケース反応があった以上、この先に悪魔がいるのは間違いない。

 

 

非常灯のみの暗いホーム内は地震で崩れ落ちた天井や壁の瓦礫で埋め尽くされていた。

そこでミヤビはビャッコを召喚した。

 

「呼んだか、主」

 

「奥まで行きたいんだけど、乗せてくれる?」

 

「もちろんだ」

 

ビャッコは背を低くして彼女を乗せた。

 

「行くぞ」

 

周囲の暗さや足場の悪さは悪魔には無関係のようで、ビャッコは瓦礫の上をピョンピョンと飛び跳ねて進んで行く。

するとホームのずっと先の方で女性の悲鳴が聞こえた。まだ年若い少女の声のようだ。

 

「ビャッコ、声のした方へ行くわよ」

 

ミヤビがたどり着いた場所はこれまでになく凄惨な事故現場であった。

暗さに目が慣れてくると、現場の状況が次第にわかってきた。

地震によって列車が脱線し、ホーム上にいたと思われる客たちの殆どは轢死していた。

さらに所々から悪魔が湧いて出ている。

一度にこれほどたくさんの悪魔が出現することは通常ありえない。

ただレベルの低い悪魔ばかりなので、ビャッコなら殲滅するのにそう時間はかからないだろうと彼女は判断した。

 

「いやぁーー!」

 

「こっちへ来るな!」

 

さっきの少女の声と、さらに少年の声が聞こえた。

ミヤビは生存者の救出を第一に考え、ビャッコに指示をする。

 

「人命救出が最優先よ。人に危害が加えられないよう、注意しながら悪魔を殲滅して。それから悪魔の発生源がわかったら、それも潰してちょうだい」

 

「承知した」

 

ビャッコは風のように素早く走って行き、闘鬼コボルトをに食らいついた。

ミヤビはその隙に少年と少女のいる場所へ向かう。

見ると少年は棒状ものを振り回して幽鬼ポルターガイストや魔獣カブソを相手にしている。

しかし悪魔たちは少年をからかうように動き回っているだけだ。

その周りには妖精ピクシーが飛び回り、そのうちの1体がしゃがみこんでいる少女に電撃〈ジオ〉を放った。

 

「きゃあっ!」

 

電撃を受けて気を失ってしまう少女。

これはマズイ状態だと、ミヤビは携帯を握った左手をピクシーの群れに向けて叫んだ。

 

「マハラギ!」

 

〈マハラギ〉は敵全体に魔法の炎でダメージを与える火炎攻撃だ。

火炎が弱点であるピクシーは一瞬にして灰となってしまった。

続いて集団で襲いかかってきたポルターガイストとカブソに攻撃する。

 

「マハジオ!」

 

電撃が弱点であるポルターガイストやカブソには効果大だ。

魔法の雷が悪魔たちをショック状態にし、それらをビャッコが蹴散らしていく。

僅かな時間で数十体いた悪魔を殲滅し、辺りには静寂が戻った。

ミヤビが携帯のアプリで確認すると、生命反応はここにいる3人の分しかない。

つまり彼女と悪魔に襲われていた少年少女のふたり以外は既に死亡していることを意味する。

地震によっての死亡者が殆どだろうが、悪魔に襲われて死んだ者もいることだろう。

とりあえず無事であった少年にミヤビは呼びかけた。

 

「大丈夫ですか? もう心配はいりませんよ」

 

「……」

 

返事がない。

近づいてみると、少年は緊張の糸が切れたのか、床にべったりと座り込んで動けずにいた。

少女の方は気を失っている。

いつまた悪魔が湧いて出るかもしれな状態でここにいるのは危険だ。

 

「ビャッコ、こっちへ来て」

 

ミヤビがビャッコを呼ぶと、少年がビャッコの姿に慌てふためく。

 

「ぎゃああああー! ば、バケモノぉーっ!」

 

「わたしのビャッコはバケモノじゃありません! 危害は加えませんから、どうか落ち着いてください!」

 

ミヤビが宥めると、少しは安心したのか叫びはしなくなった。

 

「ほ、ほんとに?」

 

「嘘は言いません。それよりここは危険ですから、早く地上へ出ましょう」

 

「あ、ああ…」

 

「それでは、そこの女の子をビャッコに乗せるので手伝ってください」

 

ミヤビは少年の手を借りて、ぐったりとしている少女の身体をビャッコの背中に乗せた。

そしてミヤビもビャッコに跨り、少女の身体を落ちないように支える。

 

「あなたも後ろに乗ってください」

 

ミヤビは少年に促すが、彼はもじもじして乗ろうとしない。

 

「乗らないと置いていくわよ!」

 

「待って! 乗る、乗る」

 

ミヤビが乱暴に言うと、少年は慌てて彼女の後ろに跨った。

 

「振り落とされないように、わたしの腰にしっかりと掴まっていてください。でもヘンなこと触ったら、さっきの悪魔みたいに焼き殺すから覚えておいてくださいね」

 

「絶対しません!」

 

「じゃ、行きますよ」

 

