DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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1st Day 憂鬱の日曜日 -3-

それは突然空から降って来た。

司令室のメインモニターに映っているのはアイスクリームのコーンの上に丸い物体が載っているような、キノコに似た形状の怪物。

それこそが第一のセプテントリオン・ドゥベである。

 

「ミヤビ、予定通りドゥベは新橋におびき寄せる。お前は新橋駅前でドゥベを待て」

 

「はい」

 

「ひとりで大丈夫だな?」

 

「もちろんです。ご期待を裏切るようなことは決してございません。…では、行ってまいります」

 

ミヤビはそう答えると、地下通路を通って新橋駅前広場へ向かった。

 

 

一方、ヤマトは発令塔の椅子に座ると脚を組んだ。そして両手を膝の上で組んで言う。

 

「まずは最初の敵か。どう出るかな?」

 

敵の襲来だというのに、彼の表情は楽しそうだ。

 

「上野不忍池付近に悪魔反応多数! 封印が解かれたようです」

 

計器を観測している局員が報告する。

 

「迫を向かわせろ。それからメインモニターを新橋駅前に変更。ドゥベの様子はどうだ?」

 

ヤマトの指示に従い、局員がメインモニターの映像を切り替えた。

そこには広場の上空にドゥベがゆらゆらと揺れながら降りて来る様子が映し出された。

 

 

 

 

それはミヤビが今までに見た悪魔と違い、巨大で得体のしれない不気味な存在だった。

ドゥベはゆっくりと降りて来て、彼女のいる場所から100メートルほど離れた場所の地面に接したかと思うと、傘の部分が膨張して爆発した。

半径20メートルほどが爆発に巻き込まれ、そこにあった建物の瓦礫が一瞬にして灰と化した。

しかし事前に民間人を避難させておいたことで人的被害は出ていない。

悪夢のような現実を目の当たりにするが、彼女は冷静に状況を判断した。

 

(携帯に表示される敵データによるとすべての属性に耐性があるというやっかいなヤツであることは確か。でもレベルは20という低さだわ。ポラリスは人間を甘く見ているのか、それとも初手だから様子見をしているのかしら。まあ、これは想定内のことよ。特に慌てることはないわ。わたしとビャッコならいけるはずだもの)

 

「出でよ、ビャッコ!」

 

ミヤビはビャッコを召喚した。

 

「ビャッコ、頑張ってね」

 

「承知した、主」

 

ビャッコはそう言うとドゥベに向かって駆け出した。

その間に傘の部分が新たに出現し、だんだん大きくなっていく。

今度は傘の部分から小さなミサイルのようなものがビャッコに向けて発射された。

ミサイルは動くものに反応するらしい。

しかしビャッコはそれを上手くかわして近づいて行った。

どうやら傘の部分はある程度の大きさになると爆発し、次の爆発まで数分の時間がかかるようだ。

ならばその間に本体ともいえる足の部分を破壊してしまえばいい。

そう考えたミヤビは危険を承知でドゥベに近づく。

そしてビャッコからミヤビへと標的を変えたドゥベは傘を膨らませてその爆発に彼女を巻き込もうとした。

ミヤビは爆発のタイミングを読み、とっさに近くの瓦礫の山に隠れて爆発の直撃を避ける。

 

「今よ、ビャッコ!」

 

ミヤビが叫んだ次の瞬間、ビャッコはドゥベの足の部分に噛みつき、そのまま喰いちぎって一気に(コア)を破壊した。

するとドゥベは霧散し、跡形もなく消えてしまった。

 

「やった…」

 

ミヤビは急に足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 

 

 

 

司令室のモニター越しにミヤビの活躍を見守っていたヤマトはドゥベの消滅を確認すると安堵の笑みを浮かべた。

 

(さすがだな、ミヤビ。鮮やかな手際だ。もっともドゥベごときに手こずるようでは先が思いやられるがな)

 

