DEVIL SURVIVOR 2  You changed my world.   作:ルーチェ

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2nd Day 激動の月曜日 -3-

「戦車隊、壊滅…」

 

「セプテントリオン・メラク、新大阪より南に向かって進行中」

 

司令室の局員たちが現在の状況を淡々と告げていく様子を車内のモニター越しで見つめていたミヤビは愕然とした。

十三大橋には自衛隊の戦車がずらりと並んで迎撃態勢をとっていたがメラクにはその強力な砲は効かず、逆にメラクが撒き散らす爆弾のようなものによってあっという間に全滅してしまったのだ。

これでセプテントリオンには通常の攻撃ではまったく効果がないことがはっきり証明されたわけだ。

そしてセプテントリオンに対して唯一対抗しうる力が悪魔使いたちの召喚する悪魔だけだということを印象づけられることになるだろう。

 

「くだらぬ政治はここまでだ。これよりジプスの戦力で敵を殲滅する。…始めろ」

 

ヤマトの命令によって作戦が開始された。

どうやら政府の一部の人間はジプスの力を信じずに自分たちの戦力、つまり自衛隊によってメラクを倒すことができると高を括っていたようだ。

おかげで犠牲者は増えてしまった。

今頃ヤマトは「無能な連中」のことをあざ笑っているに違いない。

 

「霊的防御を失ったため、敵は万全の状態で出現した。戦力は想定していたものの恐らく10倍以上…。メラクの目的は大阪の結界・通天閣。これを失えば大阪が消えることとなる。サマナーの小隊をメラク進行ルートに配置。大阪本局の全戦力をもって迎撃する」

 

車内モニターの映像がメラクの姿から大阪の地図に変わる。

そしてその上には「新大阪防衛ライン」「梅田防衛ライン」「大阪市庁舎防衛ライン」「瓦町防衛ライン」「中央通り防衛ライン」「難波防衛ライン」「最終防衛ライン」と通天閣に向かって来るメラクを7段階に分けて迎撃するという作戦が表示された。

すでに新大阪防衛ラインの位置には「通信途絶」と表示されているから、あと6つの防衛ラインでメラクを迎え撃つことになる。

民間人協力者もジプス局員と共にメラクと戦うことになり、ミヤビは最終防衛ラインに配置されることとなった。

 

 

 

 

ミヤビと同行していた民間人の悪魔使いたちを、ヤマトはメラク迎撃のための防衛ラインに配置した。

ヒナコは瓦町、ケイタは難波。

そしてミヤビのいる最終防衛ラインはなんばパークス屋上で、ここが決戦の地となる。

一方、戦闘能力が低すぎるということでダイチは救護班に回され、そしてイオは本局内で待機となっている。

これはヤマトが判断した各悪魔使いの能力と「役割」によるもの。

新大阪防衛ラインを突破され、まもなく梅田防衛ラインでの迎撃が開始される状況で有能な悪魔使いを後ろに置いて温存するには理由がある。

梅田や大阪市庁舎に配置したジプス局員たちと戦わせてメラクの能力を得ようという算段なのだ。

ヤマトにとって自分の部下は捨て駒のひとつでしかなく、局員たちも自分の存在意義をわきまえている。

だからこそ混乱は起きず、ただ淡々と目の前の敵に対して戦いを挑んでいた。

 

「う、梅田防衛ライン…全滅…」

 

モニターには「梅田防衛ライン生存率0%」、そして参戦していたジプス局員の名と「DEAD」の文字が表示されている。

それは司令室のモニターだけでなく、各防衛ラインの責任者の持つタブレット端末にも転送されていた。

次の防衛ラインの大阪市庁舎で待機する局員たちに緊張が走った。

状況は圧倒的に不利だがヤマトにはまだ余裕があった。彼には勝算があったのだ。

しかし次のメラクの攻撃を目の当たりにし、さすがの彼も焦りの色が見え始めた。

なにしろメラクが放った冷凍ビーム〈周極の巨砲〉はビルの間を抜けて、通天閣を掠めたのだから。

その破壊力はけた外れに大きく、防御壁を張っていた地下祭壇の呪者に犠牲者が出るほど激しいものだったのだ。

掠めただけでも多大な被害が出たこの攻撃が通天閣に直撃すれば大阪の街は一瞬で消え去ることだろう。

さらに状況は悪化し、大阪市庁舎防衛ラインも沈黙した。

さすがにこの状態を静観していられなくなったミヤビはヤマトに呼びかけた。

 

