そんな無茶ぶりもうやめてください 作:楠木蒼月
転生した。
今の状況を一言で言えばこんな所だ。
生まれてさほど時間も掛けず自分が転生者であることを自覚した。今世の私の名は皇紫苑。知ったその瞬間、頭が混乱した。
前世の私は平凡な女子大生だった。いや、“少しオタク趣味は有ったものの周りと比べれば”と頭に付けると完璧な私の特徴である。とにかくただの凡人だったはずの私だが、どうやら大学の帰り道に後ろから来た大型トラックに轢かれて、次に気が付いたら転生だなんてベタな展開に巻き込まれたらしい。
いや、転生って何さ!?言葉の意味は分かる。どんな状況にあるかも理解できる。だからといって現状を呑み込めるかどうかは別問題だ。全く以て納得できない。
何故私なのか、あの後家族とか親友とかがどうなったのか、私が好きな作品達はどうなったのか、そして何よりも何故私が神様やそれに類似するような輩の存在を確認していないのにも関わらず転生を終えてしまっているのか!!別に転生したこと自体は問題じゃない。せめて説明が欲しかった。説明さえあれば今の私のように混乱する事もなかっただろう。
うん。気にするところがおかしいのは自覚している。凡人だとかいいながら私は変人扱いされていたのだ。ただ少し価値観が変わっているだけなのに。解せぬ。
さて、前世の私のことを自己紹介し終えたところで、今の私皇紫苑という存在について説明しよう。いや、説明するようなことはまだ今世の私には何もない。せいぜい、何人もの兄がいてそれぞれが天才である、という程度。
しかし、私は皇紫苑という人物を前世の知識で知っている。GJ部なる得体の知れない部活動の日常を綴ったゆるふわ系作品の数少ない登場人物の一人で、一言で言えば天才だ。驚異的な記憶力を有し、チェスの世界チャンピオンを指導するほどチェスが強く、大抵のことはこなしてみせる。しかしながらその生まれの良さが祟り、カップ麺の作り方や自動販売機の使い方、電車の乗り方にハンバーガーの食べ方といった世俗的な一般常識には疎い。
これが私の中での皇紫苑という人物像であるわけだが……。
正直に言おうか。状況に頭が着いていかない。いや、思考速度はまだ生まれたばかりとは言え前世の私の最盛期のそれを軽く凌駕している。それでも状況の理解に苦しむ。
確かに原作の彼女も人間関係の機敏には疎く、容易く誘拐されそうなほどのポンコツさも見せていたが、その影響だろうか?否、むしろこういう場合こそ冷静に対処できそうな人物だったはずだ。
閑話休題。
これから私は皇紫苑として生きることになるわけだが、どうすればいいのだろうか。
まず前世の私のように平凡に暮らすことは不可能である。
次に原作の彼女を模倣する事も無理だろう。何故って、前世の記憶があってそれなりに人間関係の機敏も一般常識も一通り頭に入っている。そんな状況で一般常識に関してのみとはいえ無知で純粋な女の子を演じるなど痛いとしか言いようがない。故にこの案も没。
そして最終的に残るのは、もうなるようになるから何も考えないで過ごす。これだけであった。
皇紫苑に憑依(?)したのは仕方ないから私らしく過ごしてしまえ。もはやヤケクソに近いが、これが最も理に適った案である。仕方がない。
確かに私は皇紫苑だ。しかし、それ以前に私は私だ。私がやりたいようにやればいい。そのことに対して何も考えなくてもよい。そう結論付ける。
そんなこんなを考えている内に眠くなってきたので寝ることにする。こういうところだけは年相応である。気が付けば意識は落ちていた。
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『ふむ。どうやら今代の器にはイレギュラーが発生しているようだね』
何もない空間に声だけが響く。
『いや、不都合なんて何一つないけどさ。寧ろ好都合だ』
誰かに話しかけるような声はただ一人
『彼女はどのようにその生き様を魅せてくれるのかな?』
己の器となる少女を思い嘯く。
『ああ、楽しみだ』