お正月前の定休日の日、大輔は食品問屋からの宅配係を裏口で待っていた。万が一店の中に入ってくると異世界流しに遭わせてしまうのでいつも裏口前で受け取りと支払いをすましている。因みに何故か日本からは表口が店の外から見る事ができない(勿論大輔は除く)。
「邑楽食品店です、毎度ありがとうございます」担当者から荷物を受け取り中を確認して注文してないモノが混じっているのに気づく。
「そちらはいつもご注文頂いているお客様へのサービスです、勿論代金は結構です」少し顔がひきつりそうになるがそこは長年培った接客スマイルで誤魔化す。
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えさせてもらいます」
「恐れ入ります、今後ともご贔屓に」宅配係を見送ってから大輔は頭を捻る。近いうちに試食会を開くか、賄いでだすかどっちにしろ1人では食べきれない、意外に悩みのたねである。
「まぁ、アンノウス明けにでもだすかな」
アンノウス初日に金物屋の息子デティスは実家へ帰ってきた、とはいっても隣街だが。戸を叩くと出迎えたのは見た事がない少女だった。
「どちら様ですか?」
「この家の息子だ、君は?」
「失礼しました、私はこのお家に下宿させて頂いてるラティファです、よろしくお願いいたします」礼儀正しい娘だ、母と入れ替わりに家の奥に下がる少女。久しぶりの実家には他に父しかいない。
「マティスと子供達、ロティスはどうしたんだ?」母があっけらかんと答える。
「昨日はアンノウス前夜だったからね、店を閉めてから従業員だけで呑もうってんでそのまま泊まってくとさ、ラティファちゃんだけは帰ってきたけどね」店ってなんの事だ?まさか如何わしいところじゃ、口にする前に母に気づかれどつかれる。
「真っ当な料理店だよ!(゚o゚(Σ=お前の思うようなところになんか勤めさせる訳ないだろ!」これまた久しぶりの母の拳は相変わらず痛い。
両親とラティファと共にその店に向かう、今日は定休日だが試食会に招待されたとの事だ。テーブルではマティスの子供達がマスの書かれた板の上でコインのようなモノをひっくり返し合って遊んでいる。(リバーシというそうだ)愚妹2人が奥の個室からでてきた、吐く息が酒臭い。明らかに二日酔いだ。
「あ~お兄ちゃん、おめれと~」
「兄さんかへってきへひゃのね」
「ああ、おめでとうってお前ら昨夜相当呑んだな」
「呑んらよ~、真夜にゃかまで~仕事してそれから明け方まれ~」情けないといわんばかりに手を額に当てるデティス、厨房で1人の男がなにやら料理の支度をしている。この男は呑まなかったのか余程酒に強いのか二日酔いにはなってないようだ。
「この人が2人の雇い主、この店のマスターさ、こっちは家のせがれだよ」
「デティスだ、よろしく」
「大輔といいます、今日は営業日ではありませんがゆっくりしていって下さい」ダイスケは厨房に戻ると竈の上に網を乗せなにやら白い物を焼き始めた、
「それもマスターんとこの郷土料理かい?」
「ええ、アンノウスに食べるのが最も一般的ですね」その白いのが突然膨張しだした。子供達は大はしゃぎし大人は椅子ごと後ろに倒れかける、オレ達の狼狽ぶりに対しダイスケは顔色一つ変えず、
「そろそろ食べ頃ですね」白いやつを鍋に移し、人数分の器を用意する、マティスの子供達用に小さい器もある。
「お待たせしました、雑煮です」適度な焼き目がついた白いのが野菜と鶏肉の入った黒褐色のスープに映える、スプーンと一緒に2本の棒がついてきた。
「白いのは餅といってオリゼを練ったり叩いたりして作られた物です、咽に閊えやすいので箸で千切りながら召し上がって下さい」この2本の棒がハシか、いまいち使い方がわからん。横を見るとラティファが器用にそのハシを使いモチを小さくちぎりながら食べていた。両親とロティスはハフハフしながら熱いスープを啜っていて、隣では酔いの覚めたマティスが自分の娘に食べさせている。
モチはまるで粘土のように伸び縮みしたが喉ごしが良く病み付きになりそうだ、気が付いたら1人で5つくらい平らげていた。聞けばゾーニ以外にも食べ方はあるらしい。ダイスケは材料さえ手に入ればアンノウスに関係なく作ってくれるそうだ。
「そういやデティス、お前の奥さんと子供はどうしたんだい?」
「向こうの実家に帰ってるよ、女房はオレと違って遠くの街の生まれだからな」戻ってきたらあいつらもここへ連れてきてやるか。それにしてもダイスケが異世界人とは流石に驚いた、しかもロティスに惚れられているとは。ある意味気の毒だな、羽ペンでつむじを刺された。
「(#〇皿〇#)お兄ちゃん、失礼すぎ」心が読めるのか、ウチの女共は?今年のアンノウス、実家にいる間は親父と2人縮こまっていよう。
遂に30話に突入しました。
邑楽食品は筆者が創作した架空の企業です、実在したとしても本作とは一切関係ありません