ハイスクールD×D 呪われし鉄刃   作:椎名洋介

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第六章 闘いと強さと勝利と

       

 

 

「ったく、何が悲しくてお前らの面倒見た後の飯がジャガイモなんだよ……」

「いや、あの……すんません、魔力を使った料理の練習をしてたんですけど、意外と楽しくってつい……」

 

 部員全員が座ってもまだ余裕のある広いテーブルに載せられたジャガイモ祭りを味わうことになった一行。みんなが黙々と食事を勧める中、料理を担当した一誠は斬輝の愚痴の捌け口と化していた。 

 

「とは言ってもなあ、お前、サラダはまだ判るが、残りの半分塩茹でしただけって……」

「返す言葉もないっす」

「あらあら、イッセーくん。そう落ち込むことはありませんわ。このオニオン・スープだって美味しいですもの」

「あ、それ私が作ったんですよ~! 自信作なんです!!」

 

 そう言って嬉しそうに手を挙げるアーシアを横目に、斬輝はジト目で一誠を睨んだ。

 

「ひょ~どぉ?」

 

 斬輝も落ち着いて、とその場を取り仕切るのはリアスだ。お茶を飲んで一息ついてから、彼女は言った。

 

「さて、今日一日修行してみた感想でも聞いてみましょう。斬輝、あなたはどう思ったかしら?」

「ん? いきなり俺かよ」

「この中で公平に判断出来るのはイッセー達と直接闘ったあなたぐらいだもの。トレーナーの意見を取り入れるのは当然でしょう?」

 

 まあ、彼女の言葉にも一理あるか。

 斬輝はメンバー一人一人の顔を見て、最後に一誠にその視線を止めて、

 

「兵藤が一番弱いな」

 

 そう言った。

 闘うことにおいていっさい甘やかすことのない斬輝のその言葉は、間違いなく一誠の心に突き刺さるだろう。

 だがそれは、これからにおいて必要なことだ。

 

「そうね、それは確実ね」

「実戦経験が少ないからな。その辺が木場や塔城との根本的な差だ。そもそもの『闘い方』を知らない以上、仕方ないっちゃ仕方ないんだが」

「それでも、イッセーのブーステッド・ギアとアーシアの回復は無視出来ない。それは向こうも理解しているはず。あれでも相当の手練れであることには変わらないから、最低でも相手から逃げられるぐらいの力は欲しいところね」

「逃げるって……、そんなに難しいんですか?」

「逃げるのも戦術の一つよ。いったん退いて体勢を立て直すのは立派な闘い方。そうやって勝つ方法もあるの」

 

 だが、相手に背を向けて逃げるという行為には相応のリスクが伴う。斬輝としては『逃げる』という戦法は極力彼らに取らせたくはないのだが、最悪の場合はそうせざるを得ないのだろう。

 少なくとも、現状を見る限りでは。

 

「でもま、朝練の甲斐もあってかスタミナは間違いなくつき始めてる。あとはそいつを、残された時間でどれだけ伸ばせるかってとこか。闘うにしても逃げるにしても、体力が重要になってくる。『闘い方』はとことん叩き込んでやるから、この修業期間でモノにしろ。泣きごと言ったってやめねぇからな」

「了解っス!」

 

 一誠の気合の入った返事に、斬輝は口許を笑みに歪めた。

 お前のそういう真っ直ぐなところは、嫌いじゃないぜ。

 だが、斬輝の生徒は兵藤一誠だけではない。

 

「木場、塔城、お前達もだぞ?」

「はい」

「……判りました」

 

 その後リアスから一緒に温泉に入らないかと誘われたが、丁重にお断りした。

 

 

 何かに集中すると、時間的な感覚が消失することがある。何日も同じようなことを繰り返しているうちに、時の流れから弾き出されたように思うのだ。

 すなわち、起きて、トレーニングして、飯食って、寝る。

 ここ一週間ほど、その繰り返しだ。

 修業期間は、あとどのくらいだ?

 二日か?

 それとも明日で終わりか?

 さっぱり判らない。

 だがこの数日で得られた収穫は、かなり大きいものだった。

 木場の剣はその精度を上げより速く、より正確な斬撃を可能とした。当然、得物を失った時のための徒手空拳も、一応の手ほどきだけはしておいた。

 小猫の方もかなり呑み込みは良い方で、何日かの打ち合いですでに斬輝の教えた闘い方を充分自分のものにしたのだ。

 そして、一誠も。

 彼がこのメンバーの中で自他ともに認める実力不足なことには変わらない。だが彼は彼なりに必死に斬輝のトレーニングに喰いつき、追いつこうとしている。その姿勢は充分評価出来るものだ。彼の神器の特性から考えても、スタミナの底上げはやはり間違っていなかったのだろう。

 

「今のあいつの軀でどれだけ倍化に耐えられるか……」

 

