青葉の艤装を、明石が修理している。
ぼんやり眺めている青葉が、ふと声を出す。いつも手にあるはずの手帳とペンが、今はない。
「明石さん」
「はい? なんです?」
「あの吹雪さんとは、どのくらいになるんですか?」
「さあ……もう八年になりますかね?」
「じゃあ、戦線に出ていた頃の彼女を知っているんですか?」
「まあ、そうですね」
「それが、今はああいうので大丈夫なんですか?」
作業を続けていた明石の手が止まる。
青葉を振り向く顔に怒気が篭っていた。
それを出さないよう努めていても、声は震えている。
「ああいうの、ってどういうこと?」
「あの人、破綻していますよ」
「私には、あの子が仕事を正常に処理しているように見えるけど」
「あの人は戦わないじゃないですか」
「秘書艦なら出ないのも当然。私もそうだし……それが?」
「戦うはずの艦娘が、戦わないんですよ?」
「だから?」
「……わからない、っていうつもりじゃないですよね?」
青葉の言葉に苛立ちが混じる。
明石がわざとらしく告白した。
「わかりません」
青葉の眉根に皺が寄る。
作戦の指揮を行う秘書艦。司令官の代行をするにしても、彼女は戦いに出ることがなさすぎる。
ブイン基地が空になるほどの大規模作戦でも、彼女は海へ出ない。
姿も形も変わらないはずの艦娘でありながら、戦うことを放棄している。
彼女の名前が乗っていない哨戒任務の担当表を見た青葉が、それを思ったのだ。
彼女と同じように戦わない明石なら知っているだろうという読みは正しかった。
「みなさん、そうやってわからないふりをして、知らないふりもしますよね? 知っているはずなのに」
「吹雪さんは!」
青葉の挑発に、明石は耐えられなかった。しかし工廠を反響した自分の声で我を思い出し、自制する。
「彼女はずっと前から在籍しているから、誰よりも強かった。だから生き延びて、仲間たちよりずっと長く生きて、その分だけ多くを見て、知って、考えて……。
そして、自分や他人の運命に干渉することを覚えたんですよ」
「同じ仲間を殺すことも、干渉ですか?」
それは、叢雲を見ていれば気がつくことだった。
叢雲の新しい艤装。前任者がいたこと。しかし死んだこと。殺したのは味方だったこと。それが吹雪だったこと。
止まっていた手を作業に戻しながら、今度は明石が問いかける。
「わかりません?」
「わからないよそんなの!」
呵責を起こすのは、青葉の番だった。
理解などできるはずもない。戦いを行うことが本分であるはずの彼女が、戦わないことを本分として、生活を続けている。
艦娘は年齢を重ねることがない。戦わなければ、身体はずっとそのままだ。
だから吹雪は、ずっとあの姿のままで居続けることになる。
変わらないままの姿で、変わらないままの日々を過ごす。
本来なら認められたはずの人格が欠片程度にしか感じられない素振り。
途方もなく永続する時間の中で、吹雪の心が狂い始めたとしか思うことができない。
それを擁護する明石も。
しかし認めてくれる人は工廠に一人たりともいなくて……青葉は立ち去った。
日が沈み始める頃でも、叢雲は、ベッドで横になっていた。
何をするでもなく、眠いわけでもなく、ただぼんやりと寝転がっていた。
治安維持機構の仕事も進まない。手がつかない。やろうという気になれない。
ノック音の直後に、ドアが開いた。
壁を向いている叢雲は、振り向くわけではない。
ただ足音は叢雲の近くで止まって、話しかけてくる。
「少し、いいでしょうか?」
「コーヒーしかないわ。テーブルのポット」
声の主が青葉であることを思い出す前に、叢雲は返答していた。
