ハイスクールD×D 呪われし鉄刃   作:椎名洋介

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第一六章 鉄刃:1

       

 

 

 熱い。

 (からだ)が熱い。

 

 

 なんだ?

 何が起こった?

 憶えていない。

 何も憶えていない。

 ただ、焼けるような熱が肉体を蝕んでいる。

 

 

 記憶が一本に(つな)がらない。

 また、途切れた。

 

 

 

 

       

 

 

 口数が少なくなった、と言われる。

 何を考えているの、と訊かれることも少なくない。

 眷属達には、労いと心配の言葉を投げかけられた。

 そしてそのたびに、リアス・グレモリーはまた崩れ落ちそうになってしまうのだ。

 レーティング・ゲームが終わってから数時間後、治療を終えたリアスはグレモリー家が用意した婚約パーティの会場の下見に連れて行かれた。

 町のはずれにある高台に城下町を見下ろすように建っていて、広大な庭園を抜けると、前方にそびえる建物は赤い石造りの瀟洒(しょうしゃ)な建造物である。

 ずらりと並んだ縦長の窓を見る限り、どうやら三階建てらしい。だが全ての窓が、大人の身長の五倍以上もの高さがあるのだ。

 広大なホールに通され、

 駒王(くおう)学園のそれに比べれば信じられないくらい天井の高い廊下を歩き、

 メインの大宴会場に辿り着いた。

 天井のアーチ構造を支える柱や床は、どれも磨き上げられた大理石だった。

 まるでダンス・ホールみたいな部屋だ、と思った。

 人間界の基準で考えれば充分過ぎるほどの敷地を持つグレモリー領の建物である。

 もっとも、リアスにしてみれば、こちらの方が『見慣れて』いる方ではあるが。

 あれから二日。

 リアスがいるのは、大宴会場に隣接する控室である。それも、彼女専用のだ。

 控室には、今日のリアスの身の回りの世話を担当する付き人達が待っていた。

 会話などほとんどなかった。部屋に入った際に受けた挨拶やたまに話しかけられた時に、ええ、とか、ありがとう、といった単純な返事をしたくらいだ。

 金で縁取られたスタンド・ミラーの前に立って、自分の姿を見る。

 メイクで目元の隈は隠せたが、泣き腫れた瞼まではごまかせなかったようだ。

 我ながら酷い顔ね、と自嘲の笑みが浮かぶ。そして『笑った』という事実に、リアスは驚いた。

 この二日間、嘘でも笑えたことなどなかったからだ。

 それに、

 このドレス。

 付き人達にされるがままに、リアスはドレスを着せられていた。

 胸元が強調された、シルクのビスチェ・タイプだ。

 グローブも花柄が金糸で刺繍(ししゅう)されたアーム・スリーブもドレスと同じ純白で、だから婚約パーティにしてはやけに洒落ている、と思った。

 ふう、とリアスは溜め息をつく。

 

「これじゃあ、まるでウェディング・ドレスね」

 

 応えたのは、

 

「その通りさ」

 

 男の声だった。

 同時に、鏡ごしにリアスの背後で炎が噴き上がる。

 荒れ狂う炎の魔方陣から現れたのは、相変わらず趣味の悪いワイン・レッドのスーツの男だった。

 ライザー・フェニックス……!

 

「ライザーさま、いけません!」

「ここは男子禁制です!」

「そう固いこと言うなよ、俺は今日の主役だぞ?」

 

 退出を促す付き人達をものともせずに飄々(ひょうひょう)と近づいてくるライザーに、振り返ったリアスは自分がどんな表情を浮かべているのか判らなかった。

 嫌悪(けんお)か?

 絶望か?

 (にく)しみか?

 (うら)みか?

