異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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これまでいわゆる'妖怪'が結構でてきたのでフランケンシュタインも登場させてみました。


第34話フランケンと挨拶回り

 ある機関でクローン人間の製造が秘密裏に行われた。〈フランケン・プロジェクト〉と名付けられたこの計画は作成した屈強なクローン人間を兵士として外国に売りつけるのが目的だったがある程度の知能と会話能力を与えて作られた最初の実験体が逃げ出した、研究所の連中は慎重に追いかけ続けた。存在が世間に知られたら大事(おおごと)だ、プロジェクトの名の通りの姿をしている実験体が一般人に見つかれば通報されかねない、計画は違法行為なので公にできずこちらから警察や自衛隊も呼べない。

 逃げ出した実験体は走り疲れたらしくどこかの建物を背もたれにして座り込んでいた、

 「おいら人殺しの道具なんてゴメンだい、そんなモンに生まれたくなかったやい」うずくまって泣いていた。背もたれにしていたのが丁度ドアの部分だった。内側からドアが開いた拍子に背もたれを失った実験体は転がりながら家の中へ入りその拍子に頭を打って意識を失う。

 目が覚めた実験体は自分の顔を覗きこむ人間が4人いるのに気付いた、男が1人に女が3人、ここは研究室ではないようだがとうとう捕まったのか、これから使い捨ての兵士として僅かな人生を生きる事になる。

 「大丈夫?」何だって?おいらを心配してくれてる?こいつらは研究所の連中じゃないのか。

 「ここは異世界の料理店だよ、それより君の話を聞かせてくれないかい?」実験体は自分の誕生の経緯やプロジェクトの事など拙い口調で知っている限り答えた、話終わるとここの少女が泣き出した。

 「いくらなんでも酷すぎます!」

 「そうね、殺すために命を創造するなんて矛盾してるわ」

 「私、異世界ってもっと楽しい所だと思ってた」

 「みんながそんなやつじゃないが…僕も間違ってると思う、でも君はもう逃げる必要はない、帰る事もできないけどね。ところで何か食べる?賄いのハンバーグと半端に残ったショートケーキがあるよ」実験体は目をパチクリさせる。食べ物をくれるのか?食物を摂れるようには作られている、しかし研究所では家畜の飼料や生ゴミしか与えられた事しかない、当然美味い訳がない。

 目の前にでてきたのは実験体にとって生まれて初めての人間が食べるちゃんとした食事だった、美味しい料理を堪能し人心地ついたところにここの主人が話しかける。

 「明日からこの店で働かないか?僕は貧弱だし、他は女性しかいないから力のある男手が欲しかったんだ」兵士として作られたなら腕力はあるだろう。

 「おいら働く、戦争するのヤダ、平和な事したい」彼なりに精一杯の笑顔を見せる、一見怖いが喜んでいるのが分かる。

 「それじゃ名前を決めようか」

 「おいら、実験体。研究所の連中そう呼んでた」

 「それはダメ、君はもうここの一員なんだから。そうだな、平和を意味する〈パックス〉ってのはどう?」

 「おいら気に入った、今日から名前パックス」名前を与えられたのがよほど嬉しいらしい。

 翌日は定休日だったので大輔は新しい従業員を紹介するためパックスを連れていつもお世話になっている人達の元を回って歩いた。この世界は地球で妖怪とかモンスター、魔物などといわれる存在が当たり前にいて人間と同じ生活をしている。誰もパックスの容姿なぞ気にしないはず、大輔の予想は当たり彼は街の人々に受け入れられた。その道中で色々貰い物があった、漁師のフンダーからは魚、冒険者達からは魔物の肉、ガーリンの家を訪れていたブラウニーからは山菜を頂き1人では持ち帰りできないが心配はない

 「じゃあ、初仕事。これを店まで持って帰るの手伝って」ニコニコ顔で頷くパックス、こうして越後屋に力仕事担当の新しい従業員が増えた。一方〈フランケン・プロジェクト〉の研究所は突如発生した大地震により倒壊してしまい中にいた研究者は全員死亡した、奇妙な事にその近隣の住居や施設には全く被害が及ばなかったという。

 

 




書きながら気付いたんですがフランケンシュタインって妖怪の類じゃありませんでしたね_(^^;)ゞ

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