足音が叢雲を離れて、手近なカップにコーヒーを注いで、そして戻ってくる。
ベッドが少しだけ揺れて、青葉が座ったのだと気づいた。
コーヒーの香りは来ない。すでに冷めている。
すする音の後に、声が聞こえた。
「良かったです。出かけていたと思ってましたから」
「予感がしたのよ」
「私が訪ねる予感ですか?」
「そこまでじゃないわ。今夜は部屋に居たほうがいいような予感よ。よく当たるのよ」
我ながら気怠げな声だと思う。自分が見たらしゃっきりしろだの起きてちゃんと背筋を伸ばせだのと叱責しているだろう。
「叢雲さんは、この基地に来てどれくらい経ちますか?」
「さあ、もうあまり覚えていないわ」
「その前は? 遊泳時間はどのくらいですか? 艦娘になってから、どれくらい経ちます?」
「何? そういう話をしに来たの?」
艦娘の経験と経歴、それは実力を推し量るバロメーターになる。
同じショートランド泊地に居た艦娘が……よりによって泊地きっての情報通である青葉が、今更それを聞いてくる理由がわからない。
「叢雲さんは私と同じショートランド泊地の配属ですから、この基地の中で一番信頼できます。だから聞いてみたいんですよ。
……あなたたちがどうやって、自分の気持ちを整理しているのか――」
あなたたち、という言葉に叢雲は引っかかりを覚えた。
質問で返答する前に、青葉は続ける。
「――同じことを繰り返す現在と過去の記憶を、どんなふうにして繋いでいるのか。それでいて過去と現在の姿も戦い方も違うことを、どうやって受け入れているのか。
……私の想像ですけどたぶん、とても忘れっぽくなって、夢を見ているようなぼんやりした感情が精神を守っているはずです。昨日のことも先月のことも去年のことも、全然区別がなく、同じように思える――違いますか?」
……つまり、叢雲を含めた艦娘全員に対して問いかけているのだろう。
「私のことならだいだいその通りよ。ずっとこんな風だった。ぼんやりとしてて、自分でも起きているのか眠っているのかよくわからないわ」
枕に顔を半分埋めながら、叢雲は壁をじっと見つめる。
決して綺麗とは呼べない壁。すっかり見慣れたように思える壁は、始めから見慣れていたような気もする。
唐突に、青葉が口を開く。
「ハイランダー症候群って知ってますか?
遺伝子の異常で、一定の年齢になったらそれ以上成長できない病気なんです。
それの治療薬の開発の途中で、反対にその病気を、より深刻にかけさせることができる新薬が生まれて……ちょうど生じた深海棲艦との戦いをずっと続けていられるように、あなたたちが生まれました」
「その言い方だと、あんたは違うって言いたいのかしら?」
「あなたたち艦娘は歳を取りません。永遠に生き続けます。最初は誰もそれを知らなかった。知っていても信じませんでした――」
青葉の語調がだんだん荒くなる。抑えきれない感情が堰を切って溢れ出す。
「――でもだんだん噂が広がっていく。戦死しない限り死なない人間が居るって!」
震えた声は、嗚咽に変わっていく。
床に水滴が落ちる音。コーヒーではないだろうと思った。
だから泣いているのだろうとも。
「わからないですよ! 私も艦娘なのかな? 今叢雲さんに話したこともどこで聞いたのか、何で読んだのか、本当のことなのか……どことなく、何もかも断片的な感じがするんです。自分で経験したことだっていう確信がない。手応えが全然ないんですよ。
いつから私は海を走っている? いつから深海棲艦を殺しているのかな?
いったい、どうして、いつからこうなってしまったのか……毎晩思うんです。
思い出せない。思い出せない!
