DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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1st Day 憂鬱の日曜日 -2-

渋谷駅の地下への出入り口をすべて封印し終えると、ミヤビたちは地下通路を使って東京支局へと向かっていた。

 

「なあ…ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

車の後部座席に座っているダイチが口を開いた。

ミヤビには彼の訊きたいことというのは大体想像ができる。

彼女はハンドルを握ったままで振り返らずに言った。

 

「いいですよ。答えられるものにはお答えします。しかしいちおう国家公務員ですので、守秘義務というものがあります。お答えできないものもありますから、それについては勘弁してください」

 

そう答えると、ダイチは一番疑問に思っていたことをストレートに訊いてきた。

 

「紫塚さんって何者?」

 

「さっきも言ったようにわたしはジプスの人間です。それからわたしのことはミヤビと名前で呼んでください。わたしもおふたりを名前で呼ばせていただきます」

 

「わかった。で、ミヤビちゃん…そのジプスっていうのがどんな組織かわからないけど、何で君が大人の自衛隊とか警察の人たちに指図できるんだ? 君も俺たちと同じくらいの歳だろ?」

 

「災害措置特別法という法律があり、その第404条で非常時にはジプス局員は特例で自衛隊や警察・消防の人間にも命令や指示を出せるという強大な権限を行使できるようになっています。ちなみにわたしは17歳です」

 

「……」

 

驚いてぽかんと口を開けているダイチ。

続いてイオが疑問をぶつけてきた。

 

「政府の組織ということは、国があなたのような悪魔とか魔法を使える人を集めてジプスを作ったというんですか?」

 

「そうです。正しくは悪魔を使役し、魔法を使える素質を持った者を集めて訓練をして、国土の霊的防衛を担うことを目的とした組織がジプスということです。あなたは陰陽師とか宿曜師というものを知っていますか?」

 

「聞いたことはありますけど、それって平安時代とか昔の話ですよね?」

 

「ええ。ジプスの前身である組織はその頃からあり、以来特殊な能力を持った者が人知れず国家の安寧を支えてきたんです。現在ではあなたの想像する平安時代のアナログな術式を用いるのではなく、最先端のデジタル技術を用いた方法によって悪魔を管理し、使役しています」

 

信じられないといった顔だが、悪魔が出現したり、ミヤビが魔法で悪魔を退治したことを目撃しているのだから信じるしかないだろう。

 

「さっきミヤビちゃんは17歳って言ったけど、どうして支局長なんて偉い役職なの? 未成年じゃん」

 

「ジプスでは局長であるヤマト様の持論の実力主義が採用されています。年齢や性別、勤務年数などは関係なく、本人に力さえあればそれに応じた席が用意されているんです。また未成年であっても権利や義務に関しては成人とみなされています。これはジプスという組織の性質上の特例です。こうしてわたしが車の運転ができるのも、14歳で入局してすぐに免許をとったからです」

 

「へえ…」

 

ダイチは感心したと言わんばかりの顔をしている。

一方、ダイチの隣に座っているイオは不安な顔をしたままだ。

 

「それで…わたしたちはこれからどうなるんですか?」

 

イオが訊く。

 

「これから向かう先はジプス東京支局です。おふたりにはそこでジプスに協力をしてもらうことになります。内容はニカイアと悪魔召喚アプリの解析及び情報収集です。悪魔が都内各所で出現しているのはニカイアが原因である可能性が高いものですから」

 

「協力するのはいいですけど、まだ家族と連絡がつかないし、家にも帰りたいし…」

 

「イオさんの家はどこですか?」

 

「有明です」

 

有明と聞いて、ミヤビは表情を曇らせた。

 

(有明…たぶんあの地震で相当な被害を受けたはず。元が埋立地であるから地盤は弱い。それに交通機関がストップしているので徒歩移動になるけど、地上には危険な場所が多い。やはりジプスで保護した方が良いでしょうね)

 

ミヤビは包み隠さず正直に言った。

 

「こんなことを言うのは心苦しいのですが…地上の被害はジプスでもまだ全部を把握できてはいません。それほど大規模なものだということです。携帯電話・固定電話を含め通信回線はすべて不通となっています。かろうじてジプスや政府の緊急連絡用の回線だけは使用可能ですが、おふたりのご家族と連絡を取ることはできません。地震による被害はおふたりが想像しているよりはるかに甚大であると覚悟しておいてください」