 判らない。

 けれど、ありとあらゆる心の暗部が……とめどない『負』の感情が奴に向けられていることだけは、判った。

 

「いや、主役は花嫁だったな。失敬失敬」

「ライ、ザー……!!」

 

 忌々しい名を呟いて、思わず右手を振り上げた。

 顔を張り飛ばそうとして、

 

「おっと」

 

 その手首を(つか)まれた。

 

「いきなりどうした? 危ないじゃないか」

 

 呟く、その声はわざとらしいくらいに明るい。

 それこそ、悪戯(いたずら)をした子供を(たしな)めるように。

 その(しゃべ)り方が、余計にリアスの神経を逆撫でする。

 

「黙りなさい! 自分が何をしたのか判ってるの!?」

「何のことだ」

「とぼけないで!!」

 

 リアスの、それは半ば悲鳴だ。

 空いている左手で、ライザーの胸ぐらを摑んだ。

 

「あなたのせいで……あなたのせいで……、斬輝(ざんき)は今も眠ったままなのよ……!」

 

 

 あの時……。

 ライザーの放った魔力の炎は、リアスに叩きつけられる寸前で、『光』に包まれた黒鉄(くろがね)斬輝によってその進路を塞がれた。

 迫りくる炎の鳥に、自ら突っ込んだのである。

 彼を包んでいた『光』の膜は、呆気ないほど簡単に霧散した。まるで、シャボン玉が弾けて割れる時のように。

 突進した斬輝の軀は、たちまち炎に包まれた。しかも炎は、彼の腕に、脚に、顔に(から)みついてゆく。

 ただの炎ではない。魔力によって発生し、魔力によって(くく)られた炎なのだ。

 業火は、斬輝の半身を文字どおり焼き焦がした。彼の身に着けたものが発火したのではなく、炎そのものが彼に絡みつき、身を焼き続けたのだ。

 分厚い革のパンツと革のブーツが、炎を(はば)んだ。

 だが彼の上半身は、剝き出しだった。

 そして、焼かれた。

 火炎から解放された時、斬輝は変わり果てた姿に成り果てていた。

 まるで焼死体だ。

 比喩ではない。腕も胸も背中も顔面も、文字どおり彼の皮膚(ひふ)は焼け焦げ、剝けていたのだ。およそ目に映る限りの全ての皮膚が、赤と白と黒のマダラになっていたのである。

 その姿を見た時、リアスの中で何かが壊れた。

 感情の波が、一気に押し寄せた。

 その後のことはよく憶えていない。

 自分が投了(リザイン)したと気づいたのは、医療施設で目を()ましてからだった。

 

 

 それから、二日である。

 

「斬輝は、斬輝は……!」

 

 冥界の医療チームの迅速な治療と斬輝自身の驚異的な生命力で、一命は取り留めた。

 だが予断を許さない状況であることに変わりはない。

 一度だけ斬輝の病室へ行くことを許されたリアスは、ゲーム以降初めて彼の姿を見た。

 上半身が、くまなく包帯に(おお)われていた。

 白い人型である。

 まるで幽霊だった。

 しかもその包帯には、その時点ですでにそこかしこで血が(にじ)み出していたのだ。

 火傷(かしょう)の深度としては、三度あるいはそれ以上、というのが担当医の見立てであると、彼の側に付いていたグレイフィアから聞いた。

 普通なら死んでいる、そう言われた、とも。

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使おうとも考えた。

 現に手持ちの『騎士(ナイト)』と『戦車(ルーク)』の駒で転生を試みたのである。

 一縷(いちる)の望みにかけて。

 人間であることにこだわった彼に、後で怒られるかもしれないけれど。

 でも、何もしないよりは百倍もマシだった。

 だが。

 どちらも駄目だった。

 斬輝の持つ潜在能力が、それぞれの駒一つだけでは転生するに足りなかったのだ。

 自分では彼を助けられないという事実に押し潰されそうになって、また泣いた。

 

「ざんき、は……」

 

 腹の奥底から湧き上がる衝動に押されて、言葉を紡ごうにも声が出ない。俯いた顔は、叩きつけるようにライザーの胸元に押しつけられた。

 とっくに()れたと思っていた涙が、また溢れてくる。

 

「……私の、せいで……!」

 

