「あなたはいったい誰なの?どうしてあの場にいたの?」
永琳のつぶやく声が自宅兼診療所に木霊する。都市に帰ってきた後、兵士たちが血心を尋問しようと提案していたが却下し、この件は永琳が責任を持って一任するということになった。なぜそんな気になったかというと永琳自身も分からなかった。正体不明の男を家にあげるという危険を犯しても自分の近くに置いておきたかったのだ。血心は擦り傷だけでなく打撲や骨折と重傷であったが、今は骨折以外ほぼ完治している。永琳の自己治癒力を活性化する薬を注射したおかげもあるが、あまりにも治るのが速過ぎる。普通なら一、二週間はかかるであろう傷をあと一日あれば骨もくっつくであろうレベルまで回復していたのだ。
「・・・あなたは妖怪?それとも人間?・・・」
そのつぶやきに答えは返ってこない。妖怪にしてはあまりにも"穢れ"がなさすぎる。しかし人間にしては異常な生命力。もしかしたら"能力持ち"という可能性もあるが彼が起きるまで真相はわからない。そんなことを考えているといつのまにか永琳が血心に近づいていた。
「やだ・・・なんでこんな近くに」
すぐに離れようとするが彼の頬に貼ってあるガーゼに滲む血から目を離せない。
甘い香り、近づくほどにその甘さは増していき、頭が痺れ強いお酒を飲んだかのような陶酔感に襲われる。永琳の上気した顔が血心の目と鼻の先まで近づいていき・・・
「う・・・うぅーん」
起きたら目の前ににえらい美人がこちらを見つめていた。
「「!?」」
向こうもこちらが目を開けるとは思っていなかったのであろうか、驚いた様子で後ずさった。自分はというとここが何処なのか、目の前の女性は誰なのか混乱してしまっていた。確か自分は化物に襲われて気絶した所まで覚えているが、こんな美人のことは記憶にない。そこまで考え、とにかく立ち上がろうと手足に力をいれると痺れるような痛みが走った。
「ま、まだ動いちゃダメ!骨がつながってないわ」
上気した顔の女性が慌てたように駆け寄って自分をベットに押し付ける。状況から察するに、倒れていたところを救助し治療してくれたのだろう。女性は医者かなにかなのだと思う。
「助けていたただいてありがとうございます。化物に襲われてこのまま死んでしまうものかと思っていました」
「礼をいうほどのことじゃないわ。私達が貴方を見つけたのは偶然よ」
それでも朝から緊張の連続で、久しぶりの人間を見たら安心で何度もありがとうと言ってしまった。そしてまだ名前を聞いてないことに気付いて自己紹介をする。
「私は血心と言います。ぜひお名前を聞かせて下さい」
「本当に礼を言われるほど治療らしいことはしてないんだけど・・・。永琳よ。八意永琳、この都市で薬師をしているわ。」
「八意さん、この恩は忘れません。ですが今は手持ちが無くてですね一度家に帰りたいんですがここは何県なんですか?」
急に血心がいなくなって親や友人も心配しているだろう。警察にもあの化物の話を報告しておきたい。この都市が自宅に近ければいいんだが・・・と思っていると
「え?け、券?券がほしいの?家に帰りたいって言ってもこの都市そこまで広くないんだから近いと思うわよ」
「いやいや、都道府県のことですよ。私が住んでいたところは◯◯県なんですがここはどこですか?」
そう返しても八意さんは困惑した顔でこちらを見ている。なんだか会話が噛み合っていないな・・・と思ったところで電話すればいいじゃないかと思い付き、スマートフォンを取り出した。ここは都市らしいので電波は確実に通っているだろう。病院?で携帯を弄るのはマナー違反だがとにかく連絡を取りたい血心は迷わず電話を掛けようとする。その様子を八意さんが興味深そうに眺めていた。
「なんで圏外なんだ・・・?八意さんここは都市ですよね。電波が届いてないんですけど」
そう聞くと彼女は「電波?」と返答する。不安が増していく・・・嫌な考えが頭の中に駆け巡ってくる。まさか、まさかと思いながら震えた声で聞く。
「日本って知ってます?」
彼女の答えを聞いた後のことはよく覚えていない。とにかく走って走って走り続けて都市の隅まで来たようだ。高い壁に背中を預け座り込んでしまう。この都市は壁が周りを囲い守っているようだった。そして現代の世界では考えもつかない高度な技術を持っている都市であった。車のような乗り物が大量に空に浮かんでいる。高いビルがそこら中にそびえ立ちロボットが人間の後ろに付き従っていた。
「まるでゲームの世界じゃないか・・・」
項垂れながらそう呟くが俺は寝る前にVRギアを被っていないし頭もイカレちゃいない。ただ一つ分かることは俺がこの世界に居るべきではない人間だということだ。
何時間経っただろうか項垂れている俺の視界に小さな靴が二つ入ってきた。
「一人で悩むより二人で悩んだほうが楽ですよ。この都市イチの頭脳 八意永琳 が力を貸してあげる。だから顔を上げて?」
顔をあげた先には女神のような笑顔の八意さんが手を差し伸べていた。
そして血心は縋る様にその手を取りゆっくりと立ち上がったのだった。
だが永琳も血心でさえ気付いていなかった。手を差し伸べた彼女の目が赤く輝いていたことに・・・・・