人間にとってファーストインパクトとなるドゥベの襲来をいとも簡単に跳ね除けたミヤビの活躍を誰もが認めざるをえない。

ヤマトが彼女に東京支局長という肩書きを与えたことを未だに不満に思っている局員もいたが、これで納得することだろう。

ヤマトはミヤビの労をねぎらおうと、自ら支局のエントランスで彼女を出迎えた。

ミヤビは思いがけぬ待遇に驚くと同時に胸が熱くなった。

ヤマトが部下の帰還に際して足を運ぶというのは異例中の異例であり、それだけ自分のことを評価してくれているとなれば嬉しいに決まっている。

 

「ご苦労だった、ミヤビ。私の期待を裏切らぬ見事な戦いだったぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

(普段から人を褒めるようなことは絶対にないヤマト様がわざわざわたしが戻って来るタイミングでエントランスまで出迎えてまで労をねぎらってくれた。言葉は少ないけど、これは最高の賛辞であると思って良いわよね。ヤマト様の言葉ひとつで疲れも一気に吹き飛んでしまったわ)

 

ミヤビは嬉しさで顔が緩むのを耐えて、深くお辞儀をした。

 

「今日は疲れているだろう。報告書は明日でかまわぬ。ゆっくり休んで、明日に備えろ。良いな?」

 

「はい、了解しました」

 

ヤマトはミヤビに労いの言葉をかけると司令室の方へ去って行った。

その後ろ姿を見つめながら、ミヤビは思った。

 

(悪魔を召喚して戦うのは体力的にかなり疲れるけど、それ以上にヤマト様は精神的に疲れているはず。それなのにそんな素振りを微塵も見せない。さすがはジプスの最高責任者だわ。そんな素晴らしい方にお仕えしているわたしはなんて果報者かしら)

 

嬉しくて胸がいっぱいになるが、自分の立場ではいつまでも感傷に浸っていることはできないと身を引き締めた。

そしてミヤビは自室に戻る前にダイチとイオの様子を見ようと、ふたりのいる部屋へ向かった。

彼らの家族はまだ見つかっておらず、良い報告ができないのを心苦しく思いながら部屋のドアを開けると、ふたりはそれぞれベッドと椅子に腰掛けてぼんやりしていた。

 

「ミヤビちゃん!」 「ミヤビさん!」

 

ふたりが同時に彼女の名を呼んだ。

 

「今までどこで何をしていたんだ? ここの人は俺たちには何も教えてくれないから、心配してたんだよ」

 

ミヤビは自分を心配してくれる人がいるということに少し驚いた。

数時間前までは赤の他人であった彼らが自分のことなど気にかけているとは思ってもいなかったからだ。

 

「申し訳ありません。ちょっと仕事で外に出ていたんです」

 

「また悪魔を退治に?」

 

「まあ、似たようなものです」

 

悪魔などおよびもつかない強大な敵などと言って彼らを怯えさせることはないと、ミヤビは曖昧な答え方をした。

それよりもミヤビはテーブルの上に置かれたままになっている食事の盆が気になった。

 

「なぜ食事していないんですか?」

 

そう訊くと、イオが答えた。

 

「さっきジプスの人が持って来てくれたんですけど、そんな気分になれなくて」

 

「でも今食べておかないと、次にいつ食事ができるかわからない状況なんです。食べられる時に食べておいてください」

 

「…わかりました」

 

わかったとは言っても食べてくれるかどうかわからない。

そこでミヤビは考えた。

 

「実はわたしも夕食がまだなんです。自分の分をここに持って来ますから、一緒に食べましょう」

 

自分が一緒にいれば、無理にでも食べてくれるだろうという意味だ。

 

(無事に家族が見つかったとしても、避難所では十分な食料の配給は受けられない。ならばここで少しでも食べておいてもらわなきゃ。せっかく生きる意思を示したのだから、最後まで生き延びてもらいたいわ)

 

ミヤビは食堂へ行くと、ダイチたちと同じA定食を頼んでそれを持ち出した。

ジプスの確保した食料にも限界がある。

そのためカロリーや栄養バランスなどが厳密に計算しつくしされたメニューが開発されている。

A定食は内勤の局員用で、戦闘部隊のようなハードワークに携わる者にはカロリーが高めの料理が加わったB定食がある。

本来なら彼女はB定食なのだが、自分だけ豪華なメニューというわけにはいかない。そこで同じものにしたのだ。

 

