Fate/Victory Order    作:青眼

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さて、そろそろ冬木編も終わり、次回のフランス編に入りたいところですがここで一旦小休止。少々、主人公の立ち位置の再確認に入ろうと思います。
というわけで、いよいよオリジナル要素が強くなるこの作品、最後までお付き合いくださいませ!


崩壊する特異点

『…………オルガマリー所長の反応、途絶』

 

 狭間の腕輪から、心苦しそうな声を漏らすロマニさん。その声に応じる者はいなくて、全員が目の前の男を。レフ・ライノールを睨みつけていた。狭間に至っては、今にも飛び出しそうな顔だ。

 

「……ふん、愚かな人間だ。最後の最後まで鬱陶しい小娘だったな」

「っ、お前ェ!!」

 

 レフのあざ笑う声に狭間が反応する。それを見た狭間の顔が顔色が目に見えて変わる。当然、この場にいる誰もがレフに対して怒りを抱いている。だが、誰も手を出そうとしない。何故なら、目の前にいる男に敵うか分からないからだ。

 正直な話、そんなに戦ったことのない俺でもレフの放つ殺気を感じ取れる。武術に少ししか精通していない俺でも感じ取れるのだ。サーヴァントであるブーディカさんやマシュは、これより濃い殺気を感じ取っているに違いない。

 

「ふん、興も冷めた。もうじきこの特異点は崩壊する。私も鬼ではない、最後の祈りを行う時間くらいくれてやろう」

 

 レフは吐き捨てるにそう言い、手に握った水晶体。聖杯の魔力を使ってこの場から消えた。直後、この空洞に奴の声が木霊した。

 

「ああ。最後だから忠告だけはしてやろう。さっきオルガにも言ったことだが、既に2017年から先の未来は焼却されている。カルデアスの磁場によってカルデアは守られているだろうが、それもカルデア内の2016年の時間が過ぎれば同様に燃え尽きるだろう。ではさらばだ、生き残った哀れな職員諸君。精々、悔いのない人生を謳歌したまえ」

 

 その言葉を最後に、今度こそレフの気配はこの冬木から消えた。だが、奴と、奴の持つ聖杯という楔を失った影響か。大空洞内に地響き轟く。よく見れば空洞の天井が崩壊し始めているようにも見えた。おそらく、レフが言っていた特異点の崩壊とやらが始まったのだろう。

 

「ド、ドクター! 至急レイシフトを始めてください! このままでは私はともかく、先輩が生き埋めになってしまいます!!」

『分かってる! でもすまない、そっちの消滅の方が早いかもだ! その時は何とか頑張ってくれ! ほら、宇宙空間でも数十秒なら生身でも平気らしいしね!』

「すいません黙ってくださいドクター! 怒りで冷静さが無くなりそうですっ!!」

 

 ここに来て温厚なマシュが怒りかける。それに驚いたのか通信越しでもロマニさんが怯えた声が漏れた。声だけなのにビビるって、この人どんだけチキンなんだろうか。

 

『わ、わかってるけど! それより黒鋼君はどうするんだい!? このままだと君とブーディカさんは諸共に消えるだけだよ!?』

「ーーーーああ、そっか。俺、カルデアから来たわけじゃないから、このまま一緒に帰れないのか」

 

 突然現れたヘラクレス。セイバー・オルタによる誘拐。そして、オルガマリーさんの最期の見届け。色々とあったから忘れていたけど、俺はこの世界に突然現れた異物。このまま、特異点の消滅に飲み込まれるのだろうか。

 そんなことを考えた後、俺はふと、ここまで一緒に戦ってくれたサーヴァント。ブーディカさんの方に首を向けていた。そうだ。ここで俺が消えるのは別に構わない。いや、死にたくないけど、俺なんかが関わっていい物語ではないのだから仕方がないことだ。だが、彼女は違う。彼女は本来、狭間という主人公に仕えるべきサーヴァントだ。ならば、俺ができることは一つだけ。

 

