今日は久々に下界へやってきたわ、目的は美味しい物を食べる為。だからって何処でもいい訳じゃないのよ、アタシにはそれなりのこだわりがあるの。まず高級店はアウト、あの手の店って息が詰まるのよね。そしてマスコミとかに紹介されている所もダメ。ホラ、3次元を2次元に複写する…人間が生み出したカメラってヤツ、アタシ達の姿は捉える事ができないの。当然周りは大騒ぎになるわよね、だから知る人ぞ知るみたいなお店が一番いいの。そう言えば知り合いの世界に孫悟空として転生させたルカちゃんから友達が飲食店を
「越後屋ぁ~出てこいや、オラァ」品のない男が2人お店の扉を乱暴に叩いてる、よくみたら『定休日』ってでてるじゃない。アタシの知ってる限りこの国の識字率は高いはずだけどこの人達文字が読めないのかしら?遠くから何かの警告音が聞こえる、パトカーってやつね。
「ヤベェ、ずらかるぞ」
「畜生!だれがポリ公呼びやがった?」そりゃあんだけ大騒ぎしたら誰だって呼ぶわよ。それより休みじゃしょうがないわね、出直すとしますか。
次の日改めてお店に来たら『長らくのご利用ありがとうございました』と張り紙がでていた、お店はやってるみたいだけどなにがあったのかしら?
「いらっしゃいませ」彼が店主ね、1人で切り盛りしてるみたい。そんなに大きなお店じゃないけど落ち着いていていい所だわ、お客だってそれなりに入っているし閉めるなんてもったいない。店主さんにそれとなく聞いたら借金取りに悩まされてるって事でこの土地を離れるみたい、昨日の連中も仲間だったのね。ああいうのは逃げたところでまた追って来そうだけど、そうねここはルカちゃんに1つ貸しを作っときましょ。
その日はハンバーグ定食を頂いたわ。次の日はカレー同じ日の夜は餃子とビール。翌日はetc.…3日間通った結果味は充分合格だわ、彼にこそ神の思し召しがあるべきよね。間違いないっていい切れる、だってアタシが神だモン。
「ねぇ、店主さん。アタシが借金取りの悩みから解放してあげる♥」
「お客様は警察の方ですか?」
「もっと上の存在よ」
「それじゃCIAとか、でも日本に対してどれだけの権限があるんですか?」
「明日になれば分かるわ」
次の日の朝、大輔はゴミの集積所から裏口へ戻った、表がなんだか騒がしい、玄関を開けるといつもの光景が広がって…なかった、明らかに日本じゃない場所それもアニメなんかで見た昔のヨーロッパのような光景が目に写る、慌てて2階へ上がりテレビをつけると普通に朝のワイドショーを放送している、天変地異とかが起きたわけではなさそうだ、裏口の戸を開けたらこっちはいつも通りだった。
「どーなってるの?」ふと玄関から誰かが声を掛けてくる、借金取りではないようだ。こうなれば全て正直に話すしかない、最も大輔自身何が起きたかサッパリわかってないが。玄関開けたら身長3メートルはありそうな一つ目の大男と夫婦らしき2人連れがいた。
「つまりお前さんは異世界の人間で理不尽な借金の請求に困ってたら知らないうちに家ごとこっちの世界に引っ越してきたと、そういう訳だな」この街の商業ギルド長だというサイクロプスのヴァルガスに尋問されて有りのまま答える。自分は異世界に来てしまった、他に大輔には考えようがない。
「は、はい信じていただけますか?」
「少なくても異世界から来たってのはウソじゃないらしいね」恰幅のいい女性が天井の蛍光灯やガスレンジを見ながら頷く。この女性が地主だそうだ。4人で裏口へ向かうと大輔には見慣れた、他3名には衝撃の光景がみえる、
「なんだありゃ馬車か?引くものもないし、しかも速すぎる!」
「あの四角いのは山かい?建物!あんなデカいのがかい?」思わず身を乗り出す彼らだったが大輔1人を押し出し戸の敷居を境に見えない壁らしき何かに阻まれ日本側に入ることはなかった。
「俺達が異世界へ行くのは無理みたいだな」
「立場は逆とはいえアンタも数奇な運命背負いこんじまったねぇ」
その後暫く話をして互いに打ち解けて来た頃再び裏口からがなり声が聞こえる、
「出て来いやぁ越後屋ぁ!」
「金出せや、こらぁ」大輔はいくら聞いても慣れない怒号に顔をしかめた、だが彼以上に気を悪くしたのがヴァルガスだ、
「俺が追っ払ってやる」ヴァルガスは裏戸を開ける大輔のすぐ後ろに立つ。借金取り達は敷居をまたいで入ってくる。
「今日こそ耳揃えて返すモン返してもらっ…」
「オイ!どうしたっ、バ、バケモノ!」絶句する借金取りにヴァルガスは不機嫌にしながらも努めて紳士的にきりだす。
「アンタら、金を返せというが、ちゃんとした証文でもあるのかね」借金取りはビクつきながらも精一杯虚勢を張って
「う、ウルセー、とにかく金だしゃいいんだよ」
「なんだそりゃ?ただの恐喝じゃないか」怒りが沸点を超え相手を捕らえようと手をのばすヴァルガス、間一髪逃れる借金取り。
「つ、次こそ返してもらうぞ!」瞬間戸に顔をぶつける、大輔が戸を開けるとまたしても見えない壁が立ちはだかり、借金取りはふっ飛ばされる。
「なんでだ?なんで出られない?!」大輔は敷居をまたぎ裏口へ出る。
「それが僕にもわかりません」困ったように答える、奴らは今度こそヴァルガスの太い腕に捕まる。
「お前らは衛兵隊につきだして、牢獄行きにしてもらうか、まぁ刑期が開けても元の世界には一生帰れないだろうがな、罪状は所有する土地を荒らされたって事でいいな、女将さん」
「ああ、確かに間違っちゃいないからね」連絡を受けた衛兵隊がきて連行される異世界の罪人2名、大輔は少しばかり同情した。
「アンタ料理人かい、じゃここで店をやればいいじゃないか、なにも遠慮する必要ないよ、土地の貸し賃?そんなケチくさい事ぁ気にしなさんな、他に困った事がありゃアタシら夫婦とこのヴァルガスが力になるよ」
「ありがとうございます、これから宜しくお願いします!」こうして越後屋大輔の異世界ライフは始まった。
前後編2話形式にするつもりが調子こいて長い1話になりすぎました。ヴァルガスと大輔の出会いをようやく書けました。今回登場した夫婦は第6話からちょこちょこ出てくる金物屋ご夫婦です。旦那のセリフがないのは単に無口だからです(-_-)