異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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前半は時系列的には次回以降幾つかの話より、未来になります。後半が一番始めのエピソードっぽいです。尚ストーリーの時系列はランダムです。


第2話サイクロプスと借金取りとチキン南蛮

 「越後屋」が異世界に繋がり1週間、新装開店から更に1週間が過ぎた、最初の数日こそ暇だったが先日の冒険者一行や偶然立ち寄った客等から安くて美味い店だと口コミで噂が広まり今や常連客がつき以前よりも賑わっていた。客の半数くらいは人間じゃないが。

 そんなある日の営業中のこと、大輔にとって招かざる2人組の客が裏口から入ってきた。

 「オイオイ、夜逃げでもしたかと思えば随分繁盛してるようだなぁ」

 「これなら今すぐ金返せるんじゃねぇか、なあ越後屋さんよぅ」さる悪徳金融業社に勤める所謂借金取りだ、大輔はまたかと嘆息した。その顔は不愉快というより憐れみの表情だった。ここで説明しておくと、まず大輔は今は亡き先代越後屋店主の養子である、実の両親が借金を残して事故死した時まだ未成年だった大輔を料理の師匠であり未婚で実子のいない先代が後継ぎに向かえてくれたのだ。相続放棄したうえ他家の戸籍になっている大輔に法律上払う義務はない。にも関わらず連中は難癖をつけては返済を要求してくるのだ。

 借金取りの2人は他人の迷惑を顧みる事もなくテーブルに陣取り悪態をつく、嫌がらせなどしたところでお金がわいて出る訳もない。非合理だし、パターンが古い。これが経営者の方針だとしたら余りにも頭が悪い、自分とは関係なくいずれ警察の手が入り倒産するなと大輔は冷静に考えてしまう。借金取りの1人は客の中に綺麗な若い女性をみつけると周りを押し退けて隣に移動する、肩に手をかけると剣を突き付けられる、相手は女性騎士だった。後退りすると大きな背中にぶつかる、常連の1人で大輔も恩があるヴァルガスだ。3メートル以上はある巨体が単眼で借金取りを睨み付ける。彼はサイクロプスである。

 「さっきから聞いてりゃ何なんだお前ら?来い!衛兵隊にひきわたしてやる!!」

 「バ、バケモノだぁ!」借金取り2人組が店内をよく見渡すと山羊の下半身を持つ少年やら二足歩行のトカゲやら蝙蝠の羽根が生えた女が一斉に敵意を向けている。最初はコスプレの客がやたら多いとしか思ってなかったがそれにしては大掛かりだし動きがしなやかすぎる。

 恐怖に怯える2人組は慌ててその場を立ち去ろうとするが、裏口のドアに弾き返される。

 「無駄だ、そこから出られるのはマスターだけだぜ」ヴァルガスはわざと意地の悪い笑みをみせる、大輔以外は日本側から入ったら最後、島流しならぬ異世界流しとなり2度と帰れない。今衛兵隊に連行されていった2人組も見知らぬ土地で生涯を過ごすことになる。

 「これで何人目だっけ、奴さんも懲りないよなあ」例の業者は既に何度も借金取りを送ってきている、その全員が(日本から見て)行方不明になっていて、何年か後には本人の生死関係なく死亡扱いになる。怒りを通り越して可哀想とすら思う。

 「あれも自業自得ってモンだぜマスター、それよかチキンナンバンとショーチューのおかわり頼む」事情を知るヴァルガスに諭され大輔も気を取り直し、追加注文をうける。

 「ハイ、すぐ用意します!少しお待ち下さい」鶏肉の下味をつけ馴染む間にマヨネーズとみじん切りにした玉ねぎ、パセリ等を混ぜる、味が染み込んだ鶏を低めな温度の油で揚げて1度取り出す。油の温度を上げてさっきの鶏肉を再び揚げ直す。最後に予め用意したソースをかけて完成だ。

 邪魔者も失せたところでヴァルガスはできたての好物のおかわりに手をつける、最初この店に客としてきた時、悪戯半分にムチャ振りしたのを思い出す。この世界で鶏料理といえば寿命の近い廃鶏を只適当に火を通しただけの生焼けのものでひどく臭いのだ。故にヴァルガスは鶏料理が苦手だった、ここでチキン南蛮に出会うまで。 

 

 「お待たせしました、チキン南蛮です」

 「ほう、鶏を揚げたのか。ン、なんか白いのがかけてあるな」

 「ええ、タルタルソースです、揚げ物にあいますよ」

 「まぁ一口食ってみるか、これは!」この鶏料理には全く臭みがなかった、むしろ鶏の芳醇な香りが口いっぱいに広がり、旨味が溢れだした、ずっと口に入れていたかったがやがて鶏肉が溶けるように口からなくなった。上からかけられたタルタルソースとやらも良い、細かく刻まれた野菜に卵の味、そこに酸味が加わり揚げた鶏と調和する。これは酒が欲しくなる。

 「オイ、この店に酒はないのか?」大輔はとりあえずビールをだすと、酒の置いてある棚を探す。

 「このビールとやらも悪くないが…他に酒がないのはさびしいかな」グラスを煽り、そんなことを考えていると、

 「えっと、後は焼酎があります、他は生憎切らしてまして、仕入れが明日になります」

 「おぅ、そいつを頼むわ」出された酒に口にすれば、 

 「何だこの酒は?!かなり強いけどまろやかでフルーティーだぞ、今まで呑んだことがない!」鶏を食い、酒を呑む。暫く繰り返しやがて皿もグラスも空になる。ほろ酔い気分で店を去るヴァルガス。

 「チキンナンバンにショーチューか、あれだけ飲み食いした割りに2アルで釣りがでるとは安かったな、また来よう」一方大輔はこの日の売り上げを計算していた。店が転移した日レジを開けたらこの世界の通貨になっていたのには驚いたけど、前日に売り上げをチェックしていたので相場がわかる。どうも1ニュームが十円、1アスが百円、1アルが千円、1ラムが一万円にあたるようだ。しかも大輔の都合次第でレジを開閉する度に日本円になっていたりこっちのお金になったりするのだ。換算した結果は大黒字となりお客さんには申し訳ない気がするがその分サービスを充実させねばと心に誓う大輔だった。

 




 設定とか、説明がやたらでてきて予定の倍近いながさになってしまいました(/▽\)。
 9月21日改稿しました、更に長くなりました
(/▽\)
 12月6日再改稿

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