ビスマルクはダメマルク⁉   作:少佐5909

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第1部
第一話:西から来た戦艦


某日、東京湾港内の一角。荷卸しした物資を集積する倉庫が密集する区画の沖合に間延びした男の拡声音が響いた。

 

『えー、こちら海上保安庁。貴様らテロリストはすでに包囲されている。さっさと諦めておとなしく投降しろー』

 

 巡視船の拡声器から大凡やる気の感じられない男の声が、とあるテロリストグループの取引が行われる沿岸部の倉庫前に止められたプレジャーボートに向けられた。

 

 しかし諦めの悪いテロリスト達は陸上の隊員たちが近づこうとすると、聞きなれない外国語を喚き散らしながら手持ちのAKをぶっぱなし抵抗を続ける。言語は呉語。構成員は皆アジア系の顔をしており、おそらくは上海系のチャイニーズマフィアだろう。

 

 隊員たちはそんな考察を含めながら小銃のトリガーに指をかけ、倉庫街の物陰から威嚇射撃を繰り返す。

 

「そっちの状況は?」

 

「あーダメだ。あいつらもう自棄になってやがる。この様子じゃ突入も時間の問題だな」

 

「いや、それはないだろう」

 

「なんでさ」

 

「聞くところによると取引のブツってのが例のアレらしい」

 

「げっ、またかよ……今月に入ってもう何件目だ」

 

「さあ、ただもしその情報が正しかったら無暗に突入は出来ないだろうな」

 

「まったくいい加減にしてほしいぜ。これじゃあいつまでたっても俺たちの仕事が減らない……ってまてよ。アレ絡みってことはまさか、あいつらが来てるのか?」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

 隊員たちは顔を蒼くし重く項垂れた。

 

「俺たち、今日死なずに帰れるかな……」

 

「さあ、どうだろうな……」

 

 膠着した現場を割くように、女の声が響いた。

 

「そこまでよ! テロリスト共!」

 

 海風にたなびく長く艶やかなブロンドの髪。そして端正な顔立ちと白い肌に鷹のような鋭い眼をした、強い意志の感じる青い瞳の女が海の上に立っていた。

 

 彼女の名はビスマルク。かの艦の御霊を宿しその権能を体現せし者。

 

 艦娘という俗称を持つその生体兵器は、軍帽のつばを抑え目深にかぶるとインカムに繋ぐ。

 

「アズミ、所定の位置に着いたわよ」

 

『OK。じゃあこれより作戦を開始する。こっちが許可を出すまで発砲は一切禁止だ。分かったな?』

 

「jawohl(了解よ)」

 

『えー、よく聞けテロリスト。何度も言うようだが貴様らは既に包囲されている。今おとなしく武装を解除して投降すればこちらから危害は加えない。だからさっさとそんな物騒なモン捨ててしまえ』

 

「ダレガ貴様ラ倭人ノ言葉ニ従ウモノカ!」

 

『田舎のお袋さんが泣いているぞー。いい年して定職にも就かずこんなところでセコい商売してて情けなくないのか』

 

「ウッセー! オフクロハ俺ガ十ノ時ニ俺ヲ捨テテ知ラナイ男ト夜逃ゲシタンダヨ!」

 

『そいつは気の毒だったなー。だったら尚の事こんな下らないことしとる場合じゃないだろ』

 

「俺ガ貧乏ナノモ元ヲ辿レバ貴様ラ倭人が俺タチノ国ヲ滅茶苦茶ニシタカラダロウガ! ダカラコレハ貴様ラヘノ復讐ダ!」

 

『その悪いのは俺ではなく社会だっつー腐った根性には大変共感するが、それとこれとは話が別だ。お宅らの国が崩壊寸前なのは戦争に負けたからじゃなくて上が腐りきってるからだろ。そんな少し考えれば分かることすら気づけない、お上に踊らされるようなお頭だからこんなことばっかりしてんじゃないの』

 

「知ルカ! 悪イノハ全部貴様ラ倭人ダ!」

 

