料理店に入ったのはほぼ生まれて初めてであるリベリはさっきからキョロキョロしている。
「先生、あの天井の白くて細長いランプはなんですか?それに外は寒いのにここには暖かい風が吹いてます」さっきからお伽の国に迷いこんだようにはしゃぐリベリだが
「騒ぐんじゃないよ、みっともないからね」師匠に諌められ姿勢を正す。とはいえカウンターから覗く厨房には薪のない竃に汲み置きの水がない洗い場、テーブルは客が帰る毎に片付けられ常に清潔さを保っている。よくみると師匠も時々目が泳いでいる。このような店は初めてみたいだ、ばつが悪そうにしながらもヴァルガスおじさんの盃を受ける。
「お前も好きな物を頼みな、あぁ字はまだ教えてなかったね。けど丁寧に絵が載ってるよ」師匠からメニューを受け取るとすごく丁寧にしかも上手に書かれた絵を見る、これを眺めるだけでもウキウキする。その中でとりわけカラフルな料理の絵に目を奪われる。
「これがいいです」お店の人に言うのは何となく恥ずかしいので師匠の袖を引いて呟く。師匠が声をかける前にカウンター越しに料理を作ってた店主さんが気づいてくれた。
「お待たせしました、お子様ランチです」仕切りの付いたお皿に盛られてるのは卵と混ぜ合わされ山のような形に整えられたオリゼ、ルシコンで色付けされたパスタ、衣を纏い揚げられたペナ、白いソースが絡んだ細く刻まれたプラッカにコロコロしてるのが可愛い茶色くて丸い肉の塊にプルプルした甘い香りのする黄色い物。絵に書いてあるのと全く一緒だ。
「どうだ、美味いか?」黙々と食べるリベリに優しい眼差しを向けるヴァルガス、リベリは口いっぱいにほうばったまま笑顔で頷く。ガーリンは申し訳なさそうに大輔に尋ねる。
「店主さん、これは随分手間の掛かる料理じゃないかい?代金をみても採算が合わなそうだし」
「えぇ、まぁメニューに載せてる以上注文があれば作ります、残ったら自分達で食べればいいんだし」会話しながらも手を休めず料理を作り続ける、ヴァルガスが話の輪に入ってきた。
「マスター、オコサマっていうくらいなら、その大人は食ったらダメなのか?」何故か恥ずかしそうに訊ねてくる。
「そうですねぇ、基本は12歳までにしてますけど、頼まれたら特に断りはしません。ただし…」
「ただし、何だ?」
「大人の方だとトルコライスと呼び名が変わります」ヴァルガスと大輔は顔をつきあわせて爆笑する。
「じゃあ、そのトルコライスを追加だ」
「ありがとうございます。すぐご用意しますね」正確には変わるのは呼び名だけじゃない、お子様ランチが仕切りのついた皿に分けて盛られるのに対しトルコライスは1枚の皿に重ねるように盛られ、量も多めである。因みにプリンを付けるかどうかはお客の好みに委ねられる。
「あ、ロボさんいらっしゃいませ」現れたのは背丈がリベリの2倍はありそうなワーウルフだ。
「チャーハンだ、チャーハンを大盛りでくれ!おっ商業ギルド長、それ旨そうっすね」
「お前さんも頼むか?チャーハンより割高だが」一攫千金を目指しながらも実際は密かに貯金をしているロボは迷った末なくなく諦める。今度は冒険者パーティー4人組が来店していつもの料理を注文する。
「「「「ハンバーガーセット4人分!」」」」
やがて真夜中になり、日付が変わろうとしていた、月が南の真上に上がると店にいる全員が声をあわせ、
「「「「アンノウス、おめでとう‼」」」」老若男女いっせいに叫ぶ。大輔にとって初めて迎える異世界のお正月は新鮮でありながらどこか懐かしさを感じさせるものだった。
ナポリタンと海老フライの話はまたいずれ、次回またしてもあのキャラが登場します。