異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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第4話漁業事情と海鮮パエリア

 いつもの越後屋、いつもの営業日。だがこの日はいつもと違っていた。

 「だからなぁ今回の納品は少し待ってくれよぅ、オレとあんたの仲じゃないか」

 「そりゃ個人的には待ってもいいがな、オレんとこも商売なんでな、明日までに会合が開けなきゃお前さんとの契約切らにゃならんよ」普段なら仲良く酒を酌み交わす2人、漁師でリザードマンのフンダーと人間の海鮮卸売業者のディーンが珍しくモメている。

 「どうしたのよ、貴方達?私は2人共大好きなのに喧嘩なんて止めてちょうだい」ラミアのベポラが仲裁にはいるが、別に喧嘩している訳ではない。明日ディーンは取引先との会合を主催する事になっている、その為に必要な食材を昔馴染みのフンダーに依頼したのだが、

 「このところな、漁にでてもろくなモンが採れねぇんだ、せっかく張った網をバーグルやキヌスが切っちまってコリアもボニトンがみんな逃げちまってよぉこのままじゃ年取ったお袋と心中するしかねぇよ(´;ω;`)」

 「そうは言ってもなフンダー、こちとら客相手にしなきゃなんねぇ、お前ぇにばかり同情してたらオレが首括るハメになるでよぉ」ベポラは困った、さっきの言葉は嘘じゃない、織物問屋を営む彼女にとって扱うものこそ違えど商売人仲間のディーンと同じ爬虫系亜人のフンダー、両方を助けてあげたい、妙案はないものか。

 「フンダーさん、バーグルやキヌスは捨てましたか?」マスターも話を聞いていたのか、見かねた様子で訪ねてきた。

 「いんや、手やら針やら引っ掛かってとり辛ぇからそのまんまにしてらぁ、どうせ金になんねぇし」

 「だったら僕に売ってもらえますか?バーグルは1オイス1ラムで3オイス、キヌスは1個1アルで10個程買います」フンダーは耳を疑った、まさかそんな大金が手にはいるとは思わなかった。

 「ディーンさんは明日取引相手の方々との会合を当店で開催して下さい」

 「何だって!マスター、何する気かね?」

 「もちろん皆さんにキヌスとバーグルを使った料理をお出しするんですよ」

 翌日、ディーンは数人の取引相手を連れて越後屋へ来店した、いずれも大規模な商売を展開する一流の実業家ばかりだ。ディーンは気が気じゃなかった、マスターの腕は確かだし、信用に足る人物でもあるがそもそもあんなモン果たして食えんのか?冷や汗を流してるとマスターが料理を持ってきた。

 ディーン達が来店する2時間ほど前大輔は米を研ぎ終えてフンダーから買い取った海鮮の処理を始めた、殻を丁寧に外し身の部分を取り出す、鉄板に米を敷いて先程の海鮮と野菜をその上に並べる、お客の来店時間を見計らって火に掛ける。炊き上がったら鉄板ごと木の皿に乗せて配膳する。ちょうどいいタイミングでお客様がいらした。

 「海鮮パエリアです、鉄板が熱いので気をつけてお召し上がり下さい」実業家達は怪訝な顔をしながらも食べ始める、

 メインに使われたオリゼの淡白さに野菜の味わい、獣肉とは違う深く濃厚だが決して互いに邪魔しない甘味が絡み、まさに未知の領域といえる、海の中に落ちていくようだが溺れるのではなくまるで海と一体化するような不思議な感覚である。マスターのいう通り海鮮を使った料理なのは理解したが具体的な材料は全く見当がつかない。

 「君!この料理だが一体食材はなにかね?この旨味はどうやって出すのだ?!」実業家の1人がマスターを呼び問合せる。

 「どうやるもなにもバーグルとキヌスが持つ旨味そのままですよ」

 「なんと!海の二大疫病神といわれるバーグルとキヌスがかね?」

 「えぇ、僕の故郷ではどちらも高級食材とされていて年に一度も食べられないごちそうでした」驚愕を隠せない彼らに大輔は更に畳み掛ける。

 「必要とあればディーンさんからご購入下さい、値段はその日の水揚げ具合できめるそうです、ネ、ディーンさん?」

 「お、おぅフンダーにも相談しねぇとな、ほんじゃ皆さま今日はご足労頂き誠にありがとうござんした」後にフンダーの元にはディーンを通して多くの注文依頼が入ることになる、結局大輔はディーンとフンダー両方を救ったのだ。

 更に翌日の閉店間際、越後屋にディーンとフンダー、ベポラが揃っていた、昨日の会食の場に居合わせたベポラは大輔に惚れたらしく積極的に口説いている、逆に彼女に惚れている2人だが恩人であるマスターなら取られてもいいと思っていた、しかし大輔本人は全く靡かないのだった。




 異世界語、結構でました。
・バーグル→蟹
・キヌス→うに
・コリア→鯖
・ボニトン→鰹
・オリゼ→米
・オイス→重さの単位、1オイス=1キロ
旬の時期がちがう?それは無視して下さい、何せ
異世界なモンで(; ̄Д ̄)

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