鉄底海峡に待雪草を   作:在田

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「そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」


Scorcher

「作戦の概要を説明するわ」

 

 大会議室に、十四人の艦娘が集められた。

 四角く並べられたテーブルの中央で、叢雲がそれぞれに書類を配る。

 

「今回の作戦は大きく二つに分かれているわ。それぞれ出撃時刻が異なるから該当艦はしっかり確認しておくこと」

 

「あの……」

 

 叢雲の向かいで挙手する青葉。

 

「どうしたのかしら?」

 

「編成を見る限り、私はいないようですけど」

 

「それは私も一緒よ。青葉がここにいるのは、司令官が作ったこの長ったるい書類をわかりやすくして、いち早く泊地全員に共有させること。こういう情報周りは得意でしょ?」

 

 叢雲がきびきびと答える。青葉もすぐさま「了解です!」と言ってどこからともなくメモとペンを用意する。

 

「場所はここから南方。ソロモン諸島ガダルカナル島沖の海峡。そこに異なる二つの反応が本日未明に確認されたわ。双方ともおそらく深海棲艦だと司令部は判断した。それぞれ発見順に、甲、乙と名付けるわ。

 あなたたちの役目はこれの調査。及び無力化よ」

 

 叢雲が歩くのをやめて、壁により掛かる。

 その間に叢雲の言った場所を改めて書類で確認した霧島が、質問を投げかける。

 

「ここはもしかして……」

 

「もしかしないわ」

 

 叢雲の視線は誰とも合わない。書類に印刷された白地図。描かれた赤い丸印。

 叢雲にとっても因縁の場所だった。

 

「鉄底海峡……ここにいるメンバーのほとんどが、記憶にある通りの場所よ」

 

 全員が顔を上げた。緊迫した過去の記憶が、彼女たちを青ざめさせている。

 

「だからこそ慎重になっているんでしょうね。

 まず片方、乙の反応は小さいものだけど、非常に動きが早く、一度この海峡に入ったけどすぐに出て、消息不明になったわ。これを探しだすのが、霧島を旗艦にした艦隊の役目。

 編成は霧島と、高雄、愛宕、川内、初雪、敷波の計六名。

 あなたたちは先鋒を切ることになるわ。出撃は本日の夜、二三○○」

 

「ここからだと、休憩を挟みながらで○八○○には到着すると思いますが……こちらには一一〇〇と記載されていますね」

 

 眼鏡の位置を調節しながら霧島が告げた。

 およそ三時間のズレ。霧島がいくら戦艦とはいえ、高速戦艦と言われるほど戦艦には類を見ない速力を持つ金剛型が一隻だ。重巡に速力を合わせても、霧島の計算が正しくなる。

 

「いえ、それで合っているわ。前回の攻略作戦で、鳥海たちが敵の親玉を倒したと報告しているけど、実際のところ確実じゃないの。そうよね青葉?」

 

「そうです。私たちが撃破したというよりは、喋る深海棲艦との仲間割れという形で、倒されていく様子を遠目に見ただけですから」

 

 尋常ではない速度でペンを走らせる青葉が、顔も上げずに答えた。叢雲よりも先に、上機嫌そうに金剛が相槌を打つ。

 

「ふ~ん。じゃあもしかしたら、まだ居るかもしれないんですネ?」

 

「そうです。青葉たちはあくまで、その撃破で他の敵が逃げていくのを見て、あれが作戦目標だったと判断しただけです」

 

「これはChanceネー!」

 

 声を高くする金剛を余所に、叢雲は再び歩き始めて霧島と向かい合う。

 

「青葉の言ったとおりよ。敵の親玉が残っているかもしれないと同時に、逃げていった他の深海棲艦がうじゃうじゃいることに変わりはないわ」

 

「なるほど。じゃあこの三時間で出来る限りの残存勢力を虱潰しにすることも含まれているのですね?」

 

「その通りよ」

 

 切り上げるような叢雲の声。

 

「じゃあ夜戦を最初にやってからかぁー」

 

 楽しそうに椅子をギコギコ揺らす川内に、叢雲の眉尻がピクリと上がったが、そのまま触れないで話を進める。

 

「そしてあなたたちは現地にて目的を達成して、敵地の真っ只中だけど、陸もたくさんあるわ。現地で一九○○まで待機よ」

 

 叢雲はくるりと振り返り、ちょうど霧島と向かい合うように座っていた金剛へ視線を向ける。その横でそわそわしていたのは榛名だ。

 

「そして後続艦隊があなたたち。もう一つの反応、つまり甲を狙ってもらうわ。こっちはずっと動かないまま。ガダルカナル島沖のど真ん中に居座っている。

 こっちの方が反応として強大よ。だからあなたたちはこっちの排除に全力を注ぐこと」

 

「つまり、私たちがメインってことですネ! やっと実力を発揮できマース!」

 

 再度、叢雲の眉尻が上がったが、すぐに振り返る。

 

「言い忘れてたけど、甲を避けるために、先鋒艦隊はこの海域を迂回して外側から目標を捜索して」

 

「畏まりました」

 

 霧島の返答はシンプルで話が進めやすい。少し苛立っていた自分を宥めて、仕切り直すと同時に全員を見渡した。

 

「後続艦隊は旗艦が金剛。以下、榛名、五十鈴、黒潮、涼風、長波……なんか威勢の良い奴ばかりね」

 

 反論を飛ばしてくる関西弁とべらんめぇ口調の二人は無視した。

 

「こっちの出撃は明日の昼、一○○○よ。到着は一九○○に合わせて。先鋒艦隊と合流、二艦隊での強襲を行ってもらうわ」

 

 おずおずと榛名が手を上げた。

 

「合流の形式に指定はありますか?」

 

「特にないわ。だから先鋒が迂回して挟撃を取っても良いんじゃない?

 あと今回の作戦もやっぱり、喋る深海棲艦とやらの出現もありえるわ。艤装の敵味方識別機能も改良させたらしいけど、肝心なところは現場の判断に委ねるしかないわ」

 これで作戦の概要は以上よ。他に質問は?」

 

 高雄と愛宕がひそひそと書類をペンでいじっている。敷波はどこかぼんやりと天井でもないところを見ており、金剛はすでに席を立っている。関西弁とべらんめぇ口調の二人は作戦と関係ないヤジを飛ばしてきて、姉妹艦である初雪に至っては机に突っ伏して動かない。

 青葉がパタンとメモを閉じ、叢雲も手を叩いた。

 

 ……だが、どこかで安心しきっている部分も叢雲にはあった。

 鉄底海峡に行かなければならないという緊張感が、この会議室で解れていく実感があったからだ。

 下手に緊張して動きを鈍らせれば、それが致命的な負傷を招くことも少なくない。

 

 それで作戦に支障が出るよりは、落ち着いた状態で作戦に挑めるのが理想的ではある。

 数名ほど作戦内容を理解しているのか不明な艦娘もいたが、艦隊行動を乱すことをする人員はいない。誰かの指示も仰げるし、指示をこなす能力も揃っている。

 加えて、本来なら単なる反応なら放置して良いはずのものを徹底的に排除するために二艦隊も要する、細心の注意を輪にかけた慎重な作戦。

 

 彼女たちなら支障なくこなせるだろうと思いつつも、自分の話を半ば聞き流している連中への苛立ちも募ってきた。

 叢雲の、ヤケクソ混じりに切り上げる声。

 

「じゃ、先鋒艦隊はきっちり睡眠を取ること! 解散!」

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