朝起きたら森の中にいた。周りを見渡しても俺の寝ていたベットも家もない。どういうことだ?昨日はずっと家に引きこもっていたはずだ。
「どこだよここ・・・」
とりあえず立ち上がると、土の上で寝ていたため身体の骨が悲鳴を上げる。そして今の状況を冷静に考えてみる。昨日部屋で寝ていたら森の中で寝ていた。訳が分からない。
「まさか誘拐?」
いやしかし誘拐しといて森の中に放置したままなのはどう説明する。身代金目当てならどこかへ監禁しておくだろう。では殺害目的?そうだとしたらとっくに死んでなきゃおかしい。
「考えても仕方ない。どこか民家を探そう」
そう口にして北も南も分からぬまま歩きだした。
「ハァハァどこまで広いんだよ。歩いても歩いても道ひとつ見つかりはしない」
この森は相当広いらしく歩いている途中に下が霞むような崖や滝などもあった。一応滝から流れる川を下っていっているが道なき道を歩いてきたため疲労がたまってきた。少し休憩しようと木の根っこに座り込む。しかしこれはどうしたものか。最初はすぐに民家なり見つかると思ったがこのあたりに人のいる痕跡が見当たらない。そもそも道すらないのだから当然だが。
このまま家に帰れないのではないかという不安が襲ってきてポッケに入っていたスマートフォンをとりだした。さっき確認したところ電波はなかったのだが、現代人の性というものなのかつい弄ってしまう。
「はぁ、やっぱりだめか」
やはり電波がなくては何も出来ずポッケにしまい、そろそろ出発するかと目を前に向けると化物がいた。
「は?え、あいや・・・え?」
突然のことすぎて混乱し自分が何を言っているのか分からなくなってしまう。赤い目が二つ、身体は真っ黒な狼のように見えるがその大きさが常識の範囲を超えていた。大家族が乗るような大型の車を越えるような化物がどうやって音もなく目の前に現れたのか理解できなかった。その狼はこちらを見据えて微動だにしない。ようやく恐怖が追いついてきたのか脚が震え、汗が滝のように流れ出した。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
本能で頭が警告をだしている。しかし脚がぴくりとも動かないのである。
一分たったのか一時間経ったのか緊張で時間の感覚が分からなくなった頃、近くの木に止まっていたであろう鳥が空に羽ばたいていった。それをきっかけとしてやっと脚が化物から逃げるよう動いた。
「----------------------------------!!!」
声にならない叫びが恐怖を増してゆく。なんなんだ"アレ"は。なんであんなのがここにいる!?なんで自分の目の前に現れた!?喰われ殺されるのか、理解不能なことがさっきから起こりすぎて頭が割れそうになる。とにかく"アレ"から逃げないととまで考えたところで
「ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア!!!!!!!!!」
という地響きのような鳴き声が後ろから聞こえてきた。
「(追って来ている!)」
やはり"アレ"は自分を殺すのだろう。後ろから恐ろしい勢いで迫ってくる殺意に脚がもつれそうになるが、止まったら死ぬことは明白であったため、何とか前に前にと脚を進めていく。しかし歩幅という差は残酷なものですぐに追いついてきた。すぐ後ろに"アレ"の息遣いが聞こえてきて恐怖で意識が跳んでしまいそうになる。しかしどうせ死ぬなら一か八か試す価値はあるだろう。目の前にさきほど通った崖が見えた。追いつかれたら確実に死ぬが崖から飛び降りたら下も森である。もしかしたら木がクッションとなって生き残れると考えたのだ。恐怖で正常な判断が出来ていない自分はためらうことなく崖へと飛び降りたのだった。
「うぅ・・・・」
