工廠。住み慣れた自室のような場所。
妖精さんたちと話していた夕張が、近づく足音に顔を上げた。
「もう、大丈夫みたいね」
その奥。妖精さんたちが出てきた部屋を覗きこんだ。
艦娘の改修を行う場所の中でも、特別な区画。
姿を現した川内が、不思議そうに、でもどこか嬉しそうに自分の衣装を見やる。
「……これが、ねぇ」
腕を伸ばし脚を伸ばし、鏡の前に立っては何度も自分と睨み合う。
トラック泊地で会った那珂の衣装は、それまで川内たちが着ていた衣装とは違っていた。
橙色ではなく、赤と白。
神通も、そして今ようやく川内も、同じ衣装に身を包んでいる。
いつの間にか首元に現れたマフラーを巻き直して、もう一度鏡を見つめる。
「なんだか自分じゃないみたい」
言葉とは裏腹に、誇らしげに腰へ手を当てて、川内は妹たちと向き合う。
つい先程に神通も同じ経験をした。姿が変わったことで、所在なく落ち着かなさそうに身を捩らせている。
からかおうと指差しても、川内も同じように落ち着かないのを隠しきれない。
「第二次改装。生身にかかる負担をが大きくなるけど、艤装の性能を……」
「よし! これで那珂ちゃんとおソロだね!」
人差し指を立てた夕張を遮って、那珂が両手を挙げて二人へ飛びつく。
二人して受け止めながら、静かに笑みを浮かべる。
……ショートランド泊地で、この三人が揃ったのは初めてかもしれない。
そんなにわかな喜びがあった。
だから那珂も嬉しいのかもしれない。
三人が揃ったことに加えて、三人共が同じ衣装を纏っていることが。
胸にどこかこそばゆさを覚えながら、川内も那珂と神通へ腕を回して抱き寄せる。
「私たちが揃ったんだ。もう負け知らずだよ」
「はい」
「うん!」
――かつて、華の二水戦と呼ばれる水雷戦隊があった。
川内も那珂も神通も、それを執り仕切ってきた過去がある。
だがその時はそれぞれの交代として行ってきた。確かに、三人が揃う機会はなかったのだ。
三人が衣装を揃えたのは、単なるお洒落ではない。
これからの戦いに備えるため。
今までバラバラに動いてきたことを三人でやれば、どんな結果を生むのか?
やってこなかったこと。だがやってみたかったこと……三人で同じ作戦に出撃して、活躍を収めること。
「相手は旅団だよ。同じ艦娘だよ。それでもやれる? 覚悟はある?」
「大丈夫です。覚悟はできています」
「よし。那珂は?」
「やるしかないなら、できるよ!」
「なら良かった」
努めて明るく快活に――口調と表情を作る裏で、川内はまだどこかで悩んでいるところがあった。
……兵器だと割り切れなかった自分が、果たして何なのか?
人間ではない。兵器でもない。兵器だったことはある。深海棲艦ではない。だがいずれなるかもしれない。
艦娘とはそういう存在なのか、考えれば考えるほどに定義が揺らいでいく。それこそ海を走るような不安定さに足元をすくわれそうになる。
……それでも戦わなければいけないのが艦娘だ。
考えるより先に手足が動いて、攻撃しなければならない。
円陣――それぞれが肩を組んで輪を作り、顔を差し合わせて、勇壮に笑顔を作る。
「やろう」「那珂ちゃんたちなら」「できます」
……見守る夕張も、柔らかな幸せと共に、胸の奥が興奮に熱くなるを感じた。
脳裏に上司である龍驤の顔が浮かんでくる。
提督の執務室へ35.6センチ砲を叩き込む龍驤へ加担した身として。
「私も、たぶん出撃するんだろうなぁ」
どこか諦めるような言葉……だが、自分にできることが残されているという安心を伴っている。
さて箸休めパートとも取れる短めの話を。
第二次改装をすることでできる話は、きっとこういうものだろうと思うわけです私は。
そういう話をするとしたら、やっぱり戦闘準備である必要が出てくる。