ヒュプノス様は眠りを司る神様であるらしい。
下界へ降りてくる前も仕事せずほとんど寝ていることがざらだったとか。
ではなぜ下界へ降りてきたかと言えば、それは前回も説明した通り、よりよい眠りを求めてきたためである。
不変不滅の
下界の俺たちは
そして、ついでではあるが、眷属の子供のことをよく考えてくれる人格者……神格者は少ないのだそうだ。
さて、そんな中で、我らが主であるヒュプノス様である。
「くぅ~~……ぅぅ……うにゅ……」
「……」
寝てますた
いや、うん。まぁ、わかってたことなんだけど。
他の何よりも、自身の睡眠欲を最優先させるヒュプノス様である。
俺の目がなくなれば、すぐこうやって眠りにつくというのは想像に難くないことだった。
しかしながらこの神様、いったい一日何時間寝ているのだろうか。場合によっては、ケーシ◯ーの十八時間も越えるかもしれん。
「はぁ~……」
思わずため息をつくと、いつの間にかそこにいたのか、ブケファラスも呆れたように短く息を吐いた。
「……まぁいいか。ヒュプノス様、しばらく外へ出てきます。大人しく寝ててくださいね」
「……んぅ…」
恐らく聞こえていないだろうが、一応外へ出ることを伝えて俺はヒュプノス様の部屋を出る。
部屋に対して大きすぎるベッドを、邪魔だなぁと思う。
既に霊体化したブケファラスを外に出てもう一度実体化させる。
今の身長が一五〇をすこし越えるくらいであるため、ブケファラスの背中は視線よりも上になる。
しかしながら、元々の英霊スペックに加えて、
軽い身のこなしでブケファラスの背中に飛び乗ると、そのまま手綱を握って町までかける。
そこで、落ち合う約束をしているのだ。
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俺が『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』と判断したこの世界には、当然のごとく、物語の中心となる迷宮都市オラリオが存在する。
ダンジョンと呼ばれる地下迷宮からモンスターの核となっている魔石を回収し、持ち帰って加工した魔石商品によって富を得ているオラリオは、世界で最も熱い都市との呼び声も高い。
現に、一攫千金を夢見て、数多くの若者が集まっている。
神様にしてもそうだ。
大半の神様がオラリオでファミリアを結成しているのだ。
下界に降りた神様で、オラリオに住んでいない神様なんて、本当に少数なのだ。
もっとも、ヒュプノス様はその少数な訳なんだが。
「っと、確かこの辺だったよな…」
辿り着いた町でブケファラスから飛び降りる。
余談だが、ここに来るまでの間に出てきたモンスターは全てブケの突進で蹴散らしてきた。
ちなみに、ブケの得た
まぁ、そんな話は置いておこう。
「おっ、いた」
人々の行き交う道の端で佇む一人の青年。
いや、その雰囲気を見れば、誰だって気づくはずだ。彼が神であると。
見た目は人な神様たちであるが、常にその体から神威と呼ばれるものを出しているため、下界の俺たちはそれで判別するのだ。
ヒュプノス様からも一応出ている。疑ってしまうがな。
「お、漸く来たか。待ちくたびれちゃったよ」
「お待たせしました。早速ですが、いつものところまでで? ヘルメス様」
「えん、よろしく頼むね」
俺がヘルメスと呼んだこの神様は、現在、オラリオで活動する中堅ファミリアの主神であるヘルメス様だ。
飄々としま態度に、旅人のような格好をしたこの神様はよくこうして俺に仕事の依頼をしてくるのだ。
…おっと、俺の仕事について説明はしていなかったな。
周りにダンジョンなんてないため、俺はブケファラスに乗って配達業を行っているのだ。
安い、早い、強いの三拍子揃っていると評判で、一応、世界で一番早い速達便なんじゃないかと自負している。
そんな話をどこで聞いたのか、このヘルメス様は自身を荷物として、俺に運ばせるのだ。
まぁ、金払いはかなりいいほうだからこっちとしても願ったり叶ったりなんだが。
「それじゃあ、乗ってください」
「はいよ。いつも通りね」
俺に続く形でブケファラスに飛び乗ったヘルメス様。
最初は、ブケファラスが嫌がって、一度ヘルメス様を蹴飛ばしたのだが、回数を重ねるうちに慣れたのか、今では少し機嫌を悪くするとくらいですんでいる。
「いやぁ~、相変わらず、嫌われてるんだね…」
「同乗できてるだけでも凄いんですから。我慢してください」
ヘルメス様が後ろに乗ったのを確認し、俺は手綱を握り直すと俺はそのままブケを進めて町の外へ出る。
さて、ここからは飛ばしていく。
「さぁ、行くぞブケ!!」
ブケファラスの嘶きが、辺りに響き渡った。
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「ほんと、うちのファミリアに入らないかい?」
「俺の主はヒュプノス様だけですので」
「連れないなぁ~。君が来てくれれば、うちもかなり助かるんだけど。主にアスフィとか」
「それはヘルメス様が苦労をかけているんだと思いますが?」
図星たったのか、苦笑いを浮かべるヘルメス様。
いつものように、遠くに木製の小屋が見える位置でブケを止め、ヘルメス様を降ろした。
「いつもありがとうね。助かったよ」
普通なら徒歩や馬車で半月はかかるような場所だ。それをブケのスピードがあれば凡そ一日かからずにつける。
ブケファラスは空も駆けることが可能なのだが、あまり他の神様に手の内を見せるのは得策ではないので、今まで一度も飛んだことはないのだが、飛べば半日くらいでつけると思っている。
「仕事ですからね」
「いやでもほんと、ヒュプノスを説得して
本当に残念そうな表情を浮かべるヘルメス様であったが、次にはいつものような胡散臭い笑みを浮かべていた。
「それじゃあまた。帰りもよろしくね」
それだけいうと、ヘルメス様は小屋へと歩を進めていく。
その姿を見送った俺はすぐにブケへと飛び乗り、ヒュプノス様の待つ自宅へと帰る。
あの人、絶対ご飯とか作らないから早く帰って支度をしなきゃなのだ。
「あっくん! 私決めたよ! オラリオ行こう!!」
帰って早々、俺が目にしたのは珍しく目をキラキラさせながら枕を抱き締めて床に寝転がったヒュプノス様の姿。
そんなヒュプノス様が、突然そんなことを宣った。
うん、とりあえず、なんだ。
ごめん、ヘルメス様。迎え、いかないかもだ