考えても、考えても……ゴーストだって、決まったシーン以外何も思い出せないんです」
嘆きのように聞こえた。
艦娘になりたくなかったと、人間として生まれて、叢雲が以前質問を飛ばされた、何も考えていない平和を享受して暮らしている人々に混じっていたかったと。
そんなことを言っている気がする。
叢雲だって戦うのは怖かった。
むしろ青葉のように新聞を書くためにあちこちを走り回るような趣味など持っていないのだから、戦うこと以外、考える先もない。
……もしかしたら青葉は、艦娘であることに疑問を抱いて、だから知ろうとして情報を集め始めたのではないかとすら思える。
新聞は副産物でしかないと。
ベッドから、叢雲は青葉の後ろ姿を見つめる。
嗚咽で、癖のある結われた後ろ髪が揺れていた。声の震えは止められないものになっている。
「失礼ですけど、あなたたち駆逐艦を見て、少し落ち着くところがあるんです。自分も子供のころがあったんだろうなって思えるんですから。
だって、もしかしたら、私はこの姿のまま生まれてきたかもしれないじゃないですか。成長すらしないと思うだけで、もう地面に足がつかないような……そう思いませんか? 不安になりませんか?
吹雪さんがあなたの前任者を撃ったのは、もしかしたらもう終わらせてあげようとしたんじゃないかって思うんですよ。
……でも、あの人は死ななかった」
「どういうことよ?」
そういえば、皆が口を揃えて言っていた。
吹雪が前任者を撃ち、それで死んだと。
吹雪すら否定しない素振りを見せた。
「あなたになったんですよ。もう一度別個体の艦娘として再生して、新しい記憶を覚えさせられてあなたが作られました。あなたは生まれ変わりなんです。
そうしないと、彼女の持っていた艦娘としてのノウハウが、兵器としての性能が失われますから」
叢雲はつい最近になって気づいた。前任者と叢雲は同じ存在だったのだろうと。
だがずっと前に、叢雲と同じことを気づいた艦娘だっていただろう。現に青葉は知っている。
深雪も、白雪も、でなければ磯波も、初雪も……吹雪だって。公に話そうとすらしない。
自らのゴーストと同じように。
「気づかないふりをしているだけですよ。あなたが気づくまで、みんな知らないふりをしているだけです」
馬鹿馬鹿しいと一蹴できそうな理屈だった。叢雲一人のために、ショートランド泊地やブイン基地があるわけではない。
艦娘だって、叢雲のためだけに生きて戦っているわけではない。
「面白い発想ね。コーヒーはどうかしら?」
話を区切ることにした。これ以上続けても、青葉が余計に取り乱すばかりで何も解決しないだろうと思った。
現に、叢雲はどこに問題があるのかを見つけられない。問題があるだろうことは明確にわかっているのに、それがどれなのかわからなければ、どう解決すれば良いのかもわからない。
「ごちそうさまでした……お話、付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、面白い話だったわ。ありがとう」
青葉が、ゆったりと立ち去っていく。
来た時よりも足音が小さく聞こえたのは、疲れて力が入っていないからだろう。
……それでも、叢雲は動かなかった。
青葉の言葉は結局、説明に終始していて動機をくれるものではない。
過去の話をされても、願望を話されても、例え叢雲に関係することであっても、叢雲自身の行動でどうにかなるものではない。
……しばらくそのままぼんやりし続けて、部屋が、夜の暗さを取りこんだ頃。
銃声が轟いて、跳ね起きた。
音の方向はわかる。考えなくても足が動いて、扉をぶち破らんばかりの勢いで飛び込む。
執務室。吹雪がいる部屋。
最初に見えたのは青葉の背中。荒い呼吸に肩を揺らして、真っ直ぐ腕を伸ばしている。
