ハイスクールD×D 呪われし鉄刃   作:椎名洋介

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第八章 闘いの狼煙

       

 

 

 時刻は午後一一時四〇分。

 集合場所は駒王学園旧校舎にあるオカルト研究部・部室。

 決戦開始の午前零時まであと二〇分ほど。メンバーはすでに部室に集まっていて、各自待機していた。

 リアスと朱乃は紅茶を嗜み、

 木場と小猫はそれぞれの武器や武装の確認、

 一誠とアーシアは緊張の面持ちでソファに腰を掛ける。

 もちろん、斬輝も。

 薄暗い旧校舎の部室の中で、一誠達の向かいのソファで仰向けに寝っ転がっている。

 両腕を頭の後ろに組んで枕代わりにしながら、彼は対面の後輩に顔だけ向けて声をかけた。

 

「おい兵藤よう、お前さん緊張し過ぎじゃねえのか? もう少しリラックスしたらどうだよ」

 

 一誠が緊張と不安でガチガチに固まっていたからだ。

 

「あっ、当たり前じゃないですか。部長の初めてのレーティング・ゲームなんですよ? それも部長の婚約を賭けた。ていうか先輩がラフ過ぎるんです!」

「そうか?」

 

 上半身だけを起こす。

 

「むしろ今のお前を見てる方が暑苦しいんだよ、もっとリラックスしろって」

「ザンキさん……」

 

 今にも消え入りそうな声でこちらを見つめてくるのは、一誠の隣に座るアーシアだ。シスター服の裾を強く摘まんで、つまり彼女も同じくらい不安なのだろう。

 この闘いが。

 だから斬輝はそんな後輩二人に笑みを作った。

 

「一つだけ、言っといてやるわ」

「な、なんですか?」

「兵藤、お前さんはこの一〇日間で間違いなく成長した。そいつはお前さん自身もよく判ってるはずだ」

 

 なにしろ、修行終盤の模擬戦では二分半……一五回倍化されたパワーによって放たれた魔力の一撃で山を一つ消し飛ばして見せたのだから。

 

「こないだも言ったろ。自信を持て」

 

 そして、言った。

 

「頼りにしてんだぜ」

「……そうですよね」

 

 一誠は俯きながら、自分の左腕を見つめた。

 

「せっかく先輩に相談に乗ってもらって吹っ切れたはずなのに、こんなんじゃ駄目ッスよね。それに、俺のところに来てくれたこいつにも示しがつかない……」

 

 最後のところに妙な引っ掛かりを憶えたが、その時は特に気にすることもなく斬輝はスルーした。

 

「ま、なんかあったら俺が蹴散らしてやるよ」

 

 脚を組んで、挑発的に。

 

「ところで」

 

 会話に入って来たのはリアスだ。

 

「斬輝、あなたは本当にそれでいいの?」

 

 カップをソーサーに置いて彼女がそう訊くのは、斬輝の体勢のことではない。

 服装のことだ。

 シスター服のアーシアを除く部員達は学園の制服を着用しているのに対し、斬輝は黒い革のパンツに厚底の黒いブーツ、上半身は黒のタンクトップという、これから始まるであろう過酷な闘いに向けてはあまりにも軽装過ぎる格好なのだ。

 

「大丈夫だ」

 

 そう言って、斬輝は脇のテーブルの上に置かれた何かを、ぽんと叩く。

 分厚く折り畳まれた、黒い布のようだ。

 片手に布を摑んで立ち上がると、無造作に一振りした。

 黒い布が大きく広がって、その正体が判った。

 マントだ。

 見ると、ところどころ赤い炎のような刺繍がある。

 ばざんと音をたてて首に巻くと、彼の軀はマントの中にすっぽり収まってしまった。両手はもちろんのこと、ブーツの爪先すら見えないのだ。

 それは、斬輝が修行の最終日にリアスに頼んで作ってもらったものだ。

 魔力を凝縮して、物質化させたのだ。原理としては損傷した衣服を魔力で修復するのと同じである。

 ただ、今回はちょっとした『仕掛け』を潜り込ませているが。

 留め金にグレモリー家の紋章を彫り込ませておいたのは、単に彼が『こちら側』の仲間であることの意思表示だ。

 威圧的な双眸さえ度外視すれば、その容姿はさながら騎士にも見えるだろう。

 