 判っていた。

 悪いのはライザーじゃない。

 私だ。

 彼を巻き込んでしまった、私のせいだ。

 何も出来なかった、私のせいだ。

 震える肩に、ライザーの手が乗せられた。

 

「リアス」

 

 彼の声は、

 

(ゆる)せ、とは言わない」

 

 淡々としていながらも、真剣だった。

 

「たしかにあれは俺のミスで起きた事故だ。それについて弁解する気はないし、何より俺としてもあんな終わり方は望んじゃいなかった」

 

 だが、とライザーは続ける。

 

「勝ちは勝ちだ。キミが負けを認めた以上、俺達の婚約は正式に成立する」

 

 それだけ言うと、ライザーは魔方陣へどこかへ消えてしまった。

 残されたリアスは、行き場のない感情に任せて、崩れ落ちるように泣き続けた。

 何度も何度も、同じ言葉を繰り返しながら。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 

 

 

       

 

 

 奇妙な既視感があった。

 この感じは、初めてではない。

 ゆっくりと、深い意識の底から浮上してくる感覚。

 精神の内と外とを隔てる何かが、薄膜(はくまく)を一枚ずつ剝いでゆくように、少しずつ透明度を増してゆく感覚。

 誰かの声が聞こえる。

 少女の声だ。

 誰かの名前を呼んでいる。

 泣き叫びながら呼んでいる。

 聞いたことのある声。

 聞いたことのある名前。

 ゆったりとした時間感覚の中で、世界がこちらに引き戻されてくる。

 いや。

 違う。

 こちらが世界に近づいてゆくのだ。

 何もない世界から、

 全てがある世界へ。

 ああ。

 思い出した。

 あの時といっしょだ。

 初めて、自分の軀に異変を憶えた時と。

 だが、一つだけ違うことがあった。

 その先にいるのは、底なしの闇でも、荒れ狂う炎に包まれた『影』でもない。

 光に照らされた、美しい(くれない)の髪だ。

 温かさをくれた、優しい人の髪だ。

 世界へは、近づいてゆくのではなかった。

 それは帰ってゆく場所なのだ。

 リアス。

 

 

 聞こえるのは時計の音と、それから静かな息づかいである。

 銀髪のメイドは窓に一番近いベッドの脇に立って、そこに眠る人物を静かに見つめていた。

 無残な姿だった。

 半身を包帯で覆われ、『彼』は白いベッドに横たわっている。

 腕の包帯の隙間を縫うように点滴静注(てんてきじょうちゅう)のチューブが繫がり、口元は透明のカップで覆われている。送られてくる酸素を呼吸するたびに、カップの内側が白く(くも)った。

 集中治療室である。照明の落された広い病室に、同じようなベッドが六つほど並んでいる。

 他のベッドは全て(から)で、だから他に人影はない。

 レーティング・ゲームが終わってから、グレイフィアは魔王サーゼクスの命で『彼』の側に付くように言われた。

 バトル・フィールドから『彼』を医療施設へと転移させてから、つまりこの二日間である。

 すぐに緊急処置室へ運ばれた。

 冥界の中でも特に医療に精通している者達を集めたチームが、中でどんな処置を行ったのかは判らない。ただ、キャスターに乗せられて『彼』が廊下へ出て来た時には、こうなっていたのだ。

 酸素マスクと、点滴、そして包帯である。

 中継映像で見るのと、実際に自分の目で見るのとでは、その凄惨さはケタ違いだった。

 鼻孔(びこう)の周辺と、口元も包帯の隙間から見えている。どちらも、肉の部分は焼け焦げていた。焼死体を包帯で包んだようにしか見えない。

 損傷が皮下組織にまで及んでいるのは、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。部分的には、血管や神経の損傷も起きているはずだ。実際に眼球は、煮立ったタマゴのように白濁(はくだく)していたのである。

『彼』自身の神器(セイクリッド・ギア)に阻まれてしまい、治療用の魔方陣が機能しなかったのだと言う。そのせいで、消毒した軀に包帯を巻きつけるという一般的な治療をするしかなかったのである。

