異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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 書いていて一番の悩みどころが各話の主人公が越後屋へ訪れるきっかけ作りです


第25話小説家とラタトゥイユ

 人気恋愛小説家のマージンはここのところ不調気味で頭を抱えていた。不調といっても体ではなく頭、思考の方である。つまりスランプだったのだ。彼は既に多くの作品を書いていてその収入でかなりの財産を得ている、後は印税だけで生活していくのも可能だが当人はまだまだ書き続けるつもりだ。しかし肝心のアイデアがなければどうしようもない。彼はプレイボーイでもあり特に妙齢の女性をみれば口説かずにはいられなかった。百発百中とまではいかないがマージンに口説かれた女性は高確率で彼と一晩を共に過ごしてしまう。彼女達とのその場かぎりのロマンスを基に書く事もある。その辺が甘ったるさの中にもリアリティー溢れる彼の作品が人気を博す要因でもあった。

 そんな折マージンは自分の小説を舞台にしたいという話を聞いて不調ながらも頭を悩まし続け過去最高と自負する程の大作を書き上げ、その原稿を抱えパトロンが待ち合わせ場所に指定した越後屋へ意気揚々と訪れた。小説が舞台になり成功すれば富も名声も更に高まる、テーブル席のパトロンを確認して恭しく挨拶するマージン、ところが意外な言葉を返された。

 「そういった訳でな、今回の件はなかった事にしてほしい」

 「そ、そんなぁ。私の作家生命を賭して書いたというのにヽ(;´ω`)ノ」

 「つまりは需要だよ、マージン君。君の小説は確かに素晴らしい、だが今最も受ける舞台は活劇だ。主人公が悪党や魔物を倒さんと縦横無尽に暴れ回る、観衆はそれが見たいのだよ、我々としてはできるだけより多くのニーズに答えなければならん、イヤ私も残念だ、君にはスマンと思っとる」パトロンの非情な通達に項垂れるマージン。ぬか喜びさせやがって!(`Δ´)だったら最初から俺に話を持ってこなければいいだろ。原稿を床に叩きつけパトロンが去ったテーブルの空席に毒づきながら1人残りブランデーを煽る。

 「オイ!酒をもう1瓶持ってこい!それとつまみだ、早くしろ!」日頃のプレイボーイぶりは何処へやら、ウェートレスは恐がり思わず後退りするがマスターは泥酔したお客には向こうで店を開いていた頃から慣れている、それにさっきの話も耳に入っていて丁度いい肴のヒントになった。

 「お待たせしました、五色のラタトゥイユです」マージンの前に現れたのは野菜と燻製肉の煮込み料理だ。ルシコンとラパとソランゲ、巨大化したグルミスになんだか見当のつかない黄色いモノも混ざっている。何だかやたらカラフルな料理がでてきた、ルシコンの酸味を仄かに感じ、燻製肉から溶けだした旨味は薄すぎでも濃すぎでもなく口に合うというより口の方が料理に合わせていくと言った感じで全身に広がっていくようだ。食べ進めていく内に酔いも醒めて気持ちも落ち着いてくる。

 「恥知らずな真似をして申し訳ありません」マージンは頭を下げ己の非礼をマスターに詫びる、彼の名前を知っていて小説も読んだ事もある大輔は

 「いえいえ、今後のご活躍も期待してます、頑張って下さい」特に責める事はなかった。

 帰途についたマージンは道すがらあのパトロンの言葉を思い出していた。

 「今は活劇の時代か、なら俺も書いて見せようじゃないか」自宅に戻り今日食べた料理からインスパイアを受ける、小説家マージンが(比喩的に)生まれ変わった瞬間だった。

 どこかの街の劇場でマージンが脚本も手掛けた新作舞台が大入満員だという、それぞれがシンボルカラーを持つ5人の騎士が魔王軍と戦うといった内容でこれまで恋愛物しか書いてこなかった彼の新たな作風として大々的に宣伝されている。店内もその話題で持ちきりだ、しかし大輔だけは

 「確かに活劇と聞いて僕もアレを連想したけど…偶然だよね?」どう考えても日曜日の子供向け特撮シリーズとしか思えないストーリーに1人苦笑した。




 黄色いのはパプリカ、巨大化グルミスはズッキーニです、どちらもこちらにはない野菜です。
 過去の投稿話もちょこちょこ直してます、きが向いたらチェックしてみて下さい

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