(足りない分は明日の朝食で補えば良いものね)

 

ダイチたちの待つ部屋に戻ると、ミヤビは努めて明るく振舞うようにした。

地上で起きている悲惨な出来事から目を逸らすことはできないが、せめて食事の時くらいは楽しい話をしたいという気遣いだ。

しかし今はどんな話をしようとも、地震や悪魔のことに触れざるをえない。

とりあえずダイチとイオが食事をしてくれたので、ミヤビは安心して自室に戻ったのだった。

 

 

 

 

その頃、ヤマトは自室で今日の出来事を思い返していた。

 

(ミヤビには現場での知識や経験を積ませてきたが、単にサマナーとしての成長だけでなく、状況判断力や洞察力といった机上では学べないものも身に付けて上手く活用している)

 

彼の手にはマコトが提出したDケースの報告書がある。

そのページをめくりながら、ミヤビの〈ニカイア〉及び〈悪魔召喚アプリ〉の仮説について考えた。

 

(やはり想定外の悪魔の出現はニカイアというサイトが原因に違いない。悪魔召喚アプリなどという怪しげなものが民間人の手に渡り、クズ共が悪魔を召喚したものの、手に負えなくて野良状態にさせてしまったようだな。まったく人手不足だというのに、余計な手間をかけさせてくれたものだ。…ニカイアが若者の間で流行しているという事実と様々な状況証拠から、ミヤビはひとつの仮説を導き出した。ニカイア登録者がすべて悪魔召喚アプリをインストールした携帯を所持しているわけではないという。ニカイアによるDケースの発生場所とその共通点から、死に直面した者にだけ生きる意思を問い、条件に見合った者にだけ悪魔召喚アプリを与えたのではないという彼女の考えは筋道が通っている。さらに悪魔がセプテントリオンに対する唯一の武器であるということから、ニカイア運営者及び悪魔召喚アプリ作者はジプスに近い者だと言っていたな)

 

ジプスに近い者…ヤマトはある人物の顔を思い浮かべた。

 

(奴ならそれだけの力を持っている。人間に肩入れしすぎた奴ならやりかねないからな。ミヤビも同じことを考えているようだから、ほぼ間違いないだろう)

 

ちょうどその時だった。ヤマトの背後から声をかける者がいた。

昨夜、ミヤビのもとに現れたアルコルだ。

 

「やあ、ヤマト」

 

「…貴様か」

 

ヤマトは客に振り向きもせずに言った。

 

「久しぶりだね」

 

「何を今更。しかし何のつもりだ? 神との戦いが始まったい以上、もはや貴様に用はない。…いや、ひとつ訊きたいことがある」

 

「何だい?」

 

「ニカイアと悪魔召喚アプリのことだ。アレは貴様の仕業なのだろ?」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「貴様のような人外の者でなければできぬ芸当だ。一体何を企んでいる?」

 

「何も企んでなどいないよ。私はポラリスの下した判定に憤りを感じている。だから人間に抗う術を与えたまでだ。それより君たちは考えを変える気はないのかい?」

 

「君たち、とはどういう意味だ?」

 

「君とミヤビのふたりのことだよ。彼女は君のためなら命すら厭わないという覚悟でいるようだ」

 

「当然だ。彼女は私の理想を正しく理解しているからな。強者が弱者を支配する世界…これは真理であり、私の定める秩序に従えばポラリスも人間を滅ぼすことはなくなる」

 

「……」

 

「私がポラリスと謁見し、実力主義を根本とした新世界を創造する。貴様が私を認めようと認めまいと、私は私の信じる道を進むまでだ。ミヤビは聡明な人間だ、貴様のような人外に惑わされることはない。そもそも貴様がセプテントリオンである以上、戦いは避けられないものと覚悟している。私のやり方が気に入らぬなら、いずれ貴様とは決着をつけねばならぬだろう。もちろんその時には私だけでなくミヤビという強敵も相手にすることになるのを忘れるなよ」

 

ヤマトが挑戦状を叩きつけるように言い放つと、アルコルは哀しげな笑みを浮かべた。

 

「変わらないね、君は」

 

