リタは周りを警戒しながら越後屋へ向かう、女だてらに衛兵隊の1小隊長を任された身としてはあの店での事は絶対に知られたくない。特に部下達にバレては上官としての威厳に関わる。この20年ぐらいで衛兵隊にも女性隊員が増えては来ているが男社会の名残は未だに残っており自分や彼女らをよく思わない男尊女卑至上主義な連中も少なくない。
戸を開けると顔馴染みのウエートレスが奥の席へ案内してくれる、その中でも出来るだけ目立たない場所に座りメニューを広げる。
「キルトスパフェをお願い」大の甘党であるリタが越後屋に通うようになってからのお気に入りはパフェというお菓子である。これまでトレベパフェや南の大陸でしか獲れないという高級果物をふんだんに盛ったムサパフェ、マスターの説明によれば摘みたてのテアの葉を使ったマッチャパフェと色々食べてきたが今日、新メニューだという数種類のキルトスを使ったパフェを見つけた。これはなんとしても食べなければなるまい。
注文を受けたマティスはパフェ作りに取り掛かる、元々主婦だったから料理は得意な方だ、そこで厨房担当に選ばれた彼女。始めの内は盛り付けと野菜を切るぐらいだったけど最近はマスターから大抵の料理を任されるようになった、パフェ作りもその1つである。
まずは皮を剥いて粗めに刻んだアルムと生クリームを混ぜレイゾウコなる魔法の箱からケーキにも使われるスポンジ、金属の筒に入ったレティの砂糖煮と凍らせたラクを取り出す、後は白いままのクリームとこの辺りでは見た事のない大きい黄色のアルムの薄皮を丁寧に剥いて順番に見映え美しく盛り付ければ完成だ。
「お待たせしました、キルトスパフェです」待望の品がリタの前に表れる。早速スプーンを手に取り一匙口にする。
「あっまーい♪おいひぃー」甘さの中にもアルムの仄かな酸味を感じるクリームとレティの爽やかさ、初めて見た大きいアルムの苦味もラクで作られた氷のまったりした甘さと相性がいい。
今の私はさぞや腑抜けた顔をしてるに違いない、自覚はあるが、この時ばかりはいつもの衛兵隊小隊長ではなく1人の甘い物好きな女でいさせてほしい。
「アレッ、リタ小隊長じゃないっスか」誰だ?声のする方へ目を向ける、副隊長のグレアムだ、終わった(ToT)今日までの努力が全てパーだ、私は明日から全衛兵隊の笑いものになる。
「すいませーん、チョコレートパフェ下さい」エッなんて?目を丸くするリタにグレアムは声を潜めて言う。
「小隊長、俺が甘党だって他の連中には黙ってて下さいよ」リタも同じ言葉を返すと、
「俺は笑ったりしないし小隊長が変だとも思いません、むしろ素敵だなぁと…いえ何でもないっス」リタは自然と吹き出す。グレアムも思わず照れ笑いする、そして同じテーブルで仲よくパフェを食べる。
この何年か後2人は結婚する事になり大輔はウェディングケーキならぬ巨大ウェディングパフェを依頼されおおいに苦労するハメになるがその事は語るまい。
この話の元ネタは筆者宅近所の喫茶店のメニューにあるオレンジミルクです。あれ旨いのに他で見た事ないんですよね。
ムサことバナナはこの世界にもあります、ただし超高級品で、ラターナには普通出回りません。
今回の異世界語
・キルトス→柑橘類
・レティ→みかん
・アルム→オレンジ
・ムサ→バナナ
・テア→紅茶
厳密には異世界語ではない言葉
・大きい黄色のアルム→グレープフルーツ
・金属の筒に入ったレティの砂糖煮→みかんの缶詰め
・摘みたてのテアの葉→緑茶の葉
・凍らせたラク→アイスクリーム