 リビングからバルコニーに出て、手すりに両肘を乗せながら夜空を見上げる。

 都会と違って人工の光が少ないこの周辺は、太陽系の惑星や名も知らぬあまたの星の光が視界いっぱいに広がる。

 おそらく、メンバーはみんな寝たころだろう。

 よし。

 そろそろ始めるか。

 黒鉄斬輝は、現在オカルト研究部の近接格闘においてのトレーナーの枠にいる。来るレーティング・ゲームに備えて、メンバーの実力を向上させるためだ。

 だが、彼もまたゲームの参加者であることに変わりはない。

 昼間にトレーナーとして一誠達の相手をする一方で、夜中は一人で鍛錬を積んでいるのだ。

 自らの神器の特性を完璧に把握するためにも。

 上が黒のタンクトップだけなのは、不用意に袖の長いものを着てしまうと武装の展開時にお釈迦にしかねないからだ。

 拳を握り、念じる。それだけで拳の打面は一直線に裂け、手の甲の骨が扁平に潰れて伸長する。

 あっという間に、鉄の剣の完成だ。

 ただし、闘う前から血塗られた。

 現状、彼の軀に宿る鋼鉄虫(メタル・セクト)において斬輝が理解しているのは、こいつは自らの意志で例外的に変形させることが出来るのと、どんな傷も時間こそかかるが治してしまうということだけだ。

 それ以外は、さっぱり判らない。

 

「どうしたもんかねえ」

 

 リビングの方から物音が聞えたのは、その時だ。斬輝のつぶやきに混じって、わずかに水の流れる音が耳に届いたのだ。

 剣を『戻し』、肩越しに暗闇のリビングを振り返る。目を凝らすと、奥のキッチンの方に見慣れた髪型の茶髪の青年が見えた。

 

「兵藤か?」

「せ、先輩!?」

 

 斬輝がいたことに気づかなかったのか上擦った声を上げつつ、暗闇の奥から一誠がやってきた。その手には、水の注がれたコップが握られている。

 一誠は裸足で斬輝の隣まで来ると、手すりの上にコップを置いた。

 

「眠れないか?」

「ええ、まあ」

 

 一誠の、その返答にはいつもの元気がない。

 

「先輩は、どうしてここに?」

「……まあ、ちょっとな。それよりどうしたよ? 元気が取り柄のお前がそんなに沈んじまって」

 

 自分でも、意地の悪い質問だなとは思う。

 彼がこうなってしまっていることの原因が自分にあることに気づいているからだ。

 

「……俺、この一週間の修行で判ったんです」

 

 やがて振り絞るように声を出した一誠は、それからぽつぽつと語り始めた。

 

「俺には、木場みたいな剣の才能がありません。小猫ちゃんみたいな格闘技の才能も、朱乃さんやアーシアみたいな魔力の才能だってないです。それに斬輝先輩みたいな全部ごちゃ混ぜの闘い方なんて、絶対に無理だって……」

「ほう」

「みんなと修行して、斬輝先輩にしごかれて、少しは強くなれた気もしますけど、でもそれ以上にみんなとの差がデカ過ぎて……」

 

 やっぱりな。

 

「いくら俺に凄い神器があるからって、その持ち主がこんなんじゃ、意味がないんだって……。気づいちゃったんです、俺が一番役立たずなんだって。みんなの足を引っ張っちゃうんだって」

 

 でも、と一誠はこちらを見る。

 

「それでも俺、護りたいんです! 弱くたっていい、アーシアや部長……みんなが笑顔で居られる日常を、護りたいんです……!」

 

 自分のためではない、

 自分が慕うもののために闘う。

 それが……、

 

「それが、お前の闘う理由、か」

「はい」

「だったら、お前さんにいくつか教えといてやる」

「え?」

「闘うことの意味だよ」

 

 黒き魔人が、赤き龍を宿す少年の瞳を見据える。

 真っ直ぐな瞳だ、と斬輝は思った。

 俺と違って、な……。

 

「闘いってのは、拳を叩きつけることじゃねぇ。強さってのは、負けないことじゃねぇ。勝利ってのは、敵を倒すことじゃねぇ。お前さんには判るか? この意味が」

「いや、まったく……」

「自信を持てってことだよ」

 

 黒鉄斬輝は、そう言った。

 

「お前は俺よりも凄えモン持ってんだ。伝説のドラゴンを宿してんだろ? 心配しなくても、お前は強くなれるさ」

 

 だから、とニヒルな笑みを浮かべて、かすかに震える一誠の肩を叩いてやる。さっき剣を出した時に出来た一直線の裂け目は、塞がっていた。

 

「自分を見失うな、一誠。今の俺に言えるのは、それだけだ」

「先輩、今、名前で……」

「俺は俺なりにお前を評価してるってことさ。ほら、もう寝な。みんなのために強くなるんだろ?」

 

