よくネット小説の異世界物では孤児院を運営する教会が登場するがこの世界も例外ではない。当然このエドウィンでは街の教会の住職であるサイケイが任されている、その資金源はお布施や街からの補助金もあるが大部分はここの子供達が教会の敷地にある畑で採った野菜や養鶏で得た卵を商業ギルドに卸す事で賄っている。
子供達が3人くらいで卵の配達にきた、大輔の希望もあり越後屋にはギルドを通さず教会から直接届けられる、勿論ヴァルガスにも許可を得ている。
「卵のお届けでーす」年長らしき子供の元気な挨拶に気をよくしたロティスも笑顔で卵を受けとる。後をついてきたサイケイが頭を下げてきた。
「お早うございます、サイケイさん。いつも助かります」仕込みを終え、手透きになった大輔はサイケイにお辞儀を返す。
「いえ、
「それでは本日は失礼します」子供達を引き連れ越後屋を後にするサイケイ。
それからしばらく経ったある日、朝のおつとめを済ませたサイケイの元へコルトン公爵が隣街のムッサンの領主、そこの教会で住職を勤めるカンネンと10人以上の子供達を伴って訪れた。
「ご住職もムッサンで起きた大規模な火災の件は知っているだろう」コルトンが話を切り出す。
「はい、街の建物が半分は焼けたとか。心中お察しします」サイケイは本心から憐れんだ。
「街の復興までしばらくかかる、それまでカンネンと子供達をサイケイ殿に預かっていただきたい」今度はムッサンの領主、スポックが頭を下げた。
「スポック様、畏れ多くございます。私でよければお引き受け致しますから、頭をお上げ下さい」恐縮するサイケイ。幸いにも教会内の畑も鶏舎も人手が足りてない、ここにいる間は彼らにも手伝ってもらえればこちらも助かる。
話はまとまったがそれまで黙っていたカンネンが一つの疑念を口にする。
「子供達を預かっていただけるのはありがたいのですがその間の食料はどうなさるのですか?」自分一人なら日雇いの仕事でもすれば食うには困らないが、子供達の食費も稼ぐとなればそうもいかない。
「ウム。一応貸しという形でこちらで負担する、そこを如何に安くあげるかが問題だな。私が今からエチゴヤへ赴きマスターにアドバイスを請うてみようと思っている」
「なるほど、あの方なら秘策をお持ちでしょうからな」コルトンとサイケイの前向きな様子に首をかしげるスポックとカンネンだった。
「それなら最適なモノがあります、確か備蓄があるのでお待ち下さい」コルトンから相談を受けた大輔は厨房の奥にある自室に入り茶箪笥から探し物を見つけ、調理しながらコルトンに解説する。
「インスタントラーメンです、これなら安いモノで百人分1ラムくらいで手に入ります。後はお湯と器があれば大丈夫です」完成品を試食したコルトンは
「お湯だけでこれ程の食べ物が作れるとは!それだけ安いのなら街の人々の血税も無駄にしないで済む。仕入れは君に任せよう、明日にでも頼めるかね?」時刻は店も閉店した午後10時である。
「今から買いに行ってきます」
「異世界は昼間なのか?」
「時差はありません、あっちは真夜中でも開いてるコンビ…商店がありますから」カルチャーショックを受けているコルトンを帰すとパックスを連れて裏口から日本へ戻りコンビニへ向かう大輔。
「いらっしゃいませ」コンビニの店員は大量の袋麺を買い占める二人組に怪訝な顔も見せず淡々とレジを打つ。いくら妙な客であろうと異世界と違い日本人はその辺、割り切っている。
翌日、コルトンと教会にやってきた大輔はサイケイにインスタントラーメンの調理法を教える。
「ありがとうございます、これで当教会は食料不足を免れます」
「お礼なら公爵様と街の皆さんに仰って下さい」一方双方の子供達は未体験のインスタントラーメンを夢中になって食べている、特に焼き出されたムッサンの子供達は二日ぶりの食事であったせいか、食欲旺盛
だ。
「あくまで非常食です、こればかり食べていたら健康にはよくありませんから」大輔はコルトンに注意を促す。
「了解した。商業ギルドや児童教育ギルドにも援助を頼んでみよう」
「僕もカリーナさんやオラートさんに子供にできる仕事がないかあたってみます」
「コルトン殿、感謝しますぞ。サイケイ殿、カンネンと我が街の子供達をよろしくお頼み申す」スポックは街の再建の為の陣頭指揮を自らとろうとムッサンに帰っていった。
後日国王から大量にインスタントラーメンの注文が入り、コルトンがムッサンまで届けに行った。尚、街に配られる前につまみ食いをしようとこっそり忍び込んだアルバートが従者にみつかり息子である現国王に叱られるハメになったのはご愛敬である。
目標まで後5話!