サイレンにいち速く行動を起こした永琳は、小型の機械に問いかける。
「状況を説明して、何が起こってるの」
「八意様、妖怪です!いつの間にか壁の外に大量の妖怪が集まっています!」
恐らく軍の兵士なのだろう。その言葉を聞いた永琳は血心の手を取り家から外にでる。
「どういうことなんだ、永琳。妖怪が集まっているって聞こえたけど」
永琳は早歩きで答える。
「心配ないわ。侵入されてないなら迎え撃つだけよ。でもおかしいわね、妖怪は普通個体で行動するのに集団で都市を襲うなんて今まで無かったことよ。恐らく強力な妖怪が指揮をとってるのかも。」
そこまで言うと都市のサイレンから声が流れ出した。
「「「この都市は妖怪に包囲されました。妖怪達に壁を越えられるとは思いませんが、安全のため月移住計画を繰り上げてロケットの準備を都市の中央で行っています。住民の皆様は迅速にかつ焦らず都市中央にお集まり下さい」」」
繰り返します。の声に続いて都市中の人間がロケットに向かい始めた。
永琳と自分は一足先に中央のロケットまで到着し、そこにいた軍の兵士に乗車許可を求める。突然の事過ぎて頭がついていってないが、永琳は自分をロケットの中に押し込みそこから立ち去ろうとする。
「ど、どこに行くんだ永琳!」
まさかと思いながら声を放つと、笑いながら
「妖怪の足止めをしてくるわ。心配しないで、妖怪の百匹や二百匹片手で十分って言ったでしょ」
「待ってくれ!だったら俺も---「血心はここで待ってて。大丈夫、都市の壁は妖怪達には絶対壊せないわ。適当に片付けたら必ず戻ってくるから」
諭すように言ってくる永琳だが俺は不安が抜けることは無かった。なぜ急に妖怪が集団行動をするようになったのか。なぜ俺が都市に来てから襲撃がおこっているのか。イレギュラーな存在、俺が関係しているんじゃないかと脳裏によぎる。
永琳は兵士達に
「私は東区に、あなたたちは西区の防衛を行って。住民の避難が完了したらすぐにロケットへ乗り込むこと。乗り遅れたら都市の爆撃に巻き込まれるわよ」
そう指示して走り去っていく。その背中を俺は見ていることしか出来なかった。
その後続々と住民達の大群が乗り込んで来た。意外にもその顔には不安や恐怖の色は見えず、むしろ喜んでいるようにも見えた。
「やっと月に行けますなぁ。金持ちばっかが穢れのある地上から早く離れて先に月で暮らしてるんだからむしろ妖怪達には感謝ですよ」
他の人間達も大体同じ反応で妖怪に対する恐怖を感じている様子は無かった。
血心が妖怪がすぐそこまで来ているんですよ。怖くはないんですか、と聞くとポカンとした顔をして
「ハッハッハッ、妖怪ごときが壁を越えられる筈が無いでしょう。あの壁は対妖怪用に作られたものですよ?触れた途端に自動防衛システムが働きますからね。妖怪達も身にしめているはずですから絶対に安心ですよ!」
それを聞いて少しは安堵する。永琳の言う通り住民の避難完了まで一応見張っているだけなのだろう。兵士達にも緊張した様子はなく、妖怪が集団を組むなんて珍しいこともあるもんだと喋っている。この分だと心配しすぎだったのかなと思ってしまう。突然月に移住だなんて驚いたが永琳と一緒なら別にいっかと簡単に考えていた。
そろそろ住民たちでロケットが満員に近くなっている。他のロケットは既に出発したようだった。あとは永琳や残っている兵士を乗せるだけなのだろう。ロケットの入り口の兵士が
「住民は全員乗り込みました。東区の兵士たちで最後です」
そう無線で報告していた。いよいよ月に行くのかと、改めてこの都市の技術の高さに驚いていると
「ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア !!!!!!!!」
耳をつんざくような鳴き声が聞こえ、続いてドゴオオオオンと何かが爆発したような音が聞こえた。すぐさま音のした方に目を向けるとあの巨大な壁から煙がでていた。
あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、あの声は、
永琳が危ない!そう思った瞬間、脚が動いた。しかし兵士に腕を掴まれてしまう。
「離してくれ!永琳が!永琳が!」
「危険です!すぐに確認しますのd・・・・・」
そこまで発言した兵士が壁の方を見たまま動かない。俺もそちらに目を向けると煙が晴れており、そこには馬鹿でかい穴と赤い眼をした巨体の山のヌシがそこにいた。
兵士の手を振りほどいて走り去る。後ろから悲鳴が聞こえる。
「壁が壊された!?」「いやああああああああ助けてまだ死にたくない!!」「妖怪が入ってくる!」「はやくロケットをだせ!」
船内は混乱しているようだった。しかしそんなことはどうでもいい!