『あのねー、国際法規って知ってる? 世界の国で取り決められたこれだけはやっちゃいけないってルール。今君たちはそのルールを絶賛破ってるわけ。しかも上から数えたほうが早いレベルの危険なモノをこの国から持ち出そうとしてるの。つまるところ君らは俺たち日本どころか世界そのものに喧嘩売ってるってわけ。流石に分かったでしょ? お宅らが今どれだけ危険なことに足突っ込んでるのか。君らは然るべき法執行機関に移管させられた後に国際法で裁かれる。つまり世界中から袋叩きにされたあとに本国へ強制送還。聞いた話だとお宅らの国って死刑該当者は容赦なく執行していくそうだね?』

 

「ウウウウウ……クソガクソガクソガアアアアアア!」

 

 マフィアグループたちは余程癪に障ったのか、言われてようやくこの後の己の運命を悟ってなのか、半狂乱に口汚い言葉を並べるとこれが最期と言わんばかりにAKを再び乱射し始める。

 

 これには流石の隊員たちも慌てて一定距離退く。

 

「あの馬鹿! テロリスト煽ってどーすんだよ!」

 

「あーもう、これじゃあ余計に確保しにくくなったじゃないか!」

 

「オイ、第七! ちゃんと説得しろよ!」

 

『うっせーな。ちゃんと説得してんでしょーが』

 

「お前のは説得じゃなくて火事にガソリン放り込んだだけだろ!」

 

『ったくしゃーないな。おい、ビスマルク。努力虚しく残念ながら交渉もとい説得は決裂だ。やはりテロリストに通じる言語はないらしい。ここからはお前の出番だ』

 

「了解したわアズミ。ふふ、どうやらここは私の出番のようね!」

 

 ビスマルクは背から拡声器を取り出すとテロリストに向けた。

 

「聞きなさいテロリスト共! いえ、言葉を知らない蛮族たち! 今からこの私、戦艦ビスマルクがあなたたちを粛正してやるから覚悟してなさい!」

 

『ビスマルク、何度も言うようだが発砲だけはするなよ!』

 

「分かってるわよあなたもしつこいわね! そんなに私が信用ならない?」

 

「信用なんねーから何回も言ってんだろこのダメマルク!」

 

「な、ダメマルクってちょっとそれどういう意味よ!」

 

『そのまんまの意味だよ。ダメな戦艦ビスマルク略してダメマルクだ』

 

「訂正しなさい! 今すぐその暴言を訂正して、謝罪を要求するわ!」

 

『今は作戦中なんだから後にしろ!』

 

「そうやって話を逸らすんじゃないわよ! 大体あなたこの間だって——」

 

 安曇とビスマルクが無線で言い合う最中、テロリストの一人がボートからRPGを取り出すとそれをビスマルクに向けて発射した。弾頭は見事命中し、ビスマルクを中心に赤い炎と黒煙が巻き上がる。

 

「よくも——したわね」

 

 見事に命中し顔を歪ませ喜ぶテロリストの顔がみるみる蒼くなった。

 

 黒煙が晴れ、そこのあったのは飛散した肉塊でも即死した女の死体でもない。煤に塗れながら傷一つついていないブロンドの女が、鬼の形相でテロリストを睨み付け、その背に背負う鉄塊、艤装と呼ばれる特殊な機関から伸びた四門の砲身が、テロリスト達のいる倉庫に向けて構えられていた。

 

「よくも! 私の顔にそんな汚いモノを飛ばしてくれたわね!」

 

 ガコン、と砲弾の装填される音が響くとインカムから安曇の慌てた声がする。

 

『おい馬鹿! 許可があるとはいえ勝手に発砲するのは止め——』

 

「死ねえええええええええええ!!」

 

 耳をつんざく轟音が響くと、砲身から火炎とともに放たれた四発の三十八センチ砲がテロリスト達を襲った。

 

 その日、港区一帯で震度二の揺れが観測されたそうだ。加えると、倉庫街一帯で大規模な火災が発生したらしい。

 

 

 

 横浜市の沿岸部に沿うように走るみなとみらい線。馬車道駅を降りて直ぐ、赤れんが倉庫の立つ近年若者に人気のこのスポットに海上保安庁第三管区本部庁舎があった。

 

 その庁舎の一角。監察艦と書かれた三角錐の置かれた木製デスクを挟んだ黒革製の高そうな椅子に一人の少女が腰を下ろし、事後報告書と書かれた紙をめくった。

 