「ブーディカさん。一つだけお願いがある」

「うん? なにかなマスター?」

「時間がないから単刀直入に言う。今すぐ俺との契約を絶って、狭間と再契約してくれ。令呪の縛りもないから、再契約は簡単だろ?」

 

 そう。ここで俺が消えてしまうというのであれば。少しでも物語を元通りにするためにも、狭間と再契約をした方が良いと俺は考えた。何度も言うが、俺がこの冬木の特異点から消えた後、どこにいるのかはわからない。だというのに、ブーディカさんは俺の提案を聞いて首を横に振った。

 

「残念だけど、それはできないよ。多分、私のことを思ってのことだっていうのは分かってる。けど、私は君に呼ばれたサーヴァントだ。あなた以外に仕えるつもりはないし、戦車を駆るつもりもないよ」

「いや、でもそれだとブーディカさんが」

「ぐだぐだ言わない! とにかく、私は契約を切らないし、再契約もしないからね!」

 

 腰に手を当てて、いかにも怒っていますと言わんばかりに頬を膨らませる彼女を見て、つい頷いてしまった。すると、さっきまで特異点が崩壊するせいで焦っていた空気が消えた。マシュも狭間も俺を見て笑っており、それにつられて俺も笑う。

 

「何だか、お姉さんみたいですね。ブーディカさんは」

「お? マシュは一人っ子なの? なら、私がお姉さんになってあげよっか」

「え、いえいえ大丈夫です! 大丈夫でふぅ………」

「こ〜ら。遠慮しないの。あ〜もう、やっぱりマシュは可愛いね〜〜!!」

 

 マシュの抵抗もむなしく、ブーディカさんがマシュを抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。彼女の母性の虜になってしまったのか、されるがままに撫で続けられるマシュ。その顔があまりにも幸せそうに見えたから、この場にいる男組である俺たちは苦笑する。

 

「………とりあえずここでお別れだ。もし、次があるならーー」

「もし、じゃなくて。絶対だ。また、どこかで会おうな。研砥」

「ーーーーーーああ。またな、狭間」

 

 残された男同士、拳をぶつけ合って再開を約束する。直後、地響きの音が大きくなっていき、世界が暗転する。これが、ロマニさんの言っていた特異点の崩壊というやつなのだろう。意識をしっかりと保てとも言っていたが、ここまで色々とあったせいだろうか。急に睡魔が襲って来てしまい、俺はそれに従って意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を失ってから、何分が経っただろうか。あるいは何十分、もしくは何時間、何日も経ってしまっているかもしれない。手足の感覚はなく、目も閉じきってしまって開くことができない。何も聞こえないし何も感じない。何の匂いもしなければ、何も見ることができない。自分の持つ五感が全て、一気に消失したかのような錯覚を受ける。

 実際に失ったことがないから分からないが、これが『死ぬ』ということなのだろうか。誰にも見届けられることもなく、このままただ意識だけが消えていく。それは、なんと、残酷なのだろうか。よく車に轢かれて事故死する人がいるが、こんな死に方なら彼らの方がマシではないか。失礼にも、そんなことを考えてしまったその時、何かの声が響いた。

 

「おや、こんなところに客人とは珍しい。彼らの物語を見ているだけのつもりだったけど、まさか、無意識に君の夢に入ってしまうなんてね」

 

 男の声がした。けれど、なんというかその声には雲がかかっている感じがした。こう、今聞こえている声が何重にも重なって特定されないようにしているような。

 

「当然さ。本来、僕が君たちの物語に関わることはない。今回は本当に偶然、君の夢に夢魔として入ってしまっただけなんだから。残念だけど、この夢が覚めた時には、ここでの会話も忘れてもらうよ」

 

 男がそう言ったことに、俺は少しだけ安堵した。つまり、こんな酷い死に方をしかけたという事実を覚えることなく目覚めることができるのだ。正直なところ、こんな感覚を覚えているのは気持ちが悪い。覚えなくていいならそれに越したことはない。