手に握られているものをわざわざ確認するまでもない。
「理由は?」
青葉から返答は来ない。真っ直ぐ伸ばしたままの手が震えている。
当然だろう。普段自分たちが受けている訓練はあの黒々とした異形の化物を退治するためで、人や艦娘を撃つためではない。
人を殺せるほどの殺意があるはずもない。ましてや生業としてもいない。
青葉を、吹雪が見つめていた。
戸惑いも恐れもない、いつもと全く変わらない無表情。手に拳銃を持っているが、持っているだけで構えてすらいない。
むしろ、後ろの窓に走るひびが、なぜ自分に無いのかという疑問すら抱いていそうだ。
吹雪はきっと、この状況を知っている。過去に経験しているのだろうと思った。
叢雲は青葉へ歩み寄る。
「早く銃をしまったら?」
湧き上がってくる怒気とにわかな期待を気づけなくても、言葉になってようやく自覚が追いついた。
「それとも、その銃を私に寄越してくれるかしら?」
「これは、私の銃です!」
「じゃあ貸しなさい」
「なぜですか!? あなたが持つ理由なんてどこにも……」
「あなたの代わりに、私が吹雪を撃つわ」
こちらを向いていた青葉の表情が、愕然に崩れる。
だが確信があった。青葉とは違い、叢雲が狙えば必ず当たる。当てられると。
微かにくすくすと笑う声が耳に入る。
吹雪が笑顔を浮かべていた。
「名案です」
青葉の顔にあるのはもはや驚きですらない。怯えだった。
同じ組織で見知ってきたはずの叢雲も、あどけない少女であるはずの吹雪も、知識を貯めこんだ青葉からしても、気がフれてしまったようにしか見えないのだろう。
あまりにも平然と人殺しになろうとする叢雲と、嬉しそうに殺されようとしている吹雪。
まともな常識が機能している空間ではない。
叢雲が踏み出した一歩に気づいた青葉が、咄嗟に叢雲へ向け直す。
吹雪が息を呑んだ。
自分が死ぬよりも叢雲が殺される方が、吹雪は恐れているのだとわかる。
外すはずもない至近距離。瞳と見つめ合う銃口。
だが覚悟もない虚勢であることなど、わかりきっている。
むしろ欲しいものが近づいてきた僥倖に、銃身を握りこんだ。
銃口を上へ逸らして、抜き取ろうと力を入れる。
グリップを握っているのは青葉だ。力で抵抗しようとすればできたはずだが、しかし一瞬だけそうしたかと思えば、諦めたように力を緩める。
するりと手に収まる。改めて確認し、グリップを持ち直す。
顔を上げた時に見た青葉の顔は、苦渋と逡巡に曇って、問いかけるようだった。
……本当に撃つつもりなのか?
言葉でも表情でも、返答しない。
「青葉さん。出てってもらえますか?」
吹雪の言葉で、激昂が露わになる青葉。
死ぬことを怯えながら日頃戦っている艦娘からすれば、死ぬ状況とわかっていても甘んじて受け入れる吹雪など、不気味でしかないだろう。
自分たちの存在意義そのものを踏み躙ってくるような思想。
そしてそれを理解できない鬱憤。
敵意でも殺意でもない。綯い交ぜで煮え滾った感情が出ているだけだ。
だが衝動を実現する手段は今、青葉の手から抜き取られた。
足早に部屋を出ていく青葉。
「死にたいのでしたら、どうぞ」
ちょうど見えなくなるタイミングで出てきた言葉も、本心からのものではないだろう。
衝動に負けて口を突いただけに聞こえる。
叢雲は安全装置をかける。スライドを引いて弾き出てきた弾を見て、ようやく安堵する。
……撃つつもりなどない。そもそも撃つための理由が叢雲にはない。
前の自分が殺されていたのだとしても、それは今の自分と直接の関係はない。
衝動に駆られた一発の無駄弾。青葉の気持ちもわからなくはない。
自分は都合の良い戦いの道具でしかないと自覚すれば、抱えている気持ちも心も、意味がなくなってしまう。