「えー、上海マフィア構成員以下五名一命は取り留めたものの全員意識不明の重症。現在警察病院に搬送されています。押収した証拠物に関しては既に海保隊員が回収、情報部の海洋研究室へと回されました。それと今回の被害につきましては倉庫全焼が八件、半壊は十件、加えて護岸の損壊、証拠物であるプレジャーボートは消炭になり被害総額はざっと見積もっても二億は下らないかと」

 

 デスクに向かって立つ男、二等海上保安正安曇恭弥はつらつらと事実をありのままに語った。その横にはつまらなさそうに腕を組むブロンドの美女、戦艦ビスマルクの姿も。

 

 そして椅子に座る少女、黒い長髪に細い縁の眼鏡の似合う知的な雰囲気の彼女の名は軽巡洋艦大淀。防衛省から派遣された特殊戦術部隊統括監察艦は、報告書をデスクに叩き付けるとヒステリックな悲鳴を上げる。

 

「かとじゃありません! どうしたら毎度こんな大惨事を引き起こせるんですかあなた方第七は!」

 

「さあ、どうしてでしょうね。正直自分でも不思議に思うくらいです」

 

「まったくだわ。世の中不思議だらけね」

 

 大淀は全身を小刻みに震わせて再度叫ぶ。

 

「つい先週に河口流域で深海棲艦の肉の不法取引の取り締まりをした時のこともう忘れたんですか⁉ 流れ弾で民家八棟は全壊! 橋は崩落して未だに抗議の電話が鳴りやまないんですよ!」

 

「あ、あれは仕方ないでしょ! まさか向こうに深海棲艦の因子を取り込んだ奴がいるなんて思わなかったんだもの! それに民家を壊したのだって犯人側の艦鬼(深海棲艦の因子を取り込むことによりその能力を発露させた人間)が打った主砲じゃない! 私悪くないわよ!」

 

「その主砲を素手で弾いて民家に飛ばしたのは他でもないビスマルクさんでしょ!」

 

「う、そ、それは……」

 

 ビスマルクは苦虫を噛み潰したような顔で肩をすくませる。

 

「いい加減にしてくださいよ! どう考えても原因はあなたたち二人にあります! ああ、もうこれどうするんですか⁉ こんなこと本営に知れたら懲戒だけじゃ済みませんよ!」

 

「先に攻撃していたのは向こうの方よ。私だって死んでいたかもしれないのに」

 

「戦艦がそう簡単に沈むわけないでしょうが! 確かに向こうがRPGを先に発射したことは他の隊員たちも確認していますが、いくらなんでもこれは過剰防衛です! 一発の榴弾に対する仕返しが倉庫街一帯を更地にするってどういう神経してるんですか!」

 

「だ、だって仕方ないじゃない! あのテロリストが私の話を遮って勝手に攻撃したのが悪いのよ」

 

「まあ、やり過ぎってのは確かにそうだよな。俺も流石に止めようとしたけど言うこと聞かなかったし。それに無線に夢中になって目の前の敵から目をそらす間抜けも悪い」

 

「ちょっと! それどういう意味よ!」

 

「どうもこうもあるか。この一件全部原因はお前にあるって言ってんだよダメマルク」

 

「あー! また言ったわね! アズミ! 早くその発言を取り消しなさい! そして謝罪を要求するわ! さもないとその腐った目にアハトアハトを叩き込むわよ」

 

「お、やんのか? やっちゃうのか? これでも俺は学生時代孤高のうさぎという異名で通っていたんだぞ」

 

「要するにただのボッチじゃない……」

 

「とにかく! 責任は部隊の全員にあります。これは連帯責任です。後日私のところまで始末書を持ってくるように。以上」

 

「はあ? なんで私まで始末書なのよ! 指揮官のアズミ一人で十分でしょ!」

 

「むしろこっちのセリフだ! 俺は何にもしてないんだからお前が書けばいいんだろうが!」

 

「いいからさっさと出ていけ!」

 

 大淀に執務室から放り出された安曇とビスマルク。

 

 安曇は深いため息とともに思う。

 

 嗚呼、何故こんなことになってしまったのか。

 

 話は遡ること三か月前の霞が関。外務省に勤めて八年。三十二歳を過ぎてもその腐った性根と一匹狼精神をモットーにしていたおかげか、出世コースからは既にはみだされ腐敗化に加速が掛かり始めた頃。安曇は突然上司から辞令を下された。

