今やっているのが終わり次第、取りかかろうと思います。
まぁ、たまに息抜きとして書くかもしれませんが
懐かしい夢を見た。
あれは自分が生まれる前の記憶。すなわち、前世のものだろう。
新品の学生服に身を包んだ前世の自分が期待に胸を踊らせて進学した高校へと登校する姿が目の前にあった。
お世辞にも、かっこいいとは言えない平凡な顔。
純日本人であるため、一般的な黒髪。まさに冴えない一般学生Bという役柄が相応しそうな男だった。
ダメだ、そっちに行っちゃ……
手を伸ばし、前世の自分の肩を掴もうとするが、それは叶わぬことだった。
触れようとしていた俺の右手は肩を掴むことなく、宙を切る。
届かなかったのではない。すり抜けたのだ。
そして、もう何度も繰り返されてきたあの出来事。
いつの間にか俺の十メートル以上先を歩いていた前世の自分は、慣れない通学路を少しばかりソワソワしながら
歩を進めていた。
そして、現れるあの赤信号
高校までの道のりを地図で確認しようと、ポケットからスマートフォンを取り出した前世の俺は顔を下に向け、周りへの注意が散漫になる。
ちゃんと周りを見ろ!! 早くそこからどけ!!
そう叫ぼうとしたが、俺の口からは何の音も発することができなかった。
声がでない。いつものことだ。
何度も繰り返したこのやり取り。結末はいつも同じだ。
あの日、自宅を出る時間を変えていれば、道のりを頭に叩き込んでから出ていれば。そんな後悔は今世では今更だ。
迫り来るトラックに気づかない前世の俺の姿を目に納め、俺はそっと静かに目を閉じる。
結局ーーあの日、俺が死んだというのは、何の変わりようもない事実なのだから。
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「…んっ……」
陽の光が直接目を瞼の上から刺激してくる。
どうやら、朝が来たようだった。
ノソノソと体にかけてあった藁を払い、髪にくっついているものも払う。
あらかたきれいにしたところでグッ、と体を伸ばした。
「ぁ~……」
十数秒ほどポケ~ッとしていた俺であったが、いつまでもこうしているわけにはいかないのだった。
よしっ、と勢いづけて起き上がった俺は割りとしっかりとした足取りで井戸へと向かう。
藁の敷かれた小屋から出てすぐにある井戸へたどり着くと、冷たい地下水を引き上げて顔を洗い、続いて体を濡らしたタオルで吹いていく。
この体になってからというもの、元々のスペックが凄いのか、体調はいいし、力仕事もかなり楽になっている。
もう一度水を汲み上げた俺は中に張った水を覗き見る。
「……はぁ、やっぱ、子イスカだよな、これ」
子イスカ
正式名称はアレキサンダー王。その幼年期の姿だ。
Fate/と呼ばれる前世の作品に登場するキャラクターである。
魔術師が英霊と呼ばれる過去、未来の英雄の写し身をサーヴァント、つまるところ使い魔として使役し、殺しあわせるバトル・ロワイアル。
そんな作品において、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七つのクラスのうちの一つであるライダーとして登場した真名イスカンダル
そんな彼の若かりし日の姿である。
まぁ、ライダーさん好きだったけどさ。正直、死んだと思ったらこの姿で寝転んでたわけで。
死んでからの経緯は不明。別に二次作品よろしく神様が出ていたわけでもない。本当に、気づいたらこうなってたってだけだ。
俺自身、何が何やらさっぱりだ。
「……どうなってんだか」
はぁ、と深いため息をついた俺は汲んだ水を桶に移し変えて移動する。
いっぱいに水を汲んだ桶でも、片手で、しかもたいした力を使わずとも運べるというのはいいことだ。
密かに生まれ変わった体に感謝しつつも、俺は桶を持って馬小屋へ。
「ブケ、起きてるか」
「フンッ」
扉がついていないため、そのまま顔を入り口から覗かせると、そこにいたのは巨大な黒い馬。
今は伏せている状態だが、それでも頭は俺と同じくらいの位置にある。
何を隠そう、こいつはブケファラス
