ハイスクールD×D 呪われし鉄刃   作:椎名洋介

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第一一章

       

 

 

 斬輝が弾丸のごとく飛び出して小猫を抱き込んだ時、二人の足元に見慣れない魔方陣があることにようやく一誠は気がついた。

 続くのは、巨大な爆発である。

 

『イッセー!?』

 

 突然、耳元で怒鳴られた。

 リアスだ。

 

『二人がどうしたの!? 答えなさいイッセー!』

「先輩が小猫ちゃんを庇って、爆発に……」

 

 煙を上げて、斬輝が地面の上を転がってゆく。マントが螺旋を描いて、彼の後を追う。

 五メートルほど飛ばされてようやく止まった時、斬輝はぴくりとも動かなくなってしまった。

 そんな、

 先輩が……?

 謎の声は、

 

撃破(テイク)

 

 頭上から。

 見上げると、ボリュウムのある長髪の女が、自身の背丈ほどもありそうな杖を構えて空中に浮かんでいる。

 覚えている。

 一〇日前、部室で見た。

 ユーベルーナと呼ばれていた、ライザー・フェニックスの下僕悪魔だ。

 奴の『女王(クイーン)』だ!

 

「何かをやり遂げた瞬間の獲物は、一番隙だらけで狩りやすいもの。こちらは多少の駒を『犠牲(サクリファイス)』にしてもあなた達を一つ狩れば充分。『キャスリング』で『(キング)』と入れ替われると厄介なので『戦車(ルーク)』を狙ったのですが、まさか魔人が自ら餌食になってくれるとは」

「黙れ! ……よくも二人をやってくれたな! 俺が相手になってやるから降りて来やがれ!!」

『落ち着きなさいイッセー』

 

 ふいに、通信機ごしに一誠の怒りを鎮めるように声をかけてきたのは、リアスだった。

 

「で、でも部長!」

『斬輝が小猫を庇ったのよね?』

 

 何をいまさら。だから彼がもろともに吹き飛ばされたのに。

 

『マントはつけていた?』

「は、はい。つけてました……でもそれがどうしたんですか!?」

 

 早く上空にいるあいつをぶん殴りたいのに!

 おかしい、とつぶやいたのは、女魔導師だった。

 

戦闘不能(リタイア)の宣告がない……?」

「えっ?」

 

 開いた口から声が漏れる。

 そこで、一誠も違和感に気がついた。

 そうだ。

 おかしい。

 斬輝が小猫を庇って爆発に巻き込まれたのなら、なぜ一誠のはるか後ろで倒れ伏している斬輝の軀が転送されない?

 彼が悪魔ではないからか? 違う。魔方陣の構築をうまく調整さえすれば、魔力のない人間でも転移させることは可能だ。それにリアスと長い間いっしょにいる斬輝の場合、彼女の魔力がいわば『魔力の香水』として彼の肉体や衣服に付着している可能性があるため、いずれにせよ転移じたいは難しいことではない。

 では、なぜ?

 

『ライザーさまの〝兵士(ポーン)〟三名、戦闘不能!』

 

 代わりに流れるのは、ライザー陣営のリタイアを告げるアナウンスである。おそらく木場が倒したのだろう。

 

「まさか……」

 

 信じられないといった形相で、ユーベルーナは自身が手を下したはずの『獲物』を凝視した。確実に戦闘不能に追い込める自信のある威力をぶつけたからだろう。

 なぞるように、一誠も背後を見る。

 

『心配は無用よイッセー。斬輝はやられていないわ』

「それって……」

 

 ……どういうことですか、と聞き返そうとして、

 

「……げほっ! ごほっ!」

 

 粉っぽい咳が聞えてきた。

 音の主は、こちらに背を向け横たわった格好の黒いマントから。さっきまで微動だにしなかったそれが、もぞり、と動いて仰向けになる。

 

「さすがに衝撃まではどうにもなんねえか……」

 

 糞っタレ、と毒づいて、黒鉄斬輝が緩慢な動きで起き上がった。

 

「斬輝先輩!」

 