「わたしを前線に出してください! ビャッコなら戦えるはずです!」

 

ヤマトが現場に出て来ない以上、最強の悪魔はビャッコであり、その悪魔使いである自分が最前線に出れば犠牲は減らせるはず。

そう考えた彼女はヤマトに上申した。

 

「それは許可できない。お前はそこで私の指示を待て」

 

ヤマトの声は大勢の部下を失ったというのに冷静だ。いや冷静というより冷酷と言っていいだろう。

 

「わたしが最前線に出れば無意味な犠牲は減ります。どうかわたしを ── 」

 

「敵の能力は想定以上、不確定要素の多い状態だ。無策でお前をぶつけることはできぬ」

 

「だからといってじっと見ているだけなんてできません!」

 

「ならば目を瞑り、耳を塞いでいろ」

 

こうなるとミヤビも後には退けない。

ここにいれば残りの防衛ラインが突破される様子を、指を咥えて見ているしかできないのだ。

それは各防衛ラインにいるヒナコやケイタを見殺しにするのと同義で、目を瞑って耳を塞いでいたら彼女たちを喪うことは避けられない。

 

「命令違反を承知で、好きにさせていただきます!」

 

ミヤビは電話を切ると、すぐさまビャッコを召喚した。すると周りにいた局員たちが彼女を囲む。

 

「勝手なことをされては困ります。おとなしく局長の指示に従ってください」

 

最終防衛ラインのリーダーの男性局員が彼女の前に立ち塞がった。

 

「いいえ、わたしは行きます」

 

「それでは我々が局長に叱られます」

 

「でもあなたたちもこれ以上仲間が死ぬのは見たくないでしょ?」

 

「……」

 

死ぬ覚悟はできていても、彼らは死にたいわけではない。

仲間を失いたくはないのはミヤビだけではなく、彼らもまた同じ気持ちなのだ。

 

「わたしは自分にできることをやるだけです。犬死なんてするつもりはありません。結果を出し、生きて帰って、ヤマト様に釈明をするつもりですから」

 

そう言い残してミヤビはビャッコに跨ると宙空へ躍り出たのだった。

 

 

 

 

ミヤビが瓦町防衛ラインに近づくと、そこではジプス局員たちの召喚したエンジェルがメラクに攻撃していた。

しかしメラクから発射されるミサイルによって次々に消滅させられる。

上空から見る限り、ヒナコと局員たちにはまだ犠牲者は出ていないようだった。

ミヤビが彼女たちのいる場所へ降下しようとした次の瞬間、メラクが彼女たちに向けてミサイルを発射した。

 

「ビャッコ、ジオダインよ!」

 

ミヤビはビャッコに〈ジオダイン〉を放つよう命じた。

するとミサイルは上空で爆破し、ヒナコたちへの直撃は免れた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

ビャッコが地上へ降り立つやいなや、ミヤビは爆風で吹き飛ばされたヒナコに駆け寄った。

 

「ミヤビちゃん!? あんた、しんがりやないの!?」

 

「みなさんを見殺しにはできません!」

 

「何言ってんの! すぐ戻り!」

 

ヒナコはヤマトの作戦を知っており、ミヤビに戻れと言う。

しかしミヤビは首を横に振った。

 

「ここでわたしがメラクの進撃を食い止めます。…ビャッコ!」

 

ビャッコはメラク本体に〈ジオダイン〉を放つが、ミサイルと違ってまったく効果はなかった。

そしてメラクは再びミサイルを発射した。

その数は数十を数え、再度召喚されたエンジェルたちを吹き飛ばす。

そしてミサイルのいくつかはエンジェルたちの防御壁を越えてミヤビたちの方に飛んで来た。

 