 

「「……」」

 

「ですがジプスに協力をしてくれるなら、わたしは最大限の援助をします」

 

「援助?」

 

「はい。警察や自衛隊に対して特別におふたりのご家族の捜索依頼をすることは可能です。さらにご家族がいる場所が判明すれば、そこまでお送りします」

 

「ほんと!?」

 

ダイチが身を乗り出して訊いてきた。

 

「はい。それに都内でもっとも安全な場所がジプス東京支局の中です。ここなら悪魔の襲撃はありませんから、近場の避難所に行くよりずっと安全です」

 

「わかった。ミヤビちゃんがそう言うなら、俺は君に従う。…新田さんもそれでいいよな?」

 

「…ええ」

 

イオは承諾したものの、やはり不安で落ち着きがない様子でいる。

このような事態となれば、彼女ならずとも両親という自分を守ってくれる存在の懐に逃げ込みたくなるのは当然だ。

 

「支局へ戻れば被害状況の報告が逐次入ってきます。その情報をもとに、自分が何をなすべきか考えて、そして行動してください。昨日までの日常はもうどこにもないのですから」

 

そう言ってミヤビは車の速度を少し上げた。

 

 

 

 

東京支局に到着すると、ミヤビはそのことをヤマトに携帯で報告し、居住区の一室を使用する許可を得た。

ダイチとイオは並んでベッドに腰掛け、ミヤビは椅子に腰掛けて向かい合う。

 

「早速ですけど、おふたりの携帯を出してください」

 

彼らは黙って携帯をミヤビに差し出した。

操作をしてみるが圏外で通話は不可。

〈ニカイア〉のサイトにも繋がらない。

例の死に顔動画はデータフォルダに残されていて、再生してみるとそれが現実に起きた事象を撮影したものであるかのようにリアルなものだった。

さらに〈悪魔召喚アプリ〉は通話とは無関係らしく使用可能であることがわかった。

 

「アプリの解析のためにデータを抽出したいので、しばらくお借りします。もちろんそれが終わればすぐに返却しますから」

 

ミヤビは解析班の局員を呼び出すと、彼らの携帯を預けた。

 

「ではおふたりのご家族の情報を教えてもらいます」

 

それぞれの両親の氏名、年齢、住所、携帯電話の番号などの情報を教えてもらい、ミヤビはそれをメモした。

そしてまずは陸上自衛隊第1師団の師団長の携帯に電話をかける。

ミヤビは支局長に就任するにあたって自衛隊、警察庁、警視庁、消防庁などのトップの携帯電話の番号を登録させられた。

それはすなわちミヤビの持つ権限が彼らにも及ぶということだ。

ミヤビが自分の氏名と肩書きを名乗ると師団長は驚いていたが、すぐに彼女の依頼 ── ダイチとイオの両親を探すこと ── を承諾してくれた。

災害措置特別法第404条の件もあるが、これはヤマトが防衛省のお偉いさんと強いつながりを持っているおかげである。

同様に警察と消防にも同様の依頼をしておいた。

 

「さて…当面はおふたりのご家族の安否確認ができるのを待つだけとなります。それまでここにいてもらうのですが、何か必要なものはありませんか?」

 

そう訊くと、ダイチがすっと立って言った。

 

「トイレ、どこ?」

 

どうやらずっと我慢していたようで、気が緩んだとたんに尿意を覚えたらしい。

 

「ご案内しますからついて来てください」

 

ミヤビがそう言って立ち上がると、イオも立ち上がった。

 

「わたしも行きます」

 

ミヤビはふたりを連れて部屋を出た。

この一般局員用の部屋にはトイレはない。共用のものを使うしかないのだ。

個室にシャワーとトイレが付いているのは幹部用の部屋だけ。

こういう差があるのも実力主義を掲げるヤマトらしいやり方だ。

局員が全員出払っていることで、居住区は静まり返っている。

コツコツというミヤビのブーツの足音だけが妙に響いていた。

その音に混じって別の足音が聞こえてきた。こちらに近づいて来るようだ。

そして角を曲がったところで、ミヤビはもうひとつの足音の主と出会った。

 

