序章
人は死ぬ。
誰でも、必ず死ぬ。
そこには何一つ例外はない。いつ死ぬかどこで死ぬかなぜ死ぬか、それが違うだけだ。
だが勘違いしてはならないのは、問題はその限られた時間の中でどう生きてゆくか、ということなのだ。
少なくとも彼はそう父親に教えられてきたし、他人にも教えてきた。だから『命』というものに関しては人一倍の思いを持っているのだ。
そう。
誰よりも、重く……。
「おーい、
昼休みである。校舎を出てグラウンドへとつながる坂に寝転がるようにして、『彼』はいた。
「あ、
両腕を頭の後ろに回して枕にした格好で、一つ下の後輩である兵藤
それを確認してから、黒鉄
そして小指を立てると、
「聞いたぜー。お前、カノジョ出来たんだって?」
わざとらしく切り出した。
彼がその話を聞いたのは、今朝だ。それも教室に向かう途中の廊下で小耳に挟んだていどである。
だからか、変態三人組にオンナが出来た、みたいなことしか覚えていない。しかしあのメンツで比較的マシな一誠のことなのではないかと踏んだのである。
「ええっ!? ちょ、いきなりっすか!?」
思ってもいなかった質問をされたのに驚いたのか、いきなり起き上がった一誠は顔の前でごまかすように両手を振った。
どうやら図星のようだ。
「んで? やっぱいるわけか?」
ぐい、と顔を近づけ、最後の一撃である。
「いや……まあ、はい。一応」
うつむきながらも、ぼそり、と呟く一誠は、なんとも初な少年に見えた。
兵藤一誠とは、斬輝が中学二年生のころからの付き合いだ。異様な性癖を除いて意気投合した二人は、こうして昼食を共にすることもままある。
もしかしたら、だからなのかも知れない。
「で? 話ってのはつまり、そういうことなのか?」
一誠に呼び出されたことが、だ。
午前の授業が終わって、さてこれから飯でも食うかと思った矢先に一誠から電話が来たのである。
ちょっと相談があるんですけど、今からでも良いですかね?
斬輝は、おう、と返した。彼の声音からして、単純な問題ではないと思ったからだ。
だから今日は、あるていど話が長引いても良いように来る途中で買ったいくつかのパンと牛乳も持って来ていた。
「まあ、そうなりますね」
照れ臭そうに笑う彼がなんとも微笑ましく見えてしまうのは、もしや父性とかいうやつなのだろうか。
一つしか違わないのに?
実は、と一誠が切り出した。
「……今度の日曜日に、その子とデートすることになったんです」
「ほう」
「でも、俺……彼女とか初めてだし、デートも初めてなんですよ」
「変態だしな」
思わず口に出してから、しまった、と思うのは、斬輝自身もよくない癖だと自覚している。だがそれが簡単に治るものであれば、もはやそれは『癖』とは呼ばないだろう。
「変態を悪く言わんでください! 俺はエロであることに誇りを持ってるんですから!!」
「そーゆー誇りは三〇歳超えてから持ちなさいな、兵藤くん」
正直、斬輝自身は『エロ』にそれほどの執着を持っていない。それは異性に興味がないという意味ではないが、一誠を含んだ三人組のように度の過ぎた関心を持ち合わせていないのである。
しかしなぜか、同級生の間で『駒王学園の野生児』などと呼ばれているのかがいまだに謎だった。
「ま、とりあえずよ」
中にカスタードクリームが入った揚げパンを齧りつつ、斬輝は反対の手を一誠の肩に回した。
「デートする場所とかは決まってんのか?」
「いや、それがまだ……」
ん? まだ、だって?
だが続く一誠の言葉に、斬輝は力強く彼の背中を叩いてやった。
「だから先輩の意見も聴きたいな、て思って」
「なあんだよ! それなら、別に俺に尋ねる必要なかったんじゃねえのか? 直接カノジョに訊いてみるとかさ、色々あンだろうよ」
「それじゃ意味ないンすよ! なんて言うか、
「夕麻ちゃんか……だったらよ、もうシンプルに色んなところ回ってもいいんじゃねえか?」
実際のところ『デートは考えるより楽しめ』というのが、個人的な意見だった。どこへ行ってもいい、当人達が楽しめたならばそれがデートなのではないかと思うのである。
「買い物するもよし、店に行って二人して同じパフェを喰うもよし。要はお前らにとって思い出に残る日に出来たなら、そいつが立派なデートだと俺は思うね」
ひょっとしたら、いまだ恋愛経験皆無の彼だからこそ言える言葉なのかも知れない。もし過去に彼女がいたとしても一誠のように悩み込むようにならない自信がない。
「お前が二人で行きたい場所に行けばいいんだよ。大丈夫さ、お前なら」
「二人で行きたい場所かあ……」
たしかに、兵藤一誠は変態だ。それも、超弩級の。
だが、変態であるということと、悪人であるということは違うのだ。
「いいか兵藤。デートってのは結局のところ、楽しませた
そう。
彼は変態だが、決して悪人ではない。
「……まあ、あとはじっくり考えな。まだ日はあるんだしよ」
「はい! ありがとうございます!!」
まだ残っているパンを頬張りながら、斬輝は校舎の方へと走って行った。
だが彼は、まだ知らなかった。
校舎から二人を見下ろす紅髪の存在に。
そして、自身に眠る力にさえも……。
リハビリ作品『ハイスクールD×D 呪われし鉄刃』始動である。