異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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悪党には天罰が下されます


第28話タヌキ一家とナポリタン

 エドウィンとの隣に位置するムッサンの街に先祖代々農業で生計を立てていたタヌキの獣人夫婦と子供達3人の一家がいる。しかし今は農地を失っていた、悪質な不動産業者に騙されて土地を奪われたのだ。

 その街の外れで休息中のアラン、ルビィ、リャフカ、オィンクの4人は渋い顔でランチを摂っていた、エチゴヤのメシの旨さを知った後じゃこんな不味いパンは腹の足しにしかならん。楽しくもない食事をさっさと切り上げ拠点のカカンザの街へと足を進めていた、途中人相の悪い男達の怒号が聞こえる、相手は小さい子供達だ。親の姿は見当たらない、4人は咄嗟に間に割って入る。男達は武装した連中が相手では分が悪いと思ったのか悪態をつきながらも逃げ去っていった。

 

 「君達の親はどうしたんだ?」アランが問う。

 「お父さんとお母さんの畑があの人達に盗られたの」一番上の7、8才の子がいう、後の2人は3才か4才くらいか、何があったかよく分からないといった様子だ。

 「あの辺から変な匂いがするだ」オィンクが気づく、病人特有の匂いらしい。それもこの子達の家方面のようだ。子供達を掲げ、途中で村でたった1人の医者を強引に連れ出し急いで目的地へ走った。中で夫婦らしき男女が倒れていた、最悪の事態が4人の頭をよぎる、医者は息切れしながらも的確に診断する。

 「過労と栄養不足ですな、このままだと衰弱死する恐れがあります。何か栄養のあるモノを食べさせれば回復するでしょう」医者を見送り自分達も帰ろうとして、ふと子供達と目が合ってしまった。お父さんとお母さんを助けてと言わんばかりの目だ、しかも汚れのない無垢で綺麗な目。

 「ダアーッ、もうしょうがニャいニャー!」ルビィがチビ2人を抱えアランが母親をオィンクが父親を背負い上の女の子はリャフカが手を引きエドウィンの街まで連れていった。その足でエチゴヤに向かう、もう遅い時間だが明かりはついてるので営業はしているはず。

 「まぁとりあえずは訳を話して下さい」大輔はこの場を取りしきり、ロティスに手伝ってもらい一家を座敷へ上げて4人をテーブルに座らせて全員分の食事を用意する。別のテーブルに蝙蝠の獣人の母子がいた。

 「お待たせしました、ペンネナポリタンです」タヌキ一家に振る舞ってから4人の前に出てくる。生憎今日は4人共持ち合わせが殆どなかった為速攻で作れて尚且つ安い料理を注文したらこれがでてきた。

 「これはパスタか?普通もっと細長いモンだろ」この世界ではパスタといえば地球のスパゲッティを指し、マカロニやリングイネは存在しない。しかしこの矢じりのような形のパスタもルシコンの仄かな酸味と香りが染み込んでいてケパと燻製肉の甘味を引き立て緑色の野菜の苦味がアクセントになり料理全体の味を締める。

  「「「「やっぱりここの料理は最高!」」」」

 「皆さん、お世話になりました」タヌキ夫婦が座敷から出てきてお礼の言葉を述べる。

 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」

  「「あいあとー」」子供達からもお礼を言われる、こういうのは嬉しいモンだ。

 「それでその・・・お代なんですが」大輔は話を遮り、蝙蝠母に尋ねた。

 「カリーナさん、農場で人手がいるんですよね、こちらも農業をやっているそうですよ」

 「いやあ、助かるよ。大きな仕事が入って農地を広げたのはいいけど娘と2人じゃ手が回らなくてね、でもまずは体をしっかり直してからだね。マスター、この人達のお代はあたしが持つよ、後で働いて返してもらえりゃいいさ」夫婦は感謝の言葉も掠れる程泣きながら何度も頭を下げる。

 暫くしてタヌキ一家はエドウィンに引っ越してきた、カリーナが以前より広げた農場でケパとスターキーを栽培する為雇われたのだ。子供達もリルルに教わりながら簡単な作業を手伝う、一家は再び幸せを取り戻せた。

 尚、一家が以前所有していた土地を手に入れた不動産屋は詐欺で騙しとったのがムッサンの領主にバレておとり潰しになったそうな。




タヌキ一家を助けるのは最初鬼のカラバの予定だったのですが、色々矛盾が出てきたので冒険者チームに変更しました。

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