異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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 「異世界西遊記」序盤に登場した四人をもっと書きたくて作った話です。
9月21日加筆しました、現在15話まで投稿してますがほぼ全て改稿する予定です


第1話冒険者達とハンバーガーセット

 日本時間の午後8時頃、疲弊しきった男女四人連れが暗い夜道を進んでいた。彼らは新進気鋭の冒険者の一行である。今日はギルド経由の依頼で拠点2つ先の街に現れた魔物バジリスクを倒し、その帰り道だった。

 「思いの外、強かったな」パーティーリーダーの剣士、人間のアランが呟く。

 「ええ、それよりカカンザはまだ先かしら?」魔術師でコボルトのリャフカが珍しく不平を漏らす。数日前からの雨により目的地までは非常に悪路になっており、馬車が使えず移動には徒歩しかなかったのだ。その為彼らも疲弊しきっていた。

 「お腹すいたニャー、もう歩きたくニャい!」武道家のケットシー、ルビィは疲れと空腹がピークに達してる。アランとリャフカが諫めるがホントは4人とも限界がきていた。

 「あ、あっち、あの家から食いもんの匂いするだ」斧使いのオーク、オィンクが一軒の建物を指し示す。そこには、窓から灯りが洩れる風変わりな家がある、目的地へ向かう時にはなかったものだ、同じ道をそのまま往復しているので冷静ならば不審に思っただろう、しかし今の彼らに空腹を満たす事以外考える余裕はない、四人とも一心不乱に建物を目指した。

 「いらっしゃい」一人の若者が出迎える、黒い瞳と短く揃えた黒髪が特徴的である(アラン達にとって髪や目が黒い人間は珍しかった)。我に返った四人は室内を見渡す。4人掛けのテーブルが三卓にカウンターに椅子が五脚、それはいい。驚いたのは火の気もないのに照明は明るく、窓は閉めてあるのにどこからか心地よい風が吹いてくる、オマケに楽団も吟遊詩人もいないのにどこからか音楽が流れている、異様な光景にアランは叫ぶ。

 「なんなんだ? ここは!」

 「なにって料理店ですよ、僕はここのマスターです」アッサリ答える若者。

 「じゃ食べるものあるのかニャ?」

 「なければ料理店とは言えないでしょ」

 「おで、腹へったもう我慢できねぇだ」

 「お金はある程度もってるわ、なにか食べさせて」

 「皆さん落ち着いてください、すぐ出せるものを今、作りますから」四人をテーブル席へ促すと水の入ったグラスとお湯で温めた布を人数分テーブルに並べるマスター。

 「オイ、水なんて頼んでないぞ」

 「え?ああ、そっか。その水は無料ですからお好きなだけどうぞ、あとおしぼり、その蒸した布で手を拭いて汚れを落として下さい」そういって奥の厨房に下がっていった。

 

 「なんでここに料理店があるんだ。1ヶ月前には影も形もなかったぞ」アランだけが冷静さを取り戻していた。しかし腹を空かせた仲間を思うと口には出せない、また彼も空腹には勝てなかった。食事をしてから考えよう、そう思い直した。

 マスターと名のる若者はカットしたじゃがいもを油の入った鍋に投入するとハンバーグ用のひき肉ダネを薄く成型し鉄板で焼き始める。バンズを上下2つに切り分け同じ鉄板で切り口をサッと炙る、その間もじゃがいもの鍋から目は離さない。炙ったバンズの下の方にの切り口にバターを塗りレタス、トマト、チーズ、焼き上げた肉を挟みもう一方のバンズを乗せる。丁度じゃがいもが揚がる。この十数年間の料理修行の甲斐あってタイミングを見極める目とそれに伴う技術が身に付いていた。最後にキンキンに冷えたコーラを人数分グラスに注ぎ完成だ。

 「お待たせしました。ハンバーガーセットです」マスターが料理を運んできた。四人は待ってましたとばかりにかぶりつく。一口食べた瞬間、

 「う、うまいっ!」

 「美味しい! なんなの?! このパン、スッゴク柔らかい!」アランとリャフカは生まれて初めての味に感動した。形がなくなる程細かく切って再びまとめて焼いた肉、あえてそうすることで塊の肉では味わえない旨味が口一杯に広がる。またパンといえばカチカチの硬いものしか知らなかった彼らには信じられないくらいフワフワで、そこに挟んだ肉の旨味とソースの味が染み込みシャキシャキした葉野菜となどが合わさる事で美味さが倍増する。

 「この細長いやつもおいしいニャー、回りはカリカリ、中はホクホクでいくらでも食べられるニャ」ルビィは芋の類いを揚げたシンプルな料理が気に入ったらしい。油が良質なのか胃にもたれることがなく、塩加減も絶妙で食べ始めたら止まらない。

 「おではこの黒いジュースが好きだ。口ん中さシュワシュワしてクセんなるだ」オィンクがはまった泡のたつ飲み物は甘さと少しだけ酸味があり肉と芋だけでは油が多く感じられる料理をスッキリさせてくれる。そして全て平らげた四人は声を揃えて言った。

 「「「「おかわり!」」」」

 

 「フゥー、さて店を閉めるか」午後九時の閉店時間になり、マスターこと越後屋大輔は今日の営業を終わらせた。この店「越後屋」の表口が異世界に繋がって数日経つが大輔自身は未だ実感はない、というのも裏口を開ければそこは日本でご近所さん方と普通に出会うしガス、電気、水道のライフラインもこれまで通りのままなのだ。

 「そういや、この前のオカマのお客さんが妙なこと言ってたけど…まさかね」件の客はこの店を気に入り大輔を悩ますある問題を百%解決すると申し出たのだ。確かにその問題自体は解決した、しかし大輔はどうも釈然としないのだった。




大輔を悩ませていた問題とは?そして件の客は一体何物なのか?詳しくは次回以降。
 9月21日加筆しました、既読済みの方は宜しければご確認下さい

 2017年5月24日再加筆しました

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