 その言葉で、一誠も理解したのだろう。力強くうなずいて、彼は拳を握った。

 

「はい。俺、神器の力を使いこなせるように頑張ります!」

「わーったから、早く寝ろって」

 

 そして一誠を戻してからしばらく、斬輝は再びバルコニーから雲一つない星空を見上げていた。 

 そこには、さっきまで浮かべていた笑みは、ない。

 

「誰かのため、か」

 

 久遠(くおん)の彼方へとこぼすその言葉にも、どこか寂しげな響きがこもっているように思える。

 斬輝は手すりを飛び越え、庭へ出る。

 そのまま別荘から距離を取るようにまっすぐ歩いてゆき……小さな湖の近くまで行くとその足を止めた。

 足を肩幅に開き、左半身に構える。伸ばした左腕は前へ、右腕は後ろへ……。拳を固く握った、それは構えになった。

 

「こい!」

 

 掛け声とともに、鋭い痛みが両腕に走る。手の甲の骨が変形して皮膚を突き破り、血飛沫をまき散らしつつ両手から双剣が生えた。

 艶やかな銀色で、渦巻く血煙のごとき紋様を刻んでいる。

 通常、はぐれ悪魔などを討伐する際おもにこの武装で闘っている。リーチが長くなるというのもそうだが、それ以前にこれ以外の形態となると途端に武装の維持が難しくなるのだ。

 これはおそらく、宿主たる斬輝の心象が影響しているのだろう。『武器』と聞いて最初に思いつくものと言えば、剣や槍といった『リーチの長い得物』となりがちだからだ。そしてそれらを『武装として具現化が可能なもの』というふるいにかけた結果、最終的に残るのが剣となるのである。

 これが、と斬輝は思った。

 俺の課題だ。

鋼鉄虫(メタル・セクト)』を駆使し『剣』以外の武装の展開を可能にすること。

 以前、リアスが一誠に言っていたことを思い出す。

 神器は、想いの力で動き出すのよ。

 兵藤一誠は、アーシアへの想いの力で『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を発動させた。

 ならば、

 

「……ぐっ!」

 

 俺だって例外じゃないはずだ!

 斬輝は歯を食いしばった。深く腰を落とし、両足に力を入れて踏ん張る。

 喉の奥からせり上がるのは、獣の唸りだった。

 それはやがて、咆哮に変わる。

 

「ぉおぉおおぉおお……!」

 

 雄叫びに交じって、ばす、ばす、と鋭い痛みが軀中に走る。『鋼鉄虫』が意思の力で形態を変え、宿主の望むカタチとして顕れようとしているのだ。

 それには当然、とてつもない体力と精神力を消費する。自らの内に秘める鉄の責め具が自らの意思に従って肉体を突き破るのである。

 そのたびに鉄杭で穿たれたような痛みが全身を襲い、軀のあちこちに血塗れた武装が展開される。

 手首を周回するようにいくつもの銀色が突出する。だがレイナーレの脳髄を引き裂いた時のような単純な変形ではないからか、虫が反応しきれずにすぐ体内に引っ込んでしまう。そしてそのたびに、想像を絶する痛みと体力の消耗が付きまとうのだ。

 たまらず、膝をついた。そのまま前のめりに倒れそうになるのを、咄嗟に地面に両手を突くことで支える。

 腹の底から何かが込み上がってきて、たまらず吐いた。

 拳ほどの大きさの、赤黒い血だった。

 

「糞っタレ」

 

 小さく吐き捨てて、軀をひねって仰向けに寝転がる。

 たった数十秒やそこらだってのに、もう息が上がってやがる。

 左腕で顔を覆い、ついでに顔面の汗をぬぐう。

 駄目だ。

 初日の夜からこっち、まったく進歩しちゃいねえ。

 何かが欠けているのだ。

 神器を次なるステージへと上げるための、何かが。

 なんだ?

 いったい、何が欠けてやがる!?

 その時、ざわり、と風が流れた。

 周囲の林がさざめき、歯の擦れ合う音が静かな別荘に響いた。

 

「斬輝!?」

 

 だからその風に交じって聞きなれた少女の焦ったような声が耳に届いた時、斬輝は思わず身を起こした。

 別荘の方からだ。

 反射的に声のする方を向いた途端、斬輝は目を剝いた。

 一階のバルコニーから、見慣れた紅い色がやって来る。

 彼女だ。

 見間違えるものか。

 

「リアス……」

 

 見つかっちまった。




 二週間でどうにかする予定が、いつのまにか新年度を迎えてしまった……、申し訳ない。

 まあ、それはおいといて()。
 次回は、相変わらず人知れずに無茶をしようとする斬輝と、それを見てしまったリアスの二人の話になる。これは本作において私が書きたかった話の一つであり、かなりテンションがアゲアゲだ。
 近日中の投稿を目処に、頑張ります(^^;;
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