 

「それにしても、僕がこうやって君の夢に入り込んでしまったのも何かの縁だ。少しだけ、ある一人の少女/少年の話をしよう。何、退屈はしないと思うよ? 多分、君も聞いたことのあるお話だからね」

 

 一瞬、男の声が重なって聞こえた気がしたが、気のせいだと思って話に集中することにした。何も見えないし何も感じ取れないが、男が少し、嬉しそうに笑った気がした。

 

 

 

「それではーーーーー王の話をするとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー知らない天井だ」

 

 目が覚めてまず一言だけ呟いてみた。

 ちゃんと声は出る。

 見たことのない天井が見える。

 手足は動き、その感覚がある。

 何も分からないが、薬品臭い匂いがする。

 知らない内に口でも切ったのか、口の中で鉄の味がする。

 何より、何か機械が動いている様な音が聞こえる。

 

「………なんで、俺は五感の確認なんてことをしてるんだ?」

 

 目覚めてから少しして、何でかちゃんと五感があるのかを俺は確認していた。まるで、自分に五感が無かった経験があったかのようなことをしていたが、まるで身に覚えがない。自分の奇行の原因を考えていると、正面の扉のような物が開いた。

 

「おはよ〜研砥。目が覚めたって聞いたから来たんだけど………。うん、大丈夫そうだね」

 

 元気よく挨拶をしながら部屋に入って来たのは、冬木では大変お世話になったライダーのサーヴァント。ブーディカさんだ。彼女の登場に驚いて頭が真っ白になるが、ふと、冬木で令呪が刻まれていた肩を見る。するとどうだろうか。本来使い切りであるはずの令呪が、いつの間にか二画回復していた。

 

「は? え、ブーディカさん? 何でここにって、てか何で令呪が回復して……?」

「まぁまぁ落ち着いて。今、ちゃんと説明してくれる人を呼んでくるから」

 

 入って良いよー。ブーディカさんが明るい声で扉の方に声をかける。それと同時に自動扉が開き、新たに人がやってくる。それも、今までで見たことのない人だった。

 

「やぁ黒鋼君。気分はどうかね。いや、聞くまでもないか。君はここでの記憶と力を失ってあの特異点に向かったのだから。いやはや、運命とは残酷なものだ」

 

 黒いローブを見に纏い、複数のレンズのようなものを手元に置き、両手に手袋をした上でパイプを持った男性。どこか胡散臭そうな笑顔を貼り付けているが、その瞳の奥には真剣な眼差しを感じた。

 

「あの………あなたは一体……?」

「ああそうか、私としたことが失念していた。失礼Mr.黒鋼。自己紹介から入るべきだったね。といっても、私は特に強力なサーヴァントではない。戦闘面に関しては、そこにいる女王ブーディカより遥かに下だからね」

 

 一々長々しく語る男に、どこか既視感を感じた。少し考えた後、ある人物の特徴と結びついた。冬木で俺の携帯に電話をしてきた男、確か自分のことを『S』と称した男だ。

 

「もしかして、お前が『S』か?」

「正解だ。さて、では改めて自己紹介をさせてもらおう。私のクラスはキャスター。女王ブーディカと同じく英国出身であり、謎を解き明かす者ーーーーーー」

 

 真名、シャーロック・ホームズ。男は自分のことをそう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、割と序盤に登場した謎の男、『S』の正体はみんな大好きホームズ先生でした〜。というか、ホームズさんの口調これでいいのかな。プレイアブル化してないから自信が無いです。
というか、ここで彼の登場を予測していた人はいないはず。いない……よね?(震え声)
彼がなぜここにいるのか、そもそも主人公は一体何者でどこにいるのか。その説明はまた次回ということで。楽しみに待っていただけたらと思います。

次回はアガルタの女編のガチャ報告をします! 一応新規のサーヴァントは来てくれましたよ。ええ。水着のための種火は消し飛びましたけどね?(血涙)
ここまでの既読、ありがとうございました!
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