第12話以来食べ物描写がない話になります。
「えっ貸し切りですか?」越後屋マスター、大輔はある客からの言葉に思わず聞き返してしまった。
「はい、無粋なお願いとは重々承知の上で申し上げます、お聞き頂けますか?」相手はかなり遠慮がちに頼んでくる。正確には彼の雇い主の頼みだ。幸か不幸か越後屋の評判は右肩上がりで料理店としては最小規模でありながら今やこのラターナ王国では知らぬ者のない有名店に押し上げられた、その為今日みたいな依頼もこれまで何度かあったが全て断っていた。越後屋は誰もが気軽に料理と酒を楽しめる店としてやってきた、それが先代のポリシーであったし大輔自身も曲げるつもりはない。今回も断るつもりだ。
「すみません、当店はお客様をお選びするような店ではないので、貸し切りは受けかねます。勿論普通にご来店された場合は精一杯おもてなしさせて頂きます」大輔の言葉に相手は諦めて店を去って行った。
召し使いの伝言を聞いたやたら華美なだけでセンスの欠片もない装いをしたボタモス公爵は人間ではあるがオークに間違えられるくらい突き出た腹を揺らし元々不細工な顔を更に醜くさせて憤怒した。
「このワシの命令に刃向かうとはなんと無礼千万、目にもの見せてくれる」
翌日の越後屋は営業できる状態ではなかった、胡散臭げなチンピラが店の前に座り込んで誰もが入れないようにしたり往来で暴れたり、わざと小火騒ぎを起こしたり嫌がらせのオンパレードを受けた。ヴァルガスが怒鳴り込みにきたがボタモスの名を出された為引き下がるしかなかった、貴族の命とあらば文句は言えない。コルトンにしても街の領主とはいえ自分と同格の「公爵」が相手である以上下手に手出し出来ない、人のいい大輔も流石に腹が立っていた。
「バイクでも駆ってチンピラを追い返すか、あれなら裏口から出入りさせられるし。けど排気ガスを撒き散らす物をこちらに持ち込むのも気が引けるし…」結局この男のお人好しは異世界でも変わらなかった。やがてボタモス自身が下卑た笑みを浮かべ越後屋にやってきた。
「ギョハッハ!ワシに逆らえば皆こうなるのだ、こんな店とっとと潰れてしまうがよい、ギョハハハハ」嫌みな高笑いをあげるボタモスの肩に手を掛けた人がいる、コルトン公爵その人だ。
「ボタモス殿、申し訳ないが勅命により身柄を拘束させて頂きますぞ」コルトンの後ろには王族直属の警備兵が控えている。
「コルトン!?貴様‼ワシにこんな事をしてただで済むと…!」警備兵に取り押さえられたまま喚き散らす。
「どうもなりませんな。勅命と申したはず、相変わらず人の話を聞かん御仁ですな」コルトンが取り出したのは1枚の命令書だ、書面には王家の紋章と現国王のサインと共に「ボタモスを逮捕すべし」と書かれていた。途端にボタモスの顔が青ざめる、ワシが一体何故?店の1つや2つ潰したところで陛下の逆鱗に触れるはずがない。連行されるボタモスを遠目に街の人たちも彼の逮捕の理由にホッとしながらも見当がつかず首をかしげるのだった。
これまで通り1エピソード1000文字前後に収めたいので、食べ物描写は次回になります。m(._.)mマンネリを避けようとするとそれだけで長くなってしまいますネ。
本文中でボタモスはオークに間違えられるとありますが、筆者のイメージでは豚よりカバに似ています。