「貴様もな。…用がなければ早く去れ」

 

その言葉に返事をすることもなく、アルコルは姿を消した。

 

「フン、バケモノが…」

 

そう呟くと、ヤマトはソファーの背もたれに身を預けて目を瞑った。

 

 

 

 

ヤマトとアルコルの出会いは10年以上前にさかのぼる。

それはヤマトがまだミヤビと出会う前のことである。

当時のヤマトは峰津院家次期当主として厳格に育てられ、屋敷から出ることすらなかったために接する人間は父親のミズホ ── 母親は彼を出産してほどなく他界していた ── と十数人の使用人だけであった。

そのミズホも多忙で東京支局に詰めていることが多かったから、月に1-2度顔を合わすだけというもの。

家族の愛情など知らず、また友人などというものをつくることなどできようはずがなかったのだ。

もっともそれが当然という環境で育てられていたので、彼は孤独を感じることもなかった。

そんな彼の前に現れたのがアルコルだった。

ヤマトにとってアルコルは迷惑なものでしかなかったが、アルコルにはヤマトが「輝く者」として人間の未来を託せる唯一の存在として見えていた。

有り余る才能と数限りない選択肢を持つヤマトにそういう期待を持ったのは当然であろう。

彼こそが自分の慈しんだ人間をポラリスから救う存在になると信じたアルコルはヤマトに様々な情報を与えた。

元々峰津院家の次期当主として《古の盟約》について聞かされていたヤマトだったから、アルコルの持つ情報や知識は有益なものとなった。

しかしヤマトはアルコルの期待とは裏腹に、自らの進む道を早々に決めてしまった。

よって選択肢は狭まり、ひとつの考えに固執する彼に対しアルコルは興味を失っていった。

ミヤビが現れた時には、彼女がヤマトに変化を与えるだろうと期待をした。

ミヤビ自身もヤマトと同じくらい才能と可能性を秘めていたからだ。

彼女はアルコルを主の客人という程度にしか意識していなかったが、セプテントリオンでありながら人間に肩入れするアルコルに好意的に接するようになった。

ヤマトとミヤビとアルコルの関係は比較的良好なものだった。

ヤマトはアルコルを邪険にすることもなく、チェスを教えて相手をさせたり、ミヤビに茶を淹れさせて3人でティータイムを楽しむなど友好的なものだった。

しかしその関係も2年前に破綻した。

ヤマトのジプス局長就任がきっかけだった。

ヤマトが実力主義を理とした世界を創造することを宣言し、ミヤビはそれに従うとはっきりアルコルに意思を示したのだ。

それまではミヤビがヤマトを変え、ふたりで輝く者となって世界を導くと信じていたアルコルは、ミヤビすら自分の期待に沿うことはないと幻滅してしまう。

以来、アルコルはふたりの前に姿を現さなくなった。

昨日ミヤビの前に現れたのは2年ぶりで、その時にも考えが変わっていないことを改めて確認することとなった。

ヤマトもまた自身の考えを変える気はないと言う。

こうなることは想定済みのことであり、アルコルはヤマトたちではなく他の人間に自分の願いを託すしかないと考えた。

それが〈ニカイア〉と〈悪魔召喚アプリ〉という形となって不特定多数の人間にばらまかれたわけだ。

生きる強い意思を持ち、悪魔と契約してでも戦って生き残る者であれば、少なくともヤマトやミヤビにも対抗しうる存在となる。

その人物がどのような理想を持つかはわからないが、少なくともヤマトたちに影響を与える者となるだろう。

アルコルはそう考えた。

しかしヤマトが変わるかどうかは、さすがのアルコルでさえもまだわからない。

 

 

 






ヒロイン vs ドゥベ。
戦闘シーンをもっと細かく書きたかったのですが、作者の能力不足により簡単なものになってしまいました。
これからも彼女はセプテントリオンと戦いますが、あっさりめの戦闘シーンになるでしょう。

ヤマトはヒロインのことを誰よりも認め、その結果を評価しています。
ですから彼女のお出迎えくらいはしてくれそうです。

ヤマトとアルコルの過去については殆ど資料がないので、推測と想像で書いてみました。


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