「あかん、ミヤビちゃん!」

 

そう叫んだヒナコはミヤビの上に覆いかぶさった。

ミヤビを守ろうとしたビャッコによってミサイルは破壊されたが、間近であったために爆風とミサイルの破片が彼女たちを襲う。

爆風によって巻き上げられた砂塵で何も見えないが、ミヤビには自分の上に覆いかぶさって血を流しているヒナコの苦しそうな顔だけが見えた。

 

「ヒナコさん!」

 

ミヤビは起き上がると彼女のぐったりとした身体を抱きしめた。

 

「しっかりして、ヒナコさん!」

 

声をかけると、彼女はうっすらと目を開けた。

 

「ミヤビ…ちゃん…こそ…大丈夫…なん…?」

 

今にも消えそうな声でミヤビの安否を気にするヒナコ。

 

「わたしはヒナコさんのおかげで無傷です。すぐに人を呼びますのでしっかりしてください。…誰か来てください! 誰か、早く!」

 

ミヤビの声に反応する者はいなかった。

砂煙が落ち着いて周囲の様子が見えるようになり、彼女は愕然とした。

そこには十数名の局員たちがいたはずなのだが今は誰もいない。

いや、そうではなかった。彼らは爆風によって吹き飛ばされ、十数メートル離れた場所で倒れていたのだ。

ミヤビは急いで救護班の派遣を依頼すると、メラクの後を追うためにビャッコを呼び寄せた。

するとビャッコは彼女の背後の何かに向かって唸り声を上げ始めた。

 

「どうしたの、ビャッコ?」

 

振り向きざま、彼女は数メートル離れた場所に人の姿を見つけた。

 

「アルコル…!?」

 

その人物はアルコルだった。

 

「大丈夫かい? 常人よりはるかに高い霊力を持つおかげで君だけは無事だったみたいだね」

 

彼は微笑みながらミヤビに言う。

 

「何を言っているんですか!? こうなったのもあなたのせいじゃありませんか! あなたがフミさんを誘拐して、ジプスのシステムに侵入して霊的防御機能をストップさせたんですよね?」

 

「まあね。私はヤマトの創ろうとしている世界を肯定できないから」

 

「だからといってこんなことをすれば人間そのものが消えてしまう。人間のことが好きだなどと言っても、あなたは所詮セプテントリオンなんですね。こうして無駄話をしてわたしの時間を奪おうというのでしょうがそうはいきません。わたしは戦わなければならないんです!」

 

「そうだね…。早く行かないと」

 

アルコルは通天閣の方を見ながら言う。

 

「あの子は今、戦おうとしている」

 

「あの子…?」

 

「君と一緒に来た人間だよ。君の代わりに最終防衛ラインに配置されたようだね」

 

「まさか…」

 

ミヤビの脳裏にイオの顔が浮かんだ。

 

「ダメ…彼女じゃ勝てるはずがない」

 

「でもそれは君の選択の結果だよ」

 

「え…?」

 

「君が持ち場を離れたから、ヤマトは彼女を最終防衛ラインに投入した。もしかしたら君が勝手な行動をするかもしれないと睨んで、ヤマトは彼女を待機させておいたのかな。なにしろフェスティバルゲートでも君はヤマトの命令に逆らったのだからね」

 

「……」

 

「ミヤビ、君の選択は友人たちを危険な目に合わせている。現にこの人間も君を庇って負傷した。それでも君は自分の判断を正しいと信じて行動するのかい?」

 

ミヤビは心臓をぎゅっと掴まれた気がした。

 

(自分がいなければヒナコさんはこんな大怪我を負わずにいたかもしれない。だとするとわたしの行動は仲間たちを危険に晒しているようなもの。このままイオさんのいる最終防衛ラインにわたしが向うのは正しいことなの?…わたしの選択が大勢の人の運命を左右するのよ、冷静になって考えなさい!)

