異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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100話達成しました。


第100話育ての親とだし巻き

 ベガ王国の騒動に巻き込まれたエドウィンだったがそれもようやく落ち着いた。一時避難していた人々も大半は故郷へ帰還していった、しかし中にはここや近隣の街に移住を希望する人もいて街は一段と規模が大きくなった。

 

 そんな中、越後屋にサガンの街の領主であるクリストフが訪ねてきた。コルトンも一緒にいる、大輔に折り入って話があるという。

 「実は我が街にこの店の支店を作りたいのだが」大輔は難色を示す、この店が無事に営業できるのも裏口で日本と繋がっているからだ。支店を作るとなると店のスタイルもほぼ一緒にする方がいいだろう、しかし日本(あちら)へ転移する手段がなければそれも難しい。

 「何も2、3日の内に結論を出せとは言わない。考えが決まったらコルトン殿を介して返事を聞かせてくれたまえ」クリストフはそう伝えると

 「さて腹が減った、せっかく料理店に来たのだから何か食べていこう。コルトン殿、こちらは何がお勧めだろうか?一応下調べはしておいたのだが今日まで直接料理を頂く機会には恵まれなかったのでね」

 「ウム、何でも旨いが特に人気なのはカレーライスにカラーゲ、ギョーザか。私はテリヤキという鶏料理が好物なのだが」

 「では、それを二人分頼もう」こうして二つの街の領主が向かい合って食事をして帰っていった。

 閉店間際に奇妙なお客が来店してきた、地面スレスレまである真っ黒な長衣(ローブ)を纏っていてフードで顔まで覆っている。何やら不気味な印象だがいつも通り席に案内してお冷やとおしぼりを出す、因みにここまでの接客はパックスが担当した。

 「だし巻きを頂けるかしら?」男性の野太い声が女性っぽい口調で注文を取りに来たロティスに伝える、そもそもこの店のメニューにダシマキというモノはない。変に思いながらも笑顔で対応するロティス、厨房の大輔に尋ねる。その返事は

 「作れるよ、でもこの世界にだし巻きってあるのかなぁ?」

 「さあ、多分ないわね。少なくても私は知らない」若干の疑問は残ったものの注文された以上は作るしかない、普段はあまり使わない卵焼き用の四角いフライパンを棚から下ろして丁寧に埃を取り除く。

 

 「お待たせしました、ダシマキです」運ばれてきたのは長方形に調えられたオムレツのような料理、長衣のお客は器用に箸を使って口に運ぶ。次の瞬間、フードを外してその素顔を露にした。

 鼻から下の顔には髭を剃った跡があり、毛根が濃いのか全体に剃り跡が青く残っている。明らかに男性であるにも関わらず唇にはルージュを引いて、女性のようなメイクを施していた。ロティスもパックスも唖然としてる、しかし大輔は顔を見た途端涙を流し始めた。

 「ウソ、生きてたの?」

 「ええ。話せば長くなるわ、それより腕上げたわね大輔」彼(彼女?)こそ大輔の料理の師であり育ての親、越後屋熊実その人であった。

 

 話は大輔が産みの親を亡くした頃だから20年くらい前になる。両親共に借金を残して死んだ為、親戚一同誰も遺された幼い大輔を忌み引き取る者はいなかった。そして施設に預けられる事が決まりかけたところへ

 「その子はアタシが育てるわ、養子縁組すれば問題ないでしょ」この日から大輔は元々の『岩本』の姓を棄てた。

 それから15年の月日が経ち、熊実に何不自由なく育てられた大輔。大学も卒業して二人して本格的に店を回すようになり当時の常連達からも『若マスター』と呼ばれ始めた頃、突然熊実の訃報が入った。

 

 「ホントはアンタと同様、異世界転移したのよ。元いたトコでもこちらでもないまた別の世界にね」その後、自分に起きた事を淡々と語る熊実。転移した時幾つかの魔法を身に付けたのに気づいた事、それを利用して向こうでも居酒屋を経営()っている事、そして今日まで転移する魔法を散々試した結果、ようやく成功して三つの世界を往き来できるようになったそうだ。

 「長い間、心配かけたわね。さぞ恨めしかったでしょう」

 「無事なら何よりだよ」

 「でもアンタまで異世界転移してるとは思わなかったわ」顔を見合わすと笑いが込み上げて来る二人。元より大輔には感謝こそすれど熊実を恨む気持ちなぞ全くない、だが疑問はまだある。

 

 「葬式は向こうのご兄弟がやったハズだよ、遺体なしでどうやったの?」

 「アタシもそこまでは知らないけど、あの兄貴達の事だから何らかの小汚ない手を使ったのは確かよね」熊実の兄、越後屋寅治はかつて借金とりと結託して大輔に嫌がらせをしていた張本人の一人だ。その後悪事が次々に露見して現在は服役中、その娘が2号店を回している伊達冴子である。

 

 「それじゃアタシは今住んでる世界に帰るわ、勿論またくるけど。そうそう、アンタかパックス君の部屋に鏡はある?」

 「ないよ、映り込むモノならパソコンがある。使えるの?」

 「充分よ」大輔の部屋にあるパソコンに向かって何か呪文を唱える熊実、すると吸い込まれるようにパソコンの中へ消えていった。

 

 「えっと、マスター良かったね。お父さん、イヤお母さん?どっちだか分からないけど生きてたんだね」

 「うん」ロティスの言葉に大輔はただ頷いた、そして

 「ロティス、僕と結婚しよう」遂に大輔はロティスにプロポーズした。

 

 これで『異世界料理店越後屋』第一章は完結、またしばらくしたら第二章でお目にかかりましょう。

 

 

 

 




今後も更新ペースは遅いながらも連載は続けるつもりなのでヨロシクお願いします。
2018/8/15,一旦完結にします、次回あるとしたら第二部としてリスタートするつもりです。
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