異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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ひさびさの新キャラ登場で、おそらく過去最多文字数の話になってると思います。(8話以降ちゃんと数えた事ない)
(∥ ̄△ ̄∥)



第33話エルフと粕汁

 影も形も無くなったかつてのチョヤの森の残骸を悲しい目で見つめる1人のエルフがいた。マリエルはこの森で生まれてこの森で育ち、あの忌まわしい悲劇の現場にも遭遇していた。矢のように森に降り注ぐ円錐状の物体は家族や友人の命を容赦なく奪っていた、魔王の部下達はまるで草でも刈るみたいに仲間を殺して回った。幸い彼女は変身魔法を身につけていたので奴らが撤退するまで蟻に化けて難を逃れた、今日はあの日死んだ同胞達の魂を慰める為にここへ訪れた。

 エルフに伝わる鎮魂の儀式を済ますと日も暮れてきたので森の跡地で野宿をする、お腹が空いてるが食べ物は持ってない、

 「一食くらい平気よね」そのまま寝てしまう。

 翌朝目を覚ますと体がダルい。頭がボーッとして、寒気もする。

 「風邪かしら、弱ったわあ。私、治癒魔法は使えないし、エルフを診察できる医者なんている訳ないし」人間とエルフ、耳を除けば外見は酷似しているが実質は全く別の生き物だ、元々エルフ社会では医療が発達してない上にエルフ自体絶滅の危機である現在彼らを治療できる医者は存在しない。とにかく街に出よう、そうすれば何とかなるかもしれない。

 

 同じ頃、越後屋では大輔を除く3人が雇い主の持ってきた奇妙な食材に目を白黒させていた。

 「マスター、これ何?」厨房を手伝うマティスは大輔に問う。

 「酒粕だよ、スープにしたりケーキに混ぜても美味しいよ。しかもお酒を仕入れると只で貰えるし」

 「お酒が入ってるんですか?」ラティファが尋ねると

 「正確にはお酒作りで残った副産物だね」

 「それってゴミなんじゃ…」ロティスが呟くが、

 「そういう人もいる、でもどうせなら美味しく料理した方がいいと思わない?」笑顔を見せながらも真剣な目になる大輔に何かを悟った3人はそれ以上何も言わなかった。

 

 エルフの大賢者にしてラターナ王家に400年に渡って仕える宮廷魔術師であるコーリャンは現国王の依頼を果たしての帰り道、街外れで行き倒れを見つけた、若いエルフ女性のようである。

 「風邪を拗らせたようじゃ、とりあえず治癒魔法をかけておこう」エルフは普通複数の魔法を使えないが大賢者として人間、エルフ両方の間で名高いコーリャンは多くの魔法を会得していて、その数は百とも億とも噂される、真相は定かでないが。思えば同胞に巡り会うのは王国に仕えてから1度もない、実に400年ぶりである、顔に血色が戻ってきた。もう大丈夫だ。

 「あっ、貴方は大賢者様!」マリエルは思わぬ偉人を目の当たりにして恐縮する。しかも風邪で倒れた自分を助けて下さったらしい、余りに申し訳なくてお礼の言葉を述べようにも呂律が回らない。

 「よいよい、それよりあの近くにいたという事はチョヤの森の生まれかね?」マリエルはガチガチに緊張しながら昨日からの経緯を話す、コーリャンは頷き最近の若者にしては殊勝な心がけと誉める、因みにこの2人115歳と680歳である。

 「ところで腹は減っとらんか?ワシは仕事を済ませたらメシを食いに行くつもりじゃが同行せんかね」雲の上の人というべき大賢者様のまさかのお誘いにマリエルはすぐさま乗った。

 コーリャンと共に訪れた料理店は想像よりこじんまりしていた、もっと大きく豪奢なお店の方が偉大な魔術師にはふさわしい気がしたが心を読まれたか大賢者自身がそれを否定する、

 「君の言わんとする事は分かる、けれどこの店はラターナ随一といっても過言ではないぞ」

 「コーリャンさん、いらっしゃいませ。お席へご案内します」給仕らしき女性に進められるままテーブルに腰を下ろす。

 「今日の日替りは魚か、ならパンよりオリゼのがよいな、君も同じモノで構わんかね」マリエルに反対する理由などあるはずもない。コーリャンは手を上げウェートレスを呼ぶ。

 「日替りを2人分、それとマスターお薦めのスープも2つ頂こう」

 

 「お待たせしました、日替りランチとサケカスのスープです」焼かれた魚と軽く盛られたオリゼが二皿、白いスープが注がれた深い器が2つ運ばれてきた。コーリャンはスープから手をつける。

 「うん?酒の香りと味がするな、しかし酒精は全くない。ただ酒を混ぜただけではこの味は出せんぞ。マスターは魔法を使えないはずじゃが、どうしたらこんなスープを作れるのかのう?」一方マリエルは少し緊張が解けてきた途端腹の虫が疼きだす、思えば昨夜から何も食べてない、魚の香ばしさとオリゼの暖かい湯気が更に食欲を刺激する。もはや目の前の料理しか見えない、オリゼと魚を犬の如く一気にがっつく、気がつくと大賢者様が微笑ましくこちらを見ておられる。

 「す、すみません。私、はしたない姿をお見せしてしまって」

 「いやいや、見事な食べっぷりじゃった。若い者はそのぐらいがちょうどいい、まだスープがある。遠慮せず食べなさい」スープは体の中を芯から暖めてくれて、深い味わいと香りが全身を駆け巡って行く、具材のティナーカとラパーが柔らかく煮込まれていて魔法で治してもらったとはいえ病んでいた身に優しい。

 「コーリャン様、このご恩は生涯忘れません」心からの礼を改めて述べるマリエル。コーリャンはこの若者を気に入り1つの提案をだす。

 「これからアテはあるかね、なければワシの元で魔術師の修行をせんか?実は後継者が欲しいと常々考えておったのじゃ」いくらエルフが長生きとはいえ限界はある、自分も流石に歳をとりすぎた、しかもこの歳まで妻も子もいた事がない。恩ある王国が今後何千年、何万年と永らく栄える為にも後継ぎは必要だ。

 「私なんかが大賢者様の後継者に?」

 「イヤかね?」

 「とんでもないです!よ、宜しくお願いしましゅ!」感激のあまり噛んでしまった。コーリャンはこれからの人生、この後継ぎを鍛えながらあのサケカススープの秘密を探る事に決めた、宮廷料理長より先に見つけてやろう。年寄りとはいえ人間よりは寿命に時間がある。

 そんな下界の様子を上から見ていた女神様は

 「最近、食い意地の張った人が増えてまちゅね。でも羨まちいでちゅ、ワタチもあのおみちぇ(お店)のお料理食べたいでちゅ」この女神様が'あの'神様と越後屋を訪れるのもそう遠くはないだろう。

 




 遠くないといっても、次回神様コンビはでてきません( ̄3 ̄)/~
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