 

 

 

 

ミヤビが迷っていた頃、イオは最終防衛ラインに到着していた。

詳しい説明もなくヤマトに指示されただけなので、彼女は戸惑っている。

おまけに最終防衛ラインにいるはずのミヤビがいないのだから不安にもなる。

 

「あの…ミヤビさんは…?」

 

携帯の向こうにいるヤマトに訊くイオ。

 

「彼女は別の場所にいる。お前は戦闘に集中しろ。…通天閣を守れ」

 

「はい!」

 

イオは逃げ出したい気持ちを奮い立たせて視界に入って来たメラクを睨みつける。

 

(怖い…。けど、わたしがやらなきゃ。ミヤビさんばかりに危険なことをさせちゃダメだよね。…それに地下鉄の事故の時に助けられて、まだお礼もしていないんだもの)

 

彼女の両側にジプス局員たちが一列に並ぶ。

 

「戦闘開始!」

 

ジプスの悪魔使いたちは一斉に悪魔を呼び出した。幻魔ジャンバヴァンだ。

錫杖を右手に持つ熊の姿をしたジャンバヴァンが一列に並んでいる様子は壮観である。

しかしレベル13の悪魔では数があってもメラクを倒すことは不可能だ。

本人たちはそれを重々承知しているが、それでも戦わなければならない。

それが自分たちの役目である以上、やらなければならないのだ。

そんな悲壮感漂う局員たちの間で、イオは覚悟を決めた。

 

(峰津院さんがわたしを使うってことは、わたしにそれだけの力があるってこと。頑張らなきゃ!)

 

イオは携帯を構えて叫んだ。

 

「キクリヒメ!」

 

彼女の声と共に出現したのは女神キクリヒメ。

その姿を見た局員たちは驚きの声を上げた。

 

「キクリヒメだと…!?」

 

「我々の使役している悪魔の倍以上のレベルだぞ!」

 

キクリヒメのレベルは27。

長期にわたる訓練によって召喚が可能となった悪魔よりはるかにレベルの高い悪魔を民間人が呼び出したのだから驚くのは当然だ。

キクリヒメは大阪へ来る際の列車の中で彼女が〈悪魔召喚アプリ〉の機能のひとつである悪魔オークション〈デビオク〉を試してみて入手したものだが、これはすなわち彼女がレベル27の悪魔を使役できるだけの霊力と強い意思を持つに至った証拠でもある。

ちなみにダイチは神獣ヘケト、レベル13の悪魔を使役できるようになっていた。

ジプス局員と同レベルの悪魔を召喚できるようになったというのに戦力外通告をされたのだから、ダイチは不満げであった。

 

「キクリヒメ、お願い!」

 

イオが命じると、キクリヒメはビルの谷間をジャンプしながらメラクに迫って行く。

メラクからはミサイルが発射されるが、それを華麗にかわし〈万魔の乱舞〉でメラク本体を攻撃した。

 

「キクリヒメを援護しろ! ここで落とすぞ!」

 

ジャンバヴァンの軍勢は一斉に錫杖を地面に打ち付け〈アギ〉を放つ。

キリクヒメの〈万魔の乱舞〉とジャンバヴァンの〈アギ〉の同時攻撃はかなりの効果があったようだ。

メラクは“脱皮”し、進撃の足を止めた。

しかし〈周極の巨砲〉を撃つべく放電管を伸ばしていく。

通天閣はすぐ側で、ここからなら直撃は免れないだろう。

その間にもキリクヒメとジャンバヴァンの攻撃は続くが、決定的なダメージを与えることはできずにいた。

このままではメラクは最後の力を振り絞って〈周極の巨砲〉を撃つことだろう。

局員たちの顔に焦りと恐怖の色が浮かんだ。

メラクの放電管が完全に伸びきったその時だった。

 

「いやぁー!」

 

悲鳴を上げて目を瞑ってしまうイオ。

しかしメラクの攻撃はなく、地上から聞き覚えのある凛とした力強い声が響いた。

 

