起きてください、ヒュプノス様!   作:岳鳥翁

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三話

「で? どうして急に?」

 

いつもの眠気はどこへやら。興奮した面持ちであのねあのね、と詰め寄ってくるヒュプノス様を落ち着けて、リビングのイスに座らせる。

見た目は俺より年上なんだが、時折このような姿も見せるのだ。

今部屋で使っているベッドも、幼子のように駄々をこねた末に買ったものだからな。

 

…まぁもっとも、そこが可愛らしいところでもあるのだが。

 

「ベッド!」

 

「……」

 

子供ですか、と言いたくなるが、まぁだいたいわかる。大方、近場を通る商隊の人たちにでも話を聞いたのだろう。

 

「ヒュプノス様。今のベッド、まだ数ヵ月くらいしか使ってませんよね?」

 

「それはそれこれはこれ。私は、上を目指すの」

 

「ベッドの、ですよね」

 

「うん」

 

「……はぁ~~」

 

真剣な顔で言ってのけるヒュプノス様には、呆れを通り越して、尊敬すら覚える。

眠りに関しては妥協しない。流石、眠りの神様だ。

 

あの大きさのベッドをヒュプノス様の部屋にいれるため、一度天井を解体して、ブケと協力して上からいれるという割りと面倒くさい作業をやったというのに…

 

眠り(これ)に関しては、眷属(こども)を省みないからな、この(ひと)

 

「で? どんな話を聞いたんですか?」

 

「それだよ!」

 

ベッドですね、わかります

 

「オラリオには、魔石を使った高級ベッドがあるんだって! なんでも、魔石を特殊加工して、深い快眠効果を表すのだ!」

 

途中でどこからか説明書を取り出したヒュプノス様は、最後にババーン! と効果音が付きそうな勢いでいい放った。

なんかキャラが違うと思うのは俺だけじゃないはずだ。

 

「…ほんと、ベッドとか枕に関しては妥協しませんよね…」

 

「それが私のジャスティス」(キリッ

 

 

普段はおっとりとして、半分ほどしか開いていない目を少しばかり鋭くさせる。

が、それも長くは続かなかったようで、すぐにグデェ~と体をテーブルに倒した。

あ、いつものヒュプノス様だ。

 

「……疲れた」

 

「柄にもなくテンション上げるからですよ…」

 

うぅぅ……と唸っているヒュプノス様の元まで近寄ると、んっ、と両腕を俺に向けて伸ばしてくる。

 

「はいはい」

 

しょうがないとばかりにヒュプノス様を横抱きにしてそのまま二階の部屋へと運ぶ。なんやかんや言っても、こうやって甘やかしてしまう俺も俺なんだが。

 

わりと近い距離にあるヒュプノス様の頭が階段を上る振動で少しクテンクテンと揺れている。首を痛めないように肩の部分で抑えつつ、自身も階段から落ちないよう慎重に。

この高さから落ちたところでどうってことはないのだが、ヒュプノス様は恩恵(ファルナ)を持たない人間(ヒューマン)と同じかそれ以下だ。

少し時間をかけてヒュプノス様の自室へとたどり着くと、そのまま腕で扉を開けて中へ。

天井とカーテンがセットになった天蓋付きのベッド。部屋に見会わない寝返りも快適に出来るようにとキングサイズのそれはヒュプノス様の要望通りに作られた特注品だ。改めてそれを見て、これを手放すのか…と思わず苦笑してしまう。

 

値段にすれば百万ヴァリスしたからな、これ。

 

金づゲフンゲフン。ヘルメス様の案件がなければ買えなかったものだ。できれば長いこと使ってほしかったな。

 

そんなことを考えつつも俺はゆっくりとベッドの側に近寄り、そのまま横抱きにしたヒュプノス様をベッドに寝かせた。もう既に眠ってしまったのか、静かな寝息をさせている。

 

「おやすみなさい、ヒュプノス様」

 

それだけいって部屋を出た俺はそのまま寝床へと向かった。

まぁ知っての通りだが、俺の寝床は藁を敷き詰めたところだ。

ブケも現界させ、そのまま藁のなかに潜り込むと、顔だけ外に出した。

 

 

「オラリオ……ね」

 

俺の転生したこの世界で、もっとも熱い都市。そして、原作の中心となる話の部隊だ。

といっても、俺が知っているのはそのくらいだ。設定は知っているが、内容はパラパラと流し読みした程度。お財布の寂しい苦学生だったからな。

 

ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアは都市二大派閥としてその名を世界に轟かせているし、ヘファイストス・ファミリアの武器のすごさはも伝わっている。

他にも様々な話題の発信地となってるのがオラリオだ。

 

 

正直、すっごく行きたい。

 

ダンジョンとか浪漫の塊だろ? 心が踊らないわけがない。

 

今の今まで、ヒュプノス様の面倒くさいの一言で諦めていたが、今回はそのヒュプノス様自らの話だ。

このビックウェーブ、乗るしかない!

 

「楽しみだな、ブケ」

 

「フフンッ」

 

俺の問いかけに答えるように鼻息を鳴らすブケに思わず笑ってしまう。

 

「とりあえず、準備はしておかないとな」

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