 生きているのが不思議なくらいの、大火傷(おおやけど)だ。

 

「リアス……」

 

 呟くグレイフィアの、その手に持つ紙は彼女がサーゼクスから託された物だった。

 もしも『彼』が目覚めたら、それを渡してくれたまえ。

 ちらり、と窓の外に目を向ける。

 遥か向こうの高台に、今回のパーティ会場が見えた。

 予定では、そろそろ婚約パーティが執り行われる時間だ。そうなれば、グレイフィアもサーゼクスのもとへ戻らなければならない。

『彼』が起きる気配は、ない。

 改めて『彼』へと視線を戻した時、グレイフィアは息を呑んだ。

 目が合った。

『彼』の右目に、瞳が戻っていた。

 

 

 

       

 

 

 連れて来られたのはダンス・ホールみたいな部屋だった。

 やたらに広くて、やたらに天井が高い。

 磨き上げられた大理石のフロアを、見たことのない連中がグラスを片手に歩き回り、談笑していた。

 どれも着込んでいるのは、スーツやタキシード、それにパーティ・ドレスだ。

 ざっと一〇〇人以上はいるだろうか。

 皆、人間ではない。

 悪魔だ。

 溜め息をついて、一誠(いっせい)はグラスの中身を口に運んだ。入口で渡された、ノン・アルコールの琥珀(こはく)色だ。

 彼をはじめ、残りのオカルト研究部メンバーも正装に身を包んでいた。唯一違うのは、朱乃(あけの)が赤と黒の和服に白い帯を巻いていることくらいだ。

 リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約を記念するパーティの、大宴会場である。

 それはちょっとした立食パーティみたいなもので、まばらに置かれたテーブルの上に並べられた料理はどれも旨そうな香りと湯気を立てている。

 だが、とても祝う気になどなれなかった。

 それどころか、彼らの心を支配するのは暗澹(あんたん)たる思いだ。

 弾けんばかりの笑顔が似合っていたアーシアは、両手で持つグラスに視線を落している。

 朱乃の浮かべる笑みも、どこか作ったように見える。

 木場(きば)は気丈に振舞って見せていたが、それでも言葉の節々に隠し切れない悲哀が感じられた。

 ただでさえ口数の少ない小猫(こねこ)は、さらに輪をかけて無口だった。

 遠くに、ライザーの妹が意気揚々と招待客からのインタビューに答えているのが見える。

 ……お兄さまったらレーティング・ゲームでお嫁さんを手に入れましたのよオホホホホ……。

 

「好き勝手言いやがって」

 

 思わず漏らした言葉に、

 

「中継されていたのを忘れているのでしょう」

 

 涼やかな声が応えた。

 

「ソーナ会長」

 

 声をあげた木場を含めたオカルト研究部員達に、するり、と滑るように近づいてくる、彼女は一誠達の先輩で、リアスと朱乃(あけの)の同級生である。

 ソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主で、人間界では支取蒼那(しとりそうな)の名で駒王学園の生徒会長を務めている。

 オリエンタル・ブルーのドレスは肩が見えるオフショルダーで、その手には一誠達が持つのと同じ色の液体が入ったグラスを(もてあそ)んでいた。

 彼女が言っているのは、いろいろと話を誇張している節のあるレイヴェル・フェニックスのことだろう。

 

「結果はともかく、勝負は拮抗……いえ、それ以上であったのは誰の目にも明らかでした」

 

 二日前のゲームの中継を、生徒会の彼女達が担当していたのだ。

『彼』の、と続けるソーナの紫色の瞳が、眼鏡の奥で一瞬、陰りを見せた。

 

「……黒鉄くんの怪我のことは、とても残念です。私も何度か、彼には生徒会の仕事を手伝ってもらったことがありましたから」

 

 そう言ってわずかに伏せた目には、たしかな憂いが浮かんでいた。

 

「俺のせいです……」

「……え?」

「俺が弱かったから……俺が先輩の代わりに部長の犠牲になっていたら……」

「それは違うよイッセーくん」

 

