異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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第4話に初登場以来ずっとくすぶっていたベポラ。やっと主役が回って来ました


第36話ラミアとチーズタルト

 奴隷制度が犯罪者を除き廃止されたとはいえ、世間にはまだ奴隷商人が存在する。連中は法の抜け穴を上手く見繕っては巧妙に人身売買を繰り返す。

 ある奴隷商人がこれから奴隷として売り飛ばす予定の若い娘達を幌馬車に詰め込み商船で別大陸へ向かおうとしていた、彼にとって不運だったのはこの船がラターナの港を経由して別大陸に向かう事である。

 ラターナの港に着いた船から多くの商人が大量の荷物を下ろし各自取引先のへ引き渡す、金はこの時支払う場合と既に船便で送ってる場合がある。買い手の1人である織物問屋のベポラがこちらにない別大陸独自の縫製がなされた織物を部下に命じて自分の馬車へ積ませていると怪しげな男が深くフードを被った女性を10人くらい引き連れて船に乗ろうとしていた、不審に思ったベポラはラミアならではの感覚で(蛇のピット器官)観察して男の正体を見抜くと長い尻尾で足を絡めとり体の自由を奪い今度はその全身に自分を巻き付ける。顔面蒼白になっている奴隷商人を衛兵隊に引き渡し、女性達が無事保護されたのを見届けると買い付けた輸入品と一緒に自分の店に帰っていった。

 「そうですか、お手柄でしたねベポラさん」3日後越後屋でベポラは自らの武勇伝をマスターに語っていた。

 「んふふ、少しは惚れたかしら?」

 「いえ別に」ズルッ

 「まぁいいわ、昨日予約しておいたモノは出来てるかしら?」

 「はい、いつものお持ち帰り用が30個。いつでもお渡しできます」注文したモノが詰められた箱を5つ、ホクホク顔で抱えるとベポラは自分の店とは別に建てられた自宅へ帰っていった。

 自宅へ戻ると6人の娘と20人の孫娘がベポラの帰りを今か今かと待ち望んでいた、目当ては彼女が買ってくるお菓子だった。尻尾を合わすと子供でも2メートルはあるラミアが大人数で来店すれば越後屋は忽ち狭くなり他のお客に迷惑がかかる、ベポラとて商売人なのだからそれぐらい分かる。だから家族のうち誰か1人が交代でみんなが大好物のこれを持ち帰り用で買ってくるのがベポラ一家の取り決めだ。

 「ママ、お帰りなさい」見た目はあまり歳の違いがなさそうな長女が出迎える。

 「あのお菓子買ってきてくれた?」10才くらいの幼いラミアが待ちきれなくてそわそわしている、こちらは一番末の孫娘だ。

 「ええ、勿論よ。さ、誰かお茶を淹れてちょうだい、みんなで頂きましょう」1つの箱を開けると手のひらサイズの円い菓子が6つ入っていた。家族27人が同時に食べ始める。

 真上には練って柔らかくしたカッセが乗っていてサクッとした回りの生地を噛みきると中からは甘酸っぱいトレベの砂糖煮が口の中に流れてくる。同時にカッセが口の中で溶けていく、2つの味が混ざり合う瞬間、己の体まで溶けそうな快感が全身を駆け巡る。

 「やっぱりチーズタルトって美味しいわ、こればっかりは止められない」

 「ホント。1人1個なのは物足りない、私もっと食べたい」

 「太るわよ」女3人寄れば姦しいとはいうがそれが26人いるのだから賑かさは半端ない。いつのまにか娘達から離れていたベポラは1人で自室にいた、買ってきたチーズタルトは30個、つまり3つ残っている。

 「これは年長者の特権よ、それに私が今回の当番だったんだし。黙ってればわからないわよね」食べようとした瞬間背を向けていたドアが開いた。

 「ママ!(お婆様!)」独り占めがバレてしまい娘達から暫く越後屋へ行くのを禁止されるベポラであった。




本作でもラミアには女性しかおらず人間か他種族の協力がないと子を成せません、娘達にはちゃんとご亭主がいますがこの時は留守にしてました

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