「ここにいたか、ミヤビ。…ん? それが例のDケース接触者か?」

 

ミヤビの後ろにいたダイチたちを一瞥して、ヤマトは訊いた。

 

「はい。現在彼らの携帯を接収し、アプリの解析に入っております。渋谷駅においてのDケースの詳細については、これからヤマト様のもとへ赴いてご報告するつもりでおりました」

 

「そうか。しかしジプス施設内は民間人立ち入り禁止だ。無闇にうろつかせるな」

 

「申し訳ございません。手洗いへ行きたいと申しましたので、案内しているところです」

 

「ならばさっさと済ませて局長室へ来い」

 

「了解しました」

 

ミヤビがさっと敬礼すると、ヤマトはコートの裾を翻して立ち去った。

それを見ていたダイチが小声で言う。

 

「誰、アレ? 俺たちとあんまり変わらないくせに、ずいぶん偉そうじゃん」

 

「あの方の名は峰津院大和。わたしと同じ17歳ですが、このジプスの創始者である峰津院家の現当主であり、あの若さでジプスの全権力を握っている局長なんです」

 

「そ、そうなんだ…。俺、局長ってもっと年食ったオジサンかと思ってたよ。でも17歳にしては貫禄ありすぎだよな」

 

「たしかにそうですね。あの方は教育機関に属したことはありませんが、幼少の頃から様々な才能を開花させていましたから、実年齢以上に大人びて見えるのでしょう」

 

「教育機関に属したことはない…って、それ学校へ通ったことがないってこと?」

 

「そうです。峰津院家の嫡男は政治・経済、物理・科学、軍事、宗教・哲学といった様々な分野の専門家を屋敷に呼んで講義をさせるんです。彼は15歳で先代から当主の座を引き継ぎ、同時にジプスの局長に就任して日々激務をこなしています。彼は生まれながらにして組織のリーダーであり、彼なしでこの未曾有の大災害を乗り越えることなど考えられません。…さあ、行きましょう。ヤマト様のおっしゃったようにジプスの施設内は本来民間人の立ち入りは禁止なんです。用を済ませたら部屋に戻って待機していてください」

 

 

 

 

ダイチたちが部屋に戻ったところで、ミヤビは局長室へ急いだ。

 

「例の件の報告を頼む」

 

あまり機嫌が良くないのか、ヤマトはいつも以上に言葉少なめで事務的だ。

 

ミヤビは渋谷駅地下ホームで自分が見た光景、悪魔との戦闘、ダイチたちから聞いた話を詳細に説明した。

 

「なるほど…そのニカイアが悪魔の異常発生の原因だということだな?」

 

「はい。サイト登録者の意思にかかわらず悪魔召喚アプリがインストールされ、悪魔も勝手に出現してしまったようです。また所有者を失った携帯が暴走状態となり、携帯本体を破壊しなければ悪魔が続々と呼び出されるという状況をこの目で確認しました」

 

「暴走携帯については迫からも報告が上がっている。これは面倒なことになったな…。ニカイアが若者の間で流行しているとなれば、今後も同様のケースが発生する可能性は高いぞ」

 

そこまで言って彼は少し考え込んだ。

 

「しかし地震の直後に大発生した悪魔は局員たちによって制圧し、以後は悪魔の発生が激減している。どういうことだ?」

 

ひとり言のように呟いたヤマトに、ミヤビは自身の考えを述べた。

 

「これはわたしの推測ですが、ニカイアのサイト登録者がすべて悪魔召喚アプリをインストールした携帯を所持しているのではないと思います」

 

「どういう意味だ?」

 

「はい。志島・新田両名の証言ですと、ふたりは列車事故に巻き込まれて瀕死の状況に陥り、その際にニカイアのナビゲーターから生きる意思を問われたということです。そこで生きる覚悟を示した直後に悪魔召喚アプリが自動的にダウンロードされたというのですから、ここで生死の選択がされ、死んだ者の携帯には悪魔召喚アプリはダウンロードされなかったと思われます」

 

「しかし生きるか死ぬか選べと言われて死を選ぶとは思えぬ。したがってサイト登録者とアプリをインストールした携帯の所持者の数は大差ないのではないか?」

 

