異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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コルトン公爵や王家の人々が大輔の正体を知っているのは異世界で店を始める時、色々協力してくれたヴァルガスと金物屋夫妻経由で公爵に伝わったからです、その公爵から王家に報告されたわけです。報告した理由はラターナの法律に基づいているからです。因みにコルトンの妻セーダと娘セリクスは大輔が異世界人だとはしりません。


第17話似た者親子と持ち帰り弁当

 ボタモスが逮捕されたと同時にチンピラ共は巻き添えをくらうのはゴメンとばかりに蜘蛛の子を散らすかの如く逃げ去った。大輔はヴァルガスや近隣の人々にお礼とお詫びを述べて周り(異世界人には何も悪くない大輔がどうして詫びるのかは理解できなかったが誠意は通じた)漸く人心地ついた。

 同じ頃ラターナ王国王城にてコルトン公爵はレックス現国王とアルバート先代王と面会していた。

 「コルトン君、この度は大義であったのぉ」今回の逮捕劇を裏で仕掛けた張本人、アルバートが労いの言葉を掛ける。

 「もったいないお言葉、恐悦至極に存じます」

 「しかし父上、確かにボタモスの行為は罰するべきですが、異世界から現れたとはいえ市井の料理店を王家が守る必要がありましたか?」

 「レックスや、あそこはワシの行きつけの店じゃ。潰されたらかなわん、少なくともワシにとって異世界云々は関係ない。そうじゃ今度は一緒に行かぬか?勿論身分を隠しての、お前はそうさな、材木商の主人とかどうじゃ?コルトン君にワシの時同様上手く誤魔化してもらえばいい」

 「何を呑気な事をおっしゃっいますか、現国王の私にそんな余裕などありません!父上が一番ご存知でしょう?大体いつもこそこそ城を抜け出して、少しは王家の威厳というものをお考えになって下さい!」

 「そんな堅いことを言うな!口うるさいのは宰相1人で沢山じゃ!」実はこの2人口喧嘩するのはいつもの事で本人達や身内にはちょっとしたレクリエーションみたいなモノなのだが勿論そんな事は知らないコルトンは焦った、この親子喧嘩を止めなければ。なにかいい方法はないか・・・そうだ!

 「恐れながら両陛下、わたくしに妙案があります」2人の喧嘩がハタと止まる。

 「「して、妙案とは?」」流石に親子、自然とハモる。

 「は、越後屋には『ベントー』なる土産用の料理がありまして冷めても美味にございます、そちらをご利用なさってはいかがでしょうか?」

 

 「そうですか。ご隠居さん、これから息子さんの住む街へお出かけになるんですか」アルバートはいつもの隠居爺いの装いで越後屋にやってきた。

 「ウム。あれにもこの店の料理を食わせてやりたいが忙しくて自分からは来れんというでの、マスターおすすめのベントーを持っていきたいのじゃ。できればそれに合う酒も一緒にな」大輔は予め日本のホームセンターで買っておいた紙箱の束から2枚取りだしそれぞれに料理を詰めて缶ビール2本と一緒にアルバートに手渡した。

 「紙の箱と金属の筒はどう処分して頂いても構いません、ご自由になさって下さい」品物を受け取りアルバートは城に帰る。

 

 「ご自分でお出かけに?使いをやればよかったのでは?」先代王は息子の言葉を遮る。

 「何を言うかレックス、彼らに余計な仕事を増やしてはならぬ、それにこれはワシの趣味じゃ。それより腹が減った、ベントーとやらを食おう」城の料理番には今日の2人の夕食は要らないと伝えてある。レックスは父親に言われるまま箱を開けて奇妙な銀色の紙を剥がすと1つはオリゼの粒を集め固めたものが2つと緑色のピクルス、焼いた肉の腸詰めに四角く作られたオムレツ。もう1つの箱には蝶番のように切られたパンに茶色い岩のような板が挟まれたモノも2つ、その脇にはラトゥールを敷かれた上に白と赤っぽいなにかと薄切りにしたグルミスと混ぜて練った球体が入っていた。アルバートはオリゼの固まりを手にして言う。

 「これがオニギリじゃ、中には赤く酸味の強いピクルスが入っとる、始めは驚くがハマればくせになるぞ、そっちのパンに挟まったのはチキンカツという鶏に衣を纏わせ揚げたモンじゃ。これが鶏特有の臭みが全くなくてな、出来立てもよいが冷めてもまた旨い。丸いのはチューバとティナーカのサラダじゃ、どちらもこの酒に合うぞい」

 「父上、この筒には蓋がありません。どうやって開ければよいのですか?」当然だが缶ビールなど見たことないレックスは戸惑っている。

 「それはの、この輪っかを軽く上に引っ張るとな、ホレこんな風に蓋に小さい穴が開く。グラスはいらん、筒のまま飲もう、礼儀なんぞ必要ない、今はワシとお前しかおらんのじゃからな」

 「旨い!同じ冷めた食事でも普段とは全く違う、父上が入れ込むのも納得です。この酒も酒精こそ弱いが喉ごしが実にすばらしい!」いい年をしてまるで子供に戻ったような表情になるレックス。自らも父親の身であるというのに。思えば息子と一緒に食事をするのはこいつの戴冠式以来じゃのう、だがあの時は祝いの席であったし。王族なんたらを抜きに只の親子としては何時ぶりかのぉ?我が子の成長は嬉しいが寂しくもある。アルバートは少し感傷的になりながらも2人だけの夕食を楽しんだ。




親子をテーマにした話ですが親子丼はベタ過ぎる気がしたのでこうなりました。

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