そうはなりたくないと思い、だから艦娘を否定した。自分が艦娘ではないと思いこんでいたかった。
叢雲はそうではない。艦娘だ。艦娘である自覚を持っていて、否定するでなく受け入れている。
艦娘だから死ぬのは海上でとすら思っているほどだ。
だが眼前の吹雪はそうではないらしい。
拳銃を握り締めて、じっと叢雲を貫くように視線を送っている。それこそ叢雲の身体に穴が開いてしまいそうなほどに鋭い目つき。
「煙草を吸っても、大丈夫ですか?」
「もちろんよ。ここはあなたの部屋なんだから」
そうして机の煙草を手に取って、一本を咥えて、マッチに火を着けて、煙草に移して、白い息を吐く。
その一連の動きの中でも、吹雪は一度も握り締めたままの拳銃を手放そうとしなかった。
吹雪が何を考えているのかわからない。
いつもと同じ表情の奥で何が蟠っているのか、見えない。
問いかける。
「前の私を、殺したの?」
「うん」
「殺してくれって、言ってたの?」
「うん」
「あんたもしかして、私のこと、好きだった?」
「うん」
自分でも確認したくないことだったが、しかし確認せざるには居られなかった。
当たらなくとも、銃で仲間を狙うとなれば底冷えのする焦燥に身体が震えてしまう。
ましてや実行するともなれば、その焦燥を乗り越えて、後に待つ重く大きく逃れがたい後悔を享受すると覚悟していなければ不可能だろう。
誰もがそんな後悔など背負いたくない。だが背負えると思えるほどの仲間なら、その覚悟を前に決意は揺らぐかもしれない。
好意。それしか選択肢が思いつかなかった。
吹雪が煙草を捨てる。
「ねえ叢雲、その銃で私を撃って」
「私が? あんたを?」
「うん。今後はあなたが私を殺して。お願い」
しばらく、吹雪は叢雲が握っている銃を見つめていた。
指一本動かさない叢雲に愛想をつかして、吹雪は自分の銃を顎に当てる。撃鉄を寝かせて、隠しきれない怯えに目を瞑った時だ。
響いた銃声と共に、吹雪の横を風が通り過ぎる。
その後ろで、今度こそ窓ガラスが砕け散った。
呆然と、魂が抜けたように吹雪は前を見つめる。
叢雲が、銃口から硝煙を揺らめかせている。
ブイン基地に移ってから虚脱した生活ばかりしていた叢雲。しかし凛然とした意志が顔に表れていた。
「あんたは、生きなさい。何かを変えられるまで」
銃を落とした叢雲が吹雪へ近づく。
かつてないほど優しく、抱き留めていた。
緊張でも恐怖でもない、そう振る舞うためだけに強張り続けた身体から、じんわりと力が抜けていくのを感じる。
吹雪はずっとブイン基地の運営を担ってきた。
仲間たちが死んでいくのを見ながら、しかし自分だけ死ぬことなく、気が遠くなって薄れて霞んでしまうほど長い時間を、机と向き合って過ごしてきた。
辛さも過去の累積も、紫煙に誤魔化しながら生きてきた。
褒められるわけでもなく、求められるわけでもなく、機械のように忠実に、仕事をこなしてきた。
叢雲がその頭に手を置いて、肩に顔を乗せる。
……しばらく、吹雪は自分が何をされているのか理解していないようだった。
だがやがて、心の奥から湧き上がる気持ちと、記憶の彼方から滲み出てくる懐かしさに、涙を溢れさせる。
今までずっと流してこなかったもの。溜め続けたありとあらゆる気持ち。
「あ……」
そんな声が吹雪から出ることに、むしろ驚いてしまった。
ただ声が漏れ出ただけなのに、これほど感情的な声だったのかと。
「ああ、うぅ……っ……!」
肩が、涙にじんわりと熱を宿していく。
今まで吹雪がずっと背負い続けてきたものを、少しでも分けてもらうように、叢雲の肩に染み渡っていく。
吹雪が自分よりどれほど長く生きてきたのか、知っているはずもない。
だがその間に摩耗してしまった何かを、取り戻してもらえればいいと、叢雲は思った。
取り戻したものを、失わせたくないとも。