俺は身体強化された脚で永琳のいる東区まで走りぬける。一瞬あいつと目が合ってしまった。あいつの目は真っ直ぐ俺を見ていた。身体が震えだし頭が引き返せと警告を鳴らしている。
「いい加減にしろ、また俺は逃げるのか!永琳を見殺しにする気か!覚悟を決めろ俺!!!」
叫んだことで少しだけ震えが収まってきた。そうだ、あそこに永琳がいる。今度は俺が救う番だろうが!そうして俺は走る速度を速めた。
前に兵士数人が永琳を担いでこちらに向かってきている。こちらに気付いた兵士が大声で
「そこのあんた逃げろ!すぐに妖怪の大群が追いついてくる!あいつらに殺されるぞ!」
そう忠告してきているが引き返す訳にはいかない。
「永琳は無事なのか!?」
近くまで寄ると永琳は頭から血を流していた。俺の顔から血の気がうせる。
「あいつの咆哮をまともに受けちまった。気絶しているだけだが、このままじゃ妖怪に追いつかれちまう!」
気絶しただけという言葉を聞いて、ホッとしたが後ろから妖怪の声が聞こえてきた。
「ヒッ、もうだめだ!俺たち死んじまう!」
兵士たちは今にも恐怖で泣き出しそうであった。血心は兵士の頬を叩きこちらに顔を向かせる。
「あきらめるな!絶対に永琳をロケットまで連れてけ!俺が足止めをする!」
「あ、あんたはどうすんだy「うるさい!走れ!」
兵士の尻を蹴り、無理やり走らせる。もたつきながらもロケットの方に走っていった。他の兵士も走り去るがこの中で一番歳の高い兵士が覚悟を決めた血心の顔を見て残っていた手榴弾をよこした。
「銃は弾が切れちまった。悪いがこの程度しか残ってない。・・・・・死ぬなよ」
「・・・・・約束する、俺は絶対に死なない」
そう言うと走り去っていった。
俺は妖怪たちの方へ振り返り、近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げる。
「かかってこい、妖怪共!今度は俺が助ける!君が居なければ俺は死んでいた。だから!今日!生きながらえたこの命を君のために使う!」
俺は迫り来る妖怪達へそう叫び、走っていった。
俺は身体能力と再生力が向上したこの身体で何とか妖怪達の猛攻をしのぎ切っていた。鉄パイプが折れれば拳で、拳がつぶれれば噛み付いてでもロケットには行かせなかった。
しかしすぐに再生力が追いつかなくなってくる。息が苦しい、目もかすれて見えなくなってきた。そんな様子に妖怪達は最後の止めを刺そうと、爪を血心の首に向ける。あと数瞬で当たるというところで、その妖怪の身体は大きな足に踏み潰された。
「山のヌシ」そう称えられたヤツの身体は今は見る影もなく腐り、脚を引きずっている。しかしあの赤い目は以前と変わらず爛々と輝いており、その目は血心を見つめ続けている。死してなお、獲物を追いかけるその姿は本物の妖怪、「恐怖」を体現していた。
ヌシが現れたことで周りの妖怪は一気に静かになった。妖怪ですら恐怖した。
「獲物を横取りする奴は容赦なく殺される」それを理解させられたのだ。
「よぅ・・・生きてたのかよ、俺もお前もしぶといな・・・」
血心は不思議と恐怖は湧かなかった。いつかは自分の血、異常な身体について決着をつけなくてはと思っていた。