ミヤビは少女の身体を抱えがらビャッコの首にしがみつき、少年はミヤビの腰に両腕を回す。

その状態で、ビャッコは瓦礫を飛び越えて地下1階のフロアまで戻って来た。

そして階段の昇り口でひと休みする。

ここなら地上の光が差し込んでくるし、仮に悪魔が出現しても地上に出す前に対処可能だ。

 

「怪我はありませんか?」

 

ミヤビは少年に訊く。

 

「あ、ああ…大丈夫、みたいだ」

 

少年は自分の身体を見回したり手でポンポン叩いたりして確かめる。

 

「それは良かったです。で、そっちの女の子は…」

 

ミヤビは気を失っている少女の様子を確認した。

特に目に見える怪我はないようで、意識さえ戻れば自力で避難できそうだ。

 

「起きてください」

 

ミヤビが少女の身体を揺すって目を覚まさせようとする。

 

「うっ…ううん…」

 

少女は虚ろな目で辺りを見回し、ミヤビの顔を見て不思議そうな顔をした。

 

「あれ…? あなた…誰…?」

 

「わたしは紫塚雅。気象庁指定地磁気調査部、ジプスの人間です。おふたりは高校生ですよね? お名前を教えていただけますか?」

 

「わたしは…新田維緒(にったいお)。高校3年です」

 

「俺は志島大地(しじまだいち)。新田さんと同じ高校の3年だ。ところでさっきのバケモノは何なんだ? 俺たち、助かったのか?」

 

震えながら訊くダイチにミヤビは答えた。

 

「あなたの言うバケモノ…それを我々ジプスでは悪魔と呼んでいます。悪魔といっても俗に言う悪魔だけでなく、妖精、神獣、天使などを含めた人ならざるものの総称です。今のところ地下ホームには悪魔の反応はありませんから、ひとまず安心といったところです」

 

「なあ、その悪魔ってのが何でこんなところにいるんだよ? あの地震が何か関係しているのか?」

 

「詳しいことは説明できませんが、無関係ではないとだけ言っておきます。それではこちらからの質問です。地下で何があったのかを教えてください」

 

「ああ、いいけど。…といっても俺自身も良くわからないけどさ」

 

「では地震が起きる前から事実のみを順番に挙げてみてください」

 

「わかった」

 

そう言ってダイチは記憶の糸を辿り始めた。

 

「俺たちは模試の帰りで、偶然あのホームで会ったんだ。それで試験のこととか話をしてて、…それで新田さんと同時にメールの着信があった。それがニカイアの死に顔動画で、俺には新田さんの、新田さんには俺の死に顔動画が届いていたんだよ」

 

「そうです。わたしたちが列車の脱線事故に巻き込まれて死ぬ動画でした」

 

イオがフォローする。

しかしミヤビには彼らの言う単語が意味不明だった。

 

「ちょっと待ってください。ニカイアとか死に顔動画って何ですか?」

 

ミヤビが訊くと、ふたりは驚いたような顔をした。

 

「君、ニカイア知らないの? 中高生から20代の若者の間で流行っているサイトだよ。ここに登録しておくと、ユーザーの友達の最期の様子が動画で送られてくるんだ。こんなのちょっと悪質なジョークだってことで誰も信じちゃいなかったんだけどさ、俺たちの死に顔動画が届いた直後にあの地震が起きて…俺は死ぬはずたったんだ」

 

「死ぬはずだった、って…どういう意味ですか?」

 

「脱線した列車の下敷きになっていた時にニカイアのナビゲーターが生きるか死ぬか選べって言って、当然生きるって選んだんだ。そしたら絶対に死んでるはずなのに俺、生き返っていて、それでいつの間にか変なバケモノ…悪魔っていうの? それに囲まれていたんだ。でもって君が助けに来てくれたってわけ」

 

「わたしも同じです。わたしも生きたいって思ったから…」

 

ふたりの証言から〈ニカイア〉というサイトが彼らの死を予言するような動画を配信し、それと同じ状況が起きたこと。

さらに瀕死の状態に陥り、生きたいという意思を示したことで一命をとりとめたらしいということまではわかった。

しかし悪魔の出現に関しては不明のままだ。

 

「ダイチさん、あなたの携帯を見せてもらえますか?」

 

「ああ、いいぜ。…あれ?何かおかしなアプリがインストールされてる」

 

ダイチは怪訝な顔で携帯を操作し始めた。

 

「ん?…変だぞ。削除できねえ」

 

「ちょっと貸してください」

 

ミヤビはダイチから携帯を奪い取ると、その画面に表示された〈悪魔召喚アプリ〉という名称のアプリを起動した。

するとさっき倒したポルターガイストとカブソがリストアップされている。

レベル、耐性、弱点、HPとMPといったものが表示され、それはジプスで使用している悪魔召喚システムに似ていた。

名称と表示された内容からすると、この機能を使えばジプス以外の人間でも悪魔を召喚できるのだろうとミヤビは考えた。

これが一般に普及して悪用されるとなれば非常に危険な代物だ。

 

(ニカイアの登録者がすべてサマナーになれるとは思えないけど、こうなるとかなり多数の…ジプス局員より多くの人間が悪魔を使役できることになる。もしかしたら悪魔の異常発生はこのサイトが原因なのではないかしら?)