目を覚ましたら視界が天と地逆さまになっていた。どうやら幸運なことに崖から飛び降りて本当に生き残ったようだ。ベルトに枝が引っかかって体が逆さまである。生きてはいるが身体中が激痛で悲鳴を上げている。どうやら無傷で生還は高望みしすぎだったようで腕や脚があらぬ方向に曲がっていた。
「は、はは。でも・・・生きてら・・・」
そうつぶやいた直後身体に液体が降ってきた。雨か?とボーとした頭で考えて上を見上げたら、化物がすぐ近くでこちらを見ていた。
「!?」
すぐに離れようとしたがベルトに引っかかっている枝が思うように取れない。そもそも腕が折れていて思うようにうごかせなかった。
しかしすぐに化物の様子がおかしいことに気づいた。目には力がなく身体には枝が刺さっており血まみれで瀕死の状態であった。それでもなんとか身体を動かそうとしており刺さっていることで身体を支えている枝がミシミシといっている。
このまま落ちてきたらつぶされる!と判断してなんとか逃げ出そうとするがそれよりはやく化物の枝が折れて自分ごと地面に落ちてしまった。
「ガ ア ア アアアァァァァァァ・・・・・・」
化物は刺さっていた枝が地面に倒れ落ちたことで深く刺さってしまい死んでしまったようだった。口からも血を流しその血が自分に大量に降りかかってしまった。
「ガハッつ、つぶれ・・・ぐぐぎぃ」
しかし化物の体重が落ちてきた血心にそんなことに気を配る余裕はない。火事場の馬鹿力というものか折れている腕で何とか化物の身体をどかした。
「ハァハァ、ちきしょう、なんなんだ。なんなんだよ・・・なんで俺がこんな死にそうな目にあわなきゃなんねえんだよ!」
ゴホッゴホッと大声を出したために息が乱れてしまう。腕も脚も折れてしまい満身創痍の身体は地面に倒れ、息をするのも苦しくなっていた。顔中化物の血まみれだが拭う元気もなく、そのまま血心は死んでしまったかのように意識を手放した。
「山のヌシの反応があったのはこの辺りのようででございます。」
「ありがとう。皆周囲を警戒して。妖怪だといって油断しないで。銃がまともに効く相手だったならヌシにまで登り詰めないわ」
「そんなに心配せずとも平気ですよ、八意様!我々は最新兵器が配備されている精鋭チームですよ。山のヌシだか知りませんが我らが必ず仕留めてみせますよ!」
「そう・・・(この兵士たちは本物の妖怪の恐ろしさを分かってないわ。一度獲物と見なしたら自身が死ぬまで止まらない。その執着心がどれだけ恐ろしいか軍では習わなかったのかしら)」
永琳と兵士たちは人間の脅威を排除するため都市を離れ妖怪の森へと入っていった。森のヌシを殺すことで妖怪の勢力を一気に削ぐ計画であった。そしてヌシの匂いに反応する機械が周辺にいることを示しており今は警戒を強めているところであるが兵士たちの余裕が永琳を苛立たせる。その余裕は道中妖怪に一匹も出会わなかったからであり、永琳の実力が妖怪たちより高く、妖怪たちは遠くからエサである兵士たちを眺めるだけであったからであった。
永琳がなにか不審な気配を感じ、その方向に進んでいくと濃厚な血の匂いが立ち込めていた。さすがの兵士たちも異常な空気に警戒し進んでいく。
そして草木を抜けたその先には黒い毛をした馬鹿でかい山のヌシが息絶えていたのである。死んでもなお強烈な威圧感を放つその死体に、兵士たちは萎縮してしまって声が出せないで居た。永琳はというとこの状況に多少は戸惑ったもののヌシの傍らに倒れていた血まみれのの血心に気がつき、応急処置を施していた。
「ハ、ハハ・・・こいつがヌシか・・・」
なんとか声を出せた兵士が恐怖を紛らわせるように笑いながら言う。
その声につられて他の兵士も口々に「たいしたことねえな」「この程度俺一人で殺せたな」等と震えた声で自らを鼓舞するよう言い放つ。
その間に応急処置を終えた永琳がヌシの死体を見て震えている兵士たちに
「帰るわよ。彼を重要参考人として都市につれて帰るわ」
その言葉に兵士たちはやっと血心の存在に気付きあわてるようにこの場を去っていった。
今は輝きを失ったヌシの目が離れていく血心を最後まで見つめていた。