Making of Cyborg
ボロボロになった重い身体を引きずっている。
戦闘の後、心身ともに満身創痍。足を前に出すことはおろか、立っていることすら辛いと言い出しかねない状況を忘れ去ろうと、皆が会話を繰り広げている。
古鷹もその一人だった。そして加古も。先頭に立つ鳥海の背中を見つめながら、古鷹は時折、警戒のために後ろを向く。
全身が機械の身体。だからこそ艤装との相性が良くなるように作られている。索敵における表示枠の精度も、群を抜いて勘の鋭い青葉を除けば、他の艦娘に劣ることはない。
だからこそ油断があった。
戦いが終わり、敵の一組織を倒したのだ。追っ手すら残っていないという確信があった。
だからこそ気づかなかった。
敵が一匹残っていることに。音を立てず、雷跡すら起こさないまま肉薄する酸素魚雷に。
加古の足元が爆発に燃え上がった。炸裂が水面を押し除けて爆煙を広げ、同じく全身艤体である加古の足が砕け散る。
青葉が即座に振り向いて声を上げ、夕張が指示通りに魚雷を放り込む。
――潜水艦が沈む姿を見ることはできない。そもそもが海中に沈んでいる状態なのだ。
「……命中は確認しました」
魚雷の爆発で海面の隆起と泡が確認できたとしても、まだ生き残っている可能性を捨てきれない。
生き残っている可能性があるなら、再び攻撃を与えてくるかもわからない。
潜望鏡が表れなければ、どこにいるのかすら確認できない。
「警戒!」
鳥海が声を張り上げるのに対して、古鷹は伸ばされた手を取ろうとした。
加古。
航行の要である主機を失い、激しい損傷に塗れていた缶を魚雷に焼かれて浮力を失い、機械故に重すぎる自重で海へ飲みこまれていく。
留めることができなかった。
たった数瞬――呆気ないほどの早さで青い暗闇に溶けていく加古の手が、最後に見えたものだった。
掴み取れなかった後悔だけを握り締めることになった古鷹に、涙を流すための猶予すら与えられなかった。
艤装と同じく艤体は機械であり、金属の塊だ。
さながら人体模型のような人工筋肉の寄せ集めと、それを支える金属製炭素繊維の骨格。
ぽっかりと開いた頭に脳核が入り、固定される。
防水用であり、感覚神経の機能を果たす薄い内膜を施された人体模型は巨大な円筒形のプールに放り込まれる。単なる水ではない、それぞれに浸透圧が違うため、水と油のように分離した四層の液体。
まず最初の層は内膜が防水機能を十全に果たしているかの確認のため。
次の層には唯一色が付いている。人間の肌の色。シリコンを主とした化合物が隙間なく均等の厚さで内膜に張りつく。
それを伴った艤体は三番目の層に入る。光と熱を直接通しやすいように調整された液体。壁面のレーザー光が全身の計測を行い、同時に光に当たった部分から急速的なシリコンの乾燥と固体化、定着化が行われる。
最後の層に飛び込んだ衝撃で、表面の乾燥しすぎたシリコンが細かく剥離していく。計算と違う厚さで定着したシリコンが、計算通りとなる形状になるようレーザー光の熱も調整されているため、その欠片の形状はばらばらになる。
そして全ての行程を終えた艤体はようやく、水に入る。先程通過した、人間とそれに類する生命体にとって毒素となる四層全ての液体を洗い流しながら、自らの神経を艤体に張り巡らせ、己の身体と定義し、動くことを可能にさせる。
水から出て温風が浴びせられた。乾いた温風を肌で感じる。
そして目を開ける。
窓一枚隔てた向こうで、そのモニタリングを行っていた夕張が丸印を手で作る。
問題なく成功した、ということだろう。
左右違う色の目――明るい茶色の左目と、稲光のような煌めく金色の左目を持つ艤体は、古鷹という。
人間と全く違う工程を終えた古鷹も、そしてそんな機械部品が身体のほとんどに入っていない夕張も、同じく艦娘だ。
新年なので物語が再始動します。
新しくかなり古い方向性へ。ここまでやってしまっていいのか自分で全く判断が着けられないのですが、とりあえずやる価値があるだろう確信があるのでやり抜きます。
……あと、これから週一ペースで更新していきます。毎週木曜夜で。