「制服だと肌に密着してる分、思うように武装の展開が出来ないからな。こいつなら相手の動きも牽制出来るし、思わぬところからの攻撃、ってのにも使えるだろ?」

「そういうもの?」

「そういうもんだ」

「そう」

 

 部室の床が光り出したのは、リアスがそう呟いた時だった。

 雪のように白い二つの魔方陣が出現し、磁石の反発のように遠ざけ合う魔方陣の間に見慣れたメイド服が顕れる。

 その足元に、展開された魔方陣を残して。

 

「開始一〇分前になりました。皆さま、準備はよろしいですか?」

「ええ、いつでもいいわ」

 

 問いかけるグレイフィアに、自信満々で応えるリアス。

 

「開始時間になりましたら、この魔方陣から異空間上に作られた戦闘用フィールドへと転送されます」

「異空間ってことは、好きに暴れてイイってことだな?」

「はい、使い捨ての空間ですので、どんなに派手なことをしても構いません。思う存分にどうぞ」

 

 また、と銀髪のメイドは続ける。

 

「今回のレーティング・ゲームは、両家の皆さまも冥界にて戦闘中の模様を中継でご覧になります」

 

 そしてその中継は、支取蒼那ことソーナ・シトリー達駒王学園生徒会が生徒会室から行うのだという。

 

「ちなみにこの闘いは、魔王ルシファーさまもご覧になられますので」

「そう、お兄さまが……」

 

 サーゼクス・ルシファー。

 またの名を、紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)

 リアス・グレモリーの実の兄にして、現・四大魔王の中で最強とうたわれる男。

 かつての大戦で先代の四大魔王を亡くして著しく戦力を低下させた悪魔陣営はそれぞれの魔王の名を残し、力ある最上級悪魔にその名を受け継がせることにした。

 そこで白羽の矢が立ったのが、当時のサーゼクス・グレモリーをはじめとする現・四大魔王だったのだ。

 本来なら家を継ぐはずのサーゼクスがルシファーの名を継いだことで自動的にグレモリー家から抜ける形となり、その実妹だったリアスが、これも自動的にグレモリー家の長女として家を継ぐことになったのである。

 そして、その結果が、これだ。

 無責任にもほどがあるぜ、とは言わなかった。

 いまさらそんなことで喚いたって、もうどうにもならないからだ。

 苦しんできたのはリアスだけじゃない。きっと、彼だってずっと葛藤し続けているはずなのだ。

 そしてこの状況を中継で見ているサーゼクスは、おそらく『魔王ルシファー』としてではなく『リアスの兄』としての視点で捉えているに違いない。

 数えるほどしか顔を合わせたことはないが、彼はそういう男だということだけは斬輝も充分に理解していた。

 

「そろそろお時間です」

 

 時計を確認していたグレイフィアが、その顔をこちらに向ける。

 

「なお、一度移動しますと試合終了まで魔方陣での転移は不可能になりますのでご注意ください」

 

 その言葉に全員が頷いて、ぞろぞろと魔方陣の上に集結する。

 リアスが斬輝の隣に立つと、その手を優しく握ってきた。振り返ると、彼にしか聞こえないくらい小さな声でぽつりと言った。

 

「こうして繋がっていないと、眷属じゃないあなたもいっしょに転移出来ないから」

 

 そして次々とみんなが光に包まれフィールドに転移していき、斬輝とリアスの軀が光に包まれたのは一番最後となった。

 

 

 グレモリー陣営が転移した先は、オカルト研究部部室だった。要するに、ぱっと見は変化なし、ということだ。

 部員の反応を見るに、別に転移失敗というわけでもないらしい。

 状況が呑み込めない様子だった一誠やアーシアを助けるように、スピーカーからグレイフィアのアナウンスが聞えてくる。

 

『皆さま。このたびグレモリー家、フェニックス家のレーティング・ゲームの審判役を仰せつかった、グレモリー家の使用人・グレイフィアです。今回のバトル・フィールドは、リアスさまとライザーさまのご意見を参考にし、リアスさまが通う人間界の学び舎・駒王学園のレプリカを用意しました』

「レ、レプリカ!?」

 

