異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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今回の悪役の悪井ですが名付けるのに意外に苦労しました、感想、お気に入り登録して下さった皆さんの本名と被ったら嫌ですから。結果メッチャベタな名前になりました_(・・)ゞ


第27話ろくろ首とカプレーゼ

 いつもの朝だった。ネットのニュースをチェックしていると例の金融会社が倒産したと情報が入ってきた。予測の範囲内だったのか大輔は大して驚きもせず店の表口を掃除しようと玄関へ向かう。

 その大輔を玄関で待ち伏せしていた人物がいた、かつて異世界転移以前から越後屋に嫌がらせしていた借金取りの1人だ。名を悪井という。衛兵に逮捕されて牢に入っていたがつい最近釈放された。しかし越後屋を逆恨みしていたこの男は手にナイフを持って大輔に近づく。

 いきなりナイフで切りつけられ咄嗟に座り込む大輔、尚も大輔を襲う悪井。そこにもう1つの顔が寄ってくる、ろくろ首のコルルンがその体に長い首を絡めて悪井を捕まえる。

 「元犯罪者がな~にやってんの~?ま~た~牢獄に~逆戻り~したい~のか~しら~?」

 「ひっ!」

 「あーびっくりした。コルルンさん、ありがとうございます」

 「ふっふ~、こ~れも~お~仕事だ~か~ら」コルルンは衛兵隊の女性隊員である、街や王城の警備等もする衛兵の仕事は24時間体制となっていて、昨夜警備当番でたまたま夜勤明けだったコルルンに悪井は運悪く鉢合わせてしまったのだ、彼女は罪人を首で縛ったまま駐屯所へ一旦戻り早番の衛兵に引き渡してから寝るためだけに借りている下宿に戻った。

 数日後コルルンは夜勤を終え暫しの休日を得た、とはいえ夜更けに営業してる店は只一軒。そう、こんな夜はエチゴヤで呑むに限る。

 「いらっしゃいませ、あっコルルンさん、先日はお世話になりました」

 「い~よ~、お礼なら~今日奢ってくれれば~それでい~いから~ビ~ルと~とりあえずあの3色サラダ~。あれちょうだ~い」

 「はい、カプレーゼですね。少しお待ち下さい」コルルンは文字通りの意味で首を長くして待ってると程なく料理と酒がカウンターに並ぶ。

 「カプレーゼとビールお待たせしました」コルルンがエチゴヤにきて最初に頼むのはいつもこのメニューだ、ルシコンとカッセ、正体不明の緑の野菜が彩りも美しく重ねられたサラダ。ルシコンの酸味にカッセのコクとちょっぴりコッテリした野菜、この3つを同時に味わえば細かく刻んだケパを混ぜた液体(ドレッシングというらしい)と相まって絶妙なバランスがうまれる。またビールという酒もいい。喉の奥を洗浄するような感覚は他の店ではまず出会えない、この店の料理は大きく分けて3種類あるそうだがビールは大抵どの料理にも合う。カプレーゼ2皿でビールを3杯呑んだ後、チューバとプラッカのサウル漬けが添えられた腸詰めを頼んだ、チューバは只茹でてあるだけだが腸詰めの旨味とプラッカにしっかり味が付いてるので全体としては丁度いい。更に2杯お代わりを重ねる、ヤッパこの店は最高だ。

 「こ~れで~一緒に呑む相手が~彼氏とか~いれば~言う事な~いん~だ~けど~」今日も1人で来店した彼氏いない歴=年齢のコルルンは少しばかり虚しさを抱え店を出る。今日はマスターの奢りなので支払いは必要ない。

 更に別の日、エドウィンから遠く離れた故郷よりコルルン宛の手紙が届く。差出人は両親で衛兵を辞めてお見合いをするように勧める内容だった、気持ちが揺らぐ中一昼夜悩んで断る事にした。

 「私って~何だかんだいっても~食い意地はってる~よ~ね~」衛兵の仕事は好きだしエチゴヤに通えないのは彼氏がいないより辛い。彼女は自嘲しながら今日も仕事に向かうのだった。

 

  




本文に出てくる緑の野菜とはアボカドです、実際は野菜じゃありませんがコルルンはそう思ってます
 今回の異世界語
・カッセ→チーズ

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