「ザンダイン!」

 

〈ザンダイン〉はメラクの弱点である衝撃属性の魔法攻撃である。

声の主はミヤビで、メラクは放電管を伸ばしたままユラユラと左右に揺れた。

 

「貫け、ビャッコ!」

 

ミヤビの命令と同時にビャッコは弱体化したメラクの胴体を貫き、コアを破壊されたメラクの身体はギギギ、と不快な音を発して霧散していった。

 

 

 

 

「メラク…沈黙。反応が消失していきます」

 

大阪本局の司令室ではヤマトたちがメラクの消えていく様子をモニター越しに確認していた。

 

「やったぞ!」

 

「良かった…」

 

緊張感から解放され、無事を喜ぶ局員たちの姿がある。

ヤマトもまた強張らせていた表情を緩めた。

しかしそれで終わりではなかった。

司令室に警報が鳴り響き、そしてメインモニターには「WARNING」の文字が点滅している。

 

「名古屋支局が何者かに占拠されました!」

 

名古屋ではジプスのやり方に反対する暴徒が食料品や医療品の略奪を繰り返していたが、とうとうジプスの支局が占拠されるという事態に陥ってしまったのだ。

今朝〇八〇〇時の段階で東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、別府…この6つの都市は被害があったのものの連絡は取れた。

しかし会議を待たずして別府との連絡は途絶え、メラク出現とほぼ同時期に福岡との連絡は途絶えていた。

通信が途絶えたというのは、このふたつの都市が消失したという意味である。

これで名古屋まで失うとなると、ジプスの機能は著しく低下するのは明らかだ。

 

「状況確認、急げ!」

 

ヤマトの指示で端末を操作する局員のひとりが叫ぶ。

 

「わかりました!…首謀者は…元ジプス局員、栗木ロナウドです!」

 

「なんだと…?」

 

ヤマトにはその名に覚えがあった。

父親が日本人で母親がブラジル人というハーフで、ジプスに入局する前は刑事であった男だ。

刑事時代の先輩という人物がジプスと峰津院家を調べていたが失踪したという事件があった。

それをヤマトの謀略だとして、またヤマトのやり方にも意を唱え、ジプスを抜けたという過去がある。

そしてヤマトに個人的な恨みを抱き、民間人を扇動して名古屋支局を強襲した。

しかしその失踪事件についてはヤマト及びジプスは関与していない。

危険を感じた刑事が自ら姿を消したに過ぎないのだ。だからロナウドの逆恨みである。

たぶんそれを説明してもロナウドには言い訳にしか聞こえないことだろう。

そしてヤマトは彼に弁明する気はさらさらない。よって全面対決となるのは自然な流れだ。

 

「ただちに名古屋支局の暴徒を取り押さえろ!」

 

 

 

 

ザクッ!

 

ギギギギ…

 

斬撃の音と、続いて半分ほど消滅したメラクの断末魔の悲鳴が聞こえ、驚いたミヤビが振り返ると英雄ハゲネが立っていた。

レベル39のその悪魔は漆黒の鎧に身を包み、マスクで顔を隠している。

長剣を鞘に戻したところで、その悪魔使いらしき青年がミヤビに近寄って来た。

ラテン系のハーフらしく浅黒く彫の深い顔立ちをしている。

青年の目つきは鋭く、彼女をキッと睨みつけた。

 

「最後まで気を許すな! 俺があと一歩遅ければ、君は奴に殺られていたぞ」

 

青年の言葉でミヤビはメラクが最後の力を振り絞って自分を殺そうとしていたのだと察した。

メラクは彼女が油断して背を向けたところを狙い、その危機をこの青年が助けてくれたということになる。

 

「あなたは…?」

 

「俺は栗木ロナウド(くりきろなうど)。ジプスに仇なす者だ」

 

「…お礼だけは言っておきます。ありがとうございました。しかし栗木ロナウドという名前には心当たりがあります。半年ほど前にヤマト様のやり方に異を唱えて退職したジプス局員ですが、あなたはそのロナウドさんでしょうか?」