かのアレキサンダー大王が乗りこなしたとされる名馬であり、そして、子イスカの宝具でもある。
「ほら、水を持ってきたぞ」
そういって、目の前に水の張った桶を出してやると、寝起きだった俺と同じようにノソノソと立ち上がる。
うむ、やっぱりでかいな。
二Mを軽く越えるその巨体に手を添えた。
意外にも毛並みは柔らかいのがまた癖になる。
「おっと」
ついつい撫でるのに夢中になりすぎていたようだった。
いつの間にか水を飲み終えたブケが、こちらに頭を擦り付けながら尻尾を振っている。
最後に顔を撫でてやってから俺は馬小屋を出た。
ちなみにだが、ブケファラスは馬であって馬しゃない。
ブケは俺の魔力によって存在を保っている、いわば英霊なのだ。まぁぶっちゃけると、原作と同じ扱いなのだ。
共に生活しているため、常時現界してもらっているが。食べたものはすぐに魔力に変換されるようなので糞などの掃除をする必要はない。実に便利だ。
尚、俺に関しては受肉しているようだった。
次に取りかかるのは食事の用意だ。
地下に保存してあった食材を取り出して、火をおこす。
目玉焼きにベーコンとパンという実にシンプルなものであるが、それを二人前。
できたところでベーコンと目玉焼きをパンに乗せる。あとはテーブルに準備して終了だ。
チラリ、と二階へと続く階段に視線をやる
「……はぁ、またか…」
まったく、と呟きながら階段を上った。
この二階建ての小屋に住んでいるのは、俺とあともう一人。
ただし、人ではない。
姿形は完全に人のそれなのだが、存在がまるで違うのだ。
「ヒュプノス様、朝ですよ」
ノックをしながら、扉越しに中の反応を伺う。
もそもぞ、と何かが動くような気配はする。が、どうやらまだまだ目覚めていないようだ。
ヒュプノス様
それが俺の同居人であり、そして、俺が眷属となった主神である。
千年前、神の世界が退屈だ、と地上へ降りてきた神様たちは、自身の力に制限をつけることで、この下界を楽しんでいる、とのこと。
ヒュプノス様もそんな神の一人だ。
死んで訳もわからず生まれ変わり、行き場のなかった俺を受け入れてくれた存在だ。
その時は、色々と混乱していたこともあって話に乗り、眷属となったが、後から考えてようやく思考が追い付いたのだった。
あれ? これ、ダンまちじゃん。
またも前世で見たことのある作品だった。
まぁ、今となってはもうどうでもいい話であるが。
「…ヒュプノス様、入りますよ」
返事なんてどうせ返ってこないため、そのまま扉を開けて中へ入る。
そこにあったのは俺が眷属として稼いだ収入の大半を使って購入した超高級ベッド。
そんなベッドの上で丸くなっている女性こそが、ヒュプノス様だ。
睡眠についてはいっさいの妥協をしない彼女は、こと睡眠以外のこととなるとほとんど無頓着なのだ。
下界へ来たのも、よりよい眠りを求めて、だそうだが、元の場所のほうがよく寝れそうな気がする、と思ったのはここだけの話。
「朝ですよ、ヒュプノス様」
ベッドの側まで近より、彼女の肩を揺する。
「…んぅ~……あと一日……」
「今日が終わっちゃうじゃないですか。朝食も作ったんですから、無駄にしないでください」
そこまで言うと、ヒュプノス様は渋々ながら、ひじょ~~っにゆっくりと動き出す。
腰までありそうな金髪の髪に、見た目が二十歳くらいのダボッとした寝巻きに身を包んだ女性。
今の俺よりも少しだけ高い身長で、寝起きでも起きていても常に眠そうな目をしている。
それが彼女だ。
「ぅ……だっこ」
「何を言ってるんですか」
両手を広げて、まるで子供のように寄りかかってくるヒュプノス様。
仕方なくヒュプノス様を背負うと、俺はそのまま一階のテーブルまで運ぶ。
元々のスペックに加えて、眷属となったことで得た【恩恵】により、ヒュプノス様を運ぶのなんぞ朝飯前だ。
ただ、見た目に似合わない大きさの双丘が背に当たるので、いつも困ってしまうのだ。
「さぁ、ヒュプノス様、朝御飯ですよ」
背中からヒュプノス様を降ろして、席につかせる。
本人は眠ぅ…と呟いているが、そろそろ起きてもらわないとだ。
「起きてください、ヒュプノス様!」