「こんなに早くその機会がやってくるとは思ってなかったが、調度いい。お前を倒して俺は俺自身を克服する!」
そうして俺はヤツに飛び掛っていった。
ヤツとの戦いは一方的なものだった。屍となって以前より明らかに動きが遅くなっていたが、それでも一撃当たれば俺はひとたまりもないだろう。そのため俺は回避に徹して隙をうかがっていた。しかしいくら身体能力が高くなったといっても素人に毛が生えた程度の血心には回避だけで精一杯であった。このままではジリ貧だ。血心はヤツの引きずっている方の脚側に周り一気に近づいた。丸腰の血心には拳しか攻撃の手段がない。その拳で一番効果の高い攻撃場所はどこかというと
「ここだ!!」
そう言って顔ほどあるヌシの目玉に拳を突きたてた。
グチュリという嫌な音が聞こえてくる。
「ガ ア ア ア ア ア ア ア ア !!!!」
よし!そう思った直後、ヌシは口を大きく開け血心の腹辺りに噛みついた。顎の力はすさまじく牙が深々と刺さってしまう。
「アアアアアアアアアアアア!!!-----------ッギィイイ、ぢっぎしょぉお!!!」
激痛で吐き気が襲ってくる。肺が傷ついた様で血を吐き出してしまう。このままじゃまずい。突き刺さっている腕を目玉ごと引き抜いたことでヤツも口から血心を放す。地面に投げ出され何とか立とうとするも膝をついてしまう。しかしヤツも片目が潰れた事で頭を振り回している。
考えろ!あいつを確実に殺すにはどうすればいい!
俺は最初にヤツに出会ったときの事を思い出した。あの時の俺は死んでしまう事も構わず崖から飛び降りた。そうだ、死ぬ気でヤツを殺す!もう一度するだけだろうが!!!俺も死ぬ気でやらなきゃダメだ。ポケットにいれた手榴弾を取り出し、そして言い放つ。
「おい、化物!俺を喰え!殺したかったんだろ、この俺を!屍となっても追ってくるほど俺を喰いたいんだろうが!!かかってこい!」
「グルルルルルルルルルルル」
その声にヌシは返事をするように唸った。そして恐ろしいほどのスピードでこちらに向かってきた。
「(そうだ、それでいい。馬鹿でかく口を開けて俺を食え!)」
右手に手榴弾を握りこみ、俺はふらふらと立ち上がる。両手を横に広げてヤツを待ち構える。ヤツが迫ってくる。
ヤツとの距離があと数メートルというところで血心は大きく左に飛び込んだ。しかしヤツはすぐさまそれに反応し、右手を肩ごと噛み千切ったのだった。
「-------------ッッッ!!!!!!」
もう声すらでない。痛みが限界を超えて体が痺れてきた。
だが!喰った!ヤツは俺の右手を喰ったんだ!
ヌシは咀嚼をしている。
3
2
1
「あばよ、もう生き返んじゃねえぞ・・・」
ヌシの頭が吹き飛んだ
遠くでロケットが発射するのが見える。永琳は無事に乗っただろうか。
「永琳にさよならって言いそびれちゃった・・・」
妖怪達はヌシが死んでロケットも発射してしまったことでエサがなくなり、大声でこちらに向かってきている。最後に俺を喰うつもりだろうか。残念だがそんな時間もないだろうよ。
空から爆弾のようなものが落ちてきている。それから逃げようとするもの、呆然とするもの、俺を喰おうとするもの様々だが一人呟く。
「ありがとう永琳」
光が俺を襲った。