 

ミヤビはロナウドの名前は知っていたが、顔を合わすのは初めてだった。

 

「ああ、そうだ。ジプス…峰津院大和はセプテントリオンの出現を予見していたというのに国民には何も知せず、我々を見捨てた」

 

ロナウドはミヤビを見下ろしながら、冷たい口調で言う。

それにミヤビは反論した。

 

「知せなかったのは理由があります。すべてを国民に話し、それなりの準備と心構えをするということもできたでしょう。しかしそれが最善の方法だと言えるでしょうか? 1億を超える国民が一糸乱れぬ行動をとれるとは思えません。人類の有する最新鋭の兵器ですら効果のない得体のしれない強敵が襲来すると知れば、心の弱い者は発狂してしまうでしょう。自ら死を選ぶ者も現れるかもしれませんし、自棄になった連中が暴動を起こす可能性もあります。むしろ知せないでおいたことは正解だったとわたしは考えます」

 

ミヤビの言葉にロナウドは小さく頷いた。

 

「それも一理ある。しかしジプスの倉庫には非常用の食料や医薬品が山と積まれているというのに、被災者に一切配ろうともしないというのはどうだ? こうなることを予測できたジプスなら、民間人のための物資を備蓄することもできたはずだ。それを自分たちの分だけしか用意せず、民間人に分け与えないというのは、初めから民間人を見捨てるつもりだったとしか考えられない。だから俺と俺の同志は立ち上がった。現在、我々レジスタンスは名古屋支局占拠している」

 

「なんですって!?」

 

「名古屋支局を占拠したのは局員を人質とするためであり、目的は局長である峰津院を倒すことだ。だから局員たちには危害を加えるつもりはない。安心しろ」

 

「…そうなるとジプスの幹部であるわたしを助けたのは単に人命尊重という理由だけではないということですね?」

 

「もちろん君を利用させてもらうのさ。東京支局長である君を人質にすれば、さすがの奴も俺たちの要求を飲まざるをえないだろうからな」

 

ミヤビが東京支局長になったのは半月前のこと。

それを知っており、さらに居場所をピンポイントで見つけ出したのだから、このロナウドという人物は侮れないとミヤビは感じた。

 

「そう簡単にいくでしょうか? ヤマト様は目的のためなら犠牲を恐れません。それにあなたのやろうとしていることはわからなくはありませんが、だからといってこの状況下で人間同士が争い合っても無意味だと思います」

 

「でもこのままあの男の思い通りにさせておいたら、この世界は弱者が生きることのできない世界になっちまうんだぜ」

 

ミヤビの背後で別の男性の声がした。

彼女が振り向くとスーツ姿にハンチング帽をかぶった青年が立っている。

 

「俺の名は秋江譲(あきえゆずる)。ジョーって呼んでくれ。…で、君は考えたことあるかな? 社会的弱者の立場ってヤツ。貧富の差とか人種とか病気とか。そういう人たちがみんなと同じように幸せになるのって、社会の支援が大きいんだよねぇ。でもあの男はそういう人間を役に立たないからといって切り捨てようとする。実力主義っていうのは切り捨てられる側のことを考えたことのないエリートの男らしい考えだと思わないか?」

 

「……」

 

「まあ、君は奴にとって今のところ役に立つ駒だから優遇されているが、不用となれば切り捨てられる可能性もある。だったらそんなことになる前に俺たちと共に戦おう…と考えてもらえないかな?君はドゥベとメラクを倒したサマナーだ、味方になってくれたら心強い」

 

ロナウドがミヤビに手を差し出した。

しかしミヤビははっきりと答えた。

 

「わたしはジプスの人間です。ジプスと敵対するあなたたちに協力する気はありません」

 

するとロナウドはミヤビを小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

「フッ…君はもっと賢い人間だと思っていたのだがな。…ジョー」

 

ロナウドがジョーの名を小さく呼んだ時、ミヤビの背後からジョーが彼女を羽交い締めにした。

 

