異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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第10話ロティスの恋とショートケーキの日

 越後屋の営業前のいつもの朝、近所の金物屋に女将さんの大声が響く。

 「ロティス、ラティファちゃん、早く起きな!今日も仕事だろ、マティスはもうでかけたよ!」パッと起きて支度するラティファ、大輔が以前頼んだのはラティファの下宿である。金物屋には跡継ぎの息子もいるが既に妻子がいる為、実家とは別に家を持っているその分部屋が空いたので彼女を住まわせてもらえるようお願いしてみたら夫婦は喜んで引き受けてくれた。

 そんなラティファに対してベッドから出ようとしないロティス、女将さんに布団を剥がされる。

 「お母さん、私は閉店まで仕事するから朝遅くてもいいんだってば」まだ寝たいが為言い訳するロティス、実際マティスは保育所が閉まる前に子供を向かえに行かねばならんし、ラティファは夜遅く迄仕事をさせるには幼すぎる。その為大輔は夕食時を過ぎたら二人を先に上がらせ閉店まではロティスと二人で店を回している。

 「ナニ言ってんだい、お前も少しはラティファちゃんを見習ったらどうなの?一寸くらい早起きしたって損はしないよ、さっさと朝メシ食っちまいな!」これ以上雷をもらうのはゴメンなので起きる事にする。

 「お早うございます」ロティスとラティファは一緒に出勤してきた、越後屋は客だけでなく従業員も表口から出入りする、異世界側の店の外からだと何故か裏口が見つからないのだ、(勿論大輔は除く)厨房ではマスターと主に調理補助を担当しているマティスが料理の仕込みを行っている。

 「お早うございます、あれロティス、君はまだ仕事の時間じゃないよ、それにしても眠そうだね」

 「母に叩き起こされました」なんとなくその光景が目に浮かぶ。

 「開店まで奥の部屋で休んでていいよ、女将さんは後日僕が説得するから、ラティファちゃんはトベレを潰すのを手伝って、マティスは生クリームを準備して」

 「今日はショートケーキの日だったんですね」ラティファが嬉しそうに返す。今日は裏口の日本で22日である。越後屋が転移してから何か独自のサービスを考えていた大輔は、ある日デザート類の注文を受けた時、パッと閃いたのである。スポンジは既に焼きあがっているので生クリームを塗ればいい、苺を混ぜたものを1枚のスポンジに塗ってもう1枚を重ねたら白いままのクリームで周りをコーティングして、向かって東西南北方向に苺を並べる飾り付ける。そうしてホールケーキが完成したら慎重に8等分にきりわける。7ホール56個分できた頃開店時間がくる、異世界語で『本日ショートケーキの日』と書いた吊るし看板を入口に下げておく。

ランチタイム。心なしか女性客はケーキのサービスにテンションが高い。

 「え?!ケーキ一個無料なの?」問い合わせも幾つか受ける。

 「はい、今日は『ショートケーキの日』ですから」別に今日が初めてではないので接客担当のロティスとラティファは慣れた様子で答える。逆に男性陣はその様子を冷めた目で見ている。

「なぁマスター、女ってのはどうして甘いモンがこうも好きかねぇ?」男性客の1人が大輔に囁く。

「えっと、提供する側としてはなんともいえません。それに僕も割りと甘党ですから、」

そしてその日の営業が終わり、ロティスが帰ろうとした時、マスターに紙で作られた箱をわたされる。

「残り物で悪いけどさ、よかったら持ってって。」箱の中にはショートケーキが7つ入っていた。今朝作った56個はランチで終了して急きょ四ホール新たに追加したがそれも飛ぶようにでていき、閉店後に残った分はないはず、両親と自分達姉妹と姉の子達にラティファ、数があっている。

 「いやぁσ( ̄∇ ̄;)ぐ、偶然てあるんだね、アハハハ」多分我が家の為に別に用意してくれたのだろう。

「ありがとうございます、それじゃお疲れ様でした」お土産つきで家に帰る、その晩家族揃ってケーキを食べたが何故か父は不機嫌で母と姉は食べながらロティスの顔を見てニヤニヤしていた、真っ赤になる彼女をよそにラティファとマティスの子供達だけは無邪気にケーキを頬張っていた。




P・S金物屋の親父、結構甘党です

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