 

「お前、来週から海保に出向な」

 

「は?」

 

 最初言っている意味が分からず思わず二十歳年上の上司にため口を聞いてしまったが、それぐらいその内容は突拍子もないものだった。

 

「えっと、どうして海保に? というかどうして自分が?」

 

 状況が把握できず声の震える安曇に対し、そんな部下の気持ちなど一切顧みない清々しいまでの外道な上司は淡々と事実のみを述べる。

 

「先月日本とドイツは沿岸警備合同演習の名目で向こうの艦娘の留学勤務が決まり、海保で預かることになったらしい。ただ如何せんこれは外交の問題も絡んで非常にデリケートでな。まあぶっちゃけると誰も彼女たちドイツ艦娘の面倒を見たがらないんだ。それで海保も頭を悩ませていて、誰か他に適任の人材はいないかとなりお前に白羽の矢が立った」

 

「いや、白羽の矢って……おかしいでしょ⁉ なんで外務省の人間が海保に行く理由になるんですか」

 

「さっきも言ったろ。これは外交問題だ。なんでも向こうの艦娘は名家の出身らしくてな。父親が軍の将校で叔父は官僚だそうだ。こちらとしても可能な限り丁重にもてなして、今後も良い関係を築けるようにしたい」

 

「はあ、しかしそれでも解せませんね。どうしてそれが自分なんですか?」

 

「噂じゃ君、ここに来る前は自衛隊にいたんだってね」

 

「どうしてそれを……」

 

「さあな。俺だって驚いてるよ。ただ向こうの長官はそう仰っていたというだけのことだ。しかし驚いたよ。防衛大学校を首席で卒業して海自の教育隊に入り提督の養成課程、えーと正式名はなんだったかな。まあいい、ともかくそこまで入ったのに、急に退職して公務員試験を一から受けなおしたんだってね」

 

「それは……関係ないじゃないですか」

 

「……まあ、深い事情まで突っ込む気はないよ。ともかく経歴としても社会的な地位としても君が一番適任であると上は判断した」

 

「あのー……因みに拒否権は?」

 

「ない」

 

「横暴だ!」

 

「いいじゃないか。どのみち、お前はここにいても腐っていただけだ。まあ気分転換だと思って外でゆっくり羽でも伸ばしてきてくれたらいい」

 

「よく言いますよ。これって要は体の良い左遷じゃないですか」

 

「そんなことはないよ。ちゃんと任期を満了すれば戻ってきたときに相応の椅子を用意してやるとうちの部長も仰ってくれている。君には期待していると仰っていたよ」

 

「まあ、そこまで言うのなら……」

 

 こうして安曇は悪徳上司に上手く言いくるめられ、めでたく海保への出向を果たし、現在の第三管区警備救難部環境防災課特殊生物災害対策室第七係 係長兼戦術指揮官の地位に落ち着いた。

 

 最初は慣れなかった階章の付いた海保の白い制服も今では違和感なく着こなしている。

 

「今思えばあんな馬鹿な口車に乗せられたのがいけなかったんだろうなあ」

 

 庁舎の食堂でぼうっと席に座り、ぬるいコーヒーの底に溜まったたっぷりの砂糖をマドラーでかき混ぜながら、そんな過去の愚かな自分の選択を悔いていると不意に頭上から声が掛かった。

 

「あら、こんなところにいたのアズミ」

 

 背から声をかけてきたのは、相変わらず不機嫌そうだが見た目だけなら絶世の美女である戦艦ビスマルク。その顔立ちやブロンドの髪は勿論だが、日本人には無い抜群のプロポーションとその肉体美を最大限活かす意匠の込められた、身体のラインが目立つ戦闘服はそこにいるだけで周囲の目(主に男)を奪う。

 

 現に食堂にいる多くの男性海保官は皆余所余所しい。きっと色々溜まっているのだろう。気持ちはわかる。よくわかる。

 

 しかし唯一残念であることを挙げるとすれば、やはりその中身だ。

 

 彼女、ビスマルクは初対面でこう言い放った。

 

 『へえ、あなたが次のアドミラール? 今までの人たちの中では一番使えなさそうね。まあ、精々私のために頑張りなさい』

 