「ヤマト様のおっしゃるとおり生死を問われて死を選ぶ者はいないでしょう。ではなぜニカイアは生きる意思を問うのでしょうか?」

 

「さあな」

 

「当該Dケースの発生は列車の脱線事故の起きたいくつかの駅の地下ホームと、建物が半壊したアミューズメント施設に集中しています。共通点はニカイアに登録した若者が多くいるであろう場所ということ。そしてどちらも大勢の死者が出ていること。このふたつの事実から推測できるのは、サイト登録者に生きる意思を問い、何らかの条件を満たした者にだけ生き残るチャンスが与えられたのではないかということです。命が失われるほどの状況にならなければニカイアに生死の選択を迫られることはない。つまりニカイアに登録していても死ぬような危険に晒され、尚且つ悪魔を召喚できる最低限の霊力を持っていて、生きる強い意思を持つ者でなければ悪魔召喚アプリを手に入れることはできない。もっともどういう基準で判断しているのかは不明ですが。そして出現した悪魔を倒すことができた者、つまり契約戦で勝利した者はサマナーとなり、死亡した者の携帯は暴走して悪魔を吐き続けるのだと考えます」

 

「なるほど…」

 

「よって地震の直後に多数発生した悪魔については一時的なもので、これからはここまで多くの悪魔の出現はないと判断します。問題はこのアプリ製作者が悪魔召喚アプリを与えた理由が不明だということです。悪魔がセプテントリオンに対して唯一の武器であることを知っているのはジプス関係者のみ。ならばニカイアの運営や悪魔召喚アプリの製作者はわたしたちの比較的近くにいる者。そして死亡するはずの人間を生きながらえさせるという神のような力を持つとなれば、()しかいないということになります」

 

ミヤビの考えにヤマトも納得したのか大きく頷いた。

 

「面白い考えだ。まあ、とにかくデータ解析が済むまでこの件は保留としよう。…ところでお前は私の許可を得ずに自衛隊や警察に個人的な捜索願を依頼したそうだな」

 

ミヤビはダイチたちの両親の捜索願を出したことがもうヤマトの耳に入っていると知って少し驚いた。

 

「志島・新田の両名はすすんでジプスに協力してくれましたから、その礼として東京支局長の権限において捜索願を依頼しました。彼らに悪魔を悪用するような気配は見られませんから、なるべく早く保護者を見つけて帰すのが正解かと。なにしろ相手は未成年者ですから、彼らだけで放り出すことはできません。この件についてご不満がございましたら、処分でも何でもなさってくださってけっこうです」

 

ミヤビは越権行為をしたとは思っていないので少し強気に出た。

するとヤマトはフッと笑って言った。

 

「別にお前を咎めているのではない。むしろ自身の判断で行動したことを褒めてやりたいくらいだ。私は有能な人間にはそれ相応の権限を与えるべきだと考えている。お前に支局長という責務を背負わせたのは間違いではなかったと確信したよ。逆にこのような雑事で私を煩わせるようなことになれば、それこそ訓告くらいはしていただろうな」

 

「恐れ入ります」

 

「…ではお前に問う。まもなく最初の敵が現れるが、お前はどうする?」

 

ヤマトは尋ねた。

ミヤビの答えがひとつしかないことを知っていながら。

 

「もちろん前線に立ち、先頭を切って敵に向かいます。現在の立場では愚かしいことでしょうが、わたしはこれまでこの時のために訓練を続けてきたのですから」

 

「フッ…やはりそう言うと思ったよ。ポラリスの一撃が結界で防がれた以上、セプテントリオンが襲来するのは確実だ。約束された時間まであと僅か。お前は局内で待機し、いつでも出動できる態勢でいろ。迫には引き続きDケースの処理に当たらせる。セプテントリオンはお前に任せた。良いな?」

 

「了解しました」

 

 






地震で交通障害が出ているために、地下通路を使って移動するわけですが、車を使用しないと時間的に無理が出てきます。
そこで局員は全員が運転免許を持っている設定にしました。ヒロインも入局してすぐに免許を取りました。
ジプスならそういった特例も許されるだろうと考えたからです。
もちろん飲酒と喫煙は20歳になるまで不可です。

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