「何をするんですか!?」

 

「君には来てもらわないと困るんだよねぇ」

 

「力ずくでも従わせようって、ってことですか? こんな乱暴なやり方ではいくら正論を掲げても説得力ないですよ」

 

「俺たちはもう形振りかまっていられないんだ。あまり暴れないでくれよ。女の子に手荒なことはしたくないんでね」

 

「もうやってるじゃないですか!」

 

ミヤビは足をばたつかせて拘束から逃れようとするが、大人の男性の力には敵わない。

突然のことなのでビャッコを再び召喚する間もなかった。

 

「しばらく静かにしていてもらおう」

 

ロナウドはポケットからハンカチを取り出すと、それでミヤビの鼻と口を押さえた。

 

「うっ…」

 

ミヤビは小さくうめき声を上げると、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

ヤマトの元に「ミヤビ行方不明」の報が届けられたのは、彼女が拉致されてから1時間近く経ってからだった。

 

「それはどういうことだ!? なぜもっと早く報告しなかった!?」

 

報告をした女性局員は頭ごなしに怒鳴られて今にも泣きそうな顔をしている。

 

「そ、それは…」

 

「彼女がジプスにとってどれだけ重要な人間かわかっているはずだ! それがいなくなりました、だと!? それで済むと思っているのか!?」

 

「も、申し訳ありません!…現場は混乱しており、怪我人が大勢いて…彼女ならビャッコがいますから危険はないと…それで…」

 

「……」

 

「姿が見えないとわかってすぐに手の空いている局員を総動員して周囲を探しましたが…」

 

「見つからなかった、か」

 

「…はい。でも、付近の監視カメラ等の映像をすべてチェックしています」

 

「当然だ。名古屋の暴徒とミヤビの失踪、か…」

 

忌々しいといった顔のヤマトが呟くように言う。

 

「ミヤビが自分の意思で消えたはずがない。ならば…奴か…?」

 

ヤマトがアルコルの顔を思い浮かべた時、別の局員からの報告が上がった。

 

「局長、わかりました! 栗木ロナウドです! 奴が紫塚雅に接触し、拉致した模様」

 

「なんだと?」

 

「しかし以降の足取りは掴めません。どうやら監視カメラの位置を把握しており、その死角を選んで逃走したと思われます」

 

「くそっ…!」

 

ヤマトは側にあった机に拳を思い切り叩きつけた。

名古屋支局の占拠だけでなくミヤビを拉致するとまでは想像していなかったのだ。

こうなれば一刻も早くロナウドたちから名古屋支局を奪還し、同時にミヤビを取り返さねばならない。

 

(私自ら現場で指揮を取り、暴徒たちから名古屋支局を奪い返してやりたいものだが、通天閣の機能が半減している今、この私が大阪を離れることは本局を放棄することと同義だ。くそっ…忌々しい)

 

ヤマトはもう一度机を強く殴りつけたのだった。

 

 

 






メラク戦でのサマナー配置について、アニメ版と異なる部分があります。
「瓦町防衛ライン」と「中央通り防衛ライン」の順を入れ替えています。
地図を見ると、瓦町の方が中央通りよりも北にあるようです。
そうなると、メラクは先に瓦町を通過するはずで、よって瓦町防衛ラインを先にしました。
あまり大阪の地理に詳しくないので、もし間違っていたらごめんなさい。

文章の中で「悪魔使い」と「サマナー」というふたつが出てきます。
地の文では「悪魔使い」、個人のセリフでは「サマナー」と使い分けています。
意味があって使い分けをしているのであって、間違いではありませんので。あしからず。

最後にヒロインがロナウドたちに誘拐されてしまいました。
アニメ版では自らの意思で名古屋へ行く主人公でしたが、この物語では拉致されます。
ジプス局員であり、ヤマトのために行動している彼女ですから、ロナウドたちに従うはずがありませんから。

次回は作者自身の考え方や理想がヒロインの口から語られます。


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