 驚愕する一誠をよそに、斬輝は窓を開けてみる。

 なるほど、旧校舎の前にあるちょっとした樹木までたしかによく再現出来ている。

 決定的に違うのは、学園の上空に広がる『空』そのものだ。淡い緑色のオーロラが周囲を覆っているのだ。

 つまり、斬輝達が立っているこの場所は『異空間上に精巧に作られた駒王学園の旧校舎、そのオカルト研究部部室』であるということだ。

 部屋の中を見渡してみると、もとからあった傷はおろか、少し前にライザーの眷族を叩きつけた跡まで丁寧に作り込まれていた。大した技術力である。

 

『両陣営、転移された先が本陣でございます。リアスさまの本陣が旧校舎・オカルト研究部部室。ライザーさまの本陣は、新校舎・学長室。よって『兵士(ポーン)』のプロモーションは、互いの校舎内に侵入を果たすことで可能となります』

「かなり厄介なルールだな」

「ええ。ですから本来は、お互いの『兵士』が最初に動いて潰し合うのが定石なんです」

 

 斬輝のつぶやきに頷いた朱乃が、何かを部員に配っている。受け取ると、それはかなり小さい光の球だ。

 

「これは?」

「通信機よ。戦場ではこれでやり取りするわ」

 

 答えるリアスは、ちょうどその通信機を耳に入れたところだった。なるほどなと返し、斬輝も同じく耳孔に突っ込んで、アナウンスが鳴るまで待機することにした。

 

 

 リアスとの縁談をレーティング・ゲームで決着させようという話がグレイフィアから申し出された際、ライザー・フェニックスは拍子抜けしたことを覚えている。

 茶番にもほどがある。

 公式戦のキャリアが充分にある自分とデビューすらしてない魔王の妹が相手では、とうてい勝負になるわけがないからだ。

 彼女は完膚なきまでに叩きのめされ、自分が圧勝する。

 だが、だからといって手を抜く気は毛頭ない。

 

「お前らには軽過ぎる仕事だが……遠慮はいらん。徹底的に潰せ」

 

『学長室』のイスに深々と座り、下僕達を見渡しながらライザーは宣言する。

 

「紅髪のお嬢さまのプライドをへし折ってやらねば、こんな茶番に何の意味もないからな」

 

 情けなどかけてやるものか。

 特に、あの男には……。

 

「時にミラ……お前もあの魔人に借りがあったな」

「はい……」

 

 伏し目がちにうなずく『兵士(ポーン)』の少女は、一〇日前にあの男への不意打ちを逆手に取られ、返り討ちにあっている。

 その時の傷は悪魔としての治癒能力でもはや見る影もないが、あの日受けた屈辱は肉体的にも精神的にも彼女を追い詰めていることに変わりはなかった。

 その証拠に、棍を握りしめる手にめりめりと力が入っているのが判った。

 

「奴は目障りだ、もし遭遇したなら優先的に狙え。場合によっては殺しても構わん。お前達がうまく立ち回れば事故として処理されるだろうさ」

「判りました」

「だが侮るなよ。同じ轍を踏まないようにな。……まあ、万が一取り逃がしたとしても気にするな。その時はこの俺が直接手を下してやる……リアスの目の前でな。見せしめにすれば、リアスは必ず投了(リザイン)するはずだ」

 

 どうやら、リアスにとってあの魔人は相当『お気に入り』のようだからな……。

 脚を机の上に投げ出して、ライザーは歪な笑みを浮かべた。

 フルメンバーであるこちらに対して、相手は圧倒的な人数不足。

 伝説の二天竜とまで言わしめたうちの一匹を宿す悪魔はとんだ肩透かし。

 そんな奴らに、いったい何が出来ようか?

 もう勝利は約束されたようなものだ。

 

「覚悟するんだなリアス。キミが相手にする『不死鳥』の恐ろしさを、その身をもって知るといいさ」

 

 紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)と、赤龍帝をはじめとする下僕悪魔達。

 そして……黒き魔人。

 貴様らの一〇日間、とくと見せてもらおうか。

 

『それでは、ゲーム・スタートです。制限時間は人間界での夜明けまでとします』

 

 開始の合図は、荘厳に鳴り響く学園のチャイムだった。




 へ、平成終わる手前に滑り込みや……。しかもまだ闘いに入らないし(タイトル詐欺疑惑)
 どうか気長にお待ち下さいまし。
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