異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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 今回のテーマはお正月です。年跨ぎだからというわけじゃありませんが2話構成にしました。尚、設定上では同時進行してます。


第21話薬師師弟とゆく年くる年  前編師匠と鯖の梅煮

 さて、この世界には〈アンノウス〉と呼ばれる地球のお正月に似た風習がある、本来は新年を向かえられる事を神に感謝する日らしいがいつの頃からか家族や親しい人同志での祝宴を楽しむ日になってしまったそうだ。越後屋にも何件かパーティーの予約が入っている。リサーチしたところおせちみたいな伝統的な料理はないらしいので大輔は結局いつもと同じ料理を出す事に決めた。尚、この日ばかりは年の明ける真夜中まで営業する。

 薬師のガーリンは最近弟子にした孤児の少女リベリを伴い越後屋へやってきた。

 「ここだね、世にも珍しい料理や菓子が食べられる店というのは」若い頃は王宮付きの薬師としてそれなりの地位を築いていたが後進に道を譲り今は山で薬草取りとその研究をする傍ら街外れの薬屋を営んでいる。

 ある日街へ使いにだしたリベリがガーリン宛の手紙を預かってきた。古い友人からのアンノウスパーティーの招待状である、元々酒や甘い物に目がないし、年に一度くらいはリベリにご馳走をたらふく食べさせてやりたいと思ったので誘いに応じる事にした。

 「いらっしゃいませ」アンノウス前夜なだけに店内は混雑していた、2人はリベリより少し年長の女給に向かえられる。

 「あぁ女給さん、すまないね連れが先に来てるはずなんだけど」

 「伺っています、こちらへどうぞ」カウンター席へ案内される、連れの古い友人とはヴァルガスだった。

 「久しいなガーリン、リベリも元気か?」

 「お久し振りヴァルガス、本日はお招きありがとう」

 「ヴァルガスおじさん、ご無沙汰してます」リベリは師匠のお使いでたまに街へ来る事がある、ヴァルガスにも師匠手製の薬を卸したりする事もあるので顔見知りであった。

 「今日は俺の奢りだ、この中から選ぶといい」メニューとかいう薄い本をヴァルガスから受け取る、客が好きな物を頼めるシステムになっているらしい、他じゃ聞かないやり方だ。酒の項目をみるとワインやウイスキーに並んで知らない名もある。

 「酒はヴァルガスと同じのを一杯頂こうかね。肴は何がお勧めだい?」ガーリンはメニューの説明書きを見ながら首をひねる、絵と文章だけでは今一つわかりにくいので注文を終えた友に尋ねる。

 「俺は大抵チキンナンバンだな、揚げた鶏にタルタルソースってのをかけたやつでこれがたまらなく旨い」ガーリンの記憶ではヴァルガスは鶏が苦手だったはずだ、どうやらここの店主はかなりの料理上手とみた。店主に声をかける。

 「店主さん、脂をしっかり感じられて尚且つさっぱりした料理なんてのはあるかい?」1つ目を丸くするヴァルガスに対し

 「はい、しばらくお待ち下さい」店主は慣れた調子で返事をして調理を始める、

 「お前も随分無茶な事を言うもんだな、まぁマスターならご期待に沿うモン出すだろうが」苦笑するヴァルガスに酒を次がれガーリンは言葉を返す。

 「昔、王宮勤めしていた頃にも城の料理人に頼んでみた事はあるよ、結果は最悪だったけど。あの時は廃棄処分される牛の肉を湯通ししただけのモンを出されたよ、味もなにもなかったね」そんな思い出話をしていると目の前に料理が置かれた。

 「お待たせしました。こちら、さ…コリアの梅煮です」コリアはそれほど珍しい魚ではない、ウメニとは調理法の事だろう。魚らしからぬ爽やかな香りにビクッとなるが顔には出さない、何十年も薬師をしているだけに嗅覚の鋭さは自負している。味はどうだか。

 「コリアの脂は抜いてないね、けど独特のしつこさは全然ない。調味料に酢を使ってるのか、いやこの酸味は違うねぇ。一緒に煮込まれた果物が秘密か」

 「物思いにふけるくせは相変わらずだな、旨いモンは旨い。それでいいだろ、相変わらず素直じゃないな」豪気なこの友人とは気が合わない事も多いのに何故かずっと仲がいい、我ながら不思議なモンだ。今度はショーチューとかいうヴァルガスお勧めの酒とあわせる。

 「こりゃ強い酒だね、けど旨い。この料理にはピッタリだよ」

 「後6時間もすれば新年だ、今夜は年を跨いで呑もうじゃないか」

 「あぁ、過ぎ行く年と来るべき年に」

  「「乾杯(^_^)/□☆□\(^_^)‼」」

 

 

 

 




 珍しく後編に続きます。
 

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