 

ミヤビがそんなことを考えていた時だった。

イオが彼女の背後を指差して叫んだのだ。

 

「ああっ、アレ何!?」

 

ミヤビが振り向くと、床の瓦礫の隙間が青白く光っており、そこから邪鬼オバリヨンが姿を現したのだ。

ミヤビは咄嗟に自分の携帯を構えて叫んだ。

 

「ジオ!」

 

すると彼女の手から雷撃が放たれ、オバリヨンを消し去った。

 

「何…それ…? さっきも同じことして敵を倒してたけど」

 

ダイチが目を丸くして訊いた。

 

「ああ、これは攻撃魔法のひとつです。ジプス局員はレベルの差はあれど、誰もが悪魔を使役し、魔法を使えるよう訓練を受けているんですよ」

 

「魔法…? 信じられない」

 

イオの反応は当然だ。

魔法などというものはファンタジーやゲームの世界のものであり、現実に存在するものではないと思っている人が大多数なのだから。

ミヤビはオバリヨンが出現した場所まで行ってみた。

するとそこには所有者不明の携帯が開いた状態で落ちている。

ジリジリと変な音がしており、操作もしていないのに何かをダウンロードしている様子が見られた。

そしてダウンロード完了のメッセージが表示されたと同時に、今度は幽鬼アガシオンが現れた。

 

「ブフ!」

 

氷結魔法を放つと、アガシオンは出現と同時に消えた。

ミヤビは思い切り強く踏んで携帯を破壊した。

〈ニカイア〉の〈悪魔召喚アプリ〉をダウンロードした携帯で持ち主がいないと暴走状態になって勝手に悪魔を召喚し続けるらしい。

悪魔が多数湧いて出るのはこのせいかもしれないと彼女は考えた。

 

「ところでさ、君の言った気象庁…指定…ジプス…? そんなの聞いたことないんだけど」

 

元の場所に戻って来たミヤビにダイチが訊く。

 

「無理もありません。我々は国家を陰で支える組織です。国家の非常事態が起きた時のみ、こうして表だって活動するものですから一般には認知されていなんです」

 

「非常事態ってこの地震のこと?」

 

「それも含めて、これから起きることすべてです。とにかくここはまだ安全とはいえないようですね。地上へ出ましょう」

 

ミヤビは地上へ出るにあたってビャッコを戻した。

さすがにビャッコを民間人の目に晒すのはマズイからだ。

そして何事もなかったかのような顔をして田村と木次に合流した。

 

「紫塚支局長、どうでした?」

 

尋ねる木次にミヤビは首を横に振って答えた。

 

「救出できたのは彼らだけでした。地下には生命反応はなく、出現した悪魔はいちおう殲滅しました。とはいえまだ危険な状態ですから、自衛隊にも地下へは入らないよう徹底させておいた方が良いですね。念のために地下への出入り口をすべて封印しておいた方が良いかもしれません」

 

「そうでしたか…。残念ながら仕方ありませんね。それはともかく、これからどうしますか?」

 

「まずはヤマト様の指示を仰ぎます。このふたりに関しては必要があれば支局へ連行し、わたしが尋問します。…それからわたしの不在中に何かありましたか?」

 

「はい、司令室からの報告では1班から3班までは任務完了とのこと。迫隊長と1班はK座標の再封印のためそちらに向かい、2班と3班は新たなDケースがお台場で発生したために急行したそうです」

 

田村が答えた。

 

「ありがとうございます。では、わたしはヤマト様の指示を仰ぎますので、少し待っていてください」

 

ミヤビは携帯を取り出すと、ヤマトに電話をかけた。

 

「遅かったな、ミヤビ」

 

「申し訳ございません。少々手間がかかったものですから。ですが収穫はありました。Dケース接触者2名を確保しました」

 

「それで何かわかったのか?」

 

「いいえ、詳しい尋問はこれからです。対象者は学生…高校生です。この件はわたしに任せていただけませんでしょうか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「彼らを東京支局で保護し、身の安全を保証したところで知っていることを全部吐いてもらいます。彼らはニカイアというサイトの登録者で、そのサイトがDケース多発の原因と思われますので。なおレベルは低いながらサマナーとしての資質があり、彼らに悪意があれば危険な存在にもなりかねません。ですからジプスで保護すべきだと判断しました」

 

「わかった。ではお前はそのふたりを連れて一度戻れ。田村、木次の両名は迫の1班に合流し、迫の指示に従うよう伝えろ」

 

「了解しました」

 

ミヤビは田村と木次に迫隊に合流する旨を指示した。

そしてダイチとイオに言う。

 

「これからおふたりには我々の活動拠点へ同行してもらいます」

 

 

 






ヒロインによる主人公無双が始まりました。
しかしこれくらい強くないと、ヤマトが自分の右腕にするはずがなく、まったくの素人がビャッコを召喚するアニメ版の久世響希よりははるかにマシだと思います。


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