 この言葉に彼女の人間性と呼ぶべきものの全てが凝縮されていた。

 

 自尊心が高く、自己中で人を人とも思わない不遜な態度。外務省では汚い一匹狼扱いされはみ出し者にされていた安曇でさえも、思わず表情が引き攣るほどであった。

 

 最初こそ海外との文化の差やら、認識の違いやらと必死に言い訳して納得しようとしていたが、聞くところによると安曇の前任者は十人いたそうで、その多くがこの高慢ちきなクソ戦艦の横暴に心が折れた者たちらしい。噂では最短記録六時間で逃げ出すものや、あまりのストレスで胃潰瘍になり胃酸をペットボトル一本分吐き散らして気絶し病院に搬送された者、泣きながら執務室を飛び出し三日後富士の樹海で発見された者もいるそうだ。

 

 上司の言っていた海保内に適任者が居ないというのは、きっとこういうことだろう。確かに集団行動が肝であるこの組織にこの暴れ馬の手綱を握れる奴は早々いない。居たらそれはそれで問題であるが。

 

 外交の問題もあって海保内部では色々と扱いに苦戦したそうだ。そしてついに外部に助けを求めるため、藁をも掴む思いで外務省に助けを求めたということである。

 

 こうして選ばれたのがあまり昇進にも縁がなく、不遜な態度で周囲から孤立している図太い精神を持った防衛大出身の安曇ということだ。要するに人柱である。

 

「あっれー、おっかしいな。肯定的な理由がどこにも見つからないぞー?」

 

「何一人で気味の悪いこと言ってるの。頭大丈夫?」

 

 そういいながらビスマルクは安曇の向かいの席に座った。

 

「大丈夫だったらこんなところとっくに辞めてるよ。それで何の用だよ。こっちにお前が来るなんて珍しいな」

 

「ここの食堂の料理は美味しいのよ。特にポテトサラダ。あれは人類の叡智ね」

 

「こんな東のはじっこの島国に来てまで芋かよ。どんだけ芋好きなんだお宅らドイツ人は」

 

「あなたたちヤーパンも海外に行くときはショーユーを持っていくそうじゃない。似たようなものでしょ」

 

「そういうものか?」

 

「それに私、この国の料理は結構気に入ってるのよ?」

 

「へえ、意外だな。好き嫌いの多いお宅がこんな国の文化を気に入るとは」

 

「ええ。自分でもちょっと驚いてる」

 

「そう思うんならもう少し自制というものを弁えてほしいもんだ」

 

「なっ、それを言うならアズミだってもう少し気を使いなさいよ!」

 

「何を?」

 

「執務室でのこと! あなたが執務室で靴を脱ぐと鼻が捥げそうなのよ! 何を食べたらあんなピクルスみたいな臭いが足からするの!」

 

「お前もいずれ分かるさ。三十過ぎたら人間色々な機能が衰え始めるから……」

 

 安曇は若干陰りのある表情でそうぼやいた。どうやら相当ショックだったらしい。

 

「そ、そう……あなたも色々大変なのね。ってそうじゃなくて、せめて靴を脱がないか芳香剤でも用意しなさい」

 

「え? 置いているぞ。ちゃんと交換もしてる」

 

「えっ……」

 

 まるで人知を超えた恐怖でも見てしまったかのように表情を凍らせるビスマルク。

 

「それで、俺に何の用だ。わざわざポテトサラダ食べる為だけにここへ来たんじゃないだろう」

 

「へっ⁉ あ、そうだったわね。えっと、そのことなんだけど……」

 

 すると突然ビスマルクはバツの悪そうな表情で下を向きもじもじと身体をくねらせ始めた。ぶっちゃけキモい。

 

 何か言いたいことがあるようだが、どうにも本人の羞恥心やらプライドがその発言を躊躇わせているそうだ。言いたいことはいつもはっきり言う、よく言えば明朗な、悪く言えば遠慮のない彼女にしては珍しい態度である。

 

「なんだよはっきりしないな。用件があるならさっさと言え」

 

「わ、分かってるわよ。その、あなたにちょっとお願いがあるんだけど……」

 

「お願い?」

 

「その、もし今夜時間があるなら、私と一緒に外へ飲みに行かない?」

 

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