 一誠は急いで駆け寄ると片膝をついて、立てた膝を斬輝の背中に添えてやる。倒れないよう支えるためだ。

 

「大丈夫ですか!?」

「おう。とりあえず生きてるぜ。軀の節々は痛ぇけどよ」

 

 マントに覆われていない彼の顔は煤だらけで、まるで実験に失敗した科学者みたいに見える。その顔が苦笑に歪められる

 斬輝、と呼びかけるリアスの無線は一誠にも届いている。

 

『小猫は無事?』

「ああ、何とかな」

 

 答えて、マントの中から抱きかかえた塔城小猫を外に出す。特に目立った怪我はしていないようだった。

 

「爆発のショックで気絶してるだけだ。じきに目を覚ます」

「小猫ちゃん、よかった……」

『斬輝のマントには耐火と防火の魔法をかけてあるの。その中に入っていれば、ライザーの炎に焼かれることだってないわ』

 

 まさかこのマントにそんな仕掛けが施されていたとは。

 感心してる一誠をよそに、斬輝は小猫を横抱きのまま立ち上がる。

 

「リアス、俺は一旦そっちへ戻るぞ。塔城を寝かせる」

『判ったわ。気をつけて』

「兵藤、お前はこのまま一人で木場と合流してろ」

「うっす! でも、あいつはどうするんですか?」

 

 一誠が首を返すのは、ユーベルーナのことだ。奇襲が失敗したからか彼女の性格なのか、追撃してくることはなくご丁寧にこちらの話を待ってくれているようだった。

 斬輝は女魔導師を見上げると、

 

「……ユーベルーナ、だったよな」

 

 ぽつり、とつぶやいた。

 

「ええ」

 

 応える彼女は、嘲笑だ。

 

「どうやらあなたのマント、『炎』と定義されるものが弾かれてしまうようね。せっかくの狙い撃ちがパアになってしまったわ」

「話は聞えてたぜ。仲間の犠牲を前提に事を運ぼうなんて、ずいぶんお仲間に冷たいじゃねえの。奴のやり方か?」

「勝利に犠牲は付き物……これはいわばチェスの定石よ。ご存じない?」

「知るか」

 

 斬輝の、それは呆れだ。

 

「盤上の駒と眷属を一緒にすんじゃねえや。あいつらには意思があるんだぞ」

 

 背中を預けるべき仲間を何とも思わない相手への。

 

「少なくともあいつの目は本物だった。本気で勝とうと、全力で俺にぶつかってきた」

 

 そして斬輝に負けて、散った。

 

「てめぇはそんなあいつらの意思を踏みにじったんだ」

「だから何だというの?」

 

 ユーベルーナは、それを遮った。構えた杖をこちらへ向けて、それは攻撃の準備だ。

 

「よくしゃべるボウヤだこと。さっきみたいに爆発してみる? 今度は手加減なしで」

「上等だ。やれるもんなら……」

 

 応えかけて、

 

「あなたのお相手は私がしますわ」

 

 突如、こちらを庇うようにユーベルーナとの間に朱乃が割って入ってきた。

 そんな彼女が、肩越しに斬輝を振り返った。

 少しばかり責めるような視線で。

 

「斬輝くん、熱くなるのもいいですが小猫ちゃんのことを忘れないでください」

「……悪ぃ、そうだった」

 

 斬輝は肩をすくめる。

 

「『雷の巫女』ですか……ちょうどよかった。一度あなたとは闘ってみたかったのよ」

「あら、それは光栄に存じますわ。『爆弾王妃(ボム・クイーン)』さん」

 

 魔力の奔流が朱乃から溢れ出し、金色のオーラとなって彼女の軀を包んでゆく。

 姫島朱乃。

 駒王学園三年生。

 リアス・グレモリー最強の下僕!

 

「彼女は私の全身全霊をもって消し飛ばします。イッセーくんは先をお急ぎなさい」

「朱乃さん! 頼みます!」

「斬輝くんも。小猫ちゃんのこと、頼みますね」

「任せろ。無茶だけはすんじゃねえぞ!」

 

 そう告げて、二手に分かれて走り出す。

 それぞれが、それぞれの役目を果たすために。

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