 割り込んだのは、木場である。

 澄んだ夜のような瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 

「そんなこと、リアス部長は望んでない」

「で、でも木場!」

「今の僕らに出来るのは、ただ待つことだけだよ」

「待つ……?」

「斬輝先輩を、です」

 

 小猫だ。グラスの中身を飲み干して、その目はじっと会場の奥の方を見据えていた。

 

「……私はまだ、諦めたくありません」

「そうですわね」

 

 そう言う朱乃のグラスに、次の琥珀色が注がれてゆく。

 

「こんな終わり方、きっと斬輝くん本人が納得しませんわ」

 

 私も、と呟くアーシアの左手は、一誠のタキシードの裾をつまんでいた。

 

「ザンキさんを信じたいです……!」

「アーシア……」

 

 その光景を見つめていたソーナは相好(そうごう)を崩し、

 くすくすと肩を震わせて、

 それから左手の中指で眼鏡のブリッジを押し上げた。

 

「……会長? どうかなさいました?」

 

 朱乃の問いに、いいえ、と返してから、

 

「ただ、思っていたよりも黒鉄くんが後輩に慕われているようだったので」

 

 そう応えた、その時だ。

 ただでさえ賑やかだった会場が、さらに騒がしくなった。

 見ると、はるか向こうの突き当たりにある舞台に、白いジャケットを着込んだ一人の男性が現れたところだった。

 ライザー・フェニックスだ。

 

「冥界に名だたる貴族の皆様! ご参集くださり、フェニックス家を代表して、御礼申し上げます!」

 

 その声に、それぞれ話に花を咲かせていた一〇〇人以上の悪魔が、ぞろぞろと舞台の方に集まって人垣を形成してゆく。

 一誠達も不自然にならないように、人垣の最後列の方へと移動した。

 ……ああ、始まっちまう。

 

「本日皆様においで願ったのは、この(わたくし)、ライザー・フェニックスと、名門グレモリー家の次期当主、リアス・グレモリーの婚約という、歴史的な瞬間を共有していただきたく願ったからであります!」

 

 ライザーの口上に、会場に集まった招待客達が、どっ、と()いた。

 

「それではご紹介しましょう! 我が(きさき)、リアス・グレモリー!!」

 

 応えるように、ライザーの隣に二つの紅い魔方陣が展開した。

 グレモリー家の紋章……リアスの転移魔方陣だ。

 真帆仁はそれぞれ遠ざけ合う磁石のように反発し、その間から純白のドレスを身にまとったリアス・グレモリーが姿を現した。

 その美しさに魅せられたのか、会場の悪魔がまた沸いた。

 一誠も、彼女の姿に目を奪われた。

 綺麗(きれい)だ。

 

「すでにご存じの方々もいらっしゃるとは思いますが、今回の婚約はレーティング・ゲームによって決着をつけることになりました!」

 

 だが、同時に一誠は気づいていた。

 招待客に振りまく笑顔の……その目は笑ってなどいない!

 

「ちょっとしたハプニングこそありましたが、しかし! 結果は私の勝利という形に終わったのです!!」

 

 それは彼が憧れた彼女ではなかった。

 あの人は……、

 あの人は紅の髪を揺らしながら、威風堂々(いふうどうどう)としていなきゃいけない。

 泣き腫らした目で、(かな)しい笑みなど浮かべていいはずがない!

 

「若輩者ではありますが、このライザー、妃とともに純血悪魔の存続と繁栄、そして安定に全力を捧げるとお約束します!」

 

 ライザーの声に、一誠は目を伏せる。

 

「我々悪魔の未来は! 今日! ここから! 新たに始まるのです!!」

 

 握りしめた拳に、血が(にじ)んだ。

 

「そいつぁ違うなあ!」

 

 ずしり、と胸に響く叫びは、背後からだった。




 活動報告にも書いたように、何とかライザー編の『終章』まで書き終えました。
 安心してください、ようやく完結出来ますよ。

 とりあえず、次回は水曜日辺りに更新出来たらいいかなあ。更新してなかったらごめん。
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