ハイスクールD×D 呪われし鉄刃   作:椎名洋介

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終章

       

 

 

 眩しさで目が醒めた。

 閉じたカーテンの隙間から差し込んだ()の光が、ちょうど斬輝(ざんき)の顔に当たったのだ。起き上がって、その時初めて、自分が全裸のまま眠ってしまっていたことに気がついた。

 朝陽に照らされたベッドには、リアスの姿はなかった。

 夢は見なかった。

 眠ったという自覚さえない。気がついたら、朝だったのだ。一瞬、昨夜のことこそ夢であったか、と斬輝は思った。

 かすかな残り香がなければ、そう信じたかも知れない。

 部室で部員達と解散した後、二人は斬輝の家へ向かった。冥界の空で交わした約束のためだ。

 斬輝の寝室に辿り着いた途端、二人はタガが外れたようにお互いを求め合った。

 口づけを交わし、肌を重ねた。

 リアスも自ら求め、肉体を開き、受け入れてくれた。その行為が嘘でないことを、とめどなく柔らかくなり続ける肌が教えてくれた。

 閉じた(まぶた)の裏で、婀娜(あだ)っぽくよがるリアスの姿が(よみがえ)る。

 (まゆ)を寄せ、(くちびる)を半開きにして狂ったようにのたうち回っていてさえ、彼女の顔立ちは美しかった。(こし)を送り込むたびに煽情的(せんじょうてき)肢体(したい)がうねり、(のど)の奥から甲高い嬌声(きょうせい)を噴き上げる。出逢ってからの二年で一度も聞いたことのなかった彼女の(あえ)ぎは、今でも耳に残っていた。

 ああ、この莫迦(ばか)

 (なま)めかしい記憶に反応して再び()とうとする己を押さえ込んで、斬輝はベッドを抜け出した。

 彼女が出しておいてくれたのか、布団の上にはスウェットの上下が畳んで置いてあった。

 下だけを穿()いて、部屋を出る。

 階段を降りてリビングへ行くと、すぐ左手に対面式のキッチンがある。最新の、システム・キッチンだ。

 

「お~」

 

 喉の奥で唸った斬輝に、

 

「あら、おはよう」

 

 リアス・グレモリーが声をあげる。Tシャツと短パンの部屋着の上に赤と白のギンガムチェックのエプロンを着て、その手にはフライパンとスポンジが握られていた。どうやら使い終わったのを洗っているらしい。

 焼けたベーコンの匂いが、食欲をそそる。

 

「朝ご飯出来てるわよ」

「ん~」

 

 見ると、テーブルにはすでに野菜サラダが、透明のボウルに盛られている。そこに添えられた木製のサラダ・サーバーも、斬輝が使ったことのない奴だ。

 向かい合う格好で、ベーコン・エッグの乗った皿が並べられている。

 テーブルに着くと、オーブン・レンジが絶妙のタイミングで電子音をたてた。

 

「死ぬかと思ったわ」

 

 トーストを皿に乗せながら、リアスが呟いた。

 

「なにが?」

()かないでよ、もう」

 

 ぷうっ、と唇を尖らせてそう言う彼女に、ようやく斬輝も理解した。

 ああ、そういうことか。

 思わず、頬が緩む。照れ笑いだ。

 婚約パーティの一件があってから、どうやらライザーはトレーニングに目覚めたらしい。一族の力だけでなく、己自信を高めることに励むというのである。ゆうべ、家のポストにそんなことが綴られた彼の手紙が入っていた。

 あのわずかな時間……しかも満身創痍だった状態で、まさか筆を取る余裕があったのか? 相変わらずフェニックスというのはしぶといらしい。

 そんなこんなでライザーとの婚約騒動がひとまずの終わりを告げた夜、リアスは斬輝の家に住むことを決めた。グリフォンの上で、斬輝に宣言したのである。

 思いを伝え合ったのだからいいじゃない、と彼女は言った。

 好きな人といっしょに暮らすのも夢だったのよ。

 そんなことを言われてしまっては、斬輝も断れなかった。

 断る気がなかった、とも言えるが。

 いずれにせよ、黒鉄斬輝とリアス・グレモリーは、こうして同棲生活をスタートしたわけである。

 

「トーストはバターでいいかしら?」

「いや。まんま喰う」

「飲み物は?」

「牛乳で」

「はぁい」

 

 それじゃあ、とリアスも向かい側に腰を下ろして、手を合わせる。リアスのコップには、麦茶が注がれていた。

 

「いただきましょう」

「おう」

 

 いただきます、と言ってから、二人は朝食に手をつけた。

 他愛のない会話を交わしながら。

 笑顔で。

 

 

 日曜日ということもあって、午前中はリアスの荷物を運び入れて、午後は駅の方まで出向いて彼女用の調度品の買い出しに出かけた。布団や枕のカバーを含めて気に入ったものが見つかるまでけっこうかかったが、それでも一日のうちにたいていのものは買えたので、良しとしよう。

 夕食はリアスが好きなものを作ってくれると言うので、ハンバーグをリクエストした。斬輝の好物なのだ。

 その後はリアスが点けたテレビでやっていた動物系のバラエティー番組をソファに座って観ていたが、ラクダの映像に切り換わった途端に彼女が悲鳴をあげてこちらに抱きついてきた。聞くと、幼少期のトラウマのせいでラクダそのものが苦手らしい。

 なぜそうなったのか、という斬輝の疑問には、ついぞ答えてくれることはなかったが。

 それでも、夢にラクダが出てきたら怖いわ、なんて言いながら斬輝のベッドに潜り込んでくるものだから、どうしたものかと思案する。

 細い眉を寄せて、不安げな表情を浮かべるリアスは、つまり学園では見ることの出来ない素直な彼女のものだ。そんなものを見せられては、断るわけにもいかないだろう。

 いいぜ、と応えた。

 その言葉を後悔することになるのは、二分後である。

 

 

 その夜、斬輝はリアスの安眠のための抱き枕と化した。

 

 

 

       

 

 

 週明けの月曜日、朝の通学路をリアスと歩いていた斬輝は、道すがら同じ駒王学園の生徒達から驚愕と疑問と羨望の眼差しを受けることになる。

 

「リアスお姉さまと……あれって三年の黒鉄先輩!?」

「あの二人がいっしょにいるのはよく見かけるけど、もしかして……」

「でも、こないだも二人で登校してたし……」

「リアスお姉さまとワイルドな黒鉄先輩……これはこれでアリかも!」

 

 同級生や後輩の言葉を肯定するように、リアスが腕を絡ましてくる。

 ぎゃあ、と悲鳴があがるのは、リアス・ファンの男子達からだ。

 

「今さら恥ずかしがることなんてないわ」

 

 傍らを歩くリアスは、そう言った。

 

「堂々としていればいいのよ。もう、()(つくろ)う必要もないのだし」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

「判った」

 

 だから斬輝は、絡んでいる腕を一度ほどくと、彼女の手を握り、さらに指を絡ませる。弾かれるようにこちらを振り向く彼女の頬は、心なしか紅くなっていた。

 

「堂々としてりゃいいんだろ?」

 

 斬輝はそんなリアスを、笑みで迎えた。

 

「いっしょに行こうぜ」

「……ええ!」

 

 どこまでもいっしょに。

 

「これからは、いっしょに歩きましょう」

「ああ」

 

 親父。

 お袋。

 俺、今、こんなだぜ。

 もう、独りじゃないんだ。

 俺を愛してくれるリアスと……信じてくれるあいつらといっしょに、これからもずっと歩いて行くぞ!

 

 

 見慣れた赤いシャツと金髪が見えたのは、二人が学園の校門までたどり着いた時だった。

 

 

 リアスと斬輝のカップル成立のニュースは、その日の新聞部の一面をかっさらった。




 語ることはそう多くない。


 ともあれ、ようやくここまでたどり着いた。私が書きたい物語は、これで区切りを迎える。


 続きは今のところ考えていないが、二人の関係をさらに深めるという意味では、もしかしたら三巻以降のストーリーも書くことになるかも知れない。
 未定ですがね。


 だから、ひとまず『完結』とさせてください。もしも再開することになったら、その時はまた